クレジット
タイトル: 闇寿司ファイルNo. 1221 "ワニイカ握り"
原著者: Uncle Nicolini
オリジナル: Dark Sushi File No. 1221 "Waniika Nigiri"
翻訳者: DirStarFish
査読者: ccle及び
Red_Selppa
作成年(EN): 2024年
参照リビジョン: rev.11
![waniika.jpg](https://scp-jp-storage.wdfiles.com/local--files/file%3A6734327-133-5w4l/waniika.jpg)
ワニイカ
概論
ワニイカは太陽が水平線に没す白米千枚田の山腹で育った極上のシャリを、ハイ・ブラジルを破壊した獣、Crocoteuthis gigantisの塩漬け肉のネタと組み合わせて生み出された握り寿司である。
この寿司は先頃手中に収めた何トンものワニイカの扱いに最も長けていたのが我々スシブレーダーであったがゆえに、スシブレーダー達を雇い入れた組織、マーシャル・カーター&ダーク株式会社からのみ入手可能な限定品として出回っている。
スシブレード運用
攻撃力
防御力
機動力
持久力
重量
操作性
ワニイカは対戦相手の使う、防御力が平均以下のあらゆる寿司を破壊できる超強力な寿司である。しかしながら、ネタの由来である獣同様、ワニイカはかなりノロく扱い辛いという強さの代償を抱えている。とはいえ、哀れな対戦者の急所を突けられるよう誘導可能であるならば、ワニイカは間違いなく、使い手たる狡猾なスシブレーダーに勝利の"美味"で応えてくれるだろう。
しかしながら、ワニイカを回すことに興味を持っているなら、より重大な問題がある。上でも書いたように、このネタはマーシャル・カーター&ダーク株式会社の限定商品である上に高値が付いているため、多くのスシブレーダーには手が届き辛い品となっている。加えてマーシャル・カーター&ダークの香港支部ラウンジ会員ならば話は変わってくるが、日本国内では大量の購入が不可能な品である。入手場所までの距離の問題は克服できるにしても、ネタは繊細かつ輸送中に傷みやすいため、並の寿司ブレーダーには利用不可能な独自の保存技術が必要になってくる。
要約するなら次の通りになるだろう。一スシブレーダーの意見としては、高価な品ではある一方で、マーシャル・カーター&ダークの提示する価格に見合う価値を十分に備えた品。それがワニイカなのである。
他の活用法
自分の身の防衛策と安全策である。別けても集団で雇い入れたならば、ワニイカは私的な護衛役として非の打ち所がない能力を備えている。加えてポン酢がよく合う美味な逸品である。
エピソード
筆者が初めてワニイカと出会ったのは昨夏、マーシャル・カーター&ダーク香港支部会員ラウンジにおいてだった。
ミズ・ダーク直々に雇われたのは女史の組織の幹部陣を持て成すためだった。3人の紳士が筆者の卓へとやって来ると、標準的な回しで持て成した。言うまでもあるまい。マグロ、タコ、タマゴ等の品だ。2人はショーに歓喜していたが、3人目は違っていた。その男は見ているだけだった。とうとう、男は沈黙を破って自己紹介をしてきた。
「ごきげんよう。私はチャズという者で、プロの料理人を自負しております。今しがた見せていただいたものが実際には相当な凡作であるのは私にしても貴方様にしても分かりきっているではないでしょうか。残念ですが、私の心を突き動かすとなると、回す寿司は激しさと唯一無二性を兼ね備えた品でなくてはなりませんな。」
男は胡散臭げな笑みを浮かべて話しかけてきた。普段であれば、この男のような礼儀知らずのガキに従う気は無かった。ましてや寿司を回すことに無知蒙昧な西洋人というのであれば猶更である。だが男が話しかけてきた後のミズ・ダークの一瞥には震え上がってしまった。そういうわけなので、ここまでお披露目してきたものよりも極上のネタを追加で探してこなければと告げると、後のことは運に任せようとばかりに会員ラウンジの調理場へと足を踏み入れた。山の如きワニイカの処理に若いナルカ信者らが追われている現場に出くわしたのはまさにその時だった。
ここで何をしているか尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。
「ありゃ。邪魔して申し訳ございません、シェフ。ミスター・カーターのために、死したるワニイカの肉とそいつの卵を保存しているところです。当支部会員様にこの品の使用に興味がある方がおられますので、その方のために申し分ない状態を保ってもらうよう仰せつかっておるのです。」
筆者の脳裏に妙案が浮かんだのはその時だった。本音を言えば、目的実現のために嘘を吐くのはプライドが許さなかったが、かといって何の成果も上げずにこの場を去ってミズ・ダークと対面するつもりも全く無かった。だからこそ信者連中には調理場外の我が卓にて、筆者が件の会員を持て成しているところだと伝えた。信者らの顔に安堵の表情が浮かび、肉と卵の山に向かって呪文を唱えるのを止めた。信者らはその場から身を引いて、数切れの肉と卵の採取を許可してくれた。こうして筆者はラウンジへと戻った。
例の若い男は私を目にして苦笑いを浮かべていた。ミズ・ダークはまたしても慄然たる視線を筆者に注ぎ、その後で自分の酒を口にした。残り2人の男は私が持参した品に大層興味を示したが、単なるイカに見えたようで面食らっていた。それでも筆者は手短にタネを明かした。
「こいつは単なるイカではございませんぞ。朋友よ。ハイ・ブラジルを破壊した獣、他でもない女神ワニイカ御自身の肉です。ネタはナルカの肉の工芸魔法によって鮮度を保ち、たった今、小生の手で刈り取られたところでございます。ご覧あれ、ワニイカです!」
熟練の速さと技によってシャリを握り、切ったネタをシャリに載せた。これまでの一切合切を楽しんでいた2人の男が驚喜の声を発した。例の若い男、チャズは薄ら笑いを浮かべて、汚らわしい視線を向けた。
「大変面白い品ですな。ミスター・坂本サカモト。とはいえ私からすれば、貴方様の"ワニイカ"など間違いなく敵ではありません。」
男は脇の方に手を伸ばした。そこにあったのは我が卓に初めて着いた際に男が持っていた鞄だった。その鞄の中から、男は弁当箱を取り出したのだ。
それから男が繰り出してきた寿司はこれまで筆者が目にしてきたものとは全く似ても似つかないものだった。飛び回る能力を持った寿司だった。それも単なる飛び回る寿司ではない。最硬の金属をも切り裂けるかのようなサメのヒレも備えた寿司だったのである。
「さて。ミスター・坂本サカモト?寿司回しといきましょうか?」
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男が挑発してきた。だからこそ彼同様に、水鮫すいさめに対してワニイカを繰り出した。さて、筆者がワニイカを使用するのはこれが初めてのことで、まだその力を十分に理解していなかった。男はいかなるカリフォルニアロールをも容易に倒せるであろう多種多様な回転攻撃をワニイカにしてきたが、我が親愛なるワニイカは屈しはしなかった。否、ワニイカはさらに強かったのだ。もしかしたら怪獣の肉体から生み出されたという事実によってか、あるいはもしかしたらワニイカがより強い闘志を宿していたからなのか、なんであれ筆者はチャズの水鮫すいさめに勝利した。水鮫すいさめは絶えず攻撃を加えており、無慈悲にワニイカを切り裂いていたが、ワニイカは強さを宿し続けていた。最終的に筆者が水鮫すいさめの攻撃パターンを理解すると、ワニイカに打ってつけの瞬間を狙って攻撃するよう指示した。
一瞬の内に勝利は決まった。水鮫すいさめが飛び散った。ワニイカは強さを顕示しながらその場にあった。拍手が鳴り響いた。チャズでさえ私に拍手していた。
「天晴れでございます、ミスター・坂本サカモト。素晴らしいショーでした。さて、もしお気になさらないと言うなら、私もこの美味を試してみたいものです。ロンドン支部のクラブからここに届けてもらうよう注文していましたので。ご馳走でした。」
読者諸兄よ、筆者が呆気にとられたのは認めねばなるまい。実はミスター・チャズこそ、あのモンスターの肉の使用を望んだ人物その人だったのだ。ミスター・チャズは自分のワニイカを筆者がどう使うか十分に楽しんでおり、その結果として筆者もミズ・ダークからのお咎めを受けずに済んだがゆえ、幸運にも、我々はこの一件を大いに笑い飛ばせたのだった。
ワニイカを讃えよ!
関連資料
文責: 坂本サカモト