SCP-3000-JP 私がしたことの全て4

事案3999-N

概要: サイト-[情報抹消済み]内のオブジェクト及び施設が一部消失しました。該当サイトにはSafe及びAnomalousクラスのオブジェクトのみが収容されており、当事案の要因については判明していません。

財団の管理下にある複数の施設やオブジェクトが消失する現象が発生しています。原因を現在調査中です。

[不要なデータは削除済み]

対話記録2016/9/21

備考: 以下の対談は、ソフィア博士の要望で除外サイト内1で行われました。

<記録開始>

ソフィア博士: こんにちは、本日はよろしくお願いします。

テレス博士: こんにちは、こちらこそよろしくお願いします。

ソフィア博士: あらためて説明させていただくと、ブラインドオーバー計画で抽出されたイメージについて我々の研究でわかったことの報告ですね。

テレス博士: 確かあれらのイメージから再抽出を行った結果、クオリア連結体が検知されたのですよね。

ソフィア博士: その通り。これは極めて異例なことです。ヒトの概念から抽出されたものからクオリア連結体を検知できたということは、心も同様に概念で構成されている可能性があるということになります。まあそれについてはこの際置いておきます。私はあれらのイメージについて、わかったことを…まあ、順々に話していきます。

テレス博士: お願いします。

ソフィア博士: まず一つ目の”日本”というイメージですが、これから抽出されたクオリア連結体をDクラスに適合させてみたところ、面白いことにある程度の日本語を理解できるようになりました。話すまでには至りませんでしたが。

テレス博士: ほう、それは興味深い。

ソフィア博士: 次に二つ目の”死”のイメージ。これはミー殺2にも関わっているのでわかりやすいかもしれませんが、適合させたDクラスは生命反応を停止しました。

テレス博士: まあ、そうでしょうね。

ソフィア博士: 次に三つ目。”悪”のイメージです。これはZ等級のものが抽出できました。簡潔に言うと、こいつを持った人はこいつ自身の反応と真逆の感情に振れやすいです。

テレス博士: それは納得ですね。抽出を担当した私が言うのもなんですが、本当にくせものですよ、こいつは。利用価値が拷問くらいしかない。

ソフィア博士: 四つ目、”変遷”のイメージ。Dクラスに適合させた結果、情報災害に対して一定の免疫を獲得しました。

テレス博士: お、それは特定のオブジェクトの収容違反の際に使えそうですね。

ソフィア博士: …五つ目は”嘘”。Dクラスに適合させたましたが、特に変わった様子はありませんでした。

テレス博士: それは意外ですね。

ソフィア博士: 嘘というものが我々に似合うということか、はたまた我々が嘘の測定結果を掴まされているのか。そんなことも考えてしまいました。もう少し長期的に観察する必要があります。

テレス博士: 後者の場合でなければよいですね。

ソフィア博士: 六つ目のイメージは、”夜”。確か天使に対しての対抗策だとかなんとか。

テレス博士: このサイトにも応用されていますね。

ソフィア博士: 抽出されたものは、タイプUの連結体です。公開されていない情報なので、おそらくあなたは知らないはずです。知るべきでもないですが。

テレス博士: ああ、はい。

ソフィア博士: そして七つ目の”幻想”です。これは…

テレス博士: これは、何です?

ソフィア博士: これは、このイメージからは、クオリア連結を検出できませんでした。

テレス博士: まあそうでしょうね。我々の部門でも、他の抽出実験とは比べ物にならないくらいエラーを吐きましたから。やっと成功したかと思えば、出てくるのは何の異常も見られない無地の黒色ばかり。

ソフィア博士: いえ、それは問題ではないのです。ここからの話は、私があなたとの対談を行おうと思ったきっかけにも関連します。

テレス博士: というと、どういうことです?

ソフィア博士: こちらを。

(ソフィア博士が以下の画像をテレス博士に見せる。)

テレス博士: これは?

ソフィア博士: これは、"幻想"のイメージです。よく見ていただくと分かりますが、うっすらと何かが浮かび上がってきているように見えるでしょう?前のイメージでは黒一色だったのに。

テレス博士: 確かに、見ようと思えば見えますね。しかし、どうしてなのでしょうか…

ソフィア博士は咳払いをする。

ソフィア博士: これは私の考えなのですが、この世界の存在自体が”幻想”なのではないか、と推測しています。

テレス博士: …それはなぜ。

ソフィア博士: あなたたちは計画の途中で、"無"のイメージを抽出したことがありましたよね。

テレス博士: はい。真っ黒で模様も何もないイメージでしたが。

ソフィア博士: 真っ黒で、何もない。それは、初期の"幻想"のイメージと同じではありませんか?

テレス博士: 言われてみれば。しかしそれが何か?

ソフィア博士: 事案3999-Nが初めて発生したとき、私はちょうど例の計画で抽出されたイメージについての研究を任されていたところでした。私たちは研究の途中、イメージに変化があったことに気が付きました。そしてあなたがたの部門のデータをかき集めました。…テレス博士、私は先ほど、"幻想"のイメージからはクオリア連結を検出できなかったと言いました。

テレス博士: ええ。そうでした。

ソフィア博士: それは確かに本当です。クオリア連結体自体は検出されませんでした。しかし、クオリア連結体を構成するに至らない、バラバラの状態のSCP-3000-JPが検出されました。…そしてこれは"無"のイメージと同様な結果でした。

テレス博士: つまり、初期の"幻想"のイメージは"無"であったと。

ソフィア博士: はい。そして事案3999-Nが起こるごとに、"幻想"のイメージは浮かび上がってきました。この世界の一部が消えるごとに、"無"に"幻想"が落とし込まれていく。つまり、事案3999-Nは"幻想"のイメージが完成することの副産物である。こう考えました。

テレス博士: 原理がわかりません。仮にこの世界が幻想だとしても、幻想の世界で"幻想"が抽出できない理由はありません。

ソフィア博士: 我々の世界が、上位の世界から生成された幻想であると仮定します。そんな幻想の世界で"幻想"のイメージを抽出するという行為が成功してしまった場合、我々が抽出した"幻想"の中にさらなる"幻想"が生まれることを許してしまう。それはつまり、無限の実在を許すことと同義です。

テレス博士: …確かに、合点がいきます。しかし、なぜ私にこの話を。

ソフィア博士: この考えを話した仲間は、全員消えました。

テレス博士: 消え…

ソフィア博士: おそらく、事案3999-Nでしょう。しかしあまりにもタイミングがおかしい。そこで私は、一人で事案3999-Nの被害にあったものを調査しました。そしてわかったことは、"幻想"のイメージについて詮索を行った者、あるいは事案3999-Nの調査を任されたものが対象となっていました。

テレス博士: とは言っても、現に私とあなたは生きている。それはどう説明するのです?

ソフィア博士: 私が他の職員と異なること。それは対クオリア式記憶処理を受けてる、ということです。受けたのはまだ研究員の頃でしたがね。つまり感情が無いのとほぼ同じ状態なのです。厳密に言えば少し違いますが。

テレス博士: それとどういう関係が。

ソフィア博士: 先ほどの仮定のまま話します。この仮定においては、我々が抽出したという概念、そして我々の感情。それらも全て上位世界によって生成されたものです。上位世界の住人は、きっと自分たちの存在を感知されることを阻止したいでしょう。だからこそ、何かしらの防止策をとりたい。その策の糸口が、自分たちが下位の世界であると知覚した際に発生する感情なのではないか。そう思いました。

ソフィア博士が一呼吸置く。

ソフィア博士: 私が何とかするしかない。しかし、さすがに一人では人手が足りません。もしかすると上位の住人から勘付かれるかもしれない。そこであなたにも対クオリア式記憶処理を受けてもらい、協力していただこうと思ったのです。

テレス博士: なるほど。ではなぜ除外サイトならば影響を受けないと判断されたのですか?

ソフィア博士: 実は確証はありませんでした。だからもしあなたがこの場で消え失せるようなことがあれば、私は一人でことに臨むつもりでした。

テレス博士: ええ、はあ?では私が消えるかもしれないと思っていながら、あなたはこのことを話したと?

ソフィア博士: あれを生み出したのはあなたでしょう。責任取るのが筋でしょう。

テレス博士が笑う。

テレス博士: 確かに、それを言われては何も言い返せない。

テレス博士が向き直る。

テレス博士: それで、これからどうするおつもりですか。

ソフィア博士: まず事案3999-Nやブラインドオーバー計画の足がつきそうなデータを全て消します。その後は…除外サイトのデータベースに接続した際は、除外フィルターが作動するシステムになっているはずです。ですから、O5のみがアクセス可能になるようにいじります。もちろん対クオリア式記憶処理も添えてね。それが終われば、上位の住民に勘付かれないために頭を拳銃で撃って死にます。もちろんあなたもですよ。

テレス博士: おう、大体察してはいたけど物騒な計画ですね…。ところでその計画だとO5の感情がなくなることになりますが、勝手にそんなことしていいのですか?

ソフィア博士が首を振る。

ソフィア博士: 我々も彼らも財団職員です。在って無いようなものですよ、感情なんて。

<記録終了>

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