「よ~しそれじゃあ!エナちゃんの探訪者デビューを祝って~」
「…」
「…」
「カンパ~イ!…も~2人とも!」
"同盟"が懇意にしている集村の酒場を貸し切って、オッサン2人と少女1人の酒盛りが行われた。テーブルの料理が色鮮やかな一方、場の空気は誰が見ても冷え切っていた。オッサンAことガロハミィは必死でこの場のテンションを厨房から上げようとするが、オッサンBことカドハクと本日の主役である少女エナはぶすっとして頬杖を付いている。
「パーティー以前にご飯食べるテンションでもないよこんなの!」
「別に私、来たくなかったし…何だったらあなたたち2人、"同盟"の中では顔見知りってだけでそこまで親しくないし」
「お前の為の会なのに言うねえクソガキ。いいか俺の不機嫌の理由はな、せっかく準備に協力したのに肝心の主役がこの調子だからなんだよ。何が不満だ」
カドハクがエナを問いただす。
「私が探訪者として認められたのは、ある集村に行って記録を取ってきたからなの。そこは異類のせいでみんなおかしくなってる場所で、共存なんて出来っこない異類がいて、私を生贄にしようとしていた」
2人は噂を聞いている。エナが試験がてら赴いた集村では命の危険があり、命からがら逃げだして探訪者への道を"リーダー"が閉ざそうとしたという噂を。"リーダー"の真意は本人しかわからないが、どうやら危険度は本当だったようだ。
「生贄にされかけた自体は…多分私はショックじゃない。私が夢見ていた"異類との共生する方法を模索する"って"同盟"の理想から違っていたのが…頭ではわかってるつもりでも…」
自分の言葉で言語化しようとするエナに、カドハクは少し姿勢を正した。そこら辺にあった店の酒瓶をひっつかんで机に置く。
「お前、これ飲めるか?」
「…飲めるわけないでしょ?」
「だよな。俺は飲める。今料理してるアイツは飲めない」
「飲まなきゃいけない付き合いの時だったら飲めるよー」
ガロハミィの返事に「器用な奴…」とカドハクは返す。
「俺の記録帳は楽記って識別だ。お前は?」
「…彗記」
「俺は跳記!」
「なに…?みんな違ってみんないいって言いたいの?」
「いや、まともな奴がいやしないって伝えたいわけ」
いい話風で終わりそうだったのにいきなり悪口を言われた。
「いいか?集村の奴らがみんな異類と良好な関係を築いて明るい未来にしようなんて思っているわけねえんだよ。その日暮らしの飯が欲しい奴だっているわけだし、そもそも今の文明のまま異類と半永久的に共存できると思うか?できたとして、それが人類にとっての理想図か?」
「そんなの…わからないじゃない」
「そう!わかんねえんだよ。こんな時代、異類を監視してた奴らが見れば反吐が出るかもしれない。理想の管理の形だと感心するかもしれない。お前が言っている"同盟"の理想を確認するのも早すぎるし、共存出来ていない集村を悪だって切り捨てるのも青すぎるってことなの!」
冷たい目でエナを見下していたカドハクが、いつの間にか同じ目線で彼女のもやもやを言語化しようとしていた。そこにガロハミィが取り皿を持ってテーブルに置き、言葉を繋ぐ。
「確かに"同盟"の目標は"異類との共生する方法を模索すること"だけどさ、俺ら個々人の目標は違うじゃない?君にもそういうの、あるでしょ?」
「…ええ、流れ星を創る異類、それに会いたいって…」
「それってさ、一朝一夕で達成できる目標ではないよね?」
「それはもちろんよ!」
「うん、分かるよ。俺にもあるんだ~、"同盟"の目標とは別に叶えたい理想が…カドハクもでしょ?」
「そりゃあな」
「それも今すぐに達成できるものでもないし、逆に1日くらい飲めや騒げやのパーティーをしても遠ざかるものじゃない。万人に与えられる"いずれ来るその時"というのは物語の終わりと同じで、こちらから操作することは出来ないから」
「いずれ来る…その時」
「うん。君が流れ星の異類に会う時も、"同盟"の活動の結果が問われるときも来る。だからまぁ~大義を大切にするのはいいけどその時まではさ、それぞれが別々の方向を向いてていいんじゃない?と思うわけ。はい話終わり!食べる時間!」
いつの間にか机に盛り付けられていたのは、材料も調理法も盛りつけもそれぞれ違う料理たちだった。エナが好きな鶏料理も、見たこともない料理もあった。
「好きなもん取り分けろ。無理そうな奴は反面教師にしちまえ。一人前の探訪者なんざそうやってなるもんだ」
「その理論ならあなた達2人まで私の反面教師になるけど」
「こんなチャランポランから何か盗めるんだったら上等だよ。…そろそろ呼んでた奴ら来るかな」
「えっまだ人増やすの!?これ以上!?」
「これ以上って…まだ3人しかいないし当たり前だろ?さっき言ってた通りだよ。多ければそれぞれの向く方向がよりバラバラになって、それが組織の色になるか…まあ空中分解になるかだ」
「不吉なこと言うねカドハク~」
「楽しめればいいんだよ。…今日くらいはな」
貸し切りの酒場に、不釣り合いな今日の主役。この日の思い出も記録になるのかなと思いながら、果実水をグラスに注いだ。