空想科学のSCP
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空想科学部門('Pataphysics Department)からの

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あなたが読んでいるこのファイルは上位物語層の物理法則に基づいて、下位物語層の現象を論じるものです。当該ファイルが下位物語層に持ち込まれ拡散した場合、物理法則の改変及びそれに伴うCK-クラス: 再構築シナリオまたはZK-クラス: 現実不全シナリオの発生が誘起される可能性があります。また、当該文書中で言及される「空想科学部門」は'Pataphysics Departmentとは無関係であり、混同することは形而上学的・形而超学的影響を発生させると考えられています。留意してください。

SCP-030-JPは石油を食べる昆虫。栄養バランスは大丈夫なのか?

いや〜日本生類創研の人も面白いものを作るものだなあ。SCP-030-JPは昆虫で、遺伝子的にはカイコガと一致するらしいが、その主食は桑の葉1なんていう生易しいものではない。石油や石油製品を食べて、爆発的に増殖するのだ。プラスチックに支えられた現代文明にとって天敵とすら呼べる存在である。オブジェクトクラスは堂々のKeter。

石油/石油製品を食べる生き物は非異常の生物にはほとんど存在しない2。ところがSCP-030-JPは生きていけるどころか大増殖までしてしまうのだ。さすがはSCPオブジェクト、科学の常識が通用しない。

まずは彼らが石油を食べて生きていけるのか考えていこう。ここでいう「石油」とは「原油」のことだろう。原油とは油田から出てきたそのまま、天然の石油であり、化学的に言えば炭化水素を主成分として、微量の硫黄、窒素、酸素、金属元素などを含む混合物である。ここから沸点の違いなどを利用して物質が分離され、我々が利用するガソリンや軽油などの燃料、プラスチックなどが作られる。

さて、生物に必須な栄養素として代表的なものはタンパク質、脂質、炭水化物、核酸、いくつかのミネラルなどである。これらの構成元素を書き出すと炭素(C) 水素(H) 硫黄(S) 窒素(N) 酸素(O) リン(P) その他金属となる3。原油の組成と比較的近いように見える。リン(P)が足りないように見えるが、もちろん原油にも微量のリンは含まれているだろう。不足がちにはなるかも知れないが、なんとか物質的な収支は取れそうだ。

ところが彼らは財団に収容されているとき、餌として「ポリエステル繊維」を与えられている。これは恐らくポリエチレンテレフタラート(PET)4のことだろう。この物質は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)の原子しか含んでいないから、明らかに栄養素が足りていない!

さて、ここで考えられるのは2つのやり方。SCP-030-JPは硫黄や窒素やリンなしでも生きられる。もしくは食事以外の方法でこれらを摂取している。どちらにしても日本生類創研驚異の科学力である。

まず、硫黄や窒素やリンなしでも生きられるというのはどうだろう。筆者の意見としては、これは違う気がするなあ。遺伝子的にはカイコガと一致すると報告書に記載されている以上、遺伝情報を持つはずで、ということはDNAを持ち、タンパク質を持つはずなのだ。ならばその構成元素は絶対に必要になる。それに、増殖能力の高さが特徴という点でも、生まれた時に持っていた元素を体内でリサイクルするだけでは不十分なはずだ。とするとやはり食事ではない方法でこれらを摂取していると考えるのが自然じゃないだろうか。

次に第2案で考えてみよう。窒素については、食事以外で摂取するのもそう難しくなさそうだ。空気中には窒素が窒素分子(N2)の形で大量に存在している。人間にはこれらを直接利用できないが、マメ科植物の根に共生する根粒菌や、シロアリの腸内微生物など、空気中の窒素分子を利用可能な形に変換できる生物もいる。5SCP-030-JPにもそのような能力があれば問題なく窒素を得ることができる。

硫黄はどうだろうか。窒素と同じように空気中から取るとすると…空気中の硫黄と言えば…二酸化硫黄かなあ?空気の汚れた工業地帯であれば無い話では無いかもしれないが、それでも濃度が足りないんじゃないかなあと思う。二酸化硫黄は喘息を引き起こしたりする、大気汚染の原因物質だ。それを回収できるとなれば「エコロジーキャンペーン」には合致するかもしれないけれど、この小さい虫に一人二役は荷が重くないかなあ?それに、少なくとも財団の収容室の空気はそんなに汚れていないだろうし。同様に、リンも難しそうだ。

外部から摂取出来ないとなると体内での元素変換だろうか。おお、急に「シン・ゴジラ」的な話になってきた。「完全に未知の器官」とはゴジラ細胞だったのか…などと言う冗談は置いておいて、この可能性を真面目に考えてみよう。核融合を行えば、材料の原子よりも重い核の原子を得ることができる。しかし、核融合の莫大なエネルギーをあの小さな体で処理するのは難しいだろう。すぐに蒸発して消え去ってしまいそうだ。それに、そうなればもう石油なんか食べている場合では無い。何を食べても自身の構成元素にできるのだから石油にこだわる必要もなく、水だけでも生きていける!そうなるともう「石油喰らい」じゃなくなってしまう。自身のアイデンティティーのためにも巨大怪獣の真似事は避けてもらいたいものだ。

ここまで考えてきたが、結局原油の栄養バランスが一番良いらしい。うむ、天然食材が一番良いとグルメ漫画とかでも良く言っているではないか。SCP-030-JPには美味しい原油をモリモリ食べて健やかに成長してほしいものである。もちろん地球を埋めつくさない程度にね。

SCP-439-JPを使って地球をバットで打ったらどれほどの力になるのか?

SCP財団にはいくつかスポーツに関係するアノマリーが収容されているが、このSCP-439-JP「ホームラン量産法」はその名の通りホームラン、野球に関係するアノマリーだ。ホームランを量産、なんとも素敵な響きである。そんなことができたら筆者もプロ野球選手になれたのになあ。

SCP-439-JPの大まかな異常性はこうだ。SCP-439-JPは一連の動作であり、これを行なった後にボールを打つと、ボールは必ず、その質量に比例した距離だけ飛ぶ。具体的には(ボールの重量[kg]×1000)[m]の飛距離となる。野球ボールの質量は141.7-148.8 gと決められているから、野球の試合でSCP-439-JPが発生した場合の飛距離は、141.7-148.8 m。ホームランの平均飛距離を調べてみると、概ね110-130 mに収まっているから、140 mも飛ばせれば、かなりハイレベルな選手である。

しかし報告書には続きがある。SCP-439-JPは野球ボールだけでなく、球体に近いものであればなんでも問題なく作用することが判明したのだ。質量が大きければ遠くに飛ぶという性質と合わせると、最も心配なのは我々の住む惑星、地球だ。これはオソロシイ!是非とも収容担当者の皆様には頑張って地球が滅びないようにしてもらいたいものであるが、ここでもし地球が打たれた場合どれほどの力となるのかを考えたい。

さて、先ほどの質量と飛距離の関係式から計算すると、地球が打たれた場合の飛距離は、地球の質量を6.0×1024 kgとして計算すると、6.0×1024×1000=6.0×1027 mとなる。光年に直すと6.3×1011光年ほど。太陽系も銀河系もすっ飛ばして地球から観測可能な宇宙の縁6よりも向こうに飛んでいってしまう。

しかし質問は「どれほどの力になるのか」だから、飛距離から加わる力を考えなくてはいけない。さて、上の飛距離の式は地球の重力下で空気抵抗を受けるボールの飛距離を表しているという点に着目し、地球が受ける力は、地球と同じ質量のボールが地球の重力下で空気抵抗を受けた時の飛距離が6.0×1027mとなる力であると解釈しよう。で、空気抵抗は計算が非常に難しいものになるため今回はないものとする7。また、地球上のボールに働くそれと同様に、理想的に一様な重力加速度の存在する状況を考える。

仮に斜め45°に打ち上げた地球と同質量のボールが着地までに水平方向に6.0×1027 m進むなら、鉛直方向の速度が0になる時、水平方向の距離は3.0×1027mとなる。いわゆる斜方投射だ8。その時間をt、初速度をv0と置くと、-9.8t + v0sin45°=0、3.0×1027=v0tcos45°。これを連立方程式として解くと、t=1.7×1013s、v0 =2.4×1014 m/sで、これは光速の10万倍近くの速度となる。ひええ。さらに着地までは1.7×1013秒=約54万年もかかる。もはや想像もできない。それに、こうなってくるとそもそも古典力学で扱える範疇を完全に超えているので全く実情とはかけ離れていると思われる。

さて、計算する意味があるかも分からないが、最初の疑問への答えは出して終わりたい。この場合の力積9は2.4×1014 × 6.0×1024-0=1.4×1039 N・sだ。うーん、あまりに大きすぎて身近なものと比較しようがない。何もかも完全にお手上げである。天体を動かすというのは大変なことなのだなあ。

dadoはSCP-3521で、バナナを使って致死量の放射線を摂取させようとした。実現可能か?

わはは、9150000 kg のバナナだって。どういうことなんだろうコレ。そもそもSCP-3521はdadoと呼ばれるアマチュア超常薬理学者によって制作されたゲル状医薬錠剤で、この錠剤を飲むと胃の中に大量のバナナが出現して死亡するというもの。質問に出てきた「致死量の放射線」ってどういうこと?と思った読者は続きも読んでほしい。

実はこの薬、dadoが依頼人の暗殺者のために作ったものだった。はじめ、依頼人はdadoに暗殺用のプルトニウム10を調達するよう依頼した。しかしdadoはプルトニウムは追跡されやすいと言い、代案としてカリウムを提案する。実際、プルトニウムが法で規制されている一方、カリウムはバナナにも含まれるような身近な物質である。

そう言う訳で、dadoは致死量の放射線を摂取させる目的でカリウムを含むバナナを大量に生み出す薬を作成し、完成したものがSCP-3521。そして、財団がDクラス職員にSCP-3521を飲ませる実験を行ったところ、9150000 kg のバナナによってサイトが押しつぶされてしまった。放射線で殺すというより質量で殺してしまっている。

さて、実はバナナはバナナ等価線量(Banana Equivalent Dose)11という言葉があるくらいに、放射能と縁のある食べ物だ。なぜバナナなのか、それは「バナナにはカリウムが多く含まれる」ことと「天然のカリウムには放射性同位体が多く含まれる」ことの2つによる。カリウムの放射性同位体であるカリウム40は、自然界のカリウムのうち、0.0117%を占める。そしてバナナ1本にはカリウムが約422 mg含まれているので、バナナ1本にカリウム40は0.049 mg程含まれていることになるという訳だ。

ここで少し計算してみたい。実際にバナナに含まれる放射性物質による等価線量を致死量の放射線量と数値上同じにするためには一体何 gのバナナが必要なのか?1 BED=0.1 μSvとし、放射線の致死量として、99%の人が死亡するとされる6 Svを採用する。すると、60000000 BEDとなる。つまりバナナ6千万本の放射線を1度に浴びた場合、99%死亡する計算となる12。SCP-3521の報告書には、出現するバナナの本数について、「確認不可能だが5千万本を超える可能性がある」という表現があるから、近い値なのではないだろうか。さらに、バナナ1本を140 gとすると、8400000 kgとなり、前述の 9150000 kgと大体合っている計算になる。

ここに含まれている放射性物質の放つ放射線を一気に浴びれば当然死亡するのだろうが、実際にはカリウムはバナナの内部に含まれている。つまり、バナナが出現するだけではそこに致死量の放射線源が含まれていようが、積み重なったバナナの果肉や皮に阻まれ、人間に全て届かないだろう。そもそもその前に圧死するし。食べて内部被爆するとしても、1個ずつ食べていたらどれほどの時間かかるか分からない。当然その間摂取したカリウムが体内に止まってはくれない。だから、疑問に対する答えは、「数字上は可能な量を用意しているが、現実的には不可能である」ということになるだろう。

では逆に、依頼人の当初の予定通りにプルトニウムを使用した場合はどうだろう。プルトニウムが放射する放射線の多くはα線と呼ばれる種類のものである。α線は物質を透過す る能力が弱い一方で、高いエネルギーを持つ。つまり、人体からすると、外から飛んできても弾き返せるが、体内に入ってしまうと大変な物質ということである。食べ物に混ぜて暗殺するなら悪くない選択肢のように思える。

一般的な原子炉において作られるプルトニウム13中の存在比が多い、プルトニウム239とプルトニウム240を使って考えたい。存在比がおよそ 6:4 だと仮定すると、1 g のプルトニウムの放射能は 4.74 GBq となる。プルトニウムを経口摂取した場合、4000 Bq で 1 mSv の被曝とされているので、1 g あたり 1185 Sv となる。致死量を6 Svとすると、数字上はプルトニウムなら0.005 gで暗殺可能という訳である。

質量で言えばバナナの 1兆8300億分の1で済んでしまう。dadoはプルトニウムは目立つ、カリウムは目立たないと言ってこの薬を作った訳だが、0.005 g のプルトニウムと 9150000 kg のバナナ、果たしてどちらが目立つのだろうか。

SCP-2433をバーニー氏への支援として利用するにはどれくらいの"いいね"が必要か?

ふむふむ、コレは面白い。SCP-2433はアメリカ上院議員のバーニー・サンダースさんが演説をしている画像なのだが、コレを加工した画像14をオンライン上で共有したり、それについて話したり、あるいは"いいね"などのアクションを起こすと、本物のバーニー・サンダースさんの近くに25セント硬貨が現れる。で、この25セント硬貨をコツコツ集めて政治資金として使うのに十分な量集めるには一体幾つのいいねが必要なの?という話。

2020年の大統領選挙の選挙活動において、サンダースさんが第1四半期に集めた金額は1800万ドルだそうだ15。うーむ、一般庶民には夢の世界ですな。とは言えバーニーさんはこのお金を比較的少額の個人の献金を集めて得ているようだ16。ロイター通信社の報道によれば、1800万ドルのうち、約84%が200ドル未満の個人の献金からだという。

1800万ドルの84%だから、約1500万ドル。全員が最大値の200ドルを献金したとして計算しても75000人が献金している。実際はもっと多くの人が献金しているはずだ。少額ずつが集まって大きな力に…と考えると、意外と25セント硬貨もバカにできないかもしれない。

ひとまず、25セント硬貨で200ドルの献金分にするには何回いいねをすればいいだろうか?1ドル=100セントだから、25セント硬貨は4枚で1ドル。200ドル分だと800枚。800回のいいねでいいなら意外と少ないかも17。硬貨は1枚5.67 g18だから、800枚あれば4536 gで、4.5 kgくらい。余裕で現実的な値か。ちなみに収容プロトコルの制定以前、この異常性は平均して毎時90回発現していたそうなので、9時間ほどでこの金額は集まる計算になる。

コレではちょっとつまらない。せっかくなのでもっとスケールを上げてみよう。第1四半期に集めた金額の1%を25セント硬貨で賄うとしたら?18万ドルだから、25セント硬貨72万枚。いいね72万回となると、かなり大変だ。質量は4000 kg近くなる。体積は、1枚0.8 mLだから、576 L。まあ多いが、非現実的というほどでもない。うーんさっきまでのが強烈すぎて感覚が麻痺しているなあ。

と、質問のハガキをよく見ると続きがあった。「バーニー氏を財団に雇用し、SCP-2433を利用して資金を得ることは現実的か?」だって。よく見ると差出人はシェルドン・カッツカツさん。資金難の中、定期購読してくださっているとは本当にありがたい19。その期待に応えるべく、このことについても考えてみよう。

お金を稼ぐことが現実的かどうかというのは、単位時間当たりに得られる金額が重要だ。いくら高額でも何年もかけないと得られないようでは意味がない。"いいね"をして、それを取り消す20のにかかる時間を1秒としよう。コレを1時間続けた場合、3600回のいいねが可能である。すると1時間に900ドル21の稼ぎとなる。おお、時給10万円と考えるとかなりコスパが良さそうに見える22。1時間ぶっ続けでいいねをし続けることで精神が参ってしまうリスク、腱鞘炎になってしまうリスク、あるいはどうやってバーニーさんを雇用するかという問題はあるものの、かなり高給な仕事にはなりそうだ。皆さんも、自分のコラ画像をいいねすれば自分にお金が入る状況になったら、ぜひ試してみてほしい。

著者紹介

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葦沢 科学雄

1970年、██████生まれ。名前は偽名。2021年から、勝手にSCP財団空想科学部門(Department of Dream Science)を名乗って活動している。文章では「ゴジラ」と書くが、話す時には「ガッジーラ」と発音する。



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