事象番号CA-N/A

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東京湾横断道路、またの名を東京湾アクアライン。世界最大規模の海洋土木工事(通称、土木のアポロ計画)によって建造された延長約15.1kmもの有料道路。路線番号はCA。…つまりは高速道路だ。延々と続く橋、延々と続くトンネル。決め手にそれは高速道路。余りにも「異常」におあつらえ向きの道路すぎた。

今でこそ首都高の実質的な権限は財団が全て握っている。だけども高速道路に異常が集中してるなんて事は名神高速道路が開いた時には誰にも分からなかった。財団の偉い人らにも分からなかったんだと思う。んで、そのまま次から次へと高速道路は増えていって…高速道路が異常の百鬼夜行となったこのザマだ。財団の高速巡回部隊も名神高速道路開通以前の420倍に増え、サイトも中心サイトだけ残して全て高速道路近くに移設。高速道路以外の場所にいたオブジェクト共は何故だか高速道路の近くに再出現。それに付随して何万件もの収容違反と再収容。損害額は膨大すぎて算出不可能。未だに完全な再収容は出来ていない。そんな訳でとにかく面倒事は多い。

そんな面倒事はこのアクアラインも例外ではなく。というより、このアクアラインはとびきりの面倒事を引き連れた。あの馬鹿げた事が起きたのは自分がいつも通り都内の高速道路を巡回してた時。そう、それは青鈍色の空の日だった。


『 午後2時25分現在の、高速道路情報をお知らせします』

『アクアトンネル内にて、大規模交通事故及び施設損壊が発生しています』

『その為東京アクアライン、川崎浮島ジャンクションから木更津インター間、並びに東京アクアライン連絡道、木更津金田インターから袖ヶ浦インター間は通過できない状況になっております。皆様にはご迷惑をおかけします』

『 ハイウェイラジオより、お伝えしました』


かなり大きな交通止め。こういう時は結構な確率で異常絡みの何かが起きてる。放送の時点で少し嫌な予感はしていた。

その予感は当たり、ハイウェイラジオとほとんど同時に財団からの緊急招集。招集地点はアクアライン。だけど、招集されてる範囲がとんでもなく広かった。都内のほとんど全ての部隊が巡回を中止してアクアラインに招集されてる。これはつまり、アクアラインで馬鹿げた事が起きたって事だった。自分は即時に巡回業務を中止して、アクアラインへと向かった。

向かっている途中で工事車両を装った財団の車両や機動部隊が次々とアクアラインに向かっていく。
かなりやばめの緊急の場合にしか使われない「仮設臨時路敷設車両」によって作られた仮説道路で一般車両は最寄りの道路に流れていた。

これはとんでもなくやばいと思った。

そもそもアクアラインには「海ほたる」という施設、本当の役割としてはサイト81CAがある。アクアラインには危険な異常が余りにも頻繁に出現していたからだ。

そんなサイトにいる人員は猛者揃いだ。サイト81CAへの転属は基本的にDクラスの使い捨てか、相当優秀な奴しかいない。そんな訳で、財団でのサイト81CAへの転属は基本的には栄転と言われていた。

そのサイト81CAでも完全に処理出来なかった異常。とんでもなく厄介な事は財団の対応ぶりからも透けて見えた。

財団が船なんか出したのは相当久しぶりだった。道路以外にオブジェクトが出ない世界で、船なんて持っていても収容には何の役にもたたない。だがそこには財団の大型船2隻、更に特殊車両数十台、オマケに一般車両数百台…こんな事は今まで1回も無かった。


だけども、それを納得させる奴がそこにはいた。

巨人がいた。巨人がアクアトンネルから這い出ようとしていた。アクアラインは地獄絵図と化していた。
サイト81CAも恐らくは、何もかもがダメになっていた。

大型凍結機も現実錨も大抵の機材はほとんど効果が無いようだった。50mはあるだろうその巨人は、少しずつ少しずつ浮島ジャンクション側へとあらゆる障害を無視してこちら側へと迫っている。

その瞬間、機械音の様なランダムな低音の羅列を吐きながらその不定形の黒い巨人は腕を長く長く伸ばした。およそ10km程。鞭のように靱やかに。恐らくは0.01秒以下で。

そして、気づけばアクアブリッジを切断されていた。財団の車両を巻き込んで、アクアブリッジは10~20程度の数のブロックに解体された。

この巨人は、知性を持っていた。
「どうすれば障害物を排除できるか」の最適解。
その答えを最短距離で導いた。
そして、その知性とその力で財団は一掃された。

アクアラインだった瓦礫と共に落ちていく中、気づけば自分の意識は消えていた。


その後、結局どうなったと言うと自分は生きている。

馬鹿でかい2隻の大型収容船はどうやら、確保には役に立たなかったが人命救助には役に立ったらしい。特殊な車の装甲やエアバックも致命傷を防ぎ、更に下が海なのも不幸中の幸いだった。

だけどまぁ、生き残ったら生き残ったでアクアラインの全壊なんていうぶっ飛んだ話をどうにかこうにか隠蔽しないといけなくなる、というおまけ付きだが。復旧にはどんなに急いでも1年はかかるらしい。その間の全部を工事だとか事故の復旧で通すのには無理がある。まぁここら辺は専門の部門が上手いことやってくれるだろう。多分。

…そして、結局あの巨人は収容も殲滅も出来ていない。解体されたアクアラインはブリッジもトンネルもサイト81CAも残らず沈んだ。収容すらされず、後には何も無くなって単なる「N/A」になった。「道路」と呼べる物は東京湾に残っていない。目標を達成した巨人は、沈みゆくアクアラインと共に海の中に消えた。

ただあいつはまだ瓦礫と共に東京湾に沈んでいる。目的は他にもあるが、まだその時ではないと言わんばかりに。

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