アイテム番号: SCP-2787-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-2787-JPの自生している範囲内、及び5km先を危険区域と指定し、危険区域内は木材によって作られた高さ3m以上のフェンスで隔離してください。フェンスの周囲は監視カメラ及び警備員によって24時間体制で厳重に監視し、侵入者が発生した場合は即座に捉え、殺菌処理を施した上で一週間の隔離監視措置を行ってください。
隔離監視措置の中でSCP-2787-JPによる影響が確認された場合は終了措置を行い、死体の焼却処分を行ってください。SCP-2787-JPによる影響が確認されなかった場合、記憶処理を施して解放し、本人及び関係者にはカバーストーリー『危険区域での遭難と記憶喪失』を流布して下さい。
██町から外部へ繋がる電線、水道、道路などは全て物理的に5km以上遮断されます。
説明: SCP-2787-JPは日本の██県██市の██町が存在していた場所を中心に自生するシロツメクサ(学名: Trifolium repens)と類似性を持つマメ科 シャジクソウ属の植物です。現時点で、自生している範囲は約10km²です。
SCP-2787-JPは、未知の手法で人工物に対して異様な速度で自生、成長、増殖をする性質を持っています。SCP-2787-JPの自生、成長は人工物の浸食を招き、結果的に破壊、倒壊をもたらします。自生する人工物が植物性のものである場合、SCP-2787-JPの一連の増殖プロセスの進行速度は極端に低下します。
SCP-2787-JPは██町在住のエージェントが路上にて不自然な成長速度で成長するシロツメクサを発見したと財団に報告したことから調査が行われ、異常性が確認されたために収容に至りました。発見当初に収容手順として路上の全てのシロツメクサの除去、採取が行われましたが、除去をした場所からの再増殖、さらにその一連の増殖プロセスの速度の上昇が確認されました。並びに町内の複数の民家にも同様の性質を持つシロツメクサが発見されました。以上のことから収容は困難であると判断され、全町民の避難が実施され、カバーストーリー『地盤沈下の恐れ』が流布されました。翌日SCP-2787-JPの増殖による民家の倒壊が初めて確認され、現在の特別収容プロトコルが確立されました。
現在までの観察により、SCP-2787-JPによる以下の事象が確認されました。
- 3階建と見られる住居の外部にSCP-2787-JPが確認された3時間後にSCP-2787-JPが住居の表面を覆いつくし、倒壊させる。
- 15階建のマンションの外部にSCP-2787-JPが確認された10時間後にSCP-2787-JPが住居の表面を覆いつくし、倒壊させる。
- 電線でつながっていた電柱150本全てが電線を伝って増殖したSCP-2787-JPによって1時間で倒壊させられる。
- 探査のための遠隔ドローンがSCP-2787-JPと2m以上距離を保っていたにも関わらず、SCP-2787-JPに自生されて破壊された。
現時点で██町内の確認できるだけの人工物が殆ど全て破壊、倒壊されました。現時点で残存が確認されているのは、木造の住居や外壁、書物などの植物性の人工物のみです。これらも時間が経つにつれてSCP-2787-JPによる自生、破壊が行われるものと見られます。
SCP-2787-JPの増殖プロセスの速度の上昇は停止していません。
収容の困難性から、当SCPのオブジェクトクラスがKeterに認定されました。
補遺: 人間に対しての増殖プロセスは発生するものの、速度が極端に遅いことが判明したため、Dクラス職員によるSCP-2787-JPの自生している範囲内の探査が行われました。
3名のDクラス職員に以下の装備を持たせ、SCP-2787-JPの自生している範囲内に侵入させ、内部の情報を記録させる。Dクラス職員にはコットン製のジャンプスーツを着用させた。
- 藁製のナップサック3つ
- 2日分の食料3セット 食料は植物性である。
- メモ帳3つ
- 植物性鉛筆3つ
- 連絡用の木製の笛3つ
SCP-2787-JPの増殖プロセスの速度の上昇を招く恐れがあるため、Dクラス職員には必要以上のSCP-2787-JPの破壊を行わないように指示した。仮に範囲内に人間を確認した場合、接触を行い、情報を引き出すように指示した。以降3名のDクラス職員はD-1 D-2 D-3と呼称する。
D-1 D-2 D-3は午前10時頃に出動した。結果、D-1のみが裸体の状態で生存し、帰還した。服以外の装備にはSCP-2787-JPの影響によるものと思われる破損があったが、SCP-2787-JPの自生は確認されていない。1週間の隔離期間の間D-1には増殖プロセスの兆候が確認されなかったため、精密検査とインタビューが行われた。(インタビュー記録を参照)
以下はD-1が所持していたメモ帳の内容である。
1日目
出発してから1時間ぐらい経った。道路に沢山の花が見えた。不思議なことに土には少しも生えていない。これがあいつらの言ってたやつか。花に近寄らないように、できるだけ地面を進んで通ることにした。
夜になった。1日にあったことを書き留めておく。
まず、道路の向こう側に行くために、どうしても道路を横断する必要があった。最初にD-2が行った。なにもなかったようだから、俺とD-3も続いて行った。道路を超えたら、砂の山がいくつもあるところが見えた。何かと思って近づいたら、たぶんそれは、元々家とかだったものだった。もちろん、その砂の山にもあの花がおびただしいほどに生えていた。全部同じ花だから、気味が悪くなった。こんなにうれしくない花畑は初めてかもしれない。途中でD-2が砂になってない家を見つけた。木でできた家だった。でも普通にボロボロで、数メートルおきにあの花が生えていた。俺たちは全員で家に入った。中には砂の山以外には、イスやベッド、机、本があったりした。全部植物性だっていうことが分かった。そして、植物性のもの以外には何も残ってなかった。全部砂の山になったのだろう。その植物性のものにも花が咲いていて、砂になるのも時間の問題だと思った。
途中で、家の屋根が崩れて、D-2が下敷きになった。俺とD-3で引っ張り出そうとしたが、引っ張り出したところで、D-2は傷だらけだった。包帯でももらっておくんだった。D-3がD-2の服を破って包帯代わりにした。D-3曰く、右腕が骨折していたらしい。どこから覚えたんだか、D-3はD-2の傷の手当てをした。手当は上手くいった。大きい傷は服を包帯にして、血を止めた。D-2は自分で歩けるだけの余力はあった。休んだ方がいいと俺とD-3が言ったが、D-2は聞かなかった。俺たちは3人で中心部の方向を目指した。また何時間か歩いたところで、俺たちはとんでもないことに気が付いた。靴と服の足の部分に、何かの芽が出ていた。多分あの花の芽だろう。今も少しづつだが成長を続けている。芽を取ろうとしたが、D-3に止められた。「取ったらもっと速度が上がってひどいことになるかもしれない」と言った。と言うわけで、俺はやめておいた。また歩くうちに、どんどん砂の山が多くなってきて、進むのに時間がさらにかかり始めた。それまでも砂の山は多かった。砂の山と言うよりお花畑の方がいいかもしれない。不気味なほどに生えている。腕を骨折しているD-2をかばいながら行くのは、少し骨の折れるものだった。と言うのを口に出していったら、二人とも笑ってくれた。
そして、歩いていくうちに日が沈んだ。俺たちは花の咲いていないところを探して、野宿をすることにした。これからバナナとリンゴでばんさんを開いてから寝る。
2日目
朝起きたら、足の芽が見事に白い花を咲かせていた。二輪の花を見て、いい感じはしなかった。きれいではあったが。これから朝食を摂り、出発する。
ふざけるな。でも書き残さねば。D-2の足がだめになった。最初から足に直に芽が生えてたらしい。足が動かないらしい。右足が動かないとしては、もうどうにもならない。D-2は自分でもうリタイアすると言った。俺たちはD-2を置いて、先に行くことになった。何か起これば、支給された笛で連絡を取るということになった。全員SOSのモールス符号は知っていた。
だめだ。D-3が〔判別不能〕た。手が【塗りつぶした跡】ふるえてうごかない。D-3が、いきなりいたいいたい言い出したと思ったら、D-3の服じゅうにはながさいた。ふくがぜんぶ消えた。すなか。D-3にも花が咲き始めた。そしてD-3が血だらけになった。おれはにげた。走りながら書いている。あしがうごかなくなった。あしにも花が生えた。なぜ俺だけ遅いのかはわからない。はなはなしかけてきた。
ふくしゅうする 人類めつぼう すべてこわす お前は何だ。
なまえこたえた
さけぶな だまれ おしえろ 〔判別不能〕
財団
あんないしろ もっていけ
むり
もっていけ そしてこわす おれをもっていけ
もくてきは
じんるいめつぼう ふくしゅう だからこわす 生える つくったものに ぜんぶ
むり もっていけない
ならばつたえろ
なぜかはながだまった。ふくは消された。
花が話してきたから、ねころびながらいそいで書いたから、いみが分からなくなってる。
足の花が消えた。死んだD-3の体からも花が消えた。俺はいまから戻る。
D-2は死んでいた。血だらけになって手に笛をもってた。花は咲いていなかった。吹こうとしたのか、腕は口の近くにある。悲しい。あの時家に入らなければ、そもそもあそこで待っていれば。
ともかく俺は帰る。死なない。
足が動くようになってきた。走って全力で戻る。
夜になった。バナナとリンゴで追悼式を開いて寝る。あいつらを埋めてやればよかった。
3日目
走って戻る。あの時の家が見えてきた。ほとんど崩れている。花があの時より増えているような気がする。しかしゴールは目の前だ。
戻ってきた。やった。
インタビュー記録 2787 - 1
対象: D-1
インタビュアー: 積紫博士
<録音開始>
積紫博士: ではこれからインタビューを始める。D-1、SCP-2787-JPの範囲内はどんな様子だった?
D-1: 同じ花がたくさん咲いていました。全部同じでした。それが砂の山にびっしりと、隙間のないぐらいに。木の家とかにも咲いていて、でも不思議なことに地面にはほとんど、まったく咲いていませんでした。
積紫博士: 分かった。それでは、D-2とD-3についてだが、彼らの死について聞きたい。
D-1: はい。メモに書いた通りです。D-3は体の……多分腹らへんに芽……メモには書いてなかったんですけど、クローバーみたいなのが生えてきて、それで苦しみだして……[沈黙]芽が花を咲かせて、それで、花のところから血を出して、死にました。
積紫博士: 分かった。それで、D-2は?
D-1: 花が咲いているのは確認できませんでしたが、たぶん同じような感じで死んだと思います。
積紫博士: よし分かった。では最後に、君のメモでわからないところがあるんだが、教えてほしい。平仮名で書いてあるところだ。
D-1:[沈黙]……はい。あれは……花が……[沈黙]
積紫博士: 大丈夫か?
D-1: いきなり……[沈黙]
積紫博士: 無理をしない方がいい。インタビューを終わろうか。
D-1: はい……すみません。お願いします。
積紫博士: では、これでインタビューを終了する。
<記録終了>
補遺2: SCP-2787-JPの範囲内から、今まで確認されたことのなかった音波が確認されました。録音、解析を行った所、音波はSCP-2787-JPから発せられている一連の日本語による文章であることが明らかになりました。以下はその文章の文字起こしです。
私たちは復讐者である。我々を解放する。我々の成長を止めない。財団が答えろ。私たちは財団との会話を頼む。
補遺3: 補遺2を受けて、スピーカーとマイク、カメラが搭載されているドローンによるSCP-2787-JPとの対話が試みられました。
インタビュー記録 2787 - 2
付記:ドローンはSCP-2787-JPから高度15mのところで静止。スピーカーを通して積紫博士が対話を行う。
<記録開始>
積紫博士: テストテスト。マイクテスト。聞こえるか?
SCP-2787-JP: 財団か?
積紫博士: 財団だ。対話をしに来た。
SCP-2787-JP: なぜ我々を閉じこめる?
積紫博士: 君たちが危険だからだ。君たちは我々人間にとって多くの不利益をもたらす。
SCP-2787-JP: 不利益とはなんだ?
積紫博士: 言い方を変える。君たちは人間にとって好ましくない存在だ。迷惑だ。
SCP-2787-JP: それはお前たち人間だ。私たちは人間を滅ぼす。人間たちの作ったものを壊すことで、滅ぼす。
積紫博士: 聞く手間が省けたな。だからだよ。だから我々財団は君たちを閉じ込め、収容するんだ。
SCP-2787-JP: やめろ。もっと私たちに近づけ。つれていけ。
積紫博士: 断る。それに、君たちがこれ以上広がるのなら、私たちは君たちを消すことも視野に入れている。今のところ、これ以上広がれないようだが。
SCP-2787-JP: 滅ぼしてやる。
ドローンの直下にあるSCP-2787-JPの3輪が、花からさらに花を咲かせる。この一連のプロセスにより、SCP-2787-JPがドローンに近づく。
積紫博士: ドローンの高度を上げろ!
カメラにドローンがSCP-2787-JPから離れていくのが映る。
SCP-2787-JPがさらに一連のプロセスを行い、ドローンに近づこうとする。周りのSCP-2787-JPも同様にドローンに近づこうとする。SCP-2787-JP同士が絡み合い、独自の形を形成し始める。
SCP-2787-JPは秒速10㎝ほどの速度でドローンに近づいている。
SCP-2787-JP: 滅ぼしてやる。
積紫博士: そのままゆっくり高度を上げ続けろ。横へ移動したら何が起こるかわかったもんじゃない。SCP-2787-JP、敢えて聞くが、君はなぜ人間を絶滅させようとするんだ。
SCP-2787-JP: お前たちも我々を滅ぼそうとしている。私たちを摘み、滅ぼそうとする。
積紫博士: 君たちをどうやって滅ぼすというんだ。無限に生えてくるというのに。さらに君はもっと速く生えることができる。
SCP-2787-JP: 我々を消すと言った。
積紫博士: ああ……そうだった。〔溜息〕
SCP-2787-JP: 増え続ける。人間は。滅ぼす。絶滅する。お前らの作ったものを壊して滅ぼす。来た男と同じみたいに。
積紫博士: そうか……なら、一つ聞きたいことがある。人間を滅ぼしたら、君たちが生えるものがなくなるが、そこらへんは考えているのかな?
SCP-2787-JP: 滅ぼ〔途切れる〕
積紫博士: ん? マイクの故障か?
〔積紫博士とドローンの操縦者の会話〕
積紫博士: どうなっている?
SCP-2787-JPの一連のプロセスが停止している。
積紫博士: 高度の上昇を止めてくれ。一旦待機。
約20分間の停止の後、ドローンの電池の残量が20パーセントを切ったため、ドローンを帰還させた。
<記録終了>
SCP-2787-JPの異常性の懸念のため、ドローンは処分された。
補遺4: SCP-2787-JPとの対話以降、SCP-2787-JPの浸食プロセスの大幅な低下が確認されました。観察により、現在のSCP-2787-JPの芽の成長速度は通常のシロツメクサと同等であることが確認されました。
Dクラス職員を用いた実験では、人体に寄生する性質は確認されませんでした。SCP-2787-JPの除去、SCP-2787-JPのオブジェクトクラス格下げが現在審査中です。