イーティング・クロウ
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入院患者情報

患者#:_00245686_ 患者名: _ジョン・███████_ 入院日時: _2017/05/06_
性別: _男性__ 人種: _白人__ 髪: ___ 目: __ 年齢: _32_ 身長: _186 cm_ 体重: _81.2 kg_
緊急連絡先: _ノーラ・███████ (妻)_

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  • 患者は鳥に対する不合理な恐怖心を唐突に訴えた後、心理学的評価のために精神科病棟に入院した。患者は新たに発症した鳥恐怖症のため、家を離れることが恐ろしいと述べた。患者の妻は、彼が窓を見るのを恐れて(患者宅の庭には様々な鳥が頻繁に姿を現すとのこと)一緒の食事を拒否し始めた後に、病院へ向かうように彼を説得した。患者は短期間で退院した。

医師の注記: ジョンやノーラと話してみたが、どちらもジョンの突然の鳥恐怖症、具体的にはカラスに対するものを説明付けることができなかった。ジョンはカラスについて話したり考えたりすることに消極的らしく、羽や嘴に落ち着かない気分を感じると述べている。以前のジョンはカラスに餌を与えることを好んでいて、夫婦は両者ともにカラスに対する敵意も、庭の外でカラスから襲われた記憶も無かった。認知行動療法を提案し、容態が悪化するようであればベンゾジアゼピン(軽度の精神安定剤)の処方を検討する。今回の症例はこれで終了と見做すが、彼らが戻ってくるようであれば再開する。


  • 患者は2017/05/23、1羽のカラスが偶然煙突から家屋内に入り込んだ後に妻が述べるところの“精神崩壊”を起こし、再来院した。報告によると患者はバスルームに閉じこもって2日間退出を拒否し、妻が強制的にドアを開けて車まで引きずっていったとのこと。バスルームを2日間離れなかったため、患者は栄養不良状態であり、最後の来院以来体重が激減していた。患者は2日後に退院したが、病院を離れることに不安を感じていた。ベンゾジアゼピンを処方(1日2回、食べ物と共に経口摂取)。

医師の注記: 再びジョン、ノーラと話をした。2人とも神経が参っているようだ。ジョンは最早“カラス”という言葉を口に出して言うことすら出来ない、間違いなく悪化している。精神安定剤を処方し、ノーラは彼にしっかり食事を摂らせると言ってくれた。この短期間に彼がどれだけ体重を失ったかを思うと不安だ。彼は胃や下半身の痛みも訴えていたが、これは2日間何も食べていなかったのが原因ではないかと思う。ハンバーガーを与えた。いずれにせよ、私は彼がすぐに回復するだろうと楽観的に見ている。


  • 患者は2017/06/03に再度来院し、激しい腹痛と全身の筋肉痛を訴えた。精神安定剤は患者の鳥恐怖症を和らげるうえで幾分有効だったものの、患者は次第にそれに依存するようになり、幾つかのケースでは推奨量の2倍を摂取していた。患者はX線検査を受け、骨が部分的に中空になって激しい体の痛みを引き起こしていることが判明。また、分析によって、これまで存在していなかった新しい組織塊が胃や腸に繋がっていることが明らかになった。患者は現在407号室に、患者00247851と共に入院中。

医師の注記: 夫婦はどちらも何が起きているか全く分かっていないらしい。X線検査の結果を出すとノーラは今にも泣き崩れそうになった。ジョンはこれまでの振舞いとは対照的に、奇妙なほど落ち着いて状況を受け止めていたが、これは精神安定剤のおかげかもしれない。赤血球の不足で死んでいてもおかしくないはずだが、彼は比較的健康体のようだ。407号室を出ると、私が自力では気付かなかった奇妙に思える点をノーラが教えてくれた。ジョンの目が黒くなっているのだ。虹彩異色症の珍しい症例だろうか? 彼はホルネル症候群や異色性虹彩毛様体炎の症状を示しているようには思われないし、虹彩の色の変化を引き起こす可能性のある他の健康状態も確認できず、特筆すべき視力の問題もない。これを思うと幸せな気分にはなれないが、私たちには待つことしかできない。


  • 2017/06/07、患者の頭皮および前腕に多数の角質突起が成長し始めた。これらは軽度の不快感のみを引き起こしている反面、重大な心理的苦痛に繋がっている。患者の姿勢もまた顕著に悪化しつつある。

医師の注記: ジョンとノーラのプライバシーのためにもこれを公開するつもりはないが、私たちはますます何をすべきか分からなくなっている。郡の半分から医者が来ているというのに、誰も成果を出せずにいる。ジョンの方は精神状態が悪化している。彼は私が何を話しているか理解するのが困難らしく、私に向き直る際には頭だけを横に回す奇妙な癖がついた。同室の患者も私同様、彼の行動に不安を覚えている。看護スタッフは彼の世話をすることが困難だ、この分では精神科病棟への移送を検討しなければならない。


  • 患者は、患者00247851に対するいわれのない攻撃に続き、精神科病棟606号室に移動になった。事件の際、患者00245686は自分のベッドを離れ、眠っていた患者00247851の上に乗って、腕を大きく上下に振りながら顔を標的に噛み付きや蹴りを加えた。患者00245686は速やかに鎮静され、両者とも軽微な痣と擦過傷を負うにとどまった。患者は自分がなぜ他人を攻撃したか明確に理解しておらず、事件後には取り乱して反応を示さなくなった。

医師の注記: 私にはこれをどうすべきか分からない。私は、患者が肉体的に影響する何かしらに加えて、ある種の精神病を患っているのではないかと疑い始めている。同じ存在になることで唐突な鳥恐怖症に対処するという彼なりの方法なのだろうか? だが、彼の肉体面の疾患はと言えば、角質突起が表出し続けている。うち幾つかは原始的な羽毛のような柔らかい細糸を発達させ始めている。彼の腹部で発見された組織塊は砂嚢のようなものになり、胃石が数個現れ始めている。一体この男には何が起こっているんだ?


  • 2017/06/27、患者は予告なく部屋を離れ、廊下を走り去った。患者は約30分間見つからなかったが、やがて看護師によって中庭で発見された。発見時の患者はその場で飛び跳ねながらかすれた声を上げ、近くの鳥を追い、ある医師のオフィスから盗んだサンドイッチの残りを食べていた。患者は問題なく部屋に戻された。保護スタッフは、開いていなかったはずの2階の窓が開放され、周囲に“黒いフワフワ”の跡が残っていることに着目した。

医師の注記: ジョンの“羽”は以前より遥かに早く伸びている。今や細糸が生えた角質突起ではなく、明確な羽だ。その下には少量の綿毛が生じ始めている。彼はもう話をしようとせず、自分がどういう時に話すべきなのか判断するのが困難であるようだ。精神病は — 仮に現時点でそう呼べるとすれば — 余りにも進行している。数週間前にある考えが私の頭に浮かんだが、その時は不条理だったので一蹴した。今では私はほぼ確信している。ジョンはカラスの行動を真似ているだけではない。彼はカラスに変わりつつある。馬鹿げた話だが、それが私たちに考え付く最も論理的な帰結なのだ。ジョンの妻は彼の様子を見に来るのを止めた。彼女のことは責められない、ジョンは最早かつての彼ではないのだから。私たちのやっていることは、肉体面でも医学面でも、彼の容態進行を減速させているようには思われない。私たちは文字通り、そして物理的にも途方に暮れている。


  • 患者は2017/07/25に失踪が報告された。最後に目撃された患者00245686は、明確な理由無く自室を飛び出して最も近くの窓に全速力で駆け寄り、ガラスを突き破って飛び出した。現在の患者の行方は不明であり、屋外で遺体は発見されなかった。転落はほぼ確実に致死的な結果を招いたと思われる。

医師の注記: ジョンは飛び去った。無論こんなことを公式の説明として出す訳にはいかないが、私たちは皆そうだと知っている。ノーラに電話したものの、彼女はもう出ようともしない。私が連絡を取っている同僚は、ある人々 — S&C Pharmaceuticalsと呼んでいた — を知っていて、彼らならこの状況を把握し、ジョンを助け出す方法を見つけ出せるかもしれないと言う。彼のためにも、そうであることを願っている。

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結び

患者ステータス:_失踪_
健康診断のための再来院予定: _N/A_
症例ステータス: __

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