クレジット
タイトル: 課の発足
翻訳責任者: flying_bari
翻訳年: 2025
原題: Entre en jeu le Bureau
著作権者: Dr Benji
作成年: 2017
初訳時参照リビジョン: 11
元記事リンク: ソース
2014年1月7日
所在地不明
重い部屋の扉がついに閉まり、場にはこの種の会合に先立って誰もが感じるだろう儀式めいた沈黙が漂っていた。
この沈黙を最初に破ったのはツーだった。
「さて、全員そろいましたし、始めませんか?」
「賛成だ。実を言うと、この緊急招集の理由が気になっていたところでな」スリーがぶつぶつと言う。
「手短に済ませるつもりですよ。我々はみな忙しい身です、特にこのところは。しかし、その忙しさこそがお話ししたいことなのです」会合の主催者であるセブンは、満を持してそう切り出した。
「科学的な潜在価値が皆無のオブジェクトの廃棄について、ようやく議論する気になったのですか?」ナインが前のめりで問いかけた。
いらだち交じりのため息が席に着く彼らの間に流れる。
「もうその件については議論したし、10対2で否決されただろう。しかも、トゥエルブが意見を変える前の話だ」
「最近の研究で、異常現象や異常存在の出現が増大していることが証明されましたので、もしかしたらお考えを改めたのかと申し上げたまでです」ナインはそうこぼして、椅子に深く体を沈めた。
「実は……むしろ全くの逆でして」
12人分の顔が同時にセブンに向けられる。セブンは深く息を吸い込んだ。彼は、自分の提案がどう受け止められるか理解していた。準備には数ヶ月を費やし、それより長く、提示の仕方を考えた。そして、思い切って突き進むことに決めた。
「収容下にない超自然的実体を監督する部署を置きたいのです」
数人の眉が吊り上がる。
「捕獲用の新しい機動部隊のことか?それなら間に合って-」
「いえ、そういうことではありません。私が言いたいのは、他の部署から独立して異常な能力や特性を持つ個人について監視・接触を担当する新しい部門のことです」
今度はざわめきが起こる。
「と言うと……未収容のSCPオブジェクトの話か?」ワンが、どこか反論を望むような声音で問うた。
「その通り!」セブンは、もう一度言い直さなくてもよくなったことに安堵しつつ言った。
途端に議場が騒然とした。
様々な言葉が飛び交う。「ばかげている」「非現実的だ」、セブンはその言葉を予期していた。「反逆だ」「異端者め」という言葉には少しばかり驚かされたが。耳を傾けていると、ついに期待していた言葉が聞こえてきた。
「何故ダメなんだ?」
その言葉を聞き留めたのは彼だけではなかったようで、騒ぎはすぐに静まった。
「何故ダメなんだ?」フォーは繰り返した。「何にせよ、これといった特異性のない異常を持つ個人の出現はますます増えている。全てを分類して閉じ込めるのは不可能だ。異常性が目立たないやつもいるからな。先日、Anomalousオブジェクト No.7382-2015のファイルに目を通した。鏡像が熱を発する男だ。研究という観点では興味深い異常性だが、身体の構成物質と反射面をなす成分との間の量子もつれが原因とわかってしまえば、あいつはこれ以上何の役にも立たない。だから、今は閉じ込めっぱなしだ。まだ実験が残ってるとはいえ、犯罪者でもないのにな。つまり、我々は鏡の前を横切ると数度ばかり鏡の温度が上がるという理由だけで、一人の男を閉じ込めることに甘んじているわけだ。似たような事例はいくらでもある、吸血生物のことは言うまでもない。我々が問題を放置したせいで、SAPHIRの兵器になったじゃないか」
その発言を受けて、議論はいくらか秩序を取り戻した。
「自意識のある異常存在を野放しにしておけるはずがない!」
「無害でしたら何の重要性があるというのです?」
「財団が今までやってきた全てに反するじゃないか!」
「世界は変わる、財団も共に変わるべきだ……」
好意的な声が多くなるのを感じ、セブンは歓喜する。シックスは賛成派、ファイブは反対派だ。フォーは今や確信をもってこのアイデアを支持しており、トゥエルブは迷っているらしい。スリーは終始最も騒々しく、評議会を抜けると脅しをかけた — もちろん、それが全く不可能であることは全員が承知していた。ツーはメモを読み返し、自分を納得させる証拠を探しているようだった。
ついにイレブンが問うた。
「具体的に、この部署は何をするんですか?」
「この部署は情報部との緊密な連携をもって、一般社会に紛れ込んだ異常性を有する個人を特定し、財団が今まで用いてきた手法よりもっと……ええと……もっと外交的な方法で接触できるよう活動します」
「馬鹿なことを!財団は確保し、収容し、保護するのだ!我々の目的は、まだ見ぬべきものから世界を遠ざけておくことだぞ!我々が大文字の"H"を冠する崇高な人類Humanitéを守護するのに、無害なアノマリーが数体犠牲になろうが構わん、払うべき犠牲だろう!奴らは光の中で生きる者たちを守るために闇の中で死ぬ、我々が今までやってきたよう-」
「まさしくそれが問題なのです。人類はかつての姿から全く変わってしまいました……」そう言って、彼は最後の論拠を机に置いた。書類が手渡されてゆく。
その研究の指し示すところを強調するように、セブンは告げた。
「今日、この惑星に生きる人間の12%が、正常性の観念はもはやかつてのものではないと、部分的に、あるいは完全に気づいています。もちろん、この中には財団職員や他の要注意団体の構成員も含まれますが、その他は現行のシステムでは保護することのできない一般市民です。この部門の設立によりこういった市民を……人道的に扱うことが可能になります」
セブンはため息をついた。自分の計画が満場一致では受け入れられないことはわかっていた。財団はあまりにも長い間世界から隠れていたため、このような方針変更が容易に通るはずがなかった。彼はただ、評議会のメンバーを十分に説得できたことを願うばかりだった。
「……賛成6票、反対6票。評議会でここまで票が割れるのは本当に久しぶりだな。さてと、あとは私だけか」ワンはテーブルを見回して言った。「正直、私もかなり揺れているが……数十年の中で我々が行ってきた逸脱の全てと、評議会の下した非人道的な決定の全てを以てしても、財団は人類のために尽くしてきたと私は思っている……。そろそろ適応すべき時なのかもしれないな」
不満げなうなり声が上がったが、決定は下された、撤回することはできない。
「さて、7対6だ。O5評議会はこの決議を以て、超自然的能力を持つ知的存在の監督を行う新たな部門の創立を承認する。O5-7、名前はどうする?」
「ややこしい名前はナシですね。シンプルに、特異個体監督課としましょう」









