これは、SCP-1121-JPにおいて発見された、手紙と思われるメモの全文です。
SCP-1121-JP関連文章-01 - 発見日付 20██/██/██
拝啓
ようやく寒さも緩み、おだやかな陽気が続く中、いかがお過ごしでしょうか? そちらではまだ変わらず雪が降り続けているのでしょうか? 皆様、ますますご健勝のことと存じます。
突然のお手紙、申し訳ありません。このたびは、皆様にお別れを申し上げようと筆を執らせていただきました。
皆様は我らの祖が行き着いた場であり、また、離れた場所です。我らの祖は光の下では消えゆく定め、忘れゆかれる定めでした。それ故に、我らは皆様から離れた後も郷愁の念は絶えず、夜半の雪を見ては思い出し、涙を流すこともありました。我らは隠からなるもの、隠となったもの、角を生やし、牙を生やし、元が何であったかも忘れたなれの果て。
皆様同様、我らは未来を忘れ、ただ自然がままに、我らの良き時代にこびりつき、忘れられゆく者達でした。
忘却し、漂着し、酩酊し、そして未来など無意味と嗤う、停滞と慕情の民でした。しかし、我らは皆様にこれ以上囚われるべきではないのだと気づいたのです。どうか勘違いしないでください。我らは皆様を嫌っているわけではありません。むしろ、感謝し、愛しています。だからこそ別れなければならないのです。地獄は心地よく、酩酊もまた楽しきもの。ですが、我らは安寧に陥ってはいけないのです。光の中で、消えゆきそうな激痛に怯えながら、それでも、と新たなものを造っていかねばならないのです。
この廃墟の街はその証。新たな時代を生んだ詩人の描いた街。過去に、星灯りに囚われ、いつまでも先に進めない古き良き、美しき時代の忘れ形見。いずれ燃え尽きる星の煌めき、落ち行く夕日。それを止め、進歩を忘れ、解脱を謳うこの美しき街ならば、きっと手紙も届くでしょう。歩みを止め、郷愁と慕情に浸かれば、あとは忘れられるだけだから。
我らは何も知りません、何も分かりません。我らが知るのは契約と対価、そして古来の技法のみ。しばらくは苦労も続くでしょう、誤解もあるでしょう。ですが、我らは転がる石のごとく、新たな世界を生きると決めました。古き良き、そして美しき我らの、…そう、我らの時代に涙を拭いながら背を向け、決して忘れず歩いていこうと決めました。
皆様は忘れていくのでしょう、忘れられていくのでしょう。皆様はそれを愛と歌う。慕情に溺れ、忘却に酔い、停滞を救いと嗤う。それはおそらく人も同じ、郷愁に溺れ、諦めに酔い、回帰を救済と見なす。
我らはそれを愛と信じない。
傷を負っても、傷を負わせても、苦しんでも、苦しめても、進み続けることが、生み出し続けることが、それこそがきっと、本当の愛なのです。我らは隠からなるもの。隠から来るもの。しかし、我らの懐かしき陰から出で、光の中へ、我らを傷つける未来の中へ向かいます。
これは感謝の手紙です。
どうか皆様にこの廃墟の街を。 未来を忘れ、今に溺れ、過去に止まった街を。
これは決別の手紙です。
一方的な思いなど、独りよがりな善意など、愛など、我らには必要ない。
どうかこれ以上手紙を送らないで。
愛を込めて。
敬具
如月工務店
███1様へ
この手紙と同時にロングコートと中折れ帽を着用している長身痩躯の高齢男性を中心とした集合写真が█枚発見されています。財団POIデータベース内において、これらの人物は該当人物が存在しませんでした。