悪意との邂逅
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そこには一人、たった一人の女性が立っていた。

「フフ、財団もなかなか厳重に警備してるようね。流石にそう簡単にはいかないかしら」

アメリカ合衆国███████州█████山地、およそ人が寄り付かない場所に彼女はいる。彼女が前方を見渡すと、ただの山には似合わないほど厳重な警備施設と警備員が存在している。「土砂崩れ」が起きているらしいが、それがカバーストーリーであることも彼女は既に知っていた。

「厳重とはいえ事前に仕入れた情報の通りね。倒さないといけないのは……3人ね」

"目指す場所"の報告書と施設のマップ、警備シフトは既に彼女の頭の中にあった。何故って?だって彼女は──

「よしっ、それじゃ早速……イッツ・ショウタイム!
 
 


 
 
「HQ、HQ、こちらブラボー。定時報告だ。エリア-3は異常なし」
『こちらHQ、了解した。2時間後に交代を行う』
「了解。……ふう」

いつもと変わらない警備、いつもと変わらない景色、やることといえば紛れ込んできた観光客を追い返すか拘束するか、そんな代わり映えのしない"日常"。

「ま、代わり映えしないってのはいいことなんだろうけど……暇だねぇ」
「じゃあ私が変えてあげるわ♪」
「えっ──」

その日常を打ち破らんとする軽快な声を聞いた瞬間、何が起きたか、何がいたのかさえ理解する時間も与えられず、警備員の視界は真っ暗闇へと変貌した。
 
 


 
 
「ふぅ……流石に疲れちゃったわね。撃たれた時はどうなっちゃうかと思ったわ」

ただの研究者であるはずの彼女は警備員の目と腕と銃撃をかいくぐり、"目指す場所"へと辿り着いた。残すは"入る"のみである。

「じゃ、早速入っちゃいましょ!」

何の躊躇いもなく、求めるモノがあることを確信して、希望を胸に彼女はそこを通り抜けた──
 
 


 
 
その先には──白と赤。空を覆う一面の白とその中に鎮座する赤々とした丸。
そして中央には巨大な、巨大な山。
側には古ぼけた家屋と巨大なビル、綺羅びやかな服を着た女性とダッサいスーツを着た男性。
遠くを見れば謎の怪獣と謎のロボットが取っ組み合いの喧嘩を始めていた。

ワーオ!こんな所初めて来たわ!これが日本なのね!」

ワンダーテインメント博士はあまりにも異様なその光景に心を躍らせていた。今まで自分が作ったものも大概面白いものばかりだが、それに匹敵するくらい愉快なものを目の当たりにして、創作意欲が刺激されてやまないという様子を見せていた。
 
 
──その男が現れるまでは。
 
 
愉快な空間に現れた"不愉快"、彼女が真に求めたモノが、姿を見せた。

「……そうね、私はあなたが誰なのかを見に来たの。私の中で日本といえば『あなた』なのよ」

その男はニヤニヤと意地の悪い不気味な笑みを浮かべていた。悪意、そこには悪意のみが顕現していた。

「財団日本支部の職員は全員調査したんだけど……」
 
 
「あなただとは思わなかったわ、『博士』

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