狐狗狸さん
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SKETCH BOOK



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狐狗狸さん

狐狗狸こっくりさんをご存じですか。ご存じならば問題はありません。

狐狗狸さんは紙と硬貨を使用した、複数人で行う占いです。一般的に紙には鳥居・「はい」「いいえ」・五十音表・零〜九の数字が書かれています。「狐狗狸」の名が表すように、狐狗狸さんは狐・狗・狸等の動物霊を呼び出す降霊術の一種であると言われていますが、鳥居が描かれる事から主に狐の印象を持つ方が多いでしょう。

狐と鳥居は、伏見稲荷大社を中心とした稲荷信仰から関係を紐付けられます。伏見稲荷大社では宇迦之御魂神うかのみたまのかみが主祭神として祀られています。宇迦之御魂神は五穀豊穣の神で、狐を使い魔としているのです。古来日本独特の神仏習合により、宇迦之御魂神は仏教における荼枳尼天だきにてんと同一視されてきた歴史があります。元々荼枳尼天は鬼子母神と同じく人を喰らう鬼女でありましたが、大黒天に導かれ福神へと変化しました。白狐に乗る姿が多く描かれており、其れが狐を遣う宇迦之御魂神と結びつけられ同一視されるようになりました。しかし、明治維新の神仏分離により現代では此の二神は再び別れ、神道では宇迦之御魂神を、仏教では荼枳尼天を祀っています。


狐憑き

狐狗狸さんで用いる紙には鳥居が描かれているものの、儀式によって現れる狐は稲荷神に仕える狐とは異なります。其れは固有の名を持たない、人を化かしたり人に憑いたりする位の低い狐霊です。其の中でも、特に人に憑くものはクダ、オサキ、トウビョウ、イズナ、人狐等と呼ばれています。所謂「狐憑き」という現象を起こすものです。狐に憑かれた者は譫語を発する、幻聴に襲われる、錯乱する等の精神疾患や、医者に掛かっても原因の分からぬ体調の不良に襲われたりするそうです。昔、狐を筆頭とした憑き物が世に蔓延していた時代がありました。狐狗狸さんは其の憑き物を呼び寄せる儀式として生まれたのです。しかし江戸時代の医師、香川修徳は『一本堂行余医言』にて「俗に狐憑きと称するものを視るに、皆これ狂症なり。野狐の祟るところにあらず。真の狐憑きは百千中の一二なり」と記しています。つまりは狐憑きとされた事象、広く言えば憑き物が憑いたとされる事象は其の殆どが精神病由来の妄言であったのです。


憑き物筋

狐に憑かれた者の中には、憑依されたかの如く「我は誰某に遣わされた狐である。主の命令により此の者に憑いた」と口走る者も居たそうです。憑き物を使役し他人に憑かせる者は「憑き物筋」と呼ばれています。「筋」と言うのは「家筋」の事で、憑き物筋であるとされた者は其の家筋までもが憑き物筋であるとされました。誰かの気が触れれば、誰かが病に伏せれば、其れは憑き物筋が遣わした憑き物の所為だと、特に医療の発達に乏しい山間の地域ではそう判じられたのです。憑き物筋の者達は決して自らがそうであると名乗った訳ではありません。多くは地元の名士や富豪が、其の名声や富を羨んだ者共から憑き物筋であると決めつけられたのです。

以下に記しますは、他者によって憑き物筋であるとされた者達の話です。


[事例1] 狐持ち

彼は、且つて村区分であった集落で長男坊として生まれました。元は紙屑買として貧しい暮らしをしていた家筋でしたが、今では資産家として名を上げています。彼の家筋には、狐に纏わる伝承がありました。或る時、彼の先祖が山中で白狐と出会いました。白狐が「我を祀り大切にすれば、未来永劫栄える術を授けよう」というので其れに従うと、次は「糸枠を作って売れ」と言うのでまた其れに従うと大層繁盛した、という伝承でした。其の後、生綿の栽培にも手を付け大金を手中に収めたそうです。しかし、突然芽が出れば目を付けられるのが筋です。其れを羨ましく思う者共が出るのは必然の事でした。狐によって富を得た彼の家筋は、嫉妬に駆られた者共より狐持ちであると判じられました。

或る日村人の一人が突然、過食や精神錯乱を起こすようになったそうです。医者に掛かるも病状は一向に改善の兆しが見えず、偶々村に滞在していた祈祷師に見てもらうことになりました。祈祷師が言うには「此の集落に突如にして富を得た家はないだろうか。其の家筋の者が遣わした狐に憑かれている」との事でした。当時、「精神異常や身体の不調は狐に憑かれた所為である」という考えは広く信じられており、其れが特に狐を祀る家筋に思い当たる節があった為、簡単にも其の祈祷師の言葉は受け入れられました。人々は其れ以降彼の家筋の者に対して大層気を遣い、時にはお世辞を言ったりして不興を買わぬよう努めるようになりました。狐と共に盛況を迎えた彼の家筋は、狐と共に畏怖されるようになったのです。

魑魅魍魎の存在が科学的に虚像であると次第に証明されるようになっても、彼の家筋は狐持ちであるとの判を押され隔てを置かれていると言います。ならばいっそと彼の曾祖父は、余生狐を遣う霊能者としての営為を行うようになり、未だ世に跋扈する奇々怪々な事象を祓う巫の「真似事」をするようになったそうです。彼にも其の家業は継がれています。


[事例2] 牛蒡種

彼は、且つて村区分であった集落で長男坊として生まれました。彼の家筋は護法ごほうなる天狗の子孫であると信じられてきました。元は誰が知るよりも古くから其の村に居住していた家筋であるというだけでしたが、どこか知らぬ素姓故に周囲からは敬遠されていました。誰かが言いました。「此処の山には天狗が住まうと言う。かの者は其の子孫ではなかろうか」と。護法童子なる天狗の胤であるとされた彼の家筋は、護法胤ごほうだねと呼ばれるようになりました。次第に敬遠は畏怖へと変化し、周囲からの孤立は悪化していきました。

或る年、村に病の蔓延と農作物の不作が続いたと言います。運良く災厄から逃れた彼の家筋は、運悪くも目を付けられました。病や不作は、彼の家筋が根源であるとされたのです。今まで爪弾きにされてきた彼らの怨念がこの災厄を招いたのだと、そう判じられました。災厄が去った後にも、訪れる病や不作は彼らの所為とされました。其の家筋の者に恨まれると其の生霊が憑き不幸が訪れる。其れは「よく人に取り附く事、牛蒡ごぼうの種の様である」と形容され、護法胤は人へ憑く牛蒡種ごんぼだねへと転じました。

「嫁ぐと其の家筋ごと牛蒡種になる」と言われた彼の家筋は婚姻を忌諱され、結果近親内での生殖により血を繋いできたそうです。其れでも限界を迎え、若年の者は彼と彼の妹と、二人の間に生まれた幼い娘一人のみとなりました。そこで彼は考えました。このまま血筋が途絶えることは目に見えている、ならばいっそ種を撒いてしまおうと。彼は遠方に居る、と或る霊能者に相談を持ち入り其の術を教わりました。結果非情にも、幼い一人娘と、持てるだけの金銭とを共に、二山越えた先の名も知らぬ集落へと置き去りにし種を下ろしたそうです。一言、「宜しく」と書いた手紙を添えて。


[事例3] 此れ

彼は、且つて村区分であった集落で長男坊として生まれました。彼の家筋は木材生産及び加工を主にして栄えてきましたが、元はイチと呼ばれる神霊・生霊・死霊を口寄せし託宣していた者が村に居ついたのが始まりだと言います。イチは村に禍害が訪れる度に無節操にも天神地祇を呼び申して其の名を語っていたのですが、祀り従える神仏はただ一つでした。彼らは此れを老鸛と呼んでいます。口寄せするは村の繁栄の為でしたが、此れは彼の家筋のみに盛運を齎すものとして祀っていました。イチの家筋として神妙たる霊力の術を秘匿し血脈相承してきたために、周囲との親密な交際や、無思慮な婚姻を避けてきたといいます。時代が下るにつれ、山間の開墾が進み里人が入れ込むようになり、先住の者共も其れに倣い農民として同化していきましたが、彼の先祖は其の機を逃すどころか彼らの空漠たる様より里人の者共から、違う「筋」の者である、と判じられたのです。

「地域一帯の幸福量は常に一定を保っている。一方が不幸に見舞われた時、其れは誰かが幸福を吸い取った為である」と言う幸福量保存の考え方があります。祖先は時代の変化によって需要の薄れたイチを廃し、元より手を付けていた林産業にて財を成しました。其れに目を付けられました。祖先の致富は他者の幸福を吸い取ったものであると、誰某が大怪我をした、誰某が病気になった、誰某が狂乱した等の不幸は次第に彼の家筋によるサワリであるとされていきました。ましてや傍から見れば得体も知れぬ此れを祀り成り上がった家ですから、そうなるのも当然といえるでしょう。こうして彼の家筋は憑き物筋となったのです。他者の変化は自らの変化であります。

彼の曾祖父の弟は、自立をし村を離れるまでは信心深く此れを祀っていましたが、村を離れ疎遠になるにつれ他の神仏へ傾倒し、此れの存在に疑問を持ち此れを軽んずるようになりました。ついては心身共に重病を患い、村を離れてから七、八年ばかしで逝去したといいます。日に日に皮膚が爛れ、髪は抜け落ち、譫妄に取り憑かれ一人孤独に死んだと。多少の誇張が入っているやもしれませんが、大病を患ったことには間違いがないそうです。此れを蔑ろにしたために迎えたオシラセであると、そう聞いています。

此れを大事にしなければならないと、彼の父はいつも言っていました。大事にしなければオシラセを迎えることになると。「大事にする」とは、大切にするだとか丁重に扱うだとかいう意味とは異なります。此れを聢と祀らないといけないということです。仕法は彼が物心が付いた頃より教えられました。

此れの祀り方は、狐狗狸さんの儀式と似て非なるものです。必要なのは「五十音表の書かれた紙」と「硬貨」、そして「任意の人物の名前」。この任意の人物は自分が恨む、または誰かから大層恨まれるような者が好ましいです。一人きりの閉鎖された空間で、紙の上に硬貨を置き指を添えます。そして硬貨で、任意の人物の名前をなぞります。祝詞は特に必要としません。

元はと言えば此れには他人の名前を捧げる必要など無く、其れは信託を受けるための儀式だったらしいのです。狐狗狸さんの如く触れた硬貨が独りでに動き出し、文字をなぞり信託を得ていたと。しかし其の性質はいつしか変化していました。此れが憑き物であると、そう取り沙汰されるようになった頃からであると言います。イチの頃より恩恵を授けてきた此れは他者によって憑き物となり、彼の家筋は他者から幸福を奪う筋となりました。


私は彼の父に拾われました。両親を失った幼い私を、彼の父が引き取ってくれたのです。
大人になった今、私は、彼と契りを交わし、そして私も筋の者へと成りました。
彼との間には子を宿しませんでした。
私は此れを、終わりにしたいのです。
子供を宿してしまえばまた此れを継がざるを得ません。
私で此れを、終わりにしてしまいたいのです。
しかし、此れを終わらせたいとの気持ちが、オシラセを呼んでしまうのではないかと彼は言います。
其れでも此れを終わらせたいのであれば、此れに捧げる名前を増やすしかないと言います。

私は彼の父に拾われた時から、世俗との関わりが薄いまま生きてきました。
故に私には、恨めしい人が然程おりません。
此れに捧げられる者が然程おりません。
だから私は、此れを書き記すことにしました。
此れは私の依り所です。
だから此の野帳を拾ってくださった貴方には、貴女には、貴方の、貴女の恨む人物の名前と、其の理由を教えていただきたいのです。
此れに捧げる名前を、恨めしい人物の名前を記してください。
どうか、私を助けてください。


記入はこちらから

秋山孝光あきやたかみつ 彼女を取られた
甘池純一あまちじゅんいち 浮気をされた
池上綾香いけがみあやか
石田友則いしだとものり いじめられる
伊藤幸一いとうこういち 恵まれてる
伊藤雄介いとうゆうすけ 調子にのってる
井上健一いのうえけんいち 浮気された
茨城稲子いばらきいなこ うるさい
岩崎順いわさきじゅん 昇進を先越された
上野健助うえのけんすけ フラれた
驫木翔太とどろきしょうた 裏切られた
白水祐也しろみずゆうや 金を貸してくれない
岡田健太郎おかだけんたろう 夫を殺された
梅原繭うめはらまゆ 殴られる
市川大輔いちかわだいすけ 邪魔
臼杵泰矢うすきしんや 大勢の前で説教をされた
大川康則おおかわやすのり 馬鹿にされた
岡田義之おかだよしゆき 悪口を言われる
奥村真紀子おくむらまきこ 私を産んだ
山倉道一やまくらみちいち 死ねばいい
片山浩二かたやまこうじ いじめ
加藤順二かとうじゅんじ 目ざわり
菅原和則すがわらかずのり 浮気
菊池建きくちけん 給料未払い
上田健二うえだけんじ 理不尽に怒られた
喜多忠雄きたただお 彼との同棲を認めてくれない
小島琢磨こじまたくや 中学生の頃のイジメの主犯
藤原大輔ふじわらだいすけ 犯された
堤恵美つつみえみ 産まれた
桜井順平さくらいじゅんぺい 家賃滞納
坂尾忠さかおただし 飛ばれた
佐々木正平ささきしょうへい 不潔、汚い、臭い
坂島司さかしまつかさ 俺を舐めてる
踊信代おどりのぶよ 盗まれた
佐々木真由子ささきまゆこ 子供と会わせてくれない
山部島翔太やまべじましょうた いじめ
大木雅男おおきまさお
河山大輔かわやまだいすけ
倉山洋子くらやましょうこ 小言がうるさい
笹鹿俊介ささしかしゅんすけ うらやましい
杉浦奈緒すぎうらなお なんとなく
高木篤たかぎあつし なんとなく
金子光かねこひかる 不倫がバレた
竹内修一たけうちしゅういち フラれた
田中聡たなかさとし 金を返さない
谷川大気たにかわだいき なんとなく
釣谷安晃つりたにやすてる
辻直人つじなおと 死んでほしい
野崎香奈のざきかな ウザイ
今田嘉幸いまだよしゆき 死んでほしい
出崎美香でざきみか なんとなく笑
二岡正幸ふたおかまさゆき うらやましい
鈴木隆すずきたかし 死んでほしい
中島太一なかしまたいち キモい
長安照正ながやすてるまさ 虐待
徳岡幸弘とくおかゆきひろ 死んでほしい
長瀬学ながせまなぶ 死んでほしい
馬場達郎ばばたつろう 死んでほしい
浜田雄介はまだゆうすけ 死んでほしい
林晋也はやししんや 死んでほしい
浜田勝義はまだかつよし 死んでほしい
橋本由紀子はしもとゆきこ 死んでほしい
浜川宗はまかわしゅう 死んでほしい
畠道徳はたけみちとく 死んでほしい
徳久雄一とくながゆういち 死んでほしい
東百合子ひがしゆりこ 死んでほしい
福岡将弘ふくおかまさひろ 死んでほしい
藤川小康ふじわらしょうこう 死んでほしい
福邊直美ふくなべなおみ 死んでほしい
増野講治ますのこうじ 死んでほしい
星篤郎ほしあつろう 死んでほしい
松田深雪まつだゆき 死んでほしい
中摂理恵美なかせつりえみ 死んでほしい
暗部弾尾くらべたまお 死んでほしい
山川大祐やまかわだいすけ 死んでほしい







私が彼から継いだ此れは、私で終わらせなければなりません。
子を授かる事無く一生を過ごし、私の中に此れを秘めたまま墓場まで持っていく所存です。
貴方の、貴女の恨みで、少しでも力添えを頂けたことに大変感謝いたします。
貴方に、貴女に幸あらんことを。


























嘘だよ、お大事に。



















よろしくね。



































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