クレジット
翻訳責任者: fish_paste_slice
著作権者:Black_scar
原題: 我们是观谬维基,我们是行走在21世纪的唐·吉诃德
作成年: 11 Jun 2021
初訳参照リビジョン: 7 Nov 2023
元記事リンク:https://scp-wiki-cn.wikidot.com/don-quijote
画像1は自分で撮影しました。画像2は1pexelsの無料画像、画像3は画廊sbshanshのアップロードした画像です。

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🗿Flow_ers 08/20/19 (Mon) 01:25:57 #12754382
お前は、どうしてここに来たんだ?
パラウォッチ・ウィキ中国支部創設者の一人として、私はいつも自分自身にこう問いかけている。刺激を求めるためであろうと、単なる好奇心であろうと、外から見れば、私達は取るに足らない陰謀論者や妄想狂、精神病患者の集まりでしかない。そして断言するが、これは一部のサイトメンバーも私達自身をそう見なしている。
“どうして、そんな漠然とした雲を掴むかのようなものを追い求めて無駄骨を折りたがるんだ? ”
この問いに直面した時、いつも私は何も答えられない。そして、そんな時は老丁の話を思い出す。
🗿Flow_ers 08/20/19 (Mon) 02:05:13 #12342671
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図書館傍の湖の景色、2016年の創立記念日に撮影
老丁は年寄りではない。単に、老けた見た目のルームメイトをからかった呼び名だった。毎日晩6時半には、期末試験をパスしたい他の学生と同じように、老丁もショルダーバッグを肩にかけて図書館へと向かった。そしてほぼ毎回、2階の一番隅に座った。その理由はきっと、そこは疲れた時には立ち上がって身体を伸ばせる空間があったし、あの物静かでショートカットの女生徒の対面に座れたからだと思う。それは老丁がその人に何かしようと企んでいたわけではなくて、単に習慣でそうしていただけだった。サボりたい時に目の前の真剣な二つの眼差しを見ると、自分にとっても良い具合に渇を入れてくれるのだと、少なくとも彼はそう言っていた。
やがて、老丁は相手も自分に対して同じ様に考えているらしいと気がついた。二人の間にはある種の暗黙の了解ができあがり、自習をする時は相手と自分の両方が席につくという習慣が始まった。程なくして、全てのつまらないラブストーリーがそうであるように、彼らもまた、愛の河へと陥った。生活にほとんど変化はなかった。自習中に時折交わされる視線、そして寮への帰り道で繋がれた手を除けばだが。
その日は、中間テストが終わった日で、私は部屋でパソコンをいじっていた。老丁とガールフレンドは構内を散歩しながら、試験のことや、休暇や将来のことを語り合い、歩いているうちに教学エリアから離れた景観湖の側にやって来た。少し腰を下ろしたところで、老丁は喉の乾きを覚えた。そしてこの時、後々に後悔しても取り返しのつかない決定的なことをやってしまった。
老丁は彼女をその場で待たせて、自分は購買へ炭酸水、ついでに彼女のためのミルクティーを買いに行ったのだ。
私の目から見ても、これは老丁のミスではないだろう。夜に女性一人を置いていくのは些か不適切かもしれないが、それでもそこは学校の中なのだから。もし本当に悪人と出くわしたとしても、大声で助けを求めれば、近くを巡回している警備員にきっと聞こえることだろう。ましてや学内の購買部は景観湖から200メートルも離れていない。列に並ぶ時間を含めても、10分以内には戻って来られるはずだ。老丁を含むほとんどの人間にとって、それはまったく合理的な選択だった。
長椅子の側で沸き起こる水しぶきを見るまでは。
自分が何を叫んで突進したか、また、どのようにして地面に倒れ込んだのかを、彼は覚えていない。これらは後になって他人から聞かされたことだ。唯一記憶しているのは、あの二つの眼差しだけだった。
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パソコンを利用して合成した眼の画像、ある種の鳥類に類似している
“あれは絶対に、人間の眼じゃない。”老丁の恐怖と怒りで震えた声を、私は今でも覚えている。“僕はすぐに駆けつけて、彼女が水の中でバタバタしているのを見た。そして……あんなモノを見ることになるなんて、くそっ、僕は夢にも思っちゃいなかった。”
老丁は警察に連行されて一晩中取り調べを受けて、消防隊は朝方まで池の回りを浚ったものの、なにも見つからなかった。まともな精神状態の大人が、どうして深夜に自分から冷たい湖の水へ入っていって、そしてどのようにして理由もなく消えてしまったのかを、誰も説明できなかった。警察の推測では、死体が流されて景観湖とは異なる河川の下流に入ったことが唯一の可能性だったが、彼ら自身が本当にその説明に納得しているのかは疑わしかった。>
私の知る限りでは、最初は周囲の人々はこの悲劇に同情的だった。だが、警察が穴だらけの説明をした時でさえ、老丁の供述を信じようとする者はいなかった。老丁が他人にこの事を話した時はいつも、例外なく顔を見合わせて、しばらく沈黙した後に、親しげな態度で彼に、心療内科へ行くよう提案した。抱えきれない程の悲痛が産んだ妄想かもしれないし、それとも単に闇夜での眼の錯覚かもしれない。構内の湖の怪異だって? 冗談じゃない。いくらでも合理的な解釈ができるのだ。たった一件の未解決の失踪事件があったからといって、あの現代科学の基礎の上に築かれた理性の摩天楼を疑おうとする者は、誰一人としていなかった。
しかし、老丁は諦めなかった。彼は幾度となく他人にあの晩の出来事を語り、しばしば授業を放り出しては警察に行って、耐えかねた警察が補導員へ電話して連れ戻させるまで、事件の状況を尋ねていた。時が経つにつれて、多くの者は老丁が単に悲劇を利用して注目を集め、教師達の同情を得たいだけだろうと考え始めた。そしてあの頃の私は、依然として公然と老丁を信じる数少ない人間の一人だった。思うに、過去の出来事から早く立ち直れる者もいれば、そうではない者もいるのだろう。
二ヶ月以上経ってから、私が体育の授業の後で大汗を滴らせながら無人の寮に戻った時、老丁のベッドと教科書が無くなっているのに気づいた。事前に誰にも何も告げず、老丁はひっそりと私達の元から去ったのだ。これ以降、老丁の消息は途絶えてしまった。
🗿Flow_ers 08/20/19 (Mon) 02:59:07 #12582942
2012年の秋、味気ない単調な生活に嫌気がさして、私は某国の企業を辞めて、小さな個人事業を始めた。そしてここで、私は老丁と再会したのだ。彼の体型は想像していたよりももっと痩せていて、面立ちもあの頃よりかなり変わっていた。よく観察すれば、もみあげの何本かの髪は根本から白くなっているのが分かった。そのせいで、ほとんど彼のことが分からなかった。
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アパート付近の写真、2014年の出張中に撮影
私を見て、老丁も驚くと同時に喜んで、仕事後に家で語ろうと私を誘ってきた。私は喜んで承諾した。小路を通り抜けて、古いアパートに入ると、老丁の住居にたどり着いた。座って周囲を見渡せば、老丁はそれを家と呼んだものの、私に言わせれば“蝸家1”と呼んだ方が正しかった。面積は辛うじて二人が入れるほどで、家具もこの上ない程に粗末だった。物が乱雑に散らかった床だけが、この場所を“家徒四壁2”と呼べなくしていた。
老丁は私の思っていることが分かったらしい。この場所は一時の仮住まいで、長く留まる気はないと言った。落ち着いて家を持つ気はないのかと尋ねた時、彼は黙り込んで何も語らず、私は老丁がこの数年間で何をしていたのか、好奇心を抑えられなくなった。再三問いただすと、老丁は立ち上がって、奥の部屋へ行った。
私は、自分の不躾さが老丁を怒らせたのだと思って、針の筵に座る気分で暫く待ち、先に帰る準備を始めた。ちょうどその時、老丁は重い段ボール箱のようなものを見せに戻ってきた。
段ボール箱を開けると、中に詰まっていたのは順序良く整理整頓された文献だった。ざっと眼を通すと、それらの文献のほとんどは調査記録で、その内容は扇情的な都市伝説だと分かった。エリサ・ラム事件や故宮の幽霊の怪談のような有名なものもいくらかあり、ほとんどは私が聞いたことのあるものだった。もっと例を挙げれば、某所の375番バスの幽霊、消えた陝西村、安徽省大蛇遭遇等などの、一般人が聞いたこともないような民間伝承だった。調査記録はインタビューやフィールドワーク、そして筆者の主観的判断の形式をとっていた。これらの調査レポートはある種の学術論文のフォーマットを厳格に真似て執筆されており、いずれのレポートも対応するナンバーが振られ、調査内容の重要性によって、上から順にA、B、Cの3ランクに分類されていた。それらの文献を収集・執筆した人物は、その全てに多大な労力を払ったのは明らかだった。
“これは君が書いたのか? ”
肯定する答えが返ってきた。
“分からないな。”私の顔は困惑で一杯だっただろう。“君は定住せずに、あちらこちらへ放浪してこんな部屋に住んでいるのは、こんなものを書くためなのか? まさか、君はホラー小説を書くのが好きなのか? ”
“これはホラー小説じゃない。”老丁は短く答えた。“少なくとも、そうじゃないものもある。”
老丁は息を吸うと、決心をしたかのように、私の眼をまっすぐ見つめた。
“そもそも、僕がどうして学校を去ったのか、覚えているかい? ああ、きっと覚えているはずだ。あれはそう簡単に忘れられるようなことじゃない。僕にとっては尚更だ。あの頃、夜になると僕は毎日あの眼を、あの赤く輝く二つの眼を夢で見たんだ。悲しかったし、後悔したよ。でも、一番正直な気持ちは、恐怖だった。毎朝目を覚ますと、無力感が僕を出迎えたんだ。まるで、自分が深海の上で漂う海藻になったような……誇張なしに、あれは僕の人生で最も苦しい時期だったさ。”
老丁は深く呼吸をしながら頭を揺らした。
“でも、そういった日々の中でも、真実を知らなきゃならないことは決して忘れなかった。誰も僕を信じなくて、自分で調査をした。図書館やインターネットで資料を調べた。隣の大学の生物系の教授を訪ねた。でも、あれがいったい何だったのかを誰も説明してはくれなかった。ある教授なんて、僕の稚拙な話を聞き終わると、ストレートに叱りつけたよ。‘自然界でそんな生物が存在するのはまったく不可能だ’ってね。いや、君が思うほど絶望してはしていなかったさ。何と言われようと、僕は努力していたし、それが慰めにもなったんだ。”
“でも、この言葉こそが、僕の思考を徹底的に拡げたんだ。あの一年生の時に期末試験があって、近所の学校図書館で資料を探したのをまだ覚えている。試験終了のチャイムが鳴った時に、僕の脳裏に突然一つの方法、大胆でほとんど荒唐無稽と言える方法が浮かんだんだ。彼らは正しいのかもしれない。自然界にあんな生き物が存在するはずがない——じゃあ、もしこいつらが、そもそも自然に生まれたものではなかったとしたら? ”
“僕は自分の調査範囲を拡げた。関係する山ほどの手がかりを見つけるのに数日もかからなかったよ。四川の眉山、陕西の渭南、ワイオミング州のイエローストーン国立公園。類似する事故記録は13世紀のオーストリアにまで遡れて、当時の人間はそれを魔女の魔法だと考えた。何が起こったのかは神のみぞ知るだ。”老丁は半ば笑うように話した。“でも、確信はできない。当時は誰もそれらの事件を体系的に整理して調査せず、まるで誰もがそれらを食後の噂話にして、その後は次第に忘れていったかのようだ。僕は一晩かけて決断して、次の日の朝には実家に電話をして、そして荷物をまとめて学校を去ったんだ。”
“ちょっと待ってくれ。”私は彼を止めて、自分の考えを整理した。“その話とこの文献とに、何の関係があるんだ? ”
“君の目の前にあるそれは、ここ数年の僕の労働の成果さ。価値のある情報を堀り当てたと思った時はいつも、僕自身で調査に行ったよ。君の見たこれだけど、これは僕が最初に書いたレポートなんだ。眉山洪雅県瓦屋山の水車小屋の水怪について書いたのだけど、実のところは何の手がかりも掴めなかったよ。僕の覚えている限りでは直近の目撃例は2009年のもので、目撃者は地元の派出所の自警団員だった。あの頃は、口を開きたがらない相手にどうやって交流すればいいのかを知らなかったから、呆れたことに、のしのしと派出所まで歩いて行って、間抜け面で中の人に‘すいません、ここで水怪を見たのはどなたですか? ’と尋ねたんだ。ハッ、あのクソガキはもうちょっとで精神病院に連れていかれるところだったよ。”老丁は苦笑した。“気づいているかもしれないけれど、この中には水怪とは全く関係のなさそうなレポートも少なくない。そうだ、君と同じように最初は僕も、水怪と関係のある情報だけで十分だと思ったさ。でも、その後に分かったんだ。そういったモノは、伝えられた時には簡単に尾ひれが加えられて、最後には往々にして最初の事件の様相とは全くの別物になってしまうんだ。あの瓦屋山の水怪にしたって、溜池のそばの「迷魂凼」を掘った施工隊と関係があると村で話した人がいて、僕は仕方なく、迷魂凼というものを調査しに再度そこへ行ったよ。そんなことはもっと多くあるさ。”
老丁はカップを手に取った。茶はとっくに冷めてしまっていたが、彼は茶をあおると一気に飲み干してしまった。この短時間で知らされた情報は多すぎて、私の脳は混乱していた。彼はあの時の事件の真相を知ったのか、この数年をどうやって過ごしてきたのか、彼に聞きたいことが多すぎて、私はしばらくの間、何も答えられなかった。
“本物はいくつあるんだ? ”私はようやく質問を口にした。
これはかなり曖昧な質問だったが、彼なら私の意図を理解できると分かっていた。
“ほとんど無い。”老丁は表情を変えずに言った。
“ほとんど無い? ”
“うん。僕が大学で学んだ一番有用なこと、それは謹厳だ。摩訶不思議だと言われる出来事は数多あれど、丹念に調査研究をしさえすれば、大したものじゃなかったことが分かる。浮かんだ枝が水怪に見えたり、流れ星がUFOに見えたり、大部分の超常現象と呼ばれるものは、誤解か、そうでなければ詐欺だよ。そもそも、ちょっとでも知りたければ分かるけれど、超常現象は定義上は、どこででも見られるようなものじゃないんだ。”
“でも、一部の出来事は違う。直接的な証拠は無いけれど、僕には分かるんだ。それらは間違いなく起こった出来事だ。でも、次こそは本物の関係のある手掛かりだ、次こそはついに真相に迫れるんだと思うたびにいつも、僕は既に道の終わりにまで来ている事に気づくんだ。最も重要な物証はいつも行方不明になっていて、事件の中心にいた人物は詳細を思い出せなくなっている。まるで、誰かが僕をわざと弄んで、論理の鎖のなかからキーポイントの一環を盗んだみたいだ。”老丁は突然拳をテーブルに叩きつけて、視線は私を突き抜けてまっすぐ前に向けられていた。“でも、僕は諦めない。絶対に諦めない。”
以上が、あの日の私たちの会話の主な内容で、その他の部分はただの時候の挨拶だ。これらの会話は今になっても昨日のことのように思い出せる。文章に書き起こす際に、違う地方の言葉遣いを少し調整した以外は、一切手を加えていない。それから私と老丁は、およそ6か月一緒に仕事をした。その間の付き合いの中で、あの晩の話は二度と話題には上らず、ただ、時折、埃まみれでオフィスに戻ってきて、喜びや悲しみの表情を見せるだけだった。旅に出る前のあの日、老丁は調査の目的地へ行くための旅費を既に貯めてあるのだと私に言った。
私たちは抱き合い、祝福し、そして別れた。
🗿Flow_ers 08/20/19 (Mon) 03:40:01 #12420987
最後に老丁と会ったのは、病院の重症患者用ベッドの上だった。もしこれが悲劇的な英雄叙事詩なら、老丁は追跡の途中で怪物の反撃を受けて重傷を負うか、証拠を集めている途中で政府の差し向けた秘密組織の報復を受けて息も絶え絶えになっていただろう。だが、所詮現実はおとぎ話ではない。
数日前の調査でのことだ。龍の巣くう黒龍澤の伝説に関する現地資料を収集するために、老丁は崋山の南峰へ登り、その結果不注意で切り立った崖から足を滑らせて転落し、重傷を負ったのだ。最も難易度の高い山として、崋山は毎日一万を越える観光客が訪れ、十数人が事故で負傷、あるいは死亡している。これは特段珍しいことではない。
怪物はいなかった。超常現象もなく、ただの確率の問題に過ぎなかったのだ。
知らせを聞いた私が駆けつけた時、老丁にはまだ意識があって、病室には私達二人しかいなかった。私が様子を見に来たのを見ると、彼は無理をして笑おうとしたらしかったが、それは上手くいかなかった。一言二言、簡単な挨拶を済ませると、私達は黙り込んでしまった。
“僕は本当に馬鹿だ。そうだろ? ”
彼の声は弱々しかったが、これまでになく重々しく聞こえて、私は何も言葉を発することができなかった。
“あの時の事件で、僕が一番後悔していることは何だと思う? あの日、彼女と湖の側を散歩したことでも、彼女を一人残して行ってしまったことでもない。それは恐ろしさのあまり、僕の手を引く彼女を振り払ったことなんだ。自分の弱さが憎いよ。僕は何度も何度も自分自身を痛めつけてきたんだ。もしもあの日、彼女に付き纏ったのが虎やライオン、それか他の猛獣だったのなら、僕は同じように彼女の手を眺めていたのかな? ”
老丁は天井を見上げて、ゆっくりと頭を振った。
“未知の恐怖の中で生き続けたくはなかったんだ。だから、僕はあっちこっちへと駆けずり回って、貯金を全部僕の調査のために注ぎ込んだ。この数年、僕は少なくはない場所へ行って、僕と同じような目に遭った多くの人がいることを知った。中には、もっと悲惨な例さえあったよ。そういった気の毒な人々を見ると、かつて鏡の中で見た自分自身の表情が見えたんだ。その時、分かったんだ。僕にも彼らのためにできることがあるかもしれないと。つまり……”
病室には再び沈黙が訪れた。老丁の目に涙が光るのが見えた。半時ほど過ぎると、私の耳に啜り泣く声がした。私が立ち去ろうとした時に、背後から号泣が聞こえてきた。
老丁がこの世を去ったのは私が訪れた翌日で、死因は術後感染症の合併症だった。彼が逝ったのは深夜で、誰も彼の傍にはいなかった。
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話はこれで全てだ。その後、私はそれまでと同じ生活を続けている。暮らしの中で些細な出来事が潮の満ち引きのように、次第に私の過去の記憶を薄めていく。そうであってはいけないというのか? 私自身は何の超常現象も身近で経験したことがないし、老丁もそうだったかどうなのかは分からない。彼が半生をかけて追い求めたものが、偶然や虚言ではなかったと誰が言い切れる? しかし、夜中に悪夢を見て目覚めて、暗闇の中で眠ろうと無駄な努力をしている時、私は老丁、そして彼が段ボールを抱えて私に見せに来たあの夜のことを思い出すのだ。
我々は皆、自分では決して抜け出すことのできない過去を持っている。
これが、私がパラウォッチ中国語支部を立ち上げた理由だ。私は老丁のように真実を追求するために、自分の生活の全てを犠牲にはしていない。だが、彼の成し遂げられなかった仕事を引き継ぎたいのは間違いない。まるで遺産か何かのようだ。私達は調査し、私達は分かち合い、私達は助け合う。私達は人々に、視界の外には何かが潜んでいることを教え、人々のために必要となる対策を与えることを望む。人々の目には、私達は長槍を振り回して風車と決闘する狂人に見えるかもしれない。だが、私達は今もなお、未知の世界と正常な社会の狭間にある唯一の防衛ラインだ。私達に選択の余地は無い。
これは苦難が確定している一条の路だ。だが、この暗闇の中でも、私達は孤独じゃない。









