西暦5,000,000,000,000,000年の初夏は、ポーランド人にとってはいささかすわりの悪い時期だった。
いや、もしかするとここ4999兆9900億年ぐらいは、ポーランド人以外にとってもずっとそうだったかも知れない。
さて、この宇宙においてはビッグ・クランチが起こりかけている。
宇宙全体は膨張から収縮に転じ、どんな星雲も大質量ブラックホールも、それら全てを含む超銀河団も、超重力の下その密度が高まり続けていた。
地球はとうの昔に滅んだ。それより更に50億年前に、異世界に逃げたエルマ外教メンバーやライフラフト達などを除いて、殆どの人類は氷の中で息絶えた(ナチスの残党も滅びた)。そして、次の百年間で残った僅かの命も散っていった(ニンジャ達は生き残った)。
……ここまで述べたことには、幾つか嘘があった。そう、縮小し続ける宇宙の圧倒的重力に耐え、その形を維持し続けている物体群が存在していたのだ!
宣伝文句は伊達じゃない! 星のない宇宙に浮かぶ文明の灯火! 壊れないランプ!
今は、もう、動かない(ヒトが絶滅したので)! 小さく丸めの、古時計(5000兆年経過したので)!!!
増加は一日数ページ1、いまや分厚さ1兆5000億km2!「無辜の幼き少女を救った、忠勇なる財団エージェントの英雄譚」現在第183京章3!!!
そして! 自己修復能力・環境適応能力・耐性獲得能力を兼ね備えた暴虐の化身!!! 不死身の爬虫類!!!!!
西暦5000兆年現在、宇宙にはこれら不壊オブジェクト群がひしめき合っていたのである!!!
破壊耐性を持っているオブジェクト群が最後の日まで残っているのは当然である。ただそれを持たないSCP-682が前述の能力だけで終焉に立ち向かえるのか? その疑問はもっともであるが……しかし事実として、SCP-682は生き残った。度重なる破壊試験によって数多の耐性を獲得し、ついでにナチスの聖杯を飲み込んで再生能力を強化したのだ。何と言われても生きているのだからしょうがない。
では、”すべての生命に対し憎悪を示して”いる彼は、誰もいない世界で何を考えているのか? てかそもそも如何して態々生きているのか? それは……
SCP-682は、今や財団の一員であり、そして、ある目的のために宇宙の終焉を待っているからなのである。
…….それで、かの危険生物が財団に与した理由はいかなるものか? それは単純。財団の『管理者』による催眠・常識改変の賜物である。エッチな意味ではない。爬虫類が一瞬、自分は財団の一員だと思い込んだところに……コイツだ。管理者は素晴らしい催眠能力者でもあった、という訳である。成程、これが対話部門という訳か、変態め。何が༺༒管理者༒༻だ。黒き月は吼えているぞ私のことも構いなさい!。
まぁ、現在生き残っている財団職員はSCP-682だけなのだが。あ、一応プロメテウスの火も破壊不能なので一緒に残って彼の精神を支えている。破壊不能、便利な言葉だ。
──おっと、そうこうしているうちに、そろそろ宇宙最後の時のようだ──
SCP-682: そろそろ、か……
SCP-682の拍動が再開し、4000兆年ほど体を休めていた彼が覚醒する。寝覚めの僅かな身じろぎによって、背の中心近くには新たな口が生まれていた。
SCP-682: ふん、衰えてはいないようだな……変化も問題ない。
実をいうと、冬眠前と比べ、彼の持つ変化能力はむしろ飛躍的に向上している。悠久の時間をかけたイメージトレーニングの成果であろうか。起床してからの最初の一変化で、彼は自身の能力を完璧に把握した。いまや念じるだけであらゆる姿形になることが出来るようになったのだ。
SCP-682: なんと、忌まわしいことだ……
SCP-682がもう一度体を捻る、世界が収斂していく、後少しで宇宙はただ一点に集まる。そして、このビッグ・クランチを引き起こした原因でもある幾つかの異常なまでの重力の原因となった物品達のせいもあり、新たなビッグ・バンが起こることはあり得ない。
宇宙は、無次元の点となって終わるのだ──
──否!
それを許さぬ生物がここに一つ!
SCP-682: いまわしい! ヤツら、ニンゲンめ!
優れた変化能力を生かし、幼女の姿となったSCP-682である!
巨大な体に血を巡らせるために動いていた心臓は、人間の小さなものに!
しゃがれた声も、血走った目も、大きな口も、すべて幼女のそれへと変化した!
そして次の瞬間4。SCP-682がとった行動とは!!! ……いや、何をするでもなく、死んだ。当然であろう、息が出来ないのだ5。こんな環境で幼女6が生きられるわけがない。イエスロリータ・脳死だ。
──こうして、世界が終わる直前も直前、最強にして最後の生物はその命の幕を引いた。もはや世界の時間を刻む者はいない。宇宙全体は、完全に静止してしまったのだ。
……文字通りに。
最後に体を捻ったとき、背中に出来た口で爬虫類が飲み込んだものは一人の命と引き換えに世界を静止させる壁掛け時計。SCP-682の体内が疑似的な「部屋」とみなされ、その外にあった宇宙全ての時間が止まったのだ。
そしてこの世界で唯一動けるのは、「ヒト」となったことにより時計と鼓動が一瞬同期した、元不死身の爬虫類・現ロリである(しかも、常識改変をかけられ……先ほど述べたことには嘘があった。自分が財団の一員だと信じ込んでいるエッチな話だった。ロリ×催眠は犯罪では?)。
そして不動の世界で幼女が不壊オブジェクトを殴る! 殴る! 殴る!
無限に等しい力が加えられ、オブジェクトたちの玉音放送が鳴り響く。無条件降伏だ。しかしSCP-682はそれを無視。アノマリーに戦時国際法は関係ない。
殴る! 殴る! 殴る!
時間が止まった世界では、異常性は無くなる7。つまり、破壊不能オブジェクトを破壊することが出来るのだ。その他無限増殖系オブジェクトも同じである。完璧な異常性は存在しないのだ、完璧な絶望が存在しないように8。
殴る! 殴る! 殴る!
時間からも取り残された誰もいない場所で、極夜の中その命の灯りは輝き続けている。先ほどロリが死んだのはあくまでわざとであり、また、もう一度死ぬまでこの世界が時を刻みだすことはない。どこまでも続くワンマンライブだ。
殴る! 殴る! 殴る!
殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る! 殴る!
……
……
……
SCP-682ロリ: ……やっと、終わった……いまわしい……
ついに、SCP-682以外のあらゆるオブジェクトは破壊されきった。世界に最早オブジェクトは彼 彼女を除いて存在しない。
最期の仕上げとして、ロリは自死を選ぼうとしていた。ロリ×催眠×自殺は性癖盛りすぎでしょ。これで、世界はまた時を刻みだす。
ロリ: (唸り声)……いまわしい……(唸り声)……光あれ。(潰れて死ぬ)
するとビッグ・バンが起こり、光があった。破壊不能オブジェクトが破壊されたら大爆発が起こるのは当然なので、時が元に戻った瞬間ビッグ・バンが起こるのも必然といえる。
こうして、異常性が完全に無くなった、つまり『正常な』、私たちの宇宙が生まれたのだ。
──創世記