"英雄譚"回収エージェントの日誌とその顛末
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<エージェント日誌 ミヤギ BB062-8>
本日はほぼ移動のみで勤務時間が終了したため特記事項なし。しかし何も書かないのも日々のリズムを狂わせるため、私の思いを綴らせてもらうものとし、以下の文書は非公式とする。

SCP-268-JP、非公式通称"終わらない英雄譚"。私はこのオブジェクトの回収を任務として請け負っている。このオブジェクトの回収は容易ではない。無論それはこの"本"に限った話ではないのだが、それでも未然に"本"を回収できなかったケースについては、どれを思い出してもキリリと胸が痛む。

個人の住む民家に"本"が現れた場合、被害が出る前に回収することはまず不可能だ。特異性の発動条件が「触れた場合」というのが厳しすぎる。民間に自主回収を促すことができない理由がこれだ。せめて「読んだ場合」だったら、もっと効率的に被害を減らせただろう。「おたくの本棚を調べてみてください」とも言えないとは実にもどかしい。この"本"の底意地の悪さ、「おまえらの考えることなどお見通しだ」というメッセージが、黒い装丁を介して滲み出ているかのようだ。

たまたま外出中に出現した場合は運がいい。商店や図書館であれば管理外の書物があるからと問合せがあるかもしれないし、そのまま蔵書として埋もれてくれてもひとまず問題ない。被害者となる人物に接触さえしなければ無害なのだから。この特性は悪鬼に残された良心の澱か、または嘲笑めいた戯れか…いずれにせよ、対処の余地はあるということだ。

この"本"について、同僚の一人は「それほど深刻なものかね」と懐疑的だった。年に多くて数人、それも特定の条件下にある人物だけが被害に遭う程度ならば、財団からみたら"些細な"被害なのかもしれない。確かに、SCP-701の実例しかり、そういう見方もあるだろう。Euclid分類なのも理解できる。それでも私は、この本の悪意を許すことはできない。

私はかつてチーフエージェントに命を救われた。いずれ私の前にも"本"が現れるだろう。そしてもし私が"本"に囚われたら、こう言おうと決めている。「どうか私を助けないでください」それでも彼女は、私を助けるだろう。だから私は、少なくとも彼女に助けられるだけの価値がなければならない。だから私は、この悪意と命を賭けて戦い続けるのだ。

 


 

回収資料 SCP-268-JP-██〜██
SCP-268-JP-A:別添資料参照。
SCP-268-JP-B:エージェント・ミヤギ。SCP-268-JPの回収任務中に交通事故に遭い死亡。事故の経緯には要注意団体の関連が疑われている。
回収資料の内容:平均80章、最短67章、最長155章。内容に共通点は少なく、未完の本も██部存在する。
改題後の表題:"至上の苦痛へ贄として差し出された無辜の民の悲劇"など。実例ごとに異なる。
改題前の表題:"魔本の触腕から民草を守る職務に命を賭けた男の英雄譚"、██冊。

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