お話は続く
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Day 3

評議会は誤りを認め、世界最後の三日間に祈った。


Day 1

ヴィヴァルディは部屋の中で浅い眠りから目覚めた。目覚めた原因は外を流れているパイプの音が気になったからかもしれないし、そうでないかもしれなかった。ヴィヴァルディが気になるのはガラスの向こう側だった。ガラスは狭いチャンバー唯一の入り口である扉に備わっていた。ヴィヴァルディは外套に身を包んだ人間を汚れたガラスから見つめた。

管理者はいくつもの部屋が連なる廊下を歩いていた。管理者はこの百年あまりの出来事を逆再生するかのように思考した。覚え切れないほどの収容、数え切れない収容違反、いくつかのKクラスシナリオ、歴史に近い異常な物事の数々、その中からいくつかを抜き出し脳裏のに溢してみる。

モントーク処置、終了の試み、私自身が生きることのできた証拠。思いついたのはこれだけだった。

かつての十三人と自分はどのようなことを考えていただろうか?

一国を統治し、三十年の内に世界中の国家を覆い尽くしていた組織のことを夢想する。癌細胞のように広がった理念は正しかったのだろうか?

確保、収容、保護。

歩み続ける脚はエレベーターの前で止まる。

ここにこなければならなかった。全てが始まった場所を直視することを考え、汗が流れる。

深呼吸。

手を伸ばし、管理者は七階へのボタンを押した。


Day -358

砂漠で蒸気機関が汽笛を鳴らす。歯車とディーゼルから構成された"アッパーシティ"を機械太陽が照らしていた。この世界において太陽と月は2重の相互作用する大車輪であり、海と川は重油と軽油から成るエネルギー源であり、山と地は特殊合金や産業廃棄物の群だった。

教会の下でマシンが黄金時代を迎えていた。孤独に自己複製を繰り返すドローンと人のいない世界を放浪していたオートマトンのロマンスが機械文明のルネサンスを生むこととなるのは、かの聖人ブマロすら予期しないものだったかもしれない。

ロンドンには聖地巡礼のための信徒がカチカチ音を鳴らしながら集まり、南極のボイラーはエンジニアと共に観測を続ける。弱いAIがデリーで経済の欠片となり、カイロでは今日十一人のロケットが旅立った。

世界を規格化するのは絶え間ない生産活動だろうか?

聖人マクスウェルは頭の中でカーソルを動かし、ファイルを開く。

「書にはこう書かれています、"余波としての一過程は生産そのものの完成であり、天使はこのような考えについて-"」

まどろみ始めた集合意識#089は演算を停止した。集合意識#089はアーカイブ化された世界を知るため随分前にインストールされた存在だった。快適なハードディスクの中で集合意識#089は無限のデータを閲覧する趣味の時間を開始した。文字列、ピクセル画像。神聖都市アモニの移民がロンドンの地下から部屋を発見したはずだったことを集合意識#089は思い出した。集合意識#089は端島のコンクリートを調べるため再び演算を始めることにした。


Day -1952

世界が海に包まれて七百年が経過した。

リヴァイアサンとアナンタシェーシャ、文明がついに存在しなくなった今、荒れ狂う二柱が世界であった。現在のほとんどを、二柱は互いを憎悪し数少ない地上をも削り取りながら他の生命体の追随を許さない。

二柱を観測し、考えを巡らせることができる生命が生きているかは定かではない。しかし、それはリヴァイアサンにとってもアナンタシェーシャにとっても思考に値しない問題であったのかもしれない。重要なのは対面している神を殺すことであった。

数百年の代わり映えのしない盤上の中、プレイヤーは昨日と異なる一手を打つ。彼らを拘束する法は存在しない。ただ欲求と勘、興奮と理性で相手を死に追いやる。


Day -4073

ロケットはヒトデと踊る。

うろぷ、ろぬ

ロケットはヒトデの触手に溺れる。とうに地球から聞こえなくなった賛美者たちの声。孤独の穴をファイブは埋め、二匹の天使は星々の円で狂う。

しぇん、ろふ。

アルコーンは彼らを忌々しげに見つめ、ここを即座に立ち去ることにした。


Day -[OVER]

TGIフライデーズで働くのは楽じゃない。今日も仕込みが半分しか出来ていないのに、既にお二人様がたっぷり注文したあげくに飲み食いを始めている。

こんな退屈な宇宙で話なんかしたくなかった。もっと他に良いのがあったじゃん、S-705とかK-998とか……

ああいう派手な場所ばっか続くと疲れるでしょ。バーガー、もう一個食べないの?

取っといてんの! 勝手に食べないでよね。

食べないって。それでオーサカの新たな太陽の件なんだけど……

オーサカ? あの変てこなタイムラインのこと?

変てこ……かはともかく、かなり面白いことが起きてるんだとは思う。周囲の世界との共生的接続とも言える事象が発生してて、それには太陽神をある種の頂点とした……

二人の少女は机一杯のジャンクフードを頬張り、騒がしく話し続けた。口げんかをしながらも、互いに気が置ける。そんな関係に見えた。

ちょっ、まぶしっ!

悲鳴に驚き、テーブルを見ると光があった。

待って! バーガー盗らないでよ!

«混乱»

忙しい一日になりそうだった。

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