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「お疲れ様、君にはこのお題はちょっと簡単すぎたかもしれないね!」
「いやいや、シリーズになんかしないよ。君のアイデアたちはあくまでこのためだけに使われるからね」
「例えば会議で改良案を話し合っているとき、もし案が10個や20個と出てきても、採用するのは1つだろう? そう言うことさ」
「どうやって選ぶのかは教えられないけど、公正公平に決めることを約束するよ!」
「え? 選ばれなかったものはどうなるかって? さあ、きっと"博士"の大ファンが探してくれるよ!」
[Dr]: 12面サイコロを1回振って、出た目を答えろ。
[DiceBot]: (1D12) > 10
オーット!博士の季節限定版コレクションののアイデアたちはスターを見つけたみたいだね!キミの"ミスター・とりっくあんどとりーと"はどんなお菓子でも作れるんだ!あまーいアップルパイに、とってもかわいいかぼちゃのケーキ!でも気をつけて?"ミスター・とりっくあんどとりーと"はとってもイタズラ好き!どんなイタズラをお菓子にしたのかな?みんなでたしかめてみよう!ハロウィンパーティーを派手に盛り上げようね!
楽しもうね!01. [判別不能]
02. ミスター・ばれんたいん(発売未定)
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10. ミスター・とりっくあんどとりーと ✔
11. [判別不能]
12. [判別不能]保護者の方へ: 当製品には、お子様を見守る保護者向けの「あんしんドコナニ機能」が標準で搭載されています。お子様をしっかり見届けたい親の気持ちを汲んだ素晴らしい機能ですので、是非ご活用ください。
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廊下がある。
廊下の真ん中にメモが落ちている。
廊下に2人の男が入ってくる。
男のうち1人は白衣を身につけている。
もう1人は胸元に『助手』と書かれた名札をつけている。
「あれ、"博士"、これは?」
名札をつけた男がメモを拾う。
メモには01〜12までの番号とそれぞれ数字に対応した季節のイベントが書いてある。特に『10. ハロウィーン』の項目には、赤ペンで二重丸が書いてある。
名札をつけた男が白衣の男にメモを渡す。
「これは前に作ったやつだね。うーん、アタリの記録は取っておいて、ハズレはどうでもいいから捨てちゃえばいいや」
白衣の男はハサミを使ってメモの『10. ハロウィーン』の項目を切り取る。
白衣の男は切り離されたメモの残りをぐしゃぐしゃに丸めて、ゴミ箱に捨てる。
「それより、今日は君のアルバイト最終日だろう? それに因んで、特別なお仕事があるんだ。ついてきて!」
2人の男が廊下から出る。
[Dr]: 30面サイコロを1回振って、出た目を答えろ。
[DiceBot]: (1D30) > 27
何てこったい!ギフト・アバブ・ワンダーテインメントの"ミスター・トリップモノ"を発見したね!何回死んでも死なないなんて何そのチート?ワンダーテインメント博士とかゲーマーズ・アゲインスト・ウィードって誰そいつら?
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01. ミスター・ランサムウェア
02. ミスター・クラウドファウンディング
03. ミズ・掛け算
04. ミスター・wiki
05. ミスター・バズ
06. ミスター・ブラクラ
07. ミスター・拡散希望
25. ミスター・イキり
26. ミスター・貴方次第です
27. ミスター・トリップモノ ✔
28. ミスター・アンチとミズ・信者
29. ミス・Vtuber
30. ミスター・鮫島
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「助手くん!」
よれよれの白衣を着た男が俺を呼んだ。こいつは俺の雇い主で、"博士"と名乗っている。少々童顔なこと以外に特筆すべきことはないように見えるが、彼は実は魔法の道具を生み出す魔法使いなのだ。
いや、狂ったわけじゃない。本当にこの男は魔法使いで、ありとあらゆるマジックアイテムを作る術を持っている。例えば、こいつは俺に文房具箱を見せてくれた。それに入っている文房具は特別性で、鉛筆を立てればミサイルになって飛んでいき、消しゴムとボールペンを合わせれば戦車になった。
この時、俺は"博士"が善人だと勘違いしていた。魔法への憧れのせいで、その行動を過剰に美化していた。そうじゃなかったら俺はバイトなんて受けなかっただろう。
そう、つまり、こいつはどうしようもない悪人でクソッタレだったのだ。例の文房具箱は安全な遊び道具ではなく人殺しのための凶器だった。"博士"はそれを子供に使わせて、親が殺されていくのを見て笑う精神異常者なのだ。こいつ以上のクズは地球上に存在しないだろう。
だが、だからと言って、ナイフ片手に立ち向かう勇気を俺が持っているはずもなかった。俺にできることは自分が殺されないように祈って媚びへつらうことだけだった。それは俺の助手バイトが終わる最後の瞬間まで続くことで、今この瞬間も例外ではない。
「どうされましたか、"博士"」
媚びた声で"博士"と呼ばれた男はにっこり笑った。
「今日は君のアルバイト最終日だろう? そこで、僕と君で最後の共同制作は、君に主役になってもらおうと思うんだ!」
俺はつとめて嬉しそうに"博士"を見て、喜びが抑えきれないフリをしながら言った。
「本当ですか、すごく嬉しいです! "博士"のものづくりに関われるだけでも幸せなのに、主役になれるなんて光栄の極みですよ!」
その後、不安げな態度で続けてみる。
「ですが、すみません。私も仕事をこなしてきたとはいえ、"博士"のようにものづくりをこなすことはできませんし、鮮烈なアイデアも無いのです」
とてもやりたくない。やりたくない、が、ここで素直にやりたくないと言ったら対"博士"コミュニケーション検定は落第確実である。自分を過小評価することでやんわりと断ろうとするが、"博士"はそれを見越していたらしく、誇らしげに答えた。
「大丈夫! そのためにお題を用意しておいたからね。君はお題に沿って答えるだけでいいのさ」
言い終わらない間に、"博士"が向こうからホワイトボードを引っ張ってくる。ホワイトボードには《主人公になってみたいジャンル名、10個答えろ》と書いてあった。
「主人公になってみたいジャンル名ですか。例えば、そう、『ギャグ』みたいなやつですよね?」
「うん、そういうこと。それじゃあ、次もどんどん言ってって!」
どこからともなく取り出したマジックペンで、"博士"がホワイトボードに01. ギャグと書いた。
さて、俺はなんと答えるべきか。このクソッタレのことだから、生半可なものを答えれば悪意をもって返されそうだ。だが、病院の待合室に置いてある漫画ぐらいしか本を読まない俺には、そもそもジャンル名が思いつかない。なんとか安全そうなものは……。
「まず、日常系やラブコメなんてどうでしょうか」
"博士"はすぐに、俺が言ったことをホワイトボードに書いた。02. 日常系と03. ラブコメだ。
「僕に聞かなくても大丈夫。好きに答えて良いんだよ!」
俺はその優しくありがたい言葉に恐縮する演技で時間を稼ぎつつ、次のジャンル名を考えた。
「では、次はハードボイルドで」
一見、暴力的と言うか危険そうだが、ハードボイルドはお約束が多い(イメージだ)。話を改変しづらい点で見れば悪くない選択肢だと思う。
そんな考えを知ってか知らずか、"博士"は「なるほどね」と相槌を返して、04. ハードボイルドと書いた。
一度慣れてしまえば、後はとんとん拍子だ。と言うより、とんとん拍子で出すしかなかったのが真実だが。俺は大丈夫そうなものを挙げていく。
「ガールズラブ」
"博士"は05. ガールズラブと書いた。
「異能もの」
"博士"は06. 異能ものと書いた。
「ループもの」
"博士"は07. ループものと書いた。
「バンドもの」
"博士"は08. バンドものと書いた。
「神話」
"博士"は09. 神話と書いた。
そこまで書くと、俺の選択に茶々を入れたくなったのか、"博士"が口を開く。
「わお、次で最後じゃないか! 君が最後にどんな面白いジャンルを出してくれるか楽しみだよ!」
俺は心の中で大きなため息をついた。こいつは、どれだけ途中が上手く行っても最後が悪ければゴミ箱に捨てるようなやつだ。最後のジャンルがお眼鏡に敵わなければ俺も捨てられてしまうだろう。
だが、黙りこくったってバッドエンド直通なのは変わらない。俺は意を決して言葉を発した。
「最後は異世界転移ものにします。ほら、最近流行りじゃないですか?」
厳密に異世界転移を行う作品全てを含むなら、これは良い選択肢じゃないだろう。だが、俺が言ったのはこのごろ流行っている異世界転移ものだ。いわゆるご都合主義的要素を多く含むジャンルなら、まだなんとかなりそうに思う。問題はこのクソッタレが流行りの方だと読み取れるかどうかだが――
「トラックに轢かれるやつだね! いいんじゃない、面白いと思うよ!」
――なんとか分かってくれたようだ。
"博士"はウキウキでホワイトボードに10. 異世界転移ものと書いた。ホワイトボードには01から10までのジャンルが記入されている。
01. ギャグ
02. 日常系
03. ラブコメ
04. ハードボイルド
05. ガールズラブ
06. 異能もの
07. ループもの
08. バンドもの
09. 神話
10. 異世界転移もの
こうみると、俺もよく考えたなぁと思った。"博士"がこれをどうやって悪用する気かは知らないが、これだったら俺が殺されたりすることはなさそうだ。
そんなことを考えていると、"博士"が話し始める。
「お疲れさま、これでお題は達成だ! うん、素晴らしいシリーズが揃ったよ。この調子だと、君に"博士"の座を奪われちゃうかもしれないね!」
俺は力が抜けそうになるのをグッと堪えて、このクソッタレを褒めた。
「そんな、とんでもないですよ! 今回のお題だって"博士"の教えを思い出しながら答えたわけですし、そもそも私は"博士"の作ったものが大好きですから、"博士"の引退なんて認められません!」
根からの大嘘だ。それでも騙すことには成功したらしく、"博士"は照れながら返した。
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいよ。うーん、そんな言葉の後に伝えるのは心苦しいんだけど」
少し間を置いてから、意を結したように続ける。
「実は、今日はもう君の仕事は無いんだ。つまりアルバイトは終わりで、早いけど帰ってもらうことになるね」
あまりにも寝耳に水な話に、俺の口から思考が漏れる。
「ほ、本当ですか?」
「ごめん、残念だけど本当だよ。これからする作業は僕1人でやるものだけだし、集中しなくちゃいけないからね」
あまりの喜びに口が歪むのを俯くことで隠し、とても残念そうに帰る準備を進める。ようやく家に帰れると思うと抑えきれない涙が出てくるが、"博士"は都合よく解釈してくれた。
「ああ泣かないで。大丈夫、君の未来は同様に確からしく選ばれるから、心配無用だよ!」
俺は顔を上げて涙を拭き、"博士"に笑顔を見せる。俺がわなわなと震えながら肯いていると、"博士"は元気付けるようににっこりと笑った。顔面を殴りつけたくなったが、久しぶりの我が家を思い描いて我慢した。
荷物を背負って玄関の扉に手をかける。この31日、どれだけこの扉が開かれる日を渇望したことか。俺は最後に、"博士"が手を振る方を見て言った。
「ありがとうございました!」
クソッタレが応える。
「それじゃあ、楽しい未来を楽しもうね!」
そして俺は玄関前の落とし穴を踏み抜いた。
[Dr]: 10面サイコロを1回振って、出た目を答えろ。
[DiceBot]: (1D10) > 4
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おっと、君は助手くんじゃないか!
久しぶり、元気にしてた? 博士は君のその顔が見れて本当に嬉しいよ! 頑張って晴れ舞台を用意した甲斐があったね!
博士に質問があるのかい?
いいとも、何だって答えてあげるよ。
そうか、君も仲間たちが気になるか。
うん?
ああ! そうだね、1番大事なものを忘れてたよ。
04番は大事な大事なアタリだから別にして保存してたんだ。
確かこのスクラップブックに入れたはずなんだけど……
よし、これだね。
04. ハードボイルド ◎
いつも懐に愛銃を秘める
バン! (銃口にフッとする) ―― クソッタレが
絶望を乗り越えた冷徹な心
☆銃刀法の回避法は選ばれたら決める
選ばれた!
↑↑見えないようにすれば良い
↑腹の中から愛銃を取り出すとカッコいいかも
銃で殺人だけだと楽しくないのでは?
↑目に見えないものを殺す銃
↑↑尊厳を殺す銃
↑分かりにくい
↑うんこにすれば分かりやすい!(小学生人気も!)
最初から冷酷にすべき?
↑過去あってこそのハードボイルド、捏造の過去は良くない
↑それだと行動的になってくれないかも
↑動機が必要
どんな動機で動いてもらう?
↑家族を人質に取られor誘拐されて
↑どうせだし1人で完結させたい
↑↑裏社会の人間が狙う
↑用意が面倒だし管理も大変
↑↑↑↑衝動のせいで動かざるを得ない
↑ちょっぴりダークでとってもハードボイルド!
↓完成!
OH SHIT!! 博士のスーパーコレクション、ミスター・エンタメシリーズの"ミスター・ハードボイルド"を発見したね! 老いも若いも待ち望んだアメリカンジョークがついに到来! これがホントの開発ってやつさ!HAHA!! ワンダーテインメント博士? ゲーマーズ・アゲインスト・ウィード? それは誰ですか?
全部見つけて真のミスター・エンタメになろう!
楽しもうね!01. ミスター・ドタバタギャグ
02. ミスター・ほのぼの日常系
03. ミズ・ラブコメディは突然に
04. ミスター・ハードボイルド ✔
05. ミズ・百合
06. ミスター・血みどろ異能バトル
07. ミズ・何度でも繰り返す
08. ミズ・ロックンロール
09. ミスター・カミサマのお話
10. ミスター・異世界から来た男新たなお友達も続々制作中! さあ、楽しもうね!
どうかな、面白かったんじゃない?
博士ならどれが選ばれたとしても素晴らしい同様にミスターズを作れただろうけど、ここまで良いものができたのは間違いなく助手くんのおかげだよ!
君が提示してくれた選択肢あってこそ、博士は正しい確からしい未来を指し示すことができたんだ!
ありがとう!
君のことは忘れないよ!
たぶんね。