文書 087-I: 探査 I
D-8432は43歳の白人男性で平均的な体格と容貌を有しており、精神面でも特に問題はありません。Dクラスへの指定措置はSCP-██の取り扱い不手際によるものです。D-8432は24時間分の電池残量がある75ワットの投光器を身に付けさせられ、ストリーム通信を行なう小型ビデオカメラ及び、管制室にいる██████博士との通信用のマイクヘッドホンが持たせられています。
D-8432はドアを通過し最初の踊り場に踏み出します。そのワット数にもかかわらず、投光器は階段をほんの9段分しか照らし出さず、次の踊り場は見えません。
D-8432: 目茶苦茶暗いな。
██████博士: 投光器はきちんと動作するか?
D-8432が投光器でドアの外にある大学構内の廊下を照らすと、光は非常に遠くまで届きます。
D-8432: ああ、ちゃんと使える。このずっと続いてる階段を一番下までは照らせないな。
██████博士: ありがとう。続行してくれ。
D-8432は次の踊り場までの13段を降りていきます。踊り場は半円型の形状をしており、床も壁も表面はコンクリート製と思われます。通常のコンクリート製の階段に見られるような埃や泥、摩耗を除いて、特にこれといって目立つものはありません。踊り場をぐるりと回り次の階段を降りようとした時、D-8432が立ち止まります。
██████博士: 何故立ち止まる?
D-8432: 聞こえるか?ガキが下の方に居るんだ。一人らしい。
この時、言及された子供の声についてはカメラにもマイクにも拾われていません。
██████博士: その声について説明して貰えるか?
D-8432: 若い声だ。女とも幼い男の子とも取れる。泣き咽びながら…[思案中]お願い[思案中]助けて[思案中]お願い[思案中]ああ、そう繰り返しながら泣いてるな。
██████博士: 現在地からそこまでの距離を見積もれるか?
D-8432: んー、分かんねえ、200メートルってとこか?
██████博士: 次の踊り場まで降りてくれ。
被験者は次の13段を降ります。彼が踊り場に達した時、マイクが説明のあった子供の泣き声を拾います。泣き咽び、嘆き、「お願い」「助けて」「降りて来て」という言葉を繰り返しています。D-8432の報告の通り、声の大きさからおよそ200メートル下方にいると見積もられます。
██████博士: 依然として泣き声は聞こえているか?
D-8432: ああ。
██████博士: こちらでもよく聞こえている。降り続けてくれ。声や周囲の環境について何らかの変化を知らせる場合は止まってくれ。
立ち止まるまで被験者は更に3階分の降下を続けました。
D-8432: 続けるのか?
██████博士: うむ。
D-8432は次に止まるまで17階分降り続けます(累計22階分)。周囲の環境に何ら変化は見られず、階段は常に次の踊り場まで13段のままです。
D-8432: ガキに近付いた様には思えねえな。
ステレオ音声の泣き声の音量は増大する事なく、依然として被験者の位置からおよそ200メートル下方のままである事を裏付けていました。
██████博士: 記録した。続行してくれ。
被験者は次に立ち止まるまで更に28階分の降下を続けます(累計50階分)。D-8432は地上から数えて51階目に立っています。最初の踊り場から200メートル下方まで来たと見積もられる場所です。34分が経過していました。泣き声の音量は大きくならずそのままでした。
D-8432: 少ししんどくなってきた。
██████博士: 暗闇の中、正体不明の階段に長時間居続けている。それが自然な反応だ。続けてくれ。
被験者は次の段を踏み出す事を躊躇しました。歩き出した時、投光器が階段の下の辺りにある顔(SCP-087-1)を照らし出します。それは人の顔とほぼ同じ大きさと形をしていますが、口や鼻孔、瞳孔はありません。その顔色は全く変わりませんが、真っ直ぐD-8432を見たことから、彼に気付いていることを窺わせます。
D-8432: [叫び声]畜生!何だアレは!?クソ!クソッタレ!何だってんだよ!
██████博士: 何を見たか説明してくれるか?
D-8432: なんかクソッタレの顔があって俺を真っ直ぐ見てやがる俺を見て——
██████博士: それは動いているか?
D-8432: [少しの間、激しい息遣いのみ] いいや、ただ俺をじっと見てる。畜生、やってらんねえ。
██████博士: 近付いてさらに実体を照らしてくれ。
D-8432: オイマジかよクソが!俺はそんなのやりたく——
その顔面がぐいとD-8432の真正面、およそ50cmの距離に近付いていました。
D-8432: [叫び声]あああああ![編集済]
D-8432はパニック状態になり急いでSCP-087を駆け上がります。D-8432が地上に脱出するまで18分かかり、そこで彼は崩れ落ち、死亡しました。SCP-087-1の兆候はありませんでした。映像記録は降下分と上昇分の階数が同数である事を示していました。泣き、嘆く声の音量は最後の到達階まで一定で、そこで声は止みました。医療レポートは階段を急速に駆け上がった事による疲労のため、彼が倒れたのだと診断しました。