デートは続く
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「クレフ、俺が死んだらお前はどうする?」

湿気の溜まるベッドの上で、紅潮したコンドラキが横にいるクレフに問いかける。

「急にどうした。ケツの痔が心臓に転移したのか?」とクレフはふざけて答える。

「真面目な話だ。」とコンドラキは言い放ち、顔を壁側へ背ける。

「怒んなよ、ベン。そうだな……アンタはどうして欲しいんだ? それを必ず叶えてやるさ。」

「そうだな。俺は……」


ジーザス

鉛玉と罵声の飛び交う戦場の中、アルト・クレフは祈る。現実逃避に似た淡い願望を込めて。

忌々しいカオスの連中が撤退してから数分後、集まった医療スタッフは無神経にもその名を告げる。ペンキアートのように飛び散った肉片は、数分前までコーヒーを啜りながらペニスの太さをハルクの腕と例えたコンドラキ本人であった。クレフは役立たずの神に憎悪のファックを捧げる。続けて、クソッタレの言葉を二度、三度、何度でも。

「クレフ博士、彼をどうしましょう。」

駆けつけたグレイスが、呆然と佇むクレフに問いかける。クレフは、彼の口にした"彼"がコンドラキを指していることに少々遅れて気づく。

「ベンの身体をどう処分するのか、と俺に聞いているのかグレイス。」と吐き捨てるようにクレフは言う。

「落ち着いてくださいクレフ博士。コンドラキ博士が、博士が今どのような状態なのか分かっているでしょう。」とグレイスは返す。

クレフは表情を歪め、項垂れる。業を煮やしたグレイスは責め立てるように続ける。

ΩKが解決しない限り、コンドラキ博士は永遠に激痛と苦悶の中を彷徨うことになります。今この瞬間だって……。そんな彼を解放すべきじゃないのかと、あなたに言っているんですよ!」

徐々にトーンを上げたグレイスは、とうとうクレフの胸倉に掴みかかる。彼がコンドラキに特別な感情を抱いていたことにクレフは数ヵ月前から気づいていた。しばしの沈黙。グレイスは胸襟から力なく手を放し、間延びした溜め息を吐く。

「……倫理委員会がこのことを知る前に、コンドラキ博士の身体を消滅させましょう。細胞一つ残らず消滅させることができれば、彼の意識は苦痛から解放されるかもしれません。プラズマで分解するなり、高クラスレーザー砲で焼き払うなりなんなりと、方法はいくらでもあるはずです。今なら他に誰もいません。博士、早く決断を。」とグレイスは涙を滲ませてクレフに問いかける。

しかし、クレフに彼の言葉は届いていない。衝動に駆られるように、クレフはコンドラキの元へ近寄る。動かないコンドラキを見下ろし、彼の無惨な身体──正確にははち切れんばかりに主張している一部に注目する。

クレフは思い出した。戸惑うグレイスに、いつもの調子を取り戻したクレフが声をかける。

「グレイス、ベンとの約束を果たすのに協力してくれないか。」

クレフはくつくつと笑った。



数ヵ月後のとある病室。静かな長廊下に騒々しい足音が鳴り響く。ドアの前でピタリと止まり、一呼吸の間。思い切りよくドアを開けたのはクレフであった。彼の視界に、大胆なキングサイズベッドが飛び込む。既に半笑いのクレフは、ベッドの上でこんもりと盛り上がるブランケットをめくる。

そこには無数の輸血パックと酸素チューブ、パック詰めされた彼の脳、そしてパックからはみ出た──

どこまでも反り立つコンドラキの魂、もといペニスであった。

脳の一部が不死であることは既知の事実。脳と融合させたことでペニスに魂が宿ったのだ。この永遠のペニスは、クレフとグレイスの懸命な努力、そして幾人かの悪ふざけの産物である。

アンタをこの世界に繋ぐもの、アンタと俺を繋ぐもの、アンタに繋がれたこともあるもの、アンタは根っからのペニスで、ペニスはアンタだ。

「約束は守ったぞ、ベンJr.。」とクレフは話しかける。

「そんな格好じゃちょっとあれだろ? そんなアンタのために、今日はプレゼントを持ってきたんだ。」

クレフが鞄から取り出したのは、2Lサイズのクラス4完全無菌性収容ボトル。もちろんAquafinaラベル付き。切っておいたペットボトルの底を開け、コンドラキを丁寧に挿入する。さながらその姿はボトルシップ、否、ボトルディックである。何かが弾けたようなクレフの大爆笑が病室に鳴り響く。過呼吸寸前になって、ようやく一息つく。

アンタは変わらず不恰好だな。間の抜けていて、どこかユニークで、ペニスをボトルに詰まらせたがる愚かなチャレンジャー!



……そして、何よりも愛らしい。

クレフが息を吹き掛けると、コンドラキは身を捩った。満足したクレフが退室しようとしたとき、それには弱いんだクレフぅとベッドの方から聞こえた気がした。

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