
空間歪曲の範囲外から撮影したSCP-2405-JP
特別収容プロトコル: SCP-2405-JPおよびその周辺の土地は、財団フロント企業「酒井エココンシャスプラスティックス」が所有し、カバーストーリー「工業廃棄物処理場」の適用下で封鎖中です。空間歪曲の範囲内への侵入には、研究主任の許可が必要です。
[追加項目] SCP-2405-JPの関係者が“招待状”を受け取った場合は、速やかに研究主任に提出して下さい。
説明: SCP-2405-JPは神奈川県██市の緑地帯に存在する建造物です。外見的には何らかの工場と推測されますが、後述の理由により内部への侵入が成功していないため、詳細は不明です。
SCP-2405-JPから半径約100m以内の範囲に、人間、ドローン、カメラを装備した動物など1が侵入すると、空間歪曲が発生します。空間分析システムによれば、空間が内向きにほぼ無限に拡張していることが判明しており、これは侵入者がいくらSCP-2405-JPへ接近し続けても、双方の距離が縮まらないことを意味します2。空間拡張率は完全な無限ではない可能性もあるものの、ドローンを███km以上飛行させ続けてもSCP-2405-JPへ接近できなかったことから、通常手段での侵入は現実的ではないと判断されています。
SCP-2405-JPは202█/█/██に81地域ブロック空間監視ネットワーク3により発見されました。公式記録上ではSCP-2405-JPが建つ土地は██市の所有となっていましたが、199█に歯磨き粉の製造工場が取り壊されて以降は、いかなる建造物の記録も存在していません。フィールドエージェントによる周辺住民への聞き込みでも、「いつの間にか建っていた」などの曖昧な供述しか得られませんでした。
SCP-2405-JPは窓などの開口部が常に閉鎖されており、人員や物資の出入りも確認されていません。ただし、集音マイクを向けると、かすかに機械の駆動音やCMソングらしき音声が聞き取れることから、廃墟ではないと考えられています。以下は音声分析によって得られた、CMソング部分のサンプルです。

シュガーコム、シュガーコム、シュガーコム製菓4のチョコレート
お仕事、恋愛、お勉強、なにせこの世はほろ苦い
甘―いチョコに包まれて、ほろ苦ビターでちょうどいい
子供も大人も大好きな
シュガーコム、シュガーコム、シュガーコム製菓のチョコレート
追記1・招待状に関して: 202█/█/██、サイト-81██に勤務するD-3968が、以下の内容が記された紙片を発見しました。D-3968は「いつの間にか制服のポケットに入っていた」と証言しており、監視カメラの映像分析でも混入経路は判明していません。
★★★招待状★★★
おめでとうございます! ██ ██様5をシュガーコム製菓のチョコレート工場見学ツアーにご招待します!秘密のチョコレートの製法を大公開! 試食コーナー、素敵なお土産もご用意しました。芳しいカカオの香りに包まれて、あま~い一時をお過ごし下さい!
招待状をお持ちの上、ご希望の時間に正面入口までお越し下さい。申し訳ございませんが、当選者様のみのご案内となります。ま、大人なんですから、一人で大丈夫ですよね?
従業員一同、心よりお待ち申し上げております。
[SCP-2405-JPの正確な住所と周辺地図]
追記2・内部探査に関して: 202█/█/██、D-3968に招待状を持たせ、SCP-2405-JPに接近させたところ、空間歪曲に阻まれずに入口へ到達することに成功しました。D-3968に携帯させたカメラや通信機も正常に機能したため、研究主任の虎屋博士は引き続きD-3968にSCP-2405-JP内部の探査を指示しました。内容は以下の通りです。
SCP-2405-JP探査ログ#01

〈以下、書き起こし〉
虎屋博士: とりあえず、呼びかけてみて下さい。
D-3968: あ、ああ。おーい、見学に来たんだけど。
[入口のシャッターがゆっくりと上がり、CMソングが流れ出す]
D-3968: な、何だこりゃあ。
[SCP-2405-JPの内装や調度品は、菓子類をモチーフにしたカラフルなデザインで統一されている。おそらくは天井に設置されたスピーカーから、CMソングが絶え間なく放送されている。従業員などの人影は見えない]
D-3968: ディズニーランドかよ。
虎屋博士: いいなぁ。許可が出るなら、自分で行きたいぐらいですよ。あ、お土産よろしくお願いしますね。
D-3968: いや、あの、持って帰ったところで、あんたは食わせてもらえないと思うけど。
[破裂音・紙吹雪と共に、茶色の帽子とワンピース姿の女性型実体が出現する]
D-3968: おわあ!?
女性型実体: シュガーコム製菓のチョコレート工場へようこそぉ!
D-3968: な、何だ、どっから湧いて出た?
女性型実体: いらっしゃいませ、██様! お待ちしておりました。本日は見学ツアーにご参加頂き、まことにありがとうございまぁす!
D-3968: 無視かよ。
虎屋博士: まあまあ、なるべく相手に調子を合わせて下さい。
女性型実体: [小型の旗を掲げて歩き出す]それでは、工場をご案内しましょう! シュガーコムのチョコレートの秘密を大公開![CMソングに合わせて]シュガーコム、シュガーコム、シュガーコム製菓のチョコレート。さあ、お客様もご一緒に!
D-3968: やなこった。
〈中略〉
女性型実体: こちらはカカオ貯蔵庫になりまぁす。
[動物の檻のような施設が並ぶ区画。内部には人型実体が多数収容されている。全体的なフォルムは人間の幼児に近いが、全身が黒一色であり、オレンジ色の囚人服を着ている]
D-3968: な、何だあいつら?
女性型実体: 当工場で用いられているカカオは、全て最高級の[キュルキュルという不明な音]産です。彼らの強い苦味が、チョコレートの甘みを引き立てるのです。
D-3968: いや、カカオじゃねえし。
虎屋博士: 檻の中を撮影して下さい。
[カメラの視点が檻内部にズームインする。幼児型実体群は一様に興奮状態で、お互いに罵倒・攻撃し合っている]
幼児型実体: てめえ、この[罵倒語]! ふざけんじゃねえぞ、この[罵倒語]!
幼児型実体: くたばれ、この[罵倒語]野郎!
幼児型実体: あたしが一番可愛いもん! あたしがお姫様だもん!
幼児型実体: 駄目! これは僕ちゃんの! これもそれもぜーんぶ僕ちゃんの!
幼児型実体: [けたたましく笑いながら]馬鹿じゃねえの? みんなバッカじゃねえの?
D-3968: クソガキばっかじゃねえか。
女性型実体: 仕方ありませんよ。あの子たちはまだ幼いですからね。剥き出しの獣性をぶつけ合うことしか出来ないのです。
幼児型実体: [他の幼児型実体に噛み付いて]ぺっぺっ、にが―い。
D-3968: [ため息]ったく、ガキの頃を思い出して嫌になる。
〈中略〉
女性型実体: こちらは搾乳棟でございまぁす。
[乳牛の搾乳場のような施設が並ぶ区画。人間に酷似した頭部を持つ、牛のような実体群が繋がれている]
女性型実体: 当工場で使用されるミルクは、純血の[キュルキュルという不明な音]種牛からの搾りたて! 丹精込めてお世話することで、極限まで甘みを引き出しておりまぁす。
[作業服を着た人型実体群が、牛型実体を世話しながら話しかけている]
作業服の実体: へえ、その髪型イカしてるねえ。僕も真似しよっかなー。
作業服の実体: いやー、俺も全然勉強してねーよ。一緒に赤点取ろうぜー。
作業服の実体: そんなことないってー、チョー似合ってるよー。
作業服の実体: マジー? ウケるー。
作業服の実体: [ウインクしながら]君、センスあるよ。
D-3968: うぜえ。
女性型実体: まあ、そうおっしゃらずに。世界はとかく苦いことだらけ。渡っていくには、あまーい言葉が必要なのですよぉ。[小声で]おべっかだとは百も承知でね。
牛型実体: いやー、それ程でもぉー。
[牛型実体がミルク缶に白い液体を吐き出す]
D-3968: [舌打ち]俺も学生の頃は、周りの顔色ばっかり伺ってたな。
〈中略〉
女性型実体: さあ、いよいよ最終工程でぇす。
[茶色の液体が満たされたプールのような区画。水面には絶えず渦が生じている]
女性型実体: こちらでカカオとミルクを絶妙の配合率で混ぜ合わせまぁす。
[天井の穴から複数の幼児型実体が落下、プールに水没する。プールサイドでは作業服の人型実体が、プールにミルク缶の中身を注いでいる]
女性型実体: こちらは試食コーナーとなっておりまぁす。さあ、心ゆくまで召し上がれ。
D-3968: あ、ああ、懐かしい、この香りは。
[D-3968がカメラを放り出す]
虎屋博士: あっ、ちょっと、困りますよ!
D-3968: [プールサイドに近づきながら]そうだ、俺は、ずっと前にも。
女性型実体: 思い出して頂けましたか、ご招待した甲斐がありましたわ。██様、お帰りなさいませ。
[D-3968がプールに飛び込む]
虎屋博士: D-3968、聞こえますか? 応答して下さい! 繰り返します、応答して下さい!
[虎屋博士が呼びかけを続けるが、D-3968からの返事はない]
虎屋博士: [ため息]駄目か。それにしても、どういう意味だろう。シュガーコムは彼のことを知っていたのか?
[プールから学生服の児童たちが這い上がる。一様に穏やかな笑顔を浮かべている]
虎屋博士: あれは……██6!? ██じゃないか! どうしてここに!?
女性型実体: お待ちかね! チョコレートの完成でぇす!
虎屋博士: ██に何をした!?
女性型実体: 最近、反抗期で困っていらしたでしょう? これで甘さと苦さのバランスが取れた、ビター&スイートな大人になれますよぉ。どうです、お土産はお気に召して頂けましたか、博士?
██君: お父さん、困らせてごめんね。これからは良い子になるよ!
虎屋博士: こいつら、私に言っているのか? 通信機はD-3968が装備しているはずでは。
女性型実体: ご心配要りませんわ。誰もが一度は通る道ですもの。博士だって、お子様の頃に当工場にいらしたはずですよ。[カメラを拾い上げ、顔をアップにする]お忘れですか、このメロディーを。[CMソングに合わせて]シュガーコム、シュガーコム、シュガーコム製菓のチョコレート。
虎屋博士: そんな覚えは。
[プールからビジネススーツを着た青年が這い上がる。爽やかな笑顔を浮かべている]
虎屋博士: か、彼はD-39……いや、エージェント・桜庭7? [額を押さえて]そう言えば、最初から妙に親しく感じていたような。どうして気付かなかった? 記憶操作か?
D-3968改めエージェント・桜庭: いやあ、無理もないですよ。ほら、エージェントって後味の悪い仕事が多いでしょう? 人型実体の家族に記憶処理したりとか。おかげで、日に日に甘さが抜けて、口が悪くなる一方で、とうとうDクラスになっちゃいまして。
虎屋博士: そ、そんな理屈があるか!
エージェント・桜庭: でも、これで大丈夫、エージェントに復帰出来ますよ。[女性型実体に]あ、君、可愛いね~。ランチ一緒にどう? [咳払い]むむ、ちょっと甘くなりすぎかな。
虎屋博士: [机を叩いて]不条理だ! ナンセンスだ!
エージェント・桜庭: ああ、駄目ですよ博士。大人なら本音をチョコで包まないと。
[虎屋博士の白衣が溶け崩れ、その下からDクラス職員標準制服が現れる]
エージェント・桜庭: ほら、言わんこっちゃない。
██君: お父さん可哀想、お仕事で苦い思いしてるんだね。
女性型実体: あらあら、じゃあ博士もご招待しませんとねえ。
[警備員たちが虎屋博士改めD-1068の両腕を掴む]
D-1068: な、何をする?
[警備員たちのヘッドギアとタクティカルベストが崩れ落ち、その下から茶色の帽子とワンピースが現れる]
素敵な案内嬢(男性)たち: [D-1068を引きずりながら]1名様、チョコレート工場見学ツアーにごあんなーい!

チチチチョコココレートトトt
[探査本部のドアが開く。その向こうには、懐かしのチョコレートプールが広がっている]
D-1068: 私は夢を見ているのか?
[CMソングが聞こえる。シュガーコム、シュガーコム、シュガーコム製菓のチョコレート♪]
一同: もう一度、とろとろ混ざり合おう。ビター&スイートな大人になろう♪
[みんな大好き、シュガーコム製菓の……?]
D-1068: チ、チョコレート?8
[ドアが閉まる]
〈チョコログ終了〉