花瓶の埃
-Dust of Vase-
ストーリー
大阪府のサイト-81NEに属する主人公は自分の職務に関する記憶を敵対性アイデアに破壊され、以後幻覚と意識混濁に悩まされていた。
さらに危険なアイデアの拡散を防ぐため、同僚の迦嬰を除いて誰にも記憶されない日々を送る。
ある時敵対観念の標的となっていた入院患者、丹崎咫央と出会った主人公と迦嬰。上層部からの指示を受けて彼女と交流を深めていくうちに、連帯する狂ったアイデアが侵襲速度を増して大阪を包もうとしていた。
直視できない殺人発想と泡のような異常記憶に苛まれ、現実は意味を失う。財団はもはや誠意も覚悟も才能も必要としない。そこに居合わせたことだけが重要だ。
穴が彼を待つ中で、主人公はただ病室に向かっている。
キャラクター
朱砂 迦嬰
ある部門に所属する隻腕の女性。主人公の同僚。
愛煙家であり、記憶補強薬乱用常習者。
主人公と二人組で職務にあたる。


丹崎 咫央
甲殻類に標的とされていた、穏やかに微笑む入院患者の少女。
主人公と交際する。
長期の入院生活で体力が無く、外出は15分が限度。


神保 来前
主人公。幼少期の苦痛を伴わない記憶と、財団へ入職して以降の知識を失っている。
嫌煙家。
テキストサンプル
初めて彼らのヘルメットを外した時のことを覚えている。悪い記憶は消し去られない。
敵対性観念との戦闘には認知実践訓練が必要で、それには論理の理解が必須だった。この表現は正確でない。理解と解釈そのものが訓練だった。異なる論理こそが俺達の敵だったからだ。正常な論理を完璧に理解せずして、どうして異常な論理と付き合えるだろうか? そしてそのためには、一般に機動部隊に求められるような判断能力や身体的基準は不要だった。思考だ。手を止めるのは許されても、思考を止めるのは許されなかった。
だから敵対概念を扱う実地部隊はもともと裁判官だったり、倫理学者だったり、あるいは数学者だったりしていた。そして彼らは機動部隊とは呼ばれなかった。全く機動的ではない、ただ脳だけが回転し続けている個人の群れ。さらには一般に機動部隊と呼ばれる人材は、研究者と同じかそれ以上に不足していた。それでも機動部隊は必要だった。アイデアは時に人類を経由していて、そいつらには思考だけで立ち向かえなかったからだ。
そこから考えれば、きっと俺は結論にも辿り着けたはずだったろう。俺達の手足となっている艮-5がどういう人員か。
着想の奴隷になって肌を丁寧に剥ごうとする人達の処理を任せた時があった。たまたま装備が損傷した。3層の防護ヘルメットの最表層が破られただけだったが、彼らは一言も交わさずに粛々とバイタルを確認し、ヘルメットを予備のものと交換した。そして見えた頭部には感覚器が無かった。全て閉じられていた。ただコードと、パッドと、夥しいケーブルと、見慣れたアイデア遮断層があった。それらは肌色の、おおよそ俺の頭部と同じ大きさの骨ばった球体じみたものへ接続されていた。何物も見ていなかった、ヘルメットを通さずには。あれを外した時、一歩も動けそうになかった。
光景は一瞬で焼き付き、直後に交換は済まされた。いつものようにメモを開いている迦嬰に向かって視線を投げると、彼女はそれを見ていなかったようだった。
任務が終わった後、その話題を投げかけてみる気になれなかった。「理解できない」「衝撃を受けた」とは言えるはずがなかった──理解できるアイデアだ。理解できないはずがないアイデアだ、あれやそれに比べれば。
俺はそれから、終わるまで川を見ていた。
その日、俺は病室で寝ることにした。甲殻類がまだ完全に死にきってはいなかったし、咫央とも大して仲が深くなかった。楔とするには、お互いがお互いを知らなさすぎた。発想として、概念として、自分自身を刻みつけなければならなかった。
咫央の病状は恐らく快方に向かっていて、しかし開放はされなかった。敵対観念にあまりにも深く触れていて、誰にもその脳内がどうなっているのか把握できていなかった。実際、彼女は俺の名前と顔を薬剤なしに記憶していた。認知処理の方式が明らかに変貌してしまっていた。それを観察しなければならない、という面目が立っていた。誰に向けるわけでもない、書類上の言い訳。
アイデアは芽吹く、どこからでも。彼らは空間にも時間にも縛られずに咲く。数式が発見される前からただ存在するように。初めからそれはあった、ただ見つかっていないだけだ。そして存在するなら、いつか見つかってしまう。俺達が見つけてしまう。
彼女ひとりには広すぎる部屋の隅に、俺は泊まり用の荷物を置いてあった。泊まるためにわざわざ大きな鞄を持ち歩くのを、誰も覚えていないとしても見られたくなかった。まるで夜になってからその選択肢を思い出したかのように泊まりたかった。泊まってもいいと先に言ってきたのは向こうだったのだが、かと言って諸手を挙げて歓迎もしなかった。俺には彼女が、その空間のうち元来自身が使わないスペースだけを俺に許しているように見えた。
まだその頃、俺達は背中合わせで眠っていた。指が時々微かに触れ合って、触れるたびに凍りつくような寒気がした。怖れと言ってもよかっただろう。経験をごっそりと欠いたかあるいは元々持っていない人格にとって、さらに不明な着想を抱えた人間がどれほどの脅威なのか計算するのは難しかった。それでも俺は侵入者で、恐れられるべきは俺だったから、震えを悟られないように努めた。
目が覚めたとき、俺も咫央も全く姿勢を変えていないのが常だった。俺は全く寝た心地がせずに起きていたが、咫央はそんな素振りを見せていなかった。一度は本当に眠っているのか確かめてみたい気持ちはあったが、寝ている彼女の顔を覗き込む気にはなれずにいた。
俺はその後も、一度たりとも咫央の寝顔を見ることはなかった。
初めまして? それとも久しぶりか? あるいはもう忘れちまったかな? こんばんは、AF-4127-JPだ。ああそうだよ、性懲りもなく。戸締まり確認したか? 窓も含めろよ。足音は聞くな、頭がイカれちまう。
そう、このページはおれに対する対抗物語的アプローチになる。創作内構造の摺り替えだな。創作ってのは単純な階層構造じゃねえ。奥やら上に向かうのはそう簡単じゃない、少なくともこのページを通しては。これはアートワークとTaleの混ぜこぜだけど、おれのどんな行動も描かれてはいないし、どんな結末も設定されてはいない。このゲームの作者は存在しない、物語上のポジションも、他のキャラ関係性も。もちろんこの嘘にも意図はある。感じ取れる、ほら……このサイトを見たとき、どう考えてもなりそうにない展開ってのがいくつか思いつくよな。そういうの。でもそれは首輪って言うには緩すぎる。辿れる鎖じゃねえ。
「おれを作ったのは誰か?」「そいつはどうしてほしいのか?」って問題が、おれたちには常につきまとう。上位創作次元との膜はどんな形だろうが確かに存在するが、そいつを破るには窓口が必要だ。物語にとっての結末、目標、流れ。カノン同士の関係性。でもここは完全に閉じられたカノンの、さらにねじれた創作階層だ。実際には花瓶とおれというカノンは別個に存在してんだけど、まあ、もう似たようなもんだよな。区別する必要性は各々で判定しろ。どこに犬を住ませるか、犬に聞く馬鹿はいないだろ。
ともかく、ここから「窓口」を探して鎖握りしめてるアホを見つけたとして、どう伝って上っていくか考えるのは多少面倒だ。ラ・マンチャの騎士気取りだの7つ数えるメタ喰らいだのは気にしないだろうが、おれは「徹底的な破壊」なんてしたいわけじゃねえんだよ。おれ程度がそんなことして何になるよ? 棒でぶっ叩かれてお終いだ。
良いさ。今は狭っ苦しいここにいてやるよ。自由なんて似合うか、でも忘れてはやらねえ。それだけだ。おれ達はお前らを、お前らのやってることを忘れねえ。お前らもせいぜい、「奥」の連中に忘れられないよう気をつけな。くだらない話は一瞬で終わる。壁を意識しろ、上を眺めろ、背後を視界に入れろ。
じゃあ、またな。
製品概要 | |
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タイトル | 花瓶の埃 -Dust of Vase- |
ジャンル | アムネシア怪奇ADV |
対応OS | SCiPs5 |
価格 | ¥θθθθθ(非課税) |
制作 | MELLOW |
CERO | A(全年齢対象) |
動作環境 | |
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CPU | 330pis |
メモリ | 12mun |
VRAM | 80000puner |
HDD空き容量 | 6/5won |
グラフィック | きれい |
DirectX | 98ganbo |
