「いたた…」
真家研究助手は普段抱えてる本を持たずに、いつもより早足で廊下を歩く。
真家研究助手は、先日Dクラス職員の暴動に巻き込まれて怪我を負ったが、軽傷であったため精密検査した後にすぐに職務に戻る事ができた。
神宮寺博士は人間の姿をしていないため、真家研究助手は監視する役目を任せられているが、精密検査を行った日は神宮寺博士の会議があったため、その日のみ代理のエージェントが神宮寺博士の助手をしていた。
「ただいま戻りました神宮寺博士」
真家研究助手は研究室に入り、一目ではどこに居るかわからない神宮寺博士に対して声を張る。とはいえ相手は喋れないのですぐに探し出さなければならない。そのはずだった。
「オカエリ」
文字ではない返事が聞こえてきた。
「え?」
真家研究助手は声の場所へ駆け寄る。そこにはデスクトップパソコンがあった。モニターの正面にはブックレストがあり、そこに本である神宮寺博士が置かれていた。モニターの上にはウェブカメラが設置されていて神宮寺博士に向いている。
「凄イデショ。真家クンノ替ワリノ子ガ昨日プログラムヲ作ッテクレテネ、私ノ表示シタ文字ヲカメラデ読ミトッテ、合成音声ガ喋ッテクレルンダヨ。アト、パソコンモ操作デキルンダ」
棒読みな声でパソコンのスピーカーから音声が流れる。
「そ…そうなんですか」
「コレデ君ノ負担モ減ルネ。アト、私ガ表示スル文字デ運転デキルラジコントカモ作レナイカッテ頼ンデミタンデスヨ」
「はぁ…」
棒読みとはいえ、神宮寺博士のテンションが上がっているのが伝わってきた。
「先日は代理をしていただいてありがとうございました」
後日、真家研究助手は代理してくれたエージェントと食堂で出くわした。
「いやぁ私はただ神宮寺博士に言われた事やってただけだからね」
「移動用ラジコンを頼まれたって聞きましたけど、どれくらいで作れそうなんですか?」
「いや作ってないよ」
「え?」
「だって移動はまーやちゃんの仕事でしょ。あのプログラムは、神宮寺博士は声を出せないから研究室でまーやちゃんが個人作業していても逐一博士を気にかけないといけないから、せめて喋らせてあげようと思ったんだよ。というか、あれは神宮寺博士へのプレゼントというより、まーやちゃんへのプレゼントのつもりだよ?あのパソコン本体にもいろいろ制限かけといたし、研究室から外にでたらいつもと変わらないよ」
「…そうなんですか」
「なに嬉しそうにしてんの」
「へ?」
「ラジコン作ってるのか聞いてきた時は不安そうな顔してたのに、作ってないって答えた途端、安心したように見えたけど」
「そんな事は…」
「まぁいいや、博士に早くプログラミング代金を用意するように言っといてね」
「神宮寺博士、会議の時間ですよ」
「ワカリマシタ」
真家研究助手は、パソコンで報告書を作成している神宮寺博士を拾い上げる。研究資料も一緒に手に持ち研究室を出て、廊下を歩く。
いつも通りの速度で。