クレジット
タイトル: SCP-3875-JP - 届けなかった一つの言葉
著者: teruteru_5
作成年: 2023
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SCP-3875-JP(映像記録 3分17秒時点より引用)
アイテム番号: SCP-3875-JP
オブジェクトクラス: Pending
特別収容プロトコル: SCP-3875-JPの収容はその性質上困難であるとされています。SCP-3875-JPの出現が確認された場合、目撃者に対する記憶処理と出現地点付近の監視カメラ映像の改竄が行われます。
説明: SCP-3875-JPはソコル-KV2と推測される宇宙服を着用した人型実体です。
SCP-3875-JPの正体は不明ですが、過去の出現記録より"アメリカ英語を使用する成人男性"であることが明らかとなっています。これ以外にも左利きであることなどの複数の特徴が解明されています。現在、財団内部ではSCP-3875-JPの正体を特定することを目的とした調査が進行しています。
SCP-3875-JPの異常性は未確定です。監視カメラ映像などの情報を参考にした考察の結果、クラスⅢ相当の空間転移能力をはじめとした複数の異常能力を保有しているものと推測されています。現在、SCP-3875-JPの異常性の解明調査が進行中です。解明調査が完了するまでの間、SCP-3875-JPのオブジェクトクラスはPendingに指定されます。
現在までに確認されているSCP-3875-JPの出現記録は、2037/11/27にアメリカのケネディ宇宙センターにて出現した際の一件のみとされています。この時、ケネディ宇宙センターでは有人宇宙船の打ち上げ実験が行われていたことが判明しています。出現時、SCP-3875-JPは周囲を見渡すなどの行動を取っていました。その5分後、ケネディ宇宙センターの勤務スタッフであるイヴリン・ホワイト氏(41歳女性)がSCP-3875-JPに対する接触を試みました。結果としてこの試みは成功し、イヴリン氏はSCP-3875-JPと抱擁するに至りました。
その後、SCP-3875-JPはアメリカ英語を用いて"それじゃあ行ってくる"という旨の発言をした後に消失しました。消失後のSCP-3875-JPの動向は不明です。財団はこの出現記録を受け、イヴリン氏に対するインタビューを実施しました。以下の記録はイヴリン氏に対するインタビュー記録の一部抜粋です。記録の全容については"付属資料-3875-JP.Σ"を参照してください。
インタビュー記録 3875-JP
対象: イヴリン・ホワイト氏(記録中は"イヴリン"と記載)
インタビュアー: ポーシャ研究員(記録中は"ポーシャ"と記載)
[記録開始]
ポーシャ: では何故、貴女はSCP-3875-JP……宇宙服の男に接触したのですか?
イヴリン: 接触だなんて人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。わたしはただ、彼にハグしただけですよ。
ポーシャ: 彼、とは?
イヴリン: ダニエルですよ。貴女達だって知っているでしょう?
ポーシャ: ダニエル・ブラウンさんのことですね。ですが、彼は2025年に膵臓癌によって亡くなっているはずではないのですか?
イヴリン: 確かに彼は死んでいます。葬式にだって行きましたから。……だけど、それでも。彼はわたしの前に現れたんです。たとえ宇宙服に身を包んでいたって、仕草で分かりますから。あれは間違いなく彼でした。
ポーシャ: ……なるほど。何故現れたのかは分かりますか?
イヴリン: 分からないですよ。……でも、多分未練が残っていたんだと思います。
ポーシャ: 未練、ですか。
イヴリン: ええ。彼が宇宙船乗組員の候補生だったのはご存知ですよね。
ポーシャ: はい。2001年度訓練生でしたよね。
イヴリン: そうですね。彼は有人ロケットの乗組員に選ばれるために、毎日必死に訓練に励んでいたんです。……結局、選ばれることは無いまま死んでしまいましたが。
ポーシャ: それは……。
イヴリン: まあ、仕方の無いことだとは思いますよ。人数制限だってありますし、何より寿命に逆らうことなんか出来ませんからね。結局のところ、わたしに出来ることは彼が出した結果を受け入れることだけなんです。
ポーシャ: ……そうですね。
イヴリン: そうして彼が死んでから、わたしは今の職に就いたんです。こうでもしないと、いつかの未来に彼のことを忘れてしまう気がしてならなかったんです。大切な思い出と言ったって、ずっと思い出さないでいると忘れてしまいますからね。職に就くのは大変でしたけど、彼を忘れたくはないので。
ポーシャ: 彼を覚えているために今の仕事をしているわけですね。
イヴリン: はい。彼が死んでから今に至るまで、わたしは彼を忘れたことはありませんでした。それは、あの日……彼が不意に目の前に現れた時も変わっていませんでした。
ポーシャ: なるほど。そうして彼と再会出来た嬉しさから、彼と抱擁したと。
イヴリン: 多分、そうですね。
ポーシャ: ……多分?
イヴリン: はい。根本的には嬉しさがあったんだと思います。なんてったって、12年ぶりの再会ですから。それは嬉しいに決まってますよ。
ポーシャ: では、何故"多分"と?
イヴリン: 当時の気持ちがぐちゃぐちゃになっていたからです。嬉しさとも困惑とも怒りともつかないような、そんな感情が胸の中で渦巻いていたからです。……そして気が付いた頃には、彼に近づいていました。
ポーシャ: なるほど、衝動的なものだったのですね。
イヴリン: まあ……そうですね。
ポーシャ: それで、貴女は宇宙服の男と抱擁したと。
イヴリン: ええ。彼に会えて嬉しくて……気が付いたらつい。すぐに離れたけれども、本当はもっと抱き合っていたかったなって。
ポーシャ: 久しぶりの再会ですからね。……そうして抱き合った後に、彼は宇宙船に乗り込む形で消失したと。
イヴリン: ええ。彼は部屋を出て、ロケットに乗って、空に登って……それで消えてしまったの。
ポーシャ: なるほど。彼は何か言っていましたか?
イヴリン: それは覚えていないですね。でも、一つだけ。覚えていることがあるんです。
ポーシャ: それは、一体?
イヴリン: ……彼が、別れの言葉も聞かずに消えてしまったことです。最後に"さよなら"の一言も言わせずに消えてしまったんです。
ポーシャ: ……それはつらかったですね。
イヴリン: いや……別にそんなことはないですよ。
ポーシャ: 本当ですか?
イヴリン: 本当ですよ。だって、彼の夢が叶ったんですから。わたしのエゴで彼を縛ることなんて、とてもじゃないけど出来ないです。
ポーシャ: ……なるほど。
イヴリン: それに、"さよなら"を言わない限りは本当の別れにはなりませんから。また、いつか。彼は戻ってきてくれるのでしょう。
ポーシャ: そうですね。……きっと、そうですよ。
[記録終了]
終了報告書: イヴリン氏は記憶処理を施したうえで解放された。現在、SCP-3875-JPの正体の特定及びダニエル・ブラウン氏との関連性の調査が急がれている。