私達が得るべき美しさ
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「私にはもっと……沢山のお金が要るの」

「そんなことしちゃいけない。キミも分かってるはずだ」

異常が消失すると、O5達もいつの間にか消え去ってしまった。彼らの行方を知る者はいない。本当に存在したのかも分からなかった。財団についても同じだ。異常が消えたことで、人類はようやく安全を得たのかもしれない。いや、もしかすると、人類が安全を得ることは決して無いのかもしれない。

車椅子に乗った研究員のアルツハイマーは、急激に悪化の一途を辿り始めた。ピンク色を好む元アノマリーの少年には、何の学歴も存在しない。無敵だったサイボーグの神父は、腕の切断手術を余儀なくされた。政府はすぐに、街の一等地に建つビルから彼らを追い出した。

興味深いことに、こんな状況になってもなお、彼女は犬を飼っていた。

「そんなことしちゃいけない。キミも分かってるはずだ」

ハンナは彼らと苦難を共にする必要が無い……世間の目はそのように見ていた。彼女の学歴は消えた異常な大学で取得したものではない。心理学の博士号は今もなお、金色の輝きを放っている。彼女には異常な延命や生命維持も無いし、異常な戦闘力や容貌も無かった。

資格がある、実務経験もある。仕事を探して、心理カウンセリングをしたり、大学の先生になったりして、自らを養うことができた。これは今の財団職員にとって、幸せ過ぎる進路だと言えよう。

腕を失った神父はコードを叩いてプログラマーになることもできない。アルツハイマーの研究員はもう、人生経験に裏打ちされた貴重な助言をくれたりはしない。

医療費に生活費……彼らを守るには、多くの資金が必要となる。

「もっともっと、お金が欲しいの」

解けた肩紐が腰に落ち、揺れる。半開きのカーテンからは、何かを明るくするだけで、何の役にも立たない陽射しが入り込み、彼女の肌を部分的に照らし出した。

ベッドに散らばった現金に手を伸ばす。腰と臀部は純粋な弧を描き、彼女の目のように澄みきっている。輝く埃と荒い息遣いが、空気の中で入り混じった。

引張力を感じる。間もなく彼女は、本来居るべき位置へと引き戻された。

「キミ、途中で値上げする訳にはいかないんだよ」

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