──某日のランチタイム、サイト-81UOの食堂にて──
漆戸: 墨谷副管理官、お疲れ様です。先程は霊子論の講義ありがとうございました。隣いいですか?
墨谷: ああ漆戸クンじゃないか。どうぞかけてくれ。ふむ、この広い食堂でわざわざ声をかけてきたということは、僕に何か聞きたいことでもあるのだろう?
漆戸: ええ、先程の講義で少し気になったことがあるんです。伺ってもよろしいですか?
墨谷: 大歓迎だよ。霊子論はこのサイトにとって要とも言える学問だからね。それを熱心に学ぶ者が増えるのは非常に喜ばしい。
漆戸: ありがとうございます。講義の中で、霊的実体は"ほとんど"人間と仰っていたのが気になったんです。"ほとんど"ということは人間以外の幽霊もいるんですか?
墨谷: あれ、漆戸クンはまだ会ったことはないんだ。いるよ。人間以外の幽霊。人間が最も霊的実体を生じやすいのは事実だけど、他の動物などもちゃんと幽霊として現れることがある。
漆戸: そうか。やっぱりいるんですね。
墨谷: そうだ、じゃあ漆戸クンこの写真見たことないだろ。サイト-81UOに出た猫の幽霊なんだけど。
漆戸: ……?合成じゃないんですかこれ?
墨谷: 本物だよ。ハルトマン1使わなくてもこの通りガッツリ見えるタイプだ。いやあこいつが出た時は大変だったよ。クラスC2だったからね。もうサイトがぶっ壊れると思ったさ。
漆戸: この大きさの幽霊に霊的実体に襲われたのに、よく無事でしたね。
墨谷: うん。修理に数ヶ月はかかったなぁ。前とデザインも変わっちゃったし。
漆戸: 結構壊れてるじゃないですか。いったいどうやったらこんな幽霊ができるんですか?
墨谷: うーむそれを説明するには霊子論を習い始めたキミにはちょっと長い説明になるが……漆戸クン、時間はあるかね?キミさえよければランチに舌鼓をうちながら追加講義をしてあげよう。
漆戸: よろしいんですか?それなら是非ともお願いします。
霊子論って?
墨谷: まず先程の講義、基本のおさらいと行こうか。漆戸クン、霊子と霊的実体の関係性について説明できるかな?
漆戸: はい。まず霊子、あるいは霊素という微粒子があります。霊素はいくつかの種類がありこれが集まることによってエクトプラズムと呼ばれる流体を作り上げます。エクトプラズムから成る、人間などの形をとったものが霊的実体になります。
墨谷: OK。霊的実体、いわゆる幽霊だな。これは分解すると小さな微粒子にまで分けられるというわけだ。ちなみに補足すると"霊子"と"霊素"は同じものを指すが、その種類に着目するときは"霊素"を使うことが多い。さてこの幽霊のもととなる霊子あるいは霊素、いったいどこに行ったら見つかるのか?答えてくれ。
漆戸: あらゆるところにあります。
墨谷: 上出来だ。濃度の差はあれ、霊子自体は我々が認知できないだけであらゆる場所に存在している。空気中にも生体中にもだ。そしてその霊子の濃度はMorrisモリス値と呼ぶ値で定められている。
漆戸: たしか単位はMrrモールでしたよね。
墨谷: その通り。Morris値の基準や測定についてはまた別に話そう。今は「Morris値が高い」ということは「霊子の濃度が高い」ことだというのは覚えておいてくれ。もっと簡単に言うなら「霊子がぎっしりつまっている」でもいい。
漆戸: わかりました。
墨谷: ちなみにMorris値が高い場所だと心霊現象といったものが起こりやすいんだ。さっき霊子を我々は認知できないと言ったが、霊感が強い人が心霊スポットや事故物件で「何か感じる」と言うことがあるだろう?あれはMorris値が高いことを感じ取っているのではないかという説もあるんだ。
漆戸: 霊子が多くある場所なら知覚出来る人もいるということですね。
墨谷: うむ。これまで謎に包まれてきた霊的な現象の数々。それに対し霊子という存在を導入することによって体系的に説明できるようにした学問が霊子論なんだ。
まとめ
- 霊子または霊素が集まってエクトプラズムになり、エクトプラズムが集まって霊的実体になる。
- 霊子の濃度はMorris値という値で定められる。
幽霊ってどうやってできるの?
墨谷: さて、先程霊的実体はエクトプラズムから構成されるという話があったな。では霊的実体とエクトプラズムの大きな塊はどこに差があるのか?
漆戸: えっ、その2つは違うんですか?
墨谷: ああ。ただエクトプラズムが集まっただけでは霊的実体にならない。それだったらそこらにある霊子があつまって謎の幽霊がわんさか発生することになるからな。
漆戸: うーん、幽霊には魂が入ってるから……とかですか?
墨谷: やるね、概ね正解だ。ただし魂というのは概念的。霊子論ではこの死後の魂が何なのかについても切り込んだんだ。まず、人が死ぬとおよそ「21 gのエクトプラズム」が放出される。
漆戸: あれ?エクトプラズムって重さがあるんですか?元になる霊子には無いと伺った気がしたんですが。
墨谷: 「21 gのエクトプラズム」という名称はたとえ話みたいなものさ。実際エクトプラズムには重さは無いが、人間が死ぬ際に体重が21 g減少したからこう呼ばれているんだ。そしてこの死者から生み出されたエクトプラズムが核となり、周囲に存在する霊子を引き寄せて出来上がるのが霊的実体。エクトプラズムだけ多くあっても何も生まれない。それが幽霊として振る舞うためには生前の記憶、身体、人格などといった情報が必要になってくるのさ。
漆戸:生前の情報……ですか。となると幽霊になる際には、人間の肉体からエクトプラズム体にデータの移行作業をする必要がある、というわけでしょうか。
墨谷: そういうことだね。それで先程言った人間が死ぬときに放出する「21 gのエクトプラズム」。この中にその生前の情報データが含まれているんだ。死者のエクトプラズム中に含まれている、霊素が作り上げる固有の立体構造がその情報を保持している。生者と幽霊を繋ぐ情報のリンク。これまで魂、ソウルなどと呼ばれていた概念は、この配列した霊子群なのだと霊子論は解明したんだ。
漆戸: おお……!
墨谷: この生前の情報を持った霊素配列を、DNAにおける「遺伝子」にちなんで、「遺留子」と呼ぶ。ここ重要だから覚えておくように。
まとめ
- 霊的実体は遺留子を核にしてエクトプラズムが集まることによって生成される。
- 遺留子はヒトが死ぬときに作られる霊素の配列であり、生前の情報が記録されている。
遺留子の崩壊
漆戸: ところで、人間が全て幽霊になるわけではないですよね?それだと地上が幽霊で溢れかえってしまいますから。
墨谷: いい着眼点だね。君の言う通り全ての人間から霊的実体が生まれるわけではない。死の際人間から放出される遺留子が霊的実体になるまではある程度時間がかかるんだ。勿論個体差などはあって、死んですぐ周囲の霊子を取り込んで霊的実体になるものもあれば、数十年たってようやく霊的実体にまで育つものもある。この遺留子から霊的実体になるまでの間にどこか別の遠い場所にいってしまうこともあれば、空気中に霊素が拡散して崩壊してしまうこともある。だから幽霊として現れるのはわずかなんだ。
漆戸: 遺留子って壊れやすいものなんですか?
墨谷: 壊れやすいものもある……が正確かな。十人十色という言葉は霊的実体や遺留子にも当てはまって、本当に千差万別ある。一般的な環境の平均的な遺留子であれば比較的安定しているが、その構造由来あるいは外的要因によって遺留子は崩壊し得る。崩壊した場合生前の情報が消えてしまうから、その人物の幽霊はもう出来なくなるんだ。遺伝子は転写されることで複製することができるが、遺留子はそれがなく霊素配列が崩れれば永遠に失われるてしまう。
漆戸: 外的要因というのは?
墨谷: 我々が有している対霊装備のようなものでも崩壊はするが、自然界においては霊子が少ない空間が崩壊要因として一番大きいかな。そこにあると遺留子を構成する霊子が空間に拡散してしまうんだ。逆に空間に霊子が多く満たされている状態では、周囲に広まらず崩壊しにくくなる。つまり幽霊が出来やすくなる訳だね。霊的実体に育つために必要な霊子も取り込みやすい。
漆戸: あっ、だからMorris値が高い場所では心霊現象が起きやすいんですか?
墨谷: ご明察。ただMorris値が低い場所でも霊的実体にまで育つ場合もある。幽霊が持つ遺留子に含まれる霊素が強い引力を持つものだったり、もしくは三次元構造が強固に組まれたりしているものだと崩壊しにくいんだ。仮説だが、未練がある人物の情報にそのような強い引力の霊素が含まれているんじゃないかと言われているよ。
漆戸: 未練の情報……そういえば情報ってどういう風に含まれてるんですか?そんな生前の心情で変わるものなんです?
墨谷: まだ具体的にどういう配列がどういう情報を持っているかまでは明らかとなっていないよ。けれど配列によって崩壊しやすさに差異があるのは恐らく間違いない。つまり失われやすい情報は確かにある。霊的実体について知性の有無で分類があることを学んだろ。あれは生前の記憶や人格と言った情報が遺留子から失われたことで起こっているわけで、分類できるほどありふれた現象というわけさ。
漆戸: うーん……なかなか想像しづらいですね……。
墨谷: じゃあ例を挙げよう。漆戸クン、日本の幽霊ってどういう姿をしているイメージだい?よくあるテンプレ的なやつだ。
漆戸: 日本の幽霊?えーと、頭に三角の布があって、白い着物を着てて……
墨谷: 後は?
漆戸: 他には……足が無いとか。
墨谷: それだ。日本の幽霊には足が無いものが多い。欧米のゴーストは別にそんなことないのにだ。これは日本人の遺留子の足の情報配列が崩壊しやすい傾向にあることが理由として考えられているんだ。足の情報が無ければ霊的実体は足を作ることができない。だから足のない幽霊の姿になるんだ。お分かりかな。
漆戸: ということは色々変な形の幽霊は遺留子が崩壊した結果産み出されるということですか。そうだ、ここに来た時に頭蓋骨だけで浮いている幽霊に会いましたが、あのクソドクロは色々崩壊した結果もう頭の情報しか残っていなかったというわけですね。
墨谷: その通り。さて、それでは本題に戻ろうか。件の巨大猫も遺留子の崩壊の結果産み出されたと考えられる。いままでは記憶とか部位が丸ごと失われていたけど、この猫の幽霊は大きさの情報を失われたんだ。
漆戸: 失ったというより増えた感じがしますけど。
墨谷: あくまで遺留子は霊的実体を作り上げる情報、設計図のようなものだ。遺留子の崩壊によって霊的実体から失われるものもあれば、増えるものもある。イメージとしては「この猫の体長は30 cmである」っていう情報から「c」が壊れて抜け落ちて、「この猫の体長は30 mである」という情報に変わってしまった感じかな。
漆戸: 30 mの猫を作れっていう設計図による指示が出されたから、いっぱいエクトプラズムを集めて巨大化したってわけですか。そんなことあるんですね。
墨谷: いやあこれはかなりのレアケースだね。さしもの僕も呆然としてしまって最初は突っ立って写真撮るしかできなかったよ。それがさっき見せた写真さ。
まとめ
- 遺留子の崩壊によって生前の情報が失われ、霊的実体に影響を与える。
- 遺留子の崩壊はその情報ごとに起きやすさが異なる。
閑話休題: 今まで見た変わった幽霊
漆戸: しかし遺留子の崩壊でそんなドデカ猫ちゃんができるなんて、結構幽霊の幅って広いんじゃないんですか?
墨谷: 確かに色々変な幽霊はこれまで見てきたよ。僕はもともとイタコの出だったから幼いころから結構霊的現象に関わってきたけど、財団に入って研究対象になってからは本当に色んな霊的実体を観測してきたねぇ。
漆戸: じゃあ墨谷さんが出会った一番変わった幽霊は何ですか?レアな幽霊と言いますか。
墨谷: うーんそうだねえ。先程のただの大きさではない巨大猫がどうしても印象的だけど、レアかあ……。ああそうだ。あれだ。
漆戸: お、どんなのですか?
墨谷: うん。ウォーターポンププライヤーの幽霊。
漆戸: ウォーターポンプ‥‥何です?
墨谷: ウォーターポンププライヤー。ちょっと待って。今ネットで画像調べてあげるから。見ればわかるよ。
墨谷: ‥‥これこれ。
漆戸: 正直なところ、見てもあんまピンと来ていません。
墨谷: 画像が良くないかな。僕が見たのは柄が青かったんだけど。
漆戸: いやそういうことではなく。なになに……これは配管を閉めるのに使う工具なんですね。
墨谷: そう。こいつが現れたのは、とある大雨の日だ。いきなり収容室に現れてさ。霊話コンバーター3を使って他の幽霊と話してたんだけど、僕の肩の横でカチカチ言うから何かと思って振り向いたらいたのよ。
漆戸: えっ肩の横でって浮いてたんですか。
墨谷: そりゃ幽霊だもん浮くさ。流石の僕も工具の幽霊は初めてだったからビビったよ。しかも話を聞こうにも泣いてるし。
漆戸: えっ喋るんですか。工具が。
墨谷: 凄いよね霊話コンバーター。でもなんで泣いているのか訳を聞いても「てやんでい馬鹿野郎めこん畜生」の一点張りさ。困ってしまったよ。
漆戸: 江戸っ子なんですねその工具。名前は英語なのに。
墨谷: それで一緒に話を聞いていた幽霊がもともと職人さんでね。道具の扱いには慣れてるって言うもんだから任してみたんだ。すると彼はウォーターポンププライヤーのジョイントをゆっくりと動かし始めた。カチャ、カチャと優しく。赤子を撫でるように。そしたら荒ぶっていたウォーターポンププライヤーは徐々に平静を取り戻してくれたんだ。天にも昇るほどの気持ち良さそうな金属音を出していたよ。
漆戸: どんな音ですかそれ。
墨谷: 録音しておけばASMRとして使えたかもしれないね。それで落ち着いたウォーターポンププライヤーは、近くの山で持ち主が大雨で土砂崩れにあったことを話してくれたんだ。その情報をもとに救難隊を派遣し無事に持ち主が救助されたんだ。持ち主の手には土砂で流されたときに折れたであろうウォーターポンププライヤーがあったそうだよ。
漆戸: それはいい話……でいいんですか?
墨谷: いい話だろう。人を暗闇の中から光の下へと暮らせるように助け出したんだ。
漆戸: いい話にしては道中のノイズが大きすぎるんですよね……。あれ、そもそも工具の幽霊って、えーと、工具も壊れるときに遺留子を吐き出すんですか?
墨谷: 無論そんなことはない。せっかくだ。もう少し追加講義に付き合ってもらおうかな。
プライマー配列と情報配列
墨谷: 遺留子が持つ霊素の配列は、プライマー配列と情報配列の2つの部位にわけることができる。情報配列はその名の通り生前の情報を有する配列で、遺留子それぞれによって全く異なってくる。一方プライマー配列は全ての遺留子が共通して持つ固有の配列で、それ自体が生前の情報を持っているわけではない。
漆戸: じゃあプライマー配列は「この霊子配列は遺留子だ」と宣言する情報を持っているようなものですか?
墨谷: なかなか理解が早いね。まさにその通りだ。このプライマー配列がなければ遺留子にはならないが、裏を返すと含まれていれば遺留子になるといっていい。
漆戸: なるほど。
墨谷: さて、人間が死ぬと生前の情報が含まれた遺留子を作り出す。このプロセスについてもう少し詳しく説明しよう。致命傷だか心臓が止まるだかして人は意識を失う。この意識レベルの低下が一定に達すると人体は周囲の霊素を取り込んでプライマー配列をまず作り出す。そこに体内にあった情報配列がくっついて遺留子が出来上がるというわけさ。
漆戸: 待ってください。情報配列はもともと体内にあるんですか?
墨谷: そうなのだよ。あらゆるものにはその情報配列となる霊素の並びが含まれているとされている。だけどそれ単体では特に何かになることはない。なぜなら──
漆戸: プライマー配列がなく遺留子にはならないから、ですね。
墨谷: その通り。ちなみに意識レベルが下がるとプライマー配列が作られるという仕組みを利用して、特殊な能力を持った人間が一時的に酸素を遮断して生きながらにプライマー配列を産出するといった例がいくつか確認されている。それが生き霊や幽体離脱といったものの正体なんだ。
まとめ
- 遺留子の配列はプライマー配列と情報配列の2つに分けられる。
- プライマー配列は遺留子全てに共通した配列で、人が死ぬときに生産される。
- 情報配列は各遺留子ごとに異なり、あらゆるものの中に存在している。
無機物の幽霊
墨谷: さてそれじゃあウォーターポンププライヤーの幽霊の話に戻ろうか。
漆戸: 先ほどの話ですとプライマー配列は人が死ぬときにできるんでしたよね?なら工具からはプライマー配列ができず幽霊なんてできないのでは。
墨谷: そう。だが実は非常にまれではあるのだが──プライマー配列が自然に発生することがある。
漆戸: え!?
墨谷: プライマー配列も突き詰めてしまえば霊素の並び方なのだから、たまたま集まった霊素が偶然プライマー配列と同じ並び方になることが有り得るんだ。これはプライマー配列が遺留子全体に比べて一部分の短い配列だから起こりうることだ。間違っても無から人型の霊的実体が生み出されることは、猿がタイプライターを叩き続けてシェイクスピアの作品を作りだすくらいあり得ない。
漆戸: (財団に入ってからは、あり得ないって言葉はあまり信用できなくなってきてるんですけどね……)
墨谷: こうして偶然発生したプライマー配列が、無機物の中にある情報配列とくっつくと、無機物の幽霊が出来上がるのだ。いわゆる付喪神と呼ばれてきた存在の正体はこれなんだよ。
漆戸: じゃあ例の工具も。
墨谷: そう。泣けることに付喪神化したウォーターポンププライヤーがご主人様のためにこのサイトまで助けを呼びに来てくれたというわけだ。
漆戸: 江戸訛りでですよね。……あれ?工具の外観の情報配列は工具から持ってこられることはわかるんですが、江戸訛りの情報はいったいどこから来たのですか?
墨谷: 生体内で作られるプライマーはその生体の情報配列だけで構成することが出来るが、偶発的に出来たプライマーはそうとは限らない。ある無機物の外観情報を取り込んだ後、近くにいた人間の性格なんかの情報を取り込むことがあるのさ。持ち主に似るって言ってもいいかもしれないね。
漆戸: なるほどそういうことですか。情報のツギハギみたいな霊的実体ができやすいんですね。
墨谷: 中には人間の記憶情報まで取り込んでしまった無機物の幽霊もいてね。これはなかなか悲惨だよ。本霊視点からは人間だったのに気づいたら物体に魂を閉じ込められた形になるのだから。本人は別にいるのだから元の体に戻すこともできない。結局消滅することになるんだがずっと救いが無い。
漆戸: それは……想像するだけでもかわいそうですね。
墨谷: やはり人格だけ取り込んで、独立した自我をもったウォーターポンププライヤーくらいが親しみやすいね。
漆戸: ウォーターポンププライヤー推しが強い。
まとめ
- プライマー配列は自然界で偶然発生することがある。
- 偶然発生したプライマー配列は周囲の情報配列とくっついて霊的実体を産み出すことがある。
終わりに
墨谷: とまあそういうわけで霊子論はあらゆる霊体の仕組みを解明してきたんだ。実に面白い学問だよ。
漆戸: 色々お話いただきありがとうございました。これまでわからないものであった幽霊が解き明かされていく感じがしました。
墨谷: それは良かった。今後も励んでくれ──
(突如ブザーが鳴り響く。墨谷副管理官は携帯端末を取り出して通話を始める)
墨谷: 僕だ。うん、うん。何?「俺はパセリだ」と呟きながらハルトマン霊体撮影機で自撮りを繰り返す暴走メカゴリラの幽霊が?わかった、今すぐ現場に直行する。
漆戸: なにやら大変なことが起こったみたいですね。そのメカゴリラの幽霊も霊子論で説明出来るんでしょうか。
墨谷: ああ、きっとできる。たとえもし今の理論ではできなくても、いつかは解明してみせるさ。このサイト-81UOでなら必ずや。──僕は現場に向かう。君も手伝ってくれ。
漆戸: はい!
──サイト-81UOの戦いはまだまだ続く──