その棺桶は閉まらない
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SCP-990: やあコンドラキくん。初めましてだね。

コンドラキ博士: ああ。だが俺はお前のことは知ってるぜ。何と呼べばいい?

SCP-990: ふむ、私を何と呼べばいいのかわからないのに"知ってる"とは不思議なことを言うね。本当に君は私のことを知っているのかな。もしかしたら全く別人かもしれないよ?

コンドラキ博士: お前は俺の名前を知ってただろ?それにこの夢の中の状況、該当するのはSCP-990しかねぇよ。財団職員の中ではお前は有名なんだ。

SCP-990: ほう、光栄だね。ならサインでも用意したほうが良かったかな。

コンドラキ博士: じゃあサイト-17に送っといてくれ、発払いでな。

SCP-990: 安い宅配業者を探しておくよ。

コンドラキ博士: そろそろ本題に入ろうぜ。リチャードでいいか?

SCP-990: いや、今日はマイケルと呼ばれたい気分だね。

コンドラキ博士: じゃあマイケル──

SCP-990: 気が変わった。やっぱりリチャードがいい。

コンドラキ博士: リチャード、何の用があって俺の夢に現れた?何か伝えたいことがあるから来たんだろ?

SCP-990: その通りだ。私は予言する。前会った博士には不吉とか言われたがね。では──、汝に啓示を与えん。

コンドラキ博士: ふざけてねぇで、さっさと話せ。

SCP-990: 君は明日の晩死ぬ。

コンドラキ博士: ……ほう。なかなか面白いこと言ってくれるじゃねぇか。

SCP-990: 君は中々優秀だからね。君が亡くなると世界の終焉やらが起こりやすくなる。君一人の死で何を、と思うかもしれないが、たとえわずかな変化であっても色々な因果が組み合わせると世界に大きな影響を与えることがあるんだ。こういうのを何というか知っているかい、ちょおちょおたちの王?

コンドラキ博士: ……バタフライ・エフェクト。

SCP-990: ご名答。流石だね。

コンドラキ博士: で、俺に死なれちゃ困るから俺の前に現れたってわけか。待てよ、そもそも俺はなんで死ぬんだ?

SCP-990: そうだな、それは教えなければな。君の死因は──


「──と、ここまでの説明があなたが今朝出してくれた報告書の内容です」

ギアーズは自身のデスクに座り、コンドラキが提出した報告書をトントンと叩く。対面に座るコンドラキは足を組み不機嫌そうに頬杖をついている。

「それでなんで俺が呼び出されなきゃなんねぇんだ?オブジェクトに遭遇した、きちんと報告した。模範的な財団職員じゃねぇか」
「あなたの報告には不備があります。最も重要な点である死因が記述されていません。報告書には『原因が分かったので何とかするから問題ない』とありますが、あなたの計画には副次的な被害が発生する恐れが極めて高く信頼できません。またあなたが完璧に思えても万が一のこともありますので二重三重に予防策を練る必要があります」
「なんだギアーズ、要するに俺の心配をしてくれてるわけか。今日はずいぶん優しいじゃねぇか」
「あなたの誤魔化しは時間稼ぎにしかなりません。回答が無ければこの部屋から退出することはできないでしょう。明日までここで私と過ごしますか?」

コンドラキは舌打ちをする。この男は帰さないといったら決して帰さないという頑固さをコンドラキは十二分に理解しているのだ。瞬間的に銃に手をかけようとしたがどうせ無駄だろうと思いとどまった。立ち上がってギアーズのそばにより耳元にささやきかける。

「……絶対誰にも言うなよ」
「あなたの死を防ぐために必要でないならば」
「いいか絶対だぞ」

数秒の沈黙。コンドラキは意を決して声を振り絞った。

「……し、だ」
「なんです?よく聞こえませんでした」


ペニスの窒息死、だ」


先程より長い沈黙が流れた。

「ペニスの窒息死」

先に口を開いたのはギアーズだった。

「聞いたことない死因ですね。第一ペニスは呼吸器ではありません。窒息という状況は起こり得ないはずですが」
「俺だって聞きてぇよ!でもあの糞スーツがそう言ったんだよ!俺がペットボトルにイチモツを詰まらせて死ぬってな!」
「コンドラキ博士、落ち着いてください」
「やかましい!想像できるか!?お前が入る棺桶は股間のペットボトルが邪魔で蓋が閉まらないってのを丁寧に説明される気持ちをよぉ!?」

デスクを蹴った後にコンドラキは椅子にどんと座る。

「本当にSCP-990があなたにそう予言したのですね」
「この場で俺が嘘をつく理由があるか?」
「ないでしょう。……わかりました、あなたがペニスを挿入できないよう手配を回します。周囲のペットボトルを全て排除するよう指示を出しておきます。──もちろんあなたの死因は隠して」
「わかってくれたようで何よりだよ。じゃあ俺はもう帰っていいな?」
「ええ、お疲れさまでした」

コンドラキはわざとらしく握手を求め、ギアーズはそれに応える。コンドラキは力いっぱい手を握っているがギアーズの表情には一切現れない。


コートを羽織りながらコンドラキは安堵したようにつぶやく。

「まあ、教える相手があんただけで済んで良かったよ。お前は変に秘密を漏らしたりはしないだろうからな。あいつ……クレフやあとブライトの野郎が知ったらどうなっていたことか。俺はすぐに首を括った方がましな目に遭うだろうな」
「そうですか。それは申し訳ないことをしましたね」

ぴたりとコンドラキの動きが止まる。

「おいギアーズ、そいつはどういう意味だ」
「あなたが来る前、ちょうど二人がこの部屋にいまして。報告書の件であなたを呼ぶからと退室させたのですが、あの二人のことですからおそらくどこかで聞き耳を立てていることでしょう」

ギアーズの言葉が終わる間もなく、ガタリという音が隣の部屋でなった。白い汗が噴き出ていたコンドラキの顔が、瞬時にいきり立つペニスのように真っ赤に染まっていった。

「クレフ!ブライト!てめぇら!!────」

コンドラキは扉を蹴り開け、逃げていく二人を追いかけた。銃声と職員の悲鳴は次第に遠ざかっていく。コンドラキの棺桶が閉められるのはどうやらまだまだ先のようだ。静かになった執務室で、ギアーズは飲みかけだったAquafinaラベルのペットボトルをごみ箱に捨てた。

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