Dear Dr, Please Remember Us...
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ねえ、博士。覚えていますか?
ともに研究を行っていた私たちと、サイトで過ごした日々を。


ねえ、博士。覚えていますか?
あの日の朝、いつでも冷静だった博士が顔を青白くして研究室に入ってきたことを。

昼休みにはサイト全体にぴりぴりした空気が流れていました。私たちは何が起こったのかまではわからなかったけど、それでも何か重大な出来事が起きていたのはわかりました。けれどその認識は実際に起こっていたことよりずうっと小さいものだったんですね。


ねえ、博士。覚えていますか?
あなたがアメリカへ旅立つ日の前夜、私に言ったことを。

あの日、サイトのメインパーソンほとんどがアメリカ行きに決まって、対応に大慌てでした。研究助手だった私もさまざまな研究を引き継ぎました。ホントは良くないですけど、博士のお見送りの時しつこく聞いちゃいましたよね。なんで行ってしまうんだって。そしたら博士はしぶしぶ言いました。「小泉君、我々は命題を与えられた。解を出さなきゃいけないんだ」って。今もその意味はよくわかってませんけど、博士が解を導き出せること、この日本の地で心から願っています。


ねぇ、博士。覚えていますか?
博士に何度も下手だって言われたあの実験を。

サイトからだいぶ人が減ったけど、私たちも財団職員です、正常性を維持するため与えられた職務を忠実にこなしています。双葉研究員に調査を手伝ってもらって、博士から受け継いだ研究を進めています。ちょっと厳しいかなと思ったあの実験、思ったよりいい成果が出ています。博士がいなくなってから何度も何度も練習して、今では少しは上達したんですよ?


ねぇ、博士。私にも博士たちが何に関わっているか、情報が回ってきました。
筐体計画」。滅びる世界に対抗する切り札を作るプロジェクト。

名前くらいしか教えてもらえませんでしたが、このサイトでも計画への協力のため、全体的な研究調査体制の再構成が行われるようです。世界が滅ぶと聞いてすぐには信じられませんでしたが、財団が全体でここまで動いているんですから、避けようのない事実なんでしょうね。

私たちは財団職員ですから、たとえ世界の滅亡が眼前に迫っていたとしても収容任務は果たし続けていきます。逃れることは許されません。それでも、やはり私は一人の小さな人間です。心の中ではその事実が受け止めきれず、眠れない夜を過ごす日々です。


ねえ、博士。私も筐体計画のために再配置が行われました。

今私は別のオブジェクトの収容業務に割り当てられています。新たに覚える必要があることも多々あり、休む暇なく忙しない日々を送っています。ですので博士の後を継いだ研究は、ひとまず凍結することになってしまいました。ごめんなさい。

ねえ、博士。ホントに世界が終わるんですか?その異常は確保も、収容もできず、世界を保護するしかできないんですか?でも私なんかが思いつくこと、博士たちはとっくに棄却済みなんでしょうね。


ねえ、博士。覚えていますか?
あなたが可愛がっていた後輩の双葉研究員のことを。

まだ財団に入って数年でしたけど、とても記憶処理に関して飲み込みが早くて。「生天目博士の下で働きたいんです!」といって時々研究室に顔を出して、博士も業務の合間に面倒を見ていましたよね。

今日、彼が亡くなりました。
「筐体計画」の手伝いで人員不足になっていたところに、収容違反が発生したそうです。幸いにも犠牲者は彼だけで、すぐに機動部隊により鎮圧されました。今では皆事故がなかったように元の業務に戻っています。
ああ、どうして私は彼が亡くなっているのに幸いなんて言葉を使ったんでしょうか?


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ねえ、博士。もうカウントオーバーみたいです。

ねぇ、博士。覚えていますか?解は出なかったんですか?世界の終わりには間に合わなかったんですか?私は博士を信じていました。博士ならこの世界と私たちを救ってくださると。博士だけではなく、蔵元博士も東森博士も堂本管理官もいるはずですしね。他のサイトからももっと優秀な方が協力しているんでしょう?絶対解を出せますよね。それとも私たちは見捨てられたんですか?もうこの末端は、救う世界にはいらないと切り捨てられたんですか?そんなことないですよね。私たちの尽力や双葉君の死は無駄ではないですよね。そうですよね。ねえ!


ねえ、博士。






私たちを忘れないでください。

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