tokosan 2022/12/31 (sat) 23:22 #12741281
これから書くのは、だいたい3か月前の出来事だ。
今でも喉に魚の骨が引っ掛かったような違和感が残っていて何とか吐き出したいんだが、こんな妙な事を周囲に話したら俺まで頭おかしい奴と思われちまう。
スッキリして気持ちよく新年を迎えるためにも、ここに書き込む。
tokosan 2022/12/31 (sat) 23:24 #12741281

22.12.31_12:30
今日の昼間に撮ってきた写真なんだが、まあ、何てこともない、どこにでもある裏路地だ。
道一本挟んで隣には、観光地として有名なアーケード商店街がある。
俺以外にも首からカメラぶら下げた若い女なんかも撮ってた。
昭和の映画に出てきそうなレトロっぽい雰囲気が良いんだとか。
確かに、ノスタルジーっぽいものは感じる。けど特に異常は無かった。
tokosan 2022/12/31 (sat) 23:30 #12741281
3か月前、俺は職場の新入りを連れて、その商店街へ観光に行った。
新入りはデカい図体の割には生真面目で手先が器用で仕事を覚えるのが早かったから俺は気に入っていたんだが、デカい図体の割には気弱で奥手て口下手なせいか全く職場になじめていなかった。
それどころか、同じ部屋の奴らからは裏でイジメも受けてるらしい。
見込みある新入りに精神病んで辞められるのが嫌だったから、気分転換させようと思って連れ出したんだよ。
tokosan 2022/12/31 (sat) 23:33 #12741281
けど、新入りは全く楽しそうじゃ無かった。
せっかく買った食べ歩き用の唐揚げも全く口にしない。
しばらく商店街の中を適当に歩いてみたが、ますます新入りの顔色は悪くなっていった。
平日だったが商店街は観光客で賑わっていた。
人混みに酔ったのかもしれないと思って、いったん裏路地に入った。
tokosan 2022/12/31 (sat) 23:36 #12741281
座れる高さのコンクリートブロックがあったら、新入りを座らせた。
今思えば、新入りは路地裏の真正面に座っていたなぁ。
虚ろな目で路地裏をじっと見ていた。
俺は、新入りの気持ちを少しでも軽くしようと思って、色々とくだらない話題を振っていた。
新入りは何にも反応を示さなかった。
流石の俺も手詰まりになってしまったから、「そろそろ帰るか。」と新入りに声かけた。
tokosan 2022/12/31 (sat) 23:40 #12741281
「そうですね。帰りましょう。ミコちゃんに謝らないと。」
突然、新入りが流暢に喋りだした。
「この道は自分の家に繋がっている。隣のミコちゃんと喧嘩したままだった。謝らないと。ミコちゃんが事故で死んじゃう前に謝らないと。」
「自分の人生が上手く行かないのも、ミコちゃんに謝らないまま逃げてしまったからだ。その罰だ。その罪だ。帰りましょう。カラスが鳴くまでに帰りましょう。ミコちゃんがお出かけする前に帰りましょう。あの頃に帰って、やり直しましょう。」
tokosan 2022/12/31 (sat) 23:46 #12741281
新入りはスッと立ち上がると、ヨタヨタと路地裏に向かって歩き出した。
俺は、このまま新入りを路地裏に行かせたら取り返しのつかない事になると察した。
新入りの腕を掴んで引いた。新入りは力なく倒れた。
相変わらず虚ろな目で、ひたすら「ミコちゃん」に謝罪の言葉を吐きながら。
tokosan 2022/12/31 (sat) 23:50 #12741281
俺は何とか商店街まで新入りを引きずり出し、救急車を呼んだ。
当然、救急隊員には新入りが倒れた原因を聞かれたが、あんな奇妙な事を話せるわけない。
結局、新入りは熱中症と譫妄だと診断されて、暫く入院したのち、仕事を辞めて故郷に帰った。
tokosan 2022/12/31 (sat) 23:59 #12741281
新入りは、モンゴルの遊牧民の出身だった。来日して2か月しか経ってなかった。
日本語も僅かしかできなかったし、漫画やドラマなんかは見たことないはずだ。
ミコちゃんなんて部屋の関係者にいないし、モンゴル人にも居ないと思う。
そんな彼が、あの裏路地を見て、故郷の草原に帰れると思うなんて、ありえないじゃないか?