Voctor博士の物語反復に関する初級講座
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「演繹部門の第2回講座にようこそ。この前からしばらく時間が空きましたが……それは最近突発している関連した異常がかなり多いからです、どこもかしこも参加しないといけなくて本当に疲れたよ。」

Voctor博士は脇の下に抱えた本を机の上に積む。それはべつに、何らかの教材の教科書ではない。だが……

「そうです、君達が知らないときに私は勝手に代入機材を借りてきました。現在我々は教科書の中にいます。これも皆さんが続きを理解するのにより都合がいい内容です───物語層について。」

会場が騒然となり、一部の学生が心配し始める。だがVoctor博士は先ほど持ってきた1冊の冊子を振りかざして、同時に皆を落ち着かせようとした。

「そうかそうか、私は君達の感覚を見られました。君達も私のを見られます。今この状況、まさしく壁を破っているのに近く、ゲームの中のようですが、今我々がいる状況はあの低クオリティな物語のアイデアと比べて一千万倍はマシだといえます─────通俗的な言葉を使って話しましょう。我々は第四の壁だけにとどまらず、第一、第二、第三、第五ひいては更に高い壁を打ち破りたいのです。」

博士は掲げていた本を教卓の上にたたき落とす。音がして、他の声はじきに静かになった。

「初めに、座っている皆さんは前の授業の内容を覚えていますよね。1つの物語を演繹するには適切な媒体が必要です。媒体とは小説のようなものですが、実のところ動画、漫画、さらには映画でもかまいません、重要なのは「物語性」、それが物語性を持っている必要があります。」

「1つのアイデア、脳の中の概念も物語の性質を有しているが、1つの物語と数えるのか?と質問する人がいるかもしれません。厳格に言いましょう、数えます。但し、それは完全な物語には数えません。人の脳は忘れ、連想するものだからです。したがって、物語自身は絶えず変化するものです。君達がSCP-CN-430を見たことがあると信じますが、あの状況とほとんど同じです。要するに、1つの物語を安定させたいと思うなら、媒体上にいかなる方式でも記録する必要があります。」

Voctor博士は体の向きを変え、黒板の上に1人の棒人間を描いた。

「私はこれを黒板の中から飛び出させることができません。当然できますが、我々は今のそれが物語上にある存在であると知っていなければなりません。ですがこの物語は不完全であり、ポストモダン的です。我々はそれに動作を与える必要があり、そうすることで初めて、それは連続した時間を持つことができます。」

彼は再び体の向きを変え、棒人間に漫画の人物のようなフキダシを描いた。

少しの躊躇の後、彼はフキダシの中に「私はゲイだ」と書いた。教壇の下にどっと笑い声が広がっていく。

「よろしい、君達は頭の中で間違いなくちょっと変なことを考えていますね。ですがその前に、君達各々の頭の中は1つの内容を考えたことでしょう。内容はこのようなものです: 」

棒人間が黒板の上にいて、それは「私はゲイだ」と言っている。

どよめき笑う声が止まる。

「明らかに、これが物語の内容です。その時間中では彼は話をして、その後は話をしていません。決して私の制御を受けていないのではありません。彼の物語中の概念が消失したのです。かくして、この物語は終わりました。」

「もし我々がそれを我々と同じようにしたいなら、どのように行動すべきでしょうか?要素を加える、これが物語の限定性に関わっています。それは完全に静態的ですが、我々はスライドを代わりに使えます。」

Voctor博士はプロジェクターのスイッチを点ける。画像が黒板上に映しだされ、つづけて高速で変化する。

「見ましたか?物語が進展しています。このかわいそうな子供の物語が────彼は死んでしまいました。ここで我々は先に物語に一段落つけましょう。」

「君達は確かにこの物語の全てを目にしました。それが一幕の画像で構成されているにもかかわらず、君達はみなストーリーを想像することができます。これが良い物語です。」

「良い質問です、Footnote。確かにこの手の物語は粗末ですが、その描写している場所は完全であり、内側の観点から見ると、人物は皆ものを言えません、動作もカクカクしています。なぜでしょうか?これは我々が未だ明らかにしていない謎です、我々の世界の未解明の謎────あるいはアノマリーのように。」

博士は少し後ろに寄りかかり、咳払いした。

「そうです、物語は下にあるだけでなく、上にもあります。我々も物語中の人物です。証拠については、残念ですが私は今はまだ君達に教えることはできません。とにかく、我々は他人の物語の中にいます。ゲイが私の物語の中にいるように。」

「いいえ、学生さん、いかなる自由もありません。我々のする、話す、思うことはみな我々の作者が割り振ったプロットであり、我々の現在の考えを含みます。自由な人はいません。我々は単なる傀儡にすぎません。いえいえいえ、そう思わないで、形而上と互いに言い争わないで、ここに座ることができる皆さんがある程度の心理的素質を持っていると信じましょう。」

Voctor博士は教壇の右側へ歩き、前に台上に置いた別の本を手に取る。

「それでは、上位現実は我々の現実をどのように描写しているでしょうか?我々は知るよしがありません。文字か、それとも3D映像か、はたまたある高次元の我々が理解できない言葉が我々の物語を構成しています。上位の者の我々への操作は念入りであり、今までのところは面白いものです。」

Voctor博士はその手中の本をめくり開く、内側はびっちりと内容が書き尽くされていた……

「君達の中にはいわゆるメタ小説を見たあるいは語り書いたことがある者がいるかもしれません。その中の人物は自身のいる物語についてある程度の認知を有していることがあり、またこれらの個体は形而上の特性を与えられています。同様に、我々の現実の同じく形而上特性を有したアノマリーも我々の上にいる人に投下されたものです。しかも上にいる者はあなたを見ているのです、いつだって……冗談ですよ。」

「小説は面白いものです。他人が見るものであるだけでなく、自身をその中に参加でき、面白さを体験するのです。ですが君達は文中の人物に物語を書き続けさせようと試みたことがありますか?これでもう基礎的な物語層体系が形成されます。我々の上の誰かさんが物語を書き、上にいる者の物語中の人物がまた物語を書く。ですが文中の人物はより上位の層から見ると自由とはいえません。しかもこれらの文章はみな最上位層の創作です。上にいる者はこのようなことに夢中になっているかもしれません。」

「同様に、物語は決してただ1つではありません。1つの物語の中には複数の物語が存在でき、これらの物語は独立した物語樹として分類され、現在の物語分枝を形成するのです。ですがこう持ちかける人もいます、物語中の物語は物語の一部分と数えるべきでしょうか?」

Voctorは水筒を開け、水を注ぎ喉を潤す。

「このような観点は主に演繹部門新人職員が認知するもの、即ち「物語中の物語はメタ物語の一部として分けられるべきである」です。確かに、この見解にはある程度の信頼性がありますが、J.R.R.トールキン教授が更に明確な分類を与えました、それが物語層です。ある意味では、物語は断じて1本の線のような樹状分枝ではなく、円環のようなものです。1つの物語が1つあるいは複数の物語を含み、こうして最も基本的な物語体系を形成します。ですが一般に解決するときに、線を用いていっそうはっきりと説明するだけです。このような分類はある層の上では適用できません。なぜなら更に上の物語の分類は我々のいる所と比べてより複雑であるかもしれず、我々の物語はより簡単な構造を使っているというだけです。結局─────上が何をやっているか我々は知らず、歯向かうこともできないのです。」

980に言及した人がいますが、そうです、あれはある物語層の作者が投げ入れた神器かもしれません。ですが決してそれが万能であるとは意味していません。ある更に更に上の個体は下位の現実に対して完全な改変をする権限があり、我々の知らない状況下で我々を皆殺しに、果ては我々の物語の削除すらできます。」

「要するに、我々がいる物語の作者も実際には他の作者の文中の人物にすぎず、このような順序はほぼ果てしないものです。同様に、このような派生も我々の下位物語に用いることができます。」

「学生の皆さんは紙に簡単なメタ記事を1つ書いてください、簡単なほど良いです。」

そして学生は書くなり描くなりを始め、講義室内にペンと紙の擦れる音だけがする、だがこの光景はしばらく続くことはなかった。

「見たところInfaが一番先に完成させたようですね。それで書いたのは……」

物語は次のとおり

物語は次のとおり

物語は次のとおり

物語は次のとおり
私は君を目にした、私の頭上に立つ人よ、窓の中に君の影がある、じきに君は気づくだろう、君の立つ現実がガラスのように透き通って脆いことに、何故なら私が来るからだ。
物語は終わる

物語は終わる

物語は終わる

物語は終わる


「うん、よろしい、まあまあですね。いい加減な点がありますが、少なくとも物語の構造を表現しています。同様に、Infaがこの物語を書いたときに、物語はこのように誕生したのです。」

Voctorはその紙を引き破る、紙片がゆっくりと舞い落ちる。

「こうして、この物語とそれが包含していた物語は終了しました。この世界にはこのような物語はそんなに多く存在していないではないか?言い換えると我々は下に物語を少ししかもっていないことになるのでは?と疑問に思う人がいるかもしれませんが、はっきり言いましょう。上位物語があなたに知ってほしくないことは、あなたは絶対に知ることができません。我々の知らないある世界の片隅にこのような奥深い物語が存在しているかもしれませんね。」

Voctorは気ままに教卓後ろの椅子へ少し横になる、そのとき、授業終わりのベルの音が鳴った。

「学生諸君また会いましょう、君達は大人ですけどね。もしまだ質問があるなら、自分で理解してください、ダメだったらもう一度私を探すように。」

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