無価値な夢

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ドリームスケープ・コレクティブは素晴らしい場所だ。現実を忘れられる場所で、人々が生きている単調で正常な苦難から遠く離れた場所だ。少なくとも、暖かな人々で満ちているうちは、そうであった。

件の出来事はそれを不可能にした。ある日、そこにいた人々はとうとう、いつものように、哀れな生活へと目を覚まさざるを得なくなり、彼らは結局のところ、自分が自分の中にまだあるのだと気付かされるのだ。その体は全て理由も満足に分からないまま— 殺されて —しまった。蒸発し、溶けるようなことが起ころうとも、その瞬間に重要とされたのはその結末のみだ。

元肉体者は何を考えればいいのか確証を持てないままだった。それは真実への気づきを否定することが原因となりもたらされた不確実性だったのだ。多くの人々は混乱に陥ったが、そのことを受け入れていった。彼らは泡沫の夢の外を生き続け、なぜこのようなことが起こったのか、起こってしまったのかという邪魔な思考を押し流してくれることを期待した。しかしそんな期待は長く続かず、全ての活動には反応が伴い、全ての出来事には結果が伴うこととなる。

肉体者の意識は、そうしたらどうなるかを考えない方法では、肉体から切り離すなど夢のまた夢だ。それを知る人々は当初、気にも留めていなかったが、結果的に、自身の泡沫の夢の中が異質なものに思えるようになっていた。彼らは夢がひどいものと感じられるようになるまでは、そのことも気に留めていなかったのに。夢の中が味気ないと感じられるところからはじまり、その後彼らは、焦げた未来を通じてそのことを知覚する。かつて空を飛ぶのがとても好きだったという人々はその愛を亡きものにされた。彼らはただ空を飛んでいただけなのに。お気に入りの犬種の犬と散歩をしていた人々は、散歩に関心を持たなくなってしまった。犬と歩いてはいたが、心が空っぽになった人々は本能的に適切と感じたことをしたまでだった。

無価値化は進んでいった。舌の焼けるような感触ももはや過去のものだ。人々の泡沫の夢はもはや泡沫というほどでもない。もはや夢のようなものですらない。何らかの恐怖を含んでいたので、彼らはこれらのことを悪夢と言葉にすることが出来なかった。恐怖も、終いには何もなくなっていた。地面から離れ、空を飛んでいた人々は何らかの動物と歩いていた。その姿形はどちらも馴染んでいた。切り離された心である夢は、目覚めと眠りの間では言い表せないような虚空、真の虚空へと溶け込んでいった。

その日まで非肉体者であった者達は、何もすることがなかった。何の癒しもなく、何の善意も、腐敗から停滞に修復できる確かな夢もなかった。彼らにできたことは、目を背けるか、病的なほどの畏怖の念を抱きながらも目を向けるかであった。


O5-13は彼らの夢への扉を開いた。彼らは何が起きたか知っており、何が起ころうとしていたのかも知っており、何が起こっているのかも知っていた。彼らはかつて見ることのできた人々が、ここのような空想上の場所の外だけで生き延びているのを目にした。彼らはそのことから目を背けたが、熱の不在は寒さを感じさせるのと同じように、彼らは自身の不在を感じられた。彼らはブロードウェイに出たくてたまらないと思っている少女を見ることはなく、他の何かを見たのだ。何かの中の何か。無の中の無。彼らは不在を操り、非肉体者を見るしかできなかった。

何をしているのですか?」O5-13は尋ねた。

我々は彼らを、誰も見てはならぬ場へと連れていく。誰一人、もはや見ようともしない場所に、だ

手を貸してはくれないか?」彼らはそう答えた。

ご自身でお尋ねになったらどうでしょう。その気になったら

彼はブロードウェイのスターのような動きを見せた。

聞こえているか?誰かいるのか?我々は助けを求めている、あなたは今すぐ目を覚ます必要がある、どうか目を覚ましてくれ。お願いだ

そうですね」ブロードウェイのスターのように動き回る者はそう言って、「あなたのような方は自身で答えに向かっていくと思っていますよ

違う。違う……

O5-13は顔を合わせたいとは思っておらず、彼らもドアを閉めきってしまった。彼らは自身で閉じてしまった、持っていた夢も、全て。ぴったりと閉じられたドアを、O5は押した。彼らは自身を外へ押し出すと、恐ろしい現実が実際に到達することがないように、彼ら自身が持つ夢の風景を遠くまで十分に押し出した。彼らは間違いなく、一人ぼっちになるまで押すのをやめなかった。孤独の中で、彼らは戻ろうと考えた。何が起こりえて、何がおこりえなかったのか、なぜ人々の命が守られるどころか失われたのか、追想にふけっていた。こういった考えは彼の夢を新しいペンキで塗りつぶした。時に罪を連想させるような不愉快な色合いのペンキで。

O5-13は何をすることができたのかとじっくり考えていたが、そうしている間にも時は数えられないほどの早さで過ぎていった。


オーストラリアと呼ばれる場所の、荒野に放棄され長い時の経ったバンカーの中で、ある機械がウィーンとうなるような音を出し続けていた。電源はバンカーから何世紀も前に失われていたが、その機械は動作を続けていた。何が燃料となっているのかは分からない。塗装は剥がれ腐ったような色が露呈しており、金属部分はさび付いていた。それでもなお緑色の「オン」のライトは依然として輝いていた。だが数十億年に一度だけ、何かが起こる。機械のうなるような音は速くなっていき、ライトも点滅する。下部にある小さなスクリーンが1ポンド分の塵を通してメッセージを表示した。

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