SCP-3651-JP
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アイテム番号: SCP-3651-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: 現在SCP-3651-JPはカバーストーリー”老朽化”の元、民間人による周囲への立ち入りを禁じています。実験はセキュリティクリアランス4以上の職員の許可を得た場合のみ行われます。実験はDクラス職員を対象にした場合のみ許可されます。

説明: SCP-3651-JPは██市に存在するホテルです。外見・構造・建材・装飾等は同年代に建造された一般的なホテルと同様で、後述する異常性以外に特筆することはありません。

SCP-3651-JPの異常性は対象が客室で入眠することで発生します1。睡眠中に対象は自身が過去に抱いた将来の夢2に関する夢を経験します。時間の経過とともに夢に対する対象の感情・意識は変化します。異常性は全部で6ステージで構成されます。
ステージ 日数 夢の内容 それに対する感想
ステージ1 1日~2日目 幼少期の思い出 「懐かしい」(肯定)
ステージ2 3~4日 幼少期になりたかった将来の夢 憧れるようになったきっかけを思い出す(肯定)
ステージ3 5~7日 将来の夢を叶えるためにした事 その行為・経験に対して「楽しかった」「充実していた」(肯定)
ステージ4 8日~10日目 将来の夢をかなえるためにした事 その行為・経験の中で失敗した事象を強く思い出す
ステージ5 11日~12日目 幼少期になりたかった将来の夢 夢の内容に対する否定的な言動
ステージ6 13日~14日目 現在の自分の置かれた状況 現在の自分の職業に対する肯定的な言動

補遺01: SCP-3651-JPは1988年に株式会社黒沢によって建設されホテルとして使用されていましたが、バブル崩壊の影響で経営が停止し放置状態にありました。2016年のリフォーム後2019年3まで株式会社黒沢社内の新入社員研修に使用されていました。

実験記録XXX-JP-07

対象: D-2048

インタビュアー: 米山博士

付記: 事前アンケートで幼少期の将来の志望していた職業は「アイドル」と回答。D-2048は実験開始から6日目、ステージ3にある。

<録音開始, 2021/6/7>

米山博士: では昨日見た夢について説明してください。

D-2048: 昨日と同じく、子どもの頃の夢の夢でした。あの頃色々頑張った事のふりかえりってかんじです。ライブのDVDをレンタルショップで買いまくってたのとか。

米山博士: アイドルのDVDを?。

D-2048: ええそうです。かたっぱしから見てたけど、一番は██4ですかね。10枚くらい買ったかな。ダンスのあたり何度も繰り返してマネしてました。あと、歌はもちろんウォークマンに入れてずっと流して聞いてました。

米山博士: なるほど。アイドルになるためにそのようなことをしたのですね。

D-2048: そうです。ライブも行きたくて、でも地方には来ないから東京行くしかなくて……バイト禁止の学校だったからこれもまた小遣いためてました。まあ結局解散に間に合わなくていけなかったんだけど、でも楽しかった。うまく行かなかったけど私の青春ってやつだったんじゃないかと。そう思いますよ。

米山博士: インタビューを終わります。今日も指定した部屋で就寝してください。

<録音終了, 2021/6/7>

終了報告書: 他の被験者と同じく将来の夢をかなえるための行為の夢を経験し、それに対して肯定的な感想を述べていた。-米山博士-

実験記録XXX-JP-12

対象: D-2048

インタビュアー: 米山博士

付記: D-2048は実験開始から11日目、ステージ5にある。

<録音開始, 2021/7/6>

米山博士: あまり顔色がよくありませんね。眠れなかったのですか?

D-2048: いいえ、睡眠自体はぐっすりでしたね。一昨日も昨日もです。部屋の枕はふかふかで気持ちよかったですし。横になって5分ぐらいで眠れてたんですよね。だけどでも目覚めたのが3時で、それから一睡もできなくて、今なんとなく頭クラクラするような……。

米山博士: そうですか。横になってのインタビューでも構いませんよ。しかし3時に目が覚めるのは、何か特別な事があったのでしょうか。

D-2048: たしか夢の夢の事調べる実験なんでしたよね。前回までみたいな楽しい夢じゃなくて、それで起きてしまった、みたいな感じです。

米山博士: その夢について説明してください。

D-2048: 私の子どもの時の夢の夢です。それだけずっと変わりませんでしたね。でも今までと違う感じがしたんです。嫌な、見続けるのが辛いように感じました。

米山博士: それは内容が不快なものに変化したということでしょうか。

D-2048: なんていうんでしたっけ……夢の中で夢見てるのが分かる、的なの。

米山博士: 明晰夢でしょうか。

D-2048: ああ、それですそれ。私には夢を見ているという意識があって、その場に今の私がいるという自覚があったんです。昔の私を今の私が見ていて、それがいっそ気持ち悪くて、それで夢から覚めるように強く祈ってたんですよ。叫んだような何十回も唱えたような、一生懸命目が覚めるように。だからほんとうに目が覚めた時は安心しました。

米山博士: 内容はどうでしたか?

D-2048: あ、それも言わなきゃです?あ、ダメですか。内容というか、夢の中の私がしてることは変わんないんですけど、なんかこっちの私が違うっていうか。なんて言ったら分かるか分かりませんけど。

米山博士: 夢の内容ではなく、夢を見ている人間側に変化があったということですね。では、今貴女がかつての将来の夢に対して感じることを説明してはくれませんか?

D-2048: その、なんだろう。私めちゃくちゃバカだったなってのが一番の感想ですね。あーほんとバカらしいことしてたな。アンケートにも書いた通り、歌ったり踊ったりというのに憧れてたんですね。。子どもだから幼稚な夢を見てて、時間を無駄にして練習なんかしてたんです。

米山博士: 幼稚、ですか。まだ人生経験のない子ども時代であれば、アイドルに憧れるのはさほどおかしい事ではないようにも感じますが。2日目にそう言っていましたよね。

D-2048: けど程度があるっていうか、いくらガキでもバカすぎるってもんですよ。歌と踊りが好きだって言ったって、とアイドルとしてやっていけるのは違うじゃないですか。私はこの顔ですし、彼氏なんていたことないレベルだし。小学校の男子から馬女って言われてたような奴が、かわいいフリフリのワンピ着て踊ったりしても、ウヘエって感じになるでしょ。滑稽ってやつです。

米山博士: そこまで卑下することはないのでは……まあ、SCP-3651-JPの精神影響でマイナス思考になっているのでしょう。暗い感情が続くようであればカウンセリングなども検討します。今は実験が終われば消えるものだと考えてください。

D-2048: でも、でも私はそんな気がしないんです。一時的なものじゃあなくって、この実験で私は本当に大人になったんじゃないかって。中学に上がったあたりでこんな夢は忘れるようになったんですけれども、完全に捨てたわけじゃなかったんじゃないか、って。あの頃はバカで若かったよなーと思うような物でした。昨日まではなんだかんだでそれが悪いものじゃないと思えていたんです。

米山博士: 今は悪いものじゃない、わけではないと感じるのですか。

D-2048: そうです。いくら小学生だっていっても、全部無駄な事ばかりしてたなあ。気が付かないまま20年くらい過ごしていました。なんで私気が付かなかったんだろう。自分のことだけどすっごい悔しくて。

米山博士: そうですか。情報を増やしておきたいのでさらに続けてもらえますか?

D-2048: 先生は好きなアイドルっていますか?

米山博士: えーと、いえ。芸能関係には興味がなくて、有名事務所の昔からいるグループの名前をかろうじて覚えているくらいです。

D-2048: そうですか。私は今アイドルってくっそつまらない職業だって思うんで。先生はどうかなって思って。推しをディスるのは悪いですし。

米山博士: そうでしたか。いいですが、これはあくまで貴女に課せられた仕事ですからね。あまり関係ない話はやめてもらいたいのですが。

D-2048: じゃあ気を付けます。アイドルがバカらしいというのは、歌や踊りを頑張っても実らないと思い知ったからです。芸能人は外見が大事じゃないですか。女芸能人って美人の女優かモデル、じゃなけりゃ女芸人ってイメージなんですよ。女芸人って男芸人より外見ネタにする人多くないですか?

米山博士: いえ、それはともかくお笑い芸人になりたかったわけじゃないでしょう。

D-2048: えーまあそうですけど。お笑い芸人がそんなかんじで、その逆がアイドルってわけです。めっちゃ悲惨です。外見悪いのを売りにするのと、良いのを売りにするのは、同じなようなもんだけど、良いのを売りにする方が悲惨じゃないかって思うんですよ。整形してもすぐにバレて炎上して笑われる。同性はひがむし男は勝手にやらしい眼で見て……ストーカー事件しょっちゅう起きてますよね。まあ最近みてないんだけども。で、中の上どまりのお顔じゃ評価してもらうためにはチャンスが必要なんですよ。バラエティとかドラマとか出て格をあげる事が。でもそういうのってお偉方がポイっとみそめてくれる事なんかないってもんですよ。いわゆる枕ですよ枕。その機会だってそれなりにかわいくないとないけど、脂ぎったオッサン方に評価されてんのは体の方でしょ。どっちにしろ内面なんてうすっぺらな紙以下の扱いされる業界です。

米山博士: それはかなり限られたケースではないかと思いますが。

D-2048: バレないだけです。自分たちの上司のそういうの取り上げたらクビにされるから、知ってても見ないふりですよ。で、そんな世界ってくだらないじゃないですか。生まれつきの才能が必要はスポーツ選手も同じですけど、努力とつりあうものではないです。しかも若いうち、クリスマスケーキ以下の頃だけ。

米山博士: [書類の束ねられたファイルを持ち、録音機械のボタンに指をかける。]

D-2048: あ、長々おしゃべりしてすみませんでした。でも気づけて良かったなー。私はあっちの世界に向いていなくて、チャンスに恵まれなくて……。なんかスッキリしました。ありがとう先生。

<録音終了, 2021/7/6>

終了報告書: 普段報告されているのD-2048の様子からは想像できないレベルの自虐的な態度と発言が目立った。カウンセリングの実施を検討する。-米山博士-

実験記録XXX-JP-28

対象: D-2360

インタビュアー: 米山博士

付記: 同僚のDクラス職員に対し事前に行った聞き取り調査から、かつてデザイン業界への就職を希望していた。D-2360の普段の態度からインタビュアーとは別室でインタビューを実行。

<録音開始, 2021/9/10>

米山博士: 今朝はずいぶん楽しそうな様子ですが、何かいいことがあったのでしょうか?

D-2360: はい。あのベッドのおかげだと思いますです。ありがとうございます、マム。

米山博士: え、ああ、いえ。そうなのでしたら有意義な実験でした。詳しいことを聞かせてください。

D-2360: 最初に謝罪をさせてくださいませ。昨日は申し訳ありませんでした。あんなに取り乱して、みっともない姿を晒して、ご迷惑おかけいたしました。ですが今はとても気持ちがよいのです。わたくしめが推察するに、夢見がよかったからでしょう、今はとても幸福を感じております。

米山博士: では、子どもの頃の夢について話してもらえますか?

D-2360: 僭越ながら。実験のはじめのころ申したとおり、中学時代わたくしはデザイナーになりたいなどと思っておりました。今思えば唾棄すべき餓鬼の戯れでしたが、愚かにもわたくしは熱心に学んでおりました。しかし所詮は何も知らない子どもの思考でございます。義務教育最中の何も知らぬ一介の子どもであり、幸福にも才能もなく、何も役に立たないような本を読んでの独学は実を結ぶことはありませんでした。

米山博士: 貴方はデザイナーの職歴がありませんでしたね。

D-2360: その通りでございます。無駄な本を読んでばかりでパソコンで遊んで真似事をして、学業を疎かにしておりました。高校受験は滑り止めの私立の高校にかろうじて入学できました。しかし学友と呼べるような存在とは出会えず、つまらぬ高校生活を送ることになったのです。報いと言えることでしょう。

米山博士: 高校で、デザイナーへの夢はあきらめたのですか?

D-2360: いいえ、わたくしは愚かでした。デザインを学べる学校への進学を志望したのです。高校で学習する科目にデザインに関するものはなく、さらに求めるならば進学をしなくてはなりませんでした。ちょうど、近隣の市にデザイン専門学校がありましたので、そこを受験いたしました。幸いにも……今となっては不幸の始まりといえましょうが……、これまた入試は簡易的なものでした。面接しかなく、そこでわたくしは面接官に語りました。滑稽な様子だったでしょう。未熟な落伍者がデザイナーの職について長々と語る様子は。それだけでなく、わたくしは本当に情けないほど無知だったのです。受験は失敗しました。

米山博士: その後印刷所に就職していますね。

D-2360: あれがわたくしの運命の分かれ道だったと言えましょう。地方の小さい印刷所で、パソコンを使って印刷物の文字入れなどの業務をいたしておりました。デザイナーのはしくれと言えなくもないですね。

米山博士: しかし、その印刷所で……。

D-2360: そう。博士殿もご存じでしょう。わたくしはそこで社長を殺めました。無計画なもので、すぐに他の社員が通報し、それも殺害し、最終的には全員を手にかけました。その後は言うまでもありません。

米山博士: はい、死刑の判決となり財団に雇用され、2年間Dクラス職員として過ごしてきたんですよね。

D-2360: 始めは……本当に申し訳ない、大変ご迷惑をおかけしました。職員の方々、同僚、加えて……エスシーピー?の方々にも、失礼な事ばかりしてしまい……、反省しておりますがそれだけでは足りないことでしょう。生涯かけてお詫びできるように懸命に働かせていただきます。

米山博士: 私は……正直、貴方の一晩での変化に驚いています。昨日までとの心境の違いなど説明できますか?

D-2360: はい!汚れがすべて綺麗になったかのような心持ちです。馬鹿だった自分が消えていったという感じでしょうか。過去の自分をやっと俯瞰で見つめることができました。できるようになったといった方が正しいのですが。昔のわたくしがどれだけ阿呆だったのか分かり、今までの心の汚れが洗浄されたのだと思います。

米山博士: 阿呆、ですか。

D-2360: 青春を無駄にしてまで選び取る職業でしょうか。デザイナーとは。写真を入れたり文字の色を変えたり、本当に世界に必要とされる職業とは言えないのではないでしょうか。人類がすべきはもっと人の生活や人生に関わる職ではないでしょうか。

米山博士: それは……なんとも言い難いですが。

D-2360: それに比べて、今のわたくしの職業生活はどうでしょう。人類のための礎、まことに素晴らしい物と言えるでしょう。薬品の治験のアルバイトがありますが、それよりもさらに人類に貢献しているのです。影ながら人類を守る、わたくしが真に勤めるべきはこういうものであるべきでした。愚かにもこの歳になるまで気が付けませんでしたが、この場所に置かれているからこそ自覚が芽生えたとも言えましょうか。とにかくわたくしは皆さまのお陰でこうして幸せを知ることができたのです。大変感謝しております。これからもわたくしはこの職を全うすべく全身全霊で……。

米山博士: そうですか。ではインタビューを終えましょうか。

D-2360: ぜひ次回の実験でもわたくしをお使いくださいませ。職員の皆さまにもお声かけしていただけたら……いいえこれは出過ぎた真似でございますね。しかしわたくしは……。

<録音終了, 2021/9/10>

終了報告書: やはり最終ステージを迎えた対象の人格の変わりようは通常のものではない。Dクラスの変化は毎回目立ったが、今回はまるで別人になったと言っていい。とはいえ忠実なDクラスを生産できる代物ではなさそうだ。 -米山博士-

補遺02: 以下は株式会社黒沢の代表取締役・黒沢 誠司が2016年に受けたインタビューの抜粋です。SCP-3651-JPに関連すると思われるため、報告書に記録が残されます。

アレで目が覚めましたよ。本当にひどかったです、バブル崩壊ってやつは。

今まで内装とか接客をこだわってやっていったってのにさあ。お客はそういうのどうでもよかったんですよ。

従業員だって、業務内容とかのやりがいなんかより会社のブランドしか求めていなかったですしねえ。

それから20年ですね。そういうの求めなくなったのは。

今はずいぶんラクになった気がします。ひとつひとつ諦めていったらね。

まあそれでウチは成功してるんで、これでよかったですよ

お客が増えたのはもちろん、離職率だってかなり減ったんですよ。

嬉しいなあ、沢山の人が喜んでくれるのはこんなに幸せなんですねえ。

これこそが昔私が夢見た会社ですよ。

補遺03: SCP-3651-JPの影響を受けていた人物の調査が行われています。株式会社黒沢に所属していた関係者を追跡していますが、8割がストレスを原因とする精神疾患・障害の発症及び既に死亡していた為難航しています。現在"プロトコル・ルックバック"は倫理委員会による許可を得られていません。

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