おにいちゃん、わたし、たべられちゃうのかな
まだ幼い妹が、怯えるように言う。
大丈夫だよ、お兄ちゃんがついてる。
嘘だ。父も母も、祖父も祖母も、みんな食べられた。きっと僕も、妹も、運命からは逃れられない。しかし、その運命の日は、まだ妹には早すぎる。たとえその日が来たとしても、僕はこの身をかけて、妹を守ると決めていた。
いいかい、例えばいつか、お兄ちゃんがいなくなる日が来るとしたら。
えっ、お兄ちゃん、いなくなっちゃやだよ。
うん、例えばの話だよ。お兄ちゃんがいなくなったとしたら、お兄ちゃんのことや、お父さんお母さんたちのことを、みんなに伝えるんだ。友達や、先生や、全部の人に。僕たちがどう生きて、どう戦ったかを、憶えてるかぎり全部。それが僕たちにできるいちばんのことだ。わかるね。
よくわかんない。でも、おとうさんたちのことはわすれないよ。おにいちゃんのことも。
うん、今はそれでいい。ありがとう。
実際のところ、妹にどの程度家族の記憶があるのかはわからない。先生は、妹は優秀な語り部になる素質があると言っていたから、もしかしたら保護してもらえるかもしれない。しかし、大いなる意思の前には逆らえない。祈るばかりだ。あの偉大なお方でさえも、あっさりと食べられてしまった。運命とは実際、そんなものなんだろう。
ああ、ついに、扉が開いた。
誰が行くか。
誰かが行かねば。
ついにわたしは、妹を先生へ預け、一歩前へ進み出て、こう言った。
にんげんさん、おいしくたべて
実験終了報告書:
SCP-270-JP-16は通常通り摂食された。材料に原因があるのか、家族愛を尊重する個体だと"教育係"は言っていたが、組成や味に特筆すべき点なし。残された"家族"については"教育係"を通じて引き続き観察を行うものとする。