エンキドゥ
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ギルガメシュ叙事詩は最古の書物のひとつであり、人類によって書かれた(とにかく、今の人々が覚えている)最も古い物語のひとつでもある。数千年を越えて幾度も幾度も語られてきた物語だ――誇りについて、復活について、摂理に抗った男の永遠の苦難、そして彼の天命の受容について。

ギルガメシュはウルクの偉大な王だ。賢く、強靭で、戦いに破れたことの無く、半神の身である、全ての世界で最も強大な統治者の一人だった。彼はまた尊大で、利己的で、臣民に対して残酷だった。民は神へ救いを希い、神々はエンキドゥ――大地の粘土から創られた野人を、恐怖による統治を終わらせ王に役目を教えるために遣わされた。しかし彼はギルガメシュを力で打ち負かさずに偉大な王の友となり、二人は兄弟のように親しくなった。共に、彼らは神々の送り込んでくる恐ろしきものを全て破っていく――恐ろしき巨人フンババ、暴れ狂う天の雄牛、歴史から忘れられ今では他の名で知られる怪物たちを。そしてついに神々は、エンキドゥはその務めを遂げられなかったので死ななければならないと決める。ギルガメシュの愛と治療者の看護にもかかわらず、彼は去った。

遺された王は死の定めに悩まされるようになり、死を逃れるすべを求めて世界中を探す。彼は遍く旅し、ウトナピシュティムに出会う。世界で最も長寿な男、不死となった唯一人の男に。そして、彼は望みを挫かれる……7日間起きたままでいることを賢者が彼に課した時、彼は眠りを克服できなかった。言うまでもなく、死も。ウトナピシュティムは彼を憐れみ、たったひとつの植物が彼に永遠の若さを授けられると教える。彼は海の底に潜りそれを手に入れるが、蛇に奪われ食べられてしまう。

そして物語は終わる。ギルガメシュは死を受け入れウルクへと戻り、優しく慎み深い王として国を治めた、と。とにかくこれが、今日知られている結末だ。最後の数枚の粘土板を、それを継ぎ合わせられるほど冴えた者が絶対に発見できないようにするために、私はどんな事でもやった。真実はこうだ。ギルガメシュはウトナピシュティムから、生と死の間にバランスが存在することを学んだのだ。一人が彼に与えられた時間よりも長く生きようとすれば、他の人々の時間が減らされる。永遠に生きようとするなら……そう、ギルガメシュがその方法を理解し、それを行うのに十分忠実な聖職者たちに教えるのには時間がかかった。だがついに、彼は神髄を得た。

初めに、彼らは老人と病人を生贄の祭壇へと載せた。次に子供、母親の胸から奪われた赤子が薪の上に投げられた。さらに女、特に処女が。彼らは掠奪を受け、ウルクの聖職者たちは彼らの命だけでなく魂までもを殺した。すぐに、ウルクの街角に顔を出した誰もかもが、自分が奪われるのは最後だという希望だけを持って彼に従う者たちの標的となった。ついには、彼らは互いに殺しあうよう強いられた。最後に残った二人の長老が、新しい神を称える歌を歌いながら互いの喉を切り裂いて、その行為は完了した。ギルガメシュは永遠に生きられるようになった――死者のみが住む都の王として。

彼の見出した新しい恩恵を得て世界中を破滅の力で引き裂こうとする偉大な王を、止められるものはいなかった。軍隊は彼の前に敗れ、城壁は彼の来襲で砕かれた。誰も彼を倒すことはできなかった。たとえ切り刻まれ死んだように見えても、彼は簡単に蘇り、敗北の傷跡を作って誇らしげに戻ってきた。果敢にも彼の前に立つ者を狩り、皆殺しにしながら。彼は富も女も、もちろん征服した民の崇拝や称賛も求めていなかった。彼は自分がやりたいから、それが楽しいからやっていた。彼はいつも、更に強い相手を求めていた。

神々は彼の挑戦に応えた。彼らは冥界にいたエンキドゥを蘇らせた……彼は彼の友人、相棒、兄弟が何になったかを見ていた。そして、それに耐えられなかったのだ。

もちろん、死者に命を戻すことは神にすら困難なことだった。彼は以前の姿にはならなかった。神々は彼の肉体を全て見つけることができず、いくつかの部分を鉄と青銅に置き換えた。彼が普通の人間でないことは、その姿を見たものには疑いようがなかった。一度失敗した務めを果たせるように、神々は彼に神の恩寵をふたつ与えた。1つめは呪い――疫病が彼の後を追い、土地の民が彼の存在を許さないために、彼は永遠に一所に留まることも怠惰でいることもできず、いかなる食物も手に入れられない。2つめは祝福――人も神も、ギルガメシュですら、彼自身以外に彼を傷つけることはできない。

もし目撃者が生きていられたなら、彼らの戦いは世界中の人々に語られる物語だったろう。彼らの殴り合いで、周辺にあった国々は崩壊した――銀の尖塔を抱く大アル=イラス、ヴェミュラの都と名高き7つの砦、そして私はデヴァス島ですら、戦いがそこに達した時に長く耐えられなかったのを思い出せるようだ。この戦いは全人類の破滅となったかもしれない。だが彼らの決闘が始まって7年目の7ヶ月目、その7日目の夜明け、ギルガメシュはエンキドゥを彼が耐えられないほどの力で殴り、彼の兄弟に与えた痛みを感じて、倒れた。

「行かせてくれ、兄さん」
ギルガメシュは言った。
「夜が明ける間。私は、もう戦えない」

「それはできないよ、兄弟」
エンキドゥは答えた。
「世界が元通りになる日まで、私にお前を封じさせてくれるというなら別だが」
それはギルガメシュには苦痛となる事だったが、その言葉に心を動かされるほどには、彼の兄弟への愛は大きかった。

それからギルガメシュは拘束され、彼を完膚無きまでに打ち倒せる強大な力が彼の前に現れるその日を待つために封印された。エンキドゥはといえば、神に与えられた能力で死ねないために、それ以来ずっと放浪を続けている。二人の兄弟の物語は歴史から伝説へと姿を変え、エンキドゥは彼の兄弟が何をしたのか、誰も二度と同じ事ができないようにその事実を完全に葬り去った。やがて名前すらもが変わっていった。エンキドゥは長い時を過ごすうちに、様々な名前で知られるようになった。オシリス、ラザロ、さまよえるユダヤ人、サン・ジェルマン、その他にも。

でも、最初の名前が決してエンキドゥなどではないことを、私は確かに知っている。

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