アイテム番号: SCP-3877-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: 日本支部においてSCP-3877-JPはサイト-8107の常緑植物栽培室で栽培します。有効個体数に余剰が発生した場合は、規定数を超過する分の個体を焼却処分してください。サイト単独で回復不能な有効個体数の減少が発生した場合は、別サイトに対して個体の譲渡要求を行ってください。SCP-3877-JP-Bの摂食実験は禁止されています。
過去に発生したインシデントは2018年6月24日に処理が完了しました。
国外の各収容担当サイトの同オブジェクト情報は、恒常権限を保持する職員および一時権限を配布されている職員のみ閲覧可能です。
説明: SCP-3877-JPは異常性を保持したバナナ(Musasp.)の草本および、これと同一の異常性を保持した別株の総称です。現在確認されている天然のSCP-3877-JPは一本のみであり、これ以外の別株は全て株分けで確保したもの、およびその子孫にあたるものです。
SCP-3877-JPは現在確認されているどのバナナの品種とも一致しませんが、遺伝子情報の分析の結果、バナナの原種とされているマレーヤマバショウ(Musa acuminata)の先祖に相当する種である可能性が提唱されています。
SCP-3877-JPの異常性は、その異常性を認知している生命体が果実部分(以下、SCP-3877-JP-B1と表記)を手に保持して任意の物体を"連想"することで発現します。SCP-3877-JP-Bはその生命体の"連想"に追従して、その物質的性質を変化させます。
この"連想"とは、共通点を一つ以上持つイメージへと移ることを意味します。例として、バナナと「黄色」を共通点に持つ「レモン」を連想すると、SCP-3877-JP-Bはレモンへと変化します。さらに、レモンと「酸味」を共通点に持つ「梅干し」を連想すると、SCP-3877-JP-Bは梅干しへと変化します。「黄色」や「酸味」のように形状を持たない"連想"では変化せずに、次に形状を持つイメージを"連想"した時点でそのイメージに変化します。2
SCP-3877-JP-Bは保持者の認識に依存したその物体の体積・質量・性質等に逐一変化し、この際に古典物理学に属する質量保存の法則等の物理的制約を受けることはありません。変化した物体は保持者以外の観測者にも同様の形で観測されます。
以下はSCP-3877-JP-Bの異常性を定義するために行われた5件の実験記録です。なお、全ての実験は、事前に策定された連想ルートを実験実行者に提示した状態で行われました。
実験1 状態変化の可否の検証
概要: 閉鎖的実験環境を用いて、液体ならびに気体状態の水への変化を試みる。
結果: いずれの状態の水も生成された。特筆すべき点として、周囲の気圧・温度の変化にかかわらず、SCP-3877-JP-B由来の水は状態変化を起こさなかった。同態の通常の水を加えた際は見かけ上は混合したものの、水の融点・沸点に達した時点で通常の水のみが状態変化を起こし、SCP-3877-JP-Bと分離した。
追記: 実験環境であればともかく、通常の環境ではこうした回収不能となるリスクを故意に取る必要性はない。
実験2 取りうる上下限値の確認
概要: SCP-3877-JP-Bの変化先に、体積・質量の制限が存在するかを測定する。
結果: 重量40tを超過する重機と、質量0.002gの鉄球(直径0.8mm)への変化が確認された。
追記: 実験実行者が大規模生成物に接触して死傷する危険性と、微細な物体に変化させた際の紛失リスクを加味して当実験は終了した。事実上、体積・質量に制限はないものと結論付けられている。重大インシデントを防止するため、極端な大きさの物体を連想する行為の禁止、ならびに信頼性の低さから以降の実験においてもDクラス職員を実験に起用しないことが決定された。
また、今実験で生成された重機は外見・内部構造の両面で実際の重機の構造から大きく乖離していた。これは、生成される物体が実験実行者の知識に依存しているためだと考えられる。
実験3 破壊耐性の確認
概要: SCP-3877-JP-Bが破壊可能であるか、ならびに破壊によって異常性の喪失が伴うかを確認する。
結果: いかなる物体に変化した場合であっても、観測者が"破壊された"と認識すると同時にSCP-3877-JP-Bは潰れたバナナへと変化し、異常性を喪失した。
追記: 物体自体が異常性を持つことから、この結果は予想の範疇を超えなかった。有事の際には破壊を手段に含めることとする。
実験4 個数対応への適否
概要: SCP-3877-Bが独立した複数個の物体に変化可能か、ならびに独立した各物体が異常性を共有しうるかを検証する。
結果: 一例として、平均直径15.6mmの鉄球7個への変化が確認された。これをさらに変化させる際は、7個全てを同時に保持する必要があった。また、破壊を試みた際には6個目を破壊した時点までは全ての鉄球が鉄の性質を維持し、7個目を破壊すると同時に分断された状態のバナナに変化して異常性を喪失した。
追記: 当実験の反復により事実上、変化可能な個数に制限はないと見られた。個数と生成物の質には負の相関が見られたものの、実験実行者のさらなる反復行為によって改善の傾向が見られたため、実験2の重機の事例と同様に正確なイメージの定着度合いが関わるものと結論付けられた。
実験5 異常性の持続性の確認
概要: 二名の実験担当者"A"と"B"を用意し、双方にSCP-3877-JP-Bを1個のテニスボールに変化させる。Aには定期的な反復処理を行って当実験の記憶を保持させ続け、SCP-3877-JP-Bが変化から長時間経過することによって何らかの作用を発生させうるかを検証する。Bにはただちに記憶処理を行い、これに伴ってSCP-3877-JP-Bの変化が解除されるかを検証する。
結果: Aが変化させたSCP-3877-JP-Bは、現時点までテニスボールの状態を維持し続けており特筆する点は見られない。Bが変化させたSCP-3877-JP-Bは記憶処理の終了と同時にバナナの形状に戻った。
追記: 変化させた本人の記憶の有無が必要最低条件であることが判明した。
発見経緯: SCP-3877-JPはインドネシアのカリマンタン島で発生したインシデントの調査の結果、その存在が確認されました。以下はインドネシア支部の主導で行われた、SCP-3877-JP-A3へのインタビュー記録です。
インタビュー記録 3877-JP
2018/06/28
インタビュアー: ヒダヤット博士
対象: SCP-3877-JP-A
[記録開始]
ヒダヤット博士: それでは、これよりインタビューを開始します。
SCP-3877-JP-A: よろしく。まずは何から話そうか。
ヒダヤット博士: では最初に、自身についての説明から行っていただけますか。
SCP-3877-JP-A: 私は見ての通り、オランウータン。今世紀で500歳になる。だが、その出生や遺伝情報自体は他のオランウータンと何ら変わりはない。唯一の違いは、この知恵の樹の実を先代から分け与えられたことだけだ。
[SCP-3877-JP-Aは側に自生しているバナナの草本(現: 天然のSCP-3877-JP)を指す。]
ヒダヤット博士: そのバナナの樹、もとい実には摂食者の知性を上昇させ、長寿を与える効果があるということですか?
SCP-3877-JP-A: 間違っているわけではないが、正しくもない。ただ食べた、それだけで全てを知る長老になれるだけの力は独りよがりで意味がないからだ。石ころをそのまま持つよりも、削った石器のほうが使いやすいと信じて実際に試してみる。その石器は、棒きれと組み合わせたほうが持ちやすくなると信じて実際に試してみる。知識は実際に使って「次へと繋いでいく」ことでこそ使い手の"シンカ"を発揮してきたのだから。だが、それは原初に限った話。私含めそれ以降が代々してきたことは、ただこの樹と次の代のために在ろうとする程度だよ。
ヒダヤット博士: 我々におけるリンゴ、アダムとイヴの神話に相当するものが、あなたたちの種にとってはそのバナナの樹ということでしょうか。
SCP-3877-JP-A: フーム。いや、きちんと伝えよう。君の宗教観は、人類の起源は進化論によらず、さらにアダムとイヴが食べた知恵の実はリンゴだと主張するようだね。もしかすると君だけじゃなく、世界中の多くのホモ・サピエンスが科学の知識とは別にそう考えているのではないのかな。聖書に書いてあるから間違いないと信じて。だが、私から言わせてもらえば、原初のヒトが実際に食べたのはリンゴではなく確かにこのバナナだったのだよ。きっといくつかの文書にもバナナについて少しは書いてあるだろう、帰ったら調べてみるといい。とはいえ私も当時から生きているわけではないから、その根拠の多くは初代から続く言い伝えの信頼によって満たしているのだがね。
ヒダヤット博士: どこからが現実と陸続きの正史なのでしょう。
SCP-3877-JP-A: 今となっては正確なところはわからない。だとしても、この樹と私が今ここにあること、そして同じく恩恵を受けてきた私の先代たちが存在していた事実は揺るぎないものだ。もしかすると、古代のどこかの皇帝や詩人でも「バナナだと猿やら男性器を想像させるから、神話として格好がつかない」として置き換えるよう提案したのが支持され、それ以来リンゴが浸透していったのかもしれないな。ほら、ひとつここで想像してみようか。ゴシックな出で立ちの少女がリンゴではなく、バナナを口にしようとしているさまを。
ヒダヤット博士: 成程。しかし、ここまでの起源にまつわるエピソードは、あなた自身を由来とするフィクションの域を超えていないように感じられます。
SCP-3877-JP-A: [SCP-3877-JP-Aによる、人類の進化・人類史の起源に関連する複数の語り。現在の一般社会においては収容対象となる、財団の管理下にある情報との深い一致・財団内部においてもなお未知である内容が含まれている。]4
ヒダヤット博士: それらの内容を外部に流出させたことは。
SCP-3877-JP-A: 自分の立場は理解している。それに私は子供の頃から人間があまり好きではなく、極力関わりたくないのだ。特にいつの時代にも居るだろう、私利私欲のために世界を支配しようとする連中はな。先日、いよいよ私の代でも先代の言いつけどおりこの実を譲ってみたが、すぐにああいうことをしたもんだ。過ちに自ら気づき、間違いを認めて正しい意志を示せば許されただろうに。まあ、最後に今代の平民にとっての教訓になれただけ良かっただろうよ。
ヒダヤット博士: それでは、私に先ほど伝聞したのは。
SCP-3877-JP-A: 君の場合は、この前の奴のように話していて信じられるし、背景があるようだから伝えたまでだよ。世界を守ることに専念しているようだし、その点ではただ在るだけの私よりもずっと優れているだろう。
[記録終了]
以下は当オブジェクト発見の発端となったインシデント情報の概要です。より詳細な情報は、インドネシア支部の同オブジェクト報告書を参照してください。
インシデント情報概要
2018/07/08 記
2018年6月14日午前10時、カリマンタン島の西カリマンタン州を主として、全島で同時多発的に高層ビルの消失が発生しました。これに伴い、同時刻にビル内部に存在していたマフィアグループ所属者らの高所からの転落・もしくは落下物の衝突による死亡が多数発生しました。なお、各建築物は他の建築物と距離が大きく離れていたこと、グループ外の人物による利用が行われていなかったことから、無関係の民間人への直接的な被害は発生しませんでした。グループの関係者は大多数が死亡し、生存していた残りのメンバーも逮捕に至ったことで組織は消滅に至りました。
財団は一般社会で先んじて自然発生した風評を起用し、後押しした形のカバーストーリー「同一ゼネコン企業による手抜き工事の結果」を記憶処理と併用して流布したことによって、混乱をまもなく収束させました。また、当インシデントと同時に発生した、島全域で生じた貨幣の大量消失による経済トラブルも記憶処理に加えて経済システムへの介入、各個人・団体への補填作業を行ったことにより現在は安定した経済状況に回復しています。
当時、インシデントの根本原因は現地を観測する既存のいかなるシステムでも判明せず、上記のカバーストーリーの設置・事後処理が終了した後の追加調査で初めて関連オブジェクトの存在が確認されました。
当インシデントの発生に先んじて、SCP-3877-JP-Aはグループへの干渉・リーダー格に対するSCP-3877-JP-Bの受け渡しを行っており、グループはこれを活動費のための大量の貨幣生成と、拠点となる高層ビル群生成に利用していました。なお、この際SCP-3877-JP-Aが直接グループに相対したのではなく、グループの所属者でもある仲介者を経由していたことがSCP-3877-JP-A及び仲介者本人の供述より明らかになっています。
また、インシデント発生日の同時刻にはSCP-3877-JP-Bの使用を一律担当していたリーダー格の人物が何者かに殺害される事件も発生していました。グループの急激な成長による警察組織からの強いマーク・利益や立場を求めたグループ内部での抗争・国外組織とのパワーバランスの崩れによる敵対の発生といった複数の要因が事件と関連していたと見られています。この殺害事件に伴う人物の記憶消失が全てのSCP-3877-JP-Bに断片化したバナナへの変化を起こし、インシデントの発生に繋がったと結論付けられました。