興奮
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ハワードは恐れるべきだと分かっていた。

人を番号で呼ぶことに固執する場所は、どこであれ居るに好ましくない所だと分かっていた。白衣は人間に普通はしないようなことを、人にしていいという考えを与えるものだと分かっていた。彼は囁き声を聞いた。彼は気付いていた、使い捨てらしい見た目のオレンジのつなぎを着て、ときどき宿舎から連れ去られた男たちを時折二度と見かけないことを。

彼は他のDクラス皆の目にあるのと同じ、うつろで怯えたまなざしをしているべきだと分かっていた。しかしいつ自分の心の中に恐れを探しても、見つけることはなかった。きっとどこかにあるのだろう、しかしそれはずっと強い感情の下に埋まっていた。

彼は興奮していた。

彼がサイト-48に収監される前の世界は、平凡な確実さのひとつだった。空は青く雲は白く。人間は人間で、ただ哀れなお山の大将ごっこをする貪欲な動物にすぎなかった。世界を支配しているのは金だった。隠された機密は退屈なものだった。誰が誰を殺し、誰が誰を買収し、どの政治家が傀儡でどの企業が糸を引いているか。闇に隠れ潜むものはなかった。貫くべきヴェールもなかった。戸口に死神はおらず、ただ尽きることない闇へのグラデーションがあるだけだった。

ここでの初日に、彼は他と同じように見える部屋へ案内されたが、彼が入ると、そこは果てしなく続く巨大な暗闇だった。唯一の光源は赤いろうそくの輪で、風もないのに狂ったように瞬いていた。中心には白いワンピースを着た幼い少女がいて、髪は周りのキャンドルと同じ濁った赤のリボンにより、高い位置で2つに結わえられていた。彼女は邪悪な表情を浮かべ、彼の方へ怒りに満ちた視線を投げかけていた。

彼女は地面から3フィート浮いていた。その目は赤かった。

彼は言うべき台詞を与えられていたが、イヤホンの声から促されるまで、深紅のまなざしに畏怖するあまり、口をあけて見とれる以外のことを忘れていた。

ハワードは咳払いすると、台詞を発した。「我々はあなたの予言を待ち望みます」

彼女は彼の父親の声で喋った。彼の朗々とした、陽気な調子ではなく、死の床にあるときの声だった。癌で喉を詰まらせかけて怯えた、病が背骨を進み、脳へと辿り着いたあの恐ろしい時期の頃だった。

言葉は問題ではなかった。何も訊かれなかったので、彼らは録音したのだろうと確信していた。いずれにせよ彼は覚えていないだろう。 聞き取りは彼に頭痛を引き起こし、情けない泣き声を吐かせて大量の鼻血を出させた。それに頭に突っ込まれた情景があった、泥に突っ込む長靴のように、彼の心の柔らかい場所に押し込まれた彼女の言葉の指が。崩れる建物。燃える空。腫れ物と疫病に苦しめられる10万の魂。終わり。すべての終わり。

2人の警備員にゆるく上腕二頭筋の周りを掴まれて導かれ、彼はよろめきながら宿舎に戻った。彼らは彼が逃げられる状態ではないと分かっていた。彼らが分かっていなかったのは、身体的苦痛の表面下で、彼が知ることになる興奮の種が、心の土壌に足がかりを見つけていたということだった。

悪魔だ、彼は思った、おれは正真正銘マジの悪魔に会ったんだ。

おそらくそれは正確ではなかった。多分彼女は誇大妄想かなにかの、ただ人類に深刻な遺恨を抱く、超能力者の8歳児だったのだろう。そんなことが本当に重要か? 彼女がなにであれ、実在していると彼は確信していた。決して存在すると信じていなかったヴェールがめくられたのだ。

ホレイショよ、天地にはおまえの哲学の及ばぬものがまだあるのだ1とハワードは思い、あの遭遇のせいでここまで疲弊していなかったら、きっと少し忍び笑いしたことだろう。

身体は萎えて、彼は10マイル走ったかのように感じながら寝台に横たわっていたが、精神は逸っていた。間違いなく、ただの邪悪な少女1人のために、こんな巨大な施設は必要ないだろう。彼をここに連れてきたとき、彼らは終わりなく続く灰色の廊下を通り、貨物用エレベーターで数え切れないほどの階を下り、それから宿舎64に着くまで、また別の迷宮を案内した。そこはおよそ50人ほどの、オレンジ色で装う彼の同胞を住まわせていた。仮にこれが最後の宿舎であるとしても―彼にはかなり疑わしく思えたが―少なくとも、彼のような囚人が300人いることになる。ちびっこ悪魔1匹に使うには、あまりにも多すぎる数だった。ここには他になにがあるんだろう? 他には何匹怪物がいるんだろう? 一体いくつ、これみたいなサイトが他に存在するんだろう?

急に腹が痛くなり、彼はぎりぎりで房のトイレに駆け込んだ。不調の原因を身体から追い出しつつも、彼は自分が他の何人かよりかは、まだ幸運だと分かっていた。もし噂が本当なら(そしてこの時点では信じない理由はなかった)、他の利用可能なオプションに比べれば、下痢と鼻血はお誕生日会みたいなものだった。

時が流れた。彼らはもう2回、彼を新しい知人のところへ連れて行き、毎回同じことが起きた。台詞が話され、彼の心身が痛めつけられ、彼の弱った姿が房に連れ戻され、病が訪れるまで力なく横たえられた。もし昂りが増していなければ、不思議は退屈になっていただろう。彼は脚本に逆らい、小さな女予言者に自分の質問をしたいという誘惑に駆られていたが、興奮と好奇心の割に、彼は浅はかではなかった。人を数字で名づけるような人間は、不服従を大目にみることはない。

それからハワードは座り、食事(入っていたアルミ缶と同じぐらいに冴えなかった)するDクラス仲間を見ながら、彼のちびっこ悪魔と考えるようになったものへの、次の訪問の機会を待っていた。カフェテリアでは決して会話が盛り上がらず、あるとすれば、いつも陰謀の囁きという形だった。彼自身のように、大半の男たちは刑務所出身で、囚人と看守の間にある文化には慣れていた。看守たちに、自分の事についてなるべく知られないよう、全力を尽くすのだ。あらゆる情報は、自分の不利になる弱みだった。新鮮な空気が好き? なら独房監禁だ。運動場での時間に走るのが好き? なら次はひざへの一撃だ。新しい友達? いつまでもたせてもらえるか見物だ。

しかし、彼はここの守衛は違うことに気付いた。彼らは人の人間らしさを利用するようにはみえなかった。むしろ、彼らはそれをまるごと軽視しているようだった。誰かが家具を見るように、彼らはみんな、全く活気のない目で見下ろしてくる。使う時がくるまでは見えないというまなざしだ。脱走の試みや、暴力については心配していないようだった。この場所は要塞と呼ぶのにふさわしかった。明らかに地下で、すべてはコンクリートと鋼鉄で出来ていて、カメラが眠る蝙蝠のように、ありとあらゆる角についている。それに警備員たちは、SF戦争映画かなにかに出てくるようなアーマーを着ていて、時折、黒く反射するグラスで顔が隠れるヘルメットをかぶっていた。携帯するライフルで狙うのに不都合はないのではと思うものの、ストームトルーパーというほどではないが、かなり似てはいた。彼のおじは海軍の軍曹だったが、この男たちのうちのだれと比べても、彼はタフィーのように軟弱に思えた。

もし警備員がもっと囚人たちに関心を抱いていたなら、彼が他の者たちとは違っているということに気付いていただろう。食事に屈みこまず、かぎづめと羽根の一閃で、鷹にさらわれることを予期するウサギのように、恐怖で姿勢が歪むこともなかった。まるで、昼休憩に公園のベンチでそよ風を楽しむ人のように、彼は宿舎を見渡していた。誰かに殴られて口の形を変えられたくなければ、笑顔でだらだら座っているべきではないということを学ぶ程度には、彼は刑務所に長くいた。しかし、もし警備員がもっとよく見れば、まなざしや口の端になにかが現れているのが分かっただろう。そうしてくつろいでちびっこ悪魔の元を訪れるのを待ち、ほとんど椅子の背もたれにだらりと寄りかかりそうになりながら、突然事態がまずい方向に転がり出したときに、最初に気付いた囚人は彼だった。

無線に届いた伝達か何かを熱心に聞き、何人かは手袋をした手を耳元に挙げ、警備員たちが同時に硬直したことにハワードは気付いた。彼は、警備している部隊の半分が慌ただしくドアに向かい、先頭が切羽詰まってキーパッドを叩くのに気付いた。ドアが上にシュッと動いたとき、彼を最終的にサイト-48の住居に至らしめた銀行強盗を親愛の情とともに連想させる、よく知る破裂音が聞こえた。もちろんあのときはもっとずっと近かったが、発砲音はさほど離れていないにもかかわらず、大きな音や弾の唸りなしということは、彼らが的を外していることを意味した。彼はよりよい狙いでやりかえしたものだった。いまいる場所に自分がいないというような幻想はもたなかった。

部隊の背後で扉が閉じ、数分後にはすべてが再び静かになった。動きによって拘禁の幻惑から目覚めさせられ、他の囚人たちのうち何人かもドアの方を見つめた。あれが興奮の程度とみて、ハワードは少しリラックスした。

直後にドアが爆発し、直近の2つのテーブルにバレーボール大のコンクリート塊を浴びせた。

廊下は赤い光で溢れ、今度の銃撃はカフェテリアの空気を打ちつけた。1本の赤い光の触手に追われ、警備員が右側から戸口を過ぎて全速力でやってきた。それはその後、ハワードの視界の外に標的を発見し、一瞬消えた。そのすぐ後に、熱狂した唸り声を上げるちびっこ悪魔が追従していた。かつてドアだった穴を、彼女は漂いながら通り過ぎた。彼女は囚人たちを一瞥すらしなかったが、彼女から流れる赤い光のリボンは部屋に入り込み、最初の爆発の生存者らの一部を襲った。彼らは見えない力かなにかに支えられて直立する、光る骸骨に置き換えられた。彼女が通り過ぎると、彼らは骨をカラカラ鳴らしながら崩れ落ちた。カフェテリア内の残った警備員は追跡し、辺りで雷のごとくとどろく銃撃を行った。そしてその後、彼らも去った。

その後訪れた沈黙は物理的なものだった。誰も動かない。そして警報がけたたましく鳴りだし、彼らの催眠術は解かれた。囚人の1人が突如集団まひ状態から飛び上がり、戸口から逃げ出した。即座に大勢が後に続いた。

今や緊張して背筋を伸ばし、しかし不動でハワードは席からこの一部始終を見ていた。彼はほんの数名の、残ったはぐれ者たちが座席から立ち上がるまで待った。逃げる囚人たちには左―彼らを通り過ぎて行った、人を殺す物体の方―または右―その物体が来た方向―の選択肢があった。意見の一致はなかったので、彼らは二股のオレンジの川になった。残った一握りの者たちは、テーブルの下や隅に縮こまるので忙しかった。警報は金切り声で叫び続けた。

彼は立ち上がると、注意深く開口部に近づいた。彼は恐れているべきだった。それか、脱走の見込みに大喜びするか。せめて、自己保存本能のエンジンかなにかが唸りをあげ、生をせがむべきだった。彼にはそのどれも感じられなかった。

彼が感じていたのは昂りだった。そして目的意識。

多分、ちびっこ悪魔の心象の中で再構築された世界を他に誰も見たことがなかったのだろう。胆汁の海。灰で埋め尽くされた空。破壊された世界の、捻じれて膿んだ死体。彼が見たものを彼らは見ていないか、あるいは気にも留めなかったのかもしれない、しかし彼は見たし、気にかけている。彼は戸口に着くと右へ向いた、彼のちびっこ悪魔を白衣の男たちが幽閉していた方へ。

廊下には骨が散らばっていた。あまたのドアの大半は、彼が通ってきたのと同じ運命をたどっていて、ぽっかりと開いた穴からはいくつか仕事場らしいものが見えたが、多くはさらに果てしない通路に通じていた。この場所は、彼が想像していたよりもさらに広かった。願わくば、ちびっこ悪魔が住民仲間の房のドアを吹き飛ばしていないといいのだが。時折、彼はオレンジ色のつなぎを着た男がこの暴かれた通路を走っていくのを見たが、彼の行く廊下は無人だった。おそらく、散らばった骨が相当な抑止装置として機能しているのだろう。陰惨な小山を乱さないように最善を尽くし、やってしまった時も自分を責め過ぎないようにしつつ、彼は前進していった。骨のかつての持ち主たちは、気遣わないなんていう程度ではなかったのだ。

廊下は使いづらく無骨で、彼は意図的なものだと推測した。移動はすぐに困難になり、間違いなくあらゆる種類の脱走の試みに対処する、特別な対策だった。しかしちびっこ悪魔は速度を落とさず、時折突き出た角があった場所にけぶる穴を残した。それでもまだ彼の前方の視界は時折妨げられたものの、彼は方向感覚に優れていて、自分が正しい方向に向かっていると分かっていた。

しかし視界が妨げられ、アラームが鳴り続けていたので、彼は自分がもはや一人ではないことに、別方向に走るDクラスと激しくぶつかるまで気付いていなかった。彼は男の名前が分からなかったが知ってはいた。今まで人生で会った中で一番背が高く、大きく、底意地悪そうな顔をしたくずを忘れるのは難しい。最低でも6フィート6インチ、おそらく300ポンド以上、犯罪界の筋力の典型だった。ハワードは彼に跳ね返され、それからすぐに、巨漢が彼の肩を掴んで揺さぶりだすとともに引き寄せられた。彼はなにも求めなかった。彼の表情は愚か者の動物的恐怖で張り詰め、己が締めあげている男をかろうじて認識しているという態だった。ハワードはつつましい170ポンドであり、巨人の手の内で人形のようにはためいた。それでもまだハワードは己について、自分をどう御するかについて理解している男として、そして物事が横道に逸れても冷静でいることに誇りをもっていた。首が前後にしなっていなければ、おそらく彼は呆れて目を剥いたことだろう。

危機の中で冷静に対処できないやつらが存在する、彼は思い、そして男の喉にまっすぐパンチを入れた。床であえぐ彼を残し、ハワードは立ち去った。

それ以上のトラブルなしに、彼はちびっこ怪物の房にたどりついた。壁とドアは瓦礫の山と化していた。彼女の有害な存在なくして、その場所はもはや巨大な暗い洞穴ではなく、彼の部屋よりさほど広くない収容房だった。ろうそくは横倒しになった1つを除いて輪にとどまり、全て消えていた。隣接する部屋もまた吹き飛んでいた。それは明らかに、彼女の恐ろしい視線を避けながら、常時見張っておくための観察室だった。炎があちこちでまたたき、こうした施設にはある種の消火システムがあるだろうと彼は推測したが、明らかにまだパーティーには現れていなかった。部屋の中央には、3つの骨の山に取り巻かれた机が1つあった。ど真ん中にコンクリートの塊が、まるで世界一高価な文鎮であるかのように鎮座していたが、ほとんど無傷だった。彼はコンクリートを押しのけ、卓上に散らばっている書類に目を通した。

ハワードは自分をかなり頭がいいと思っていたが、彼が見たものの大半は理解の範疇を超えていた。彼はやっと“レベル3アクセスのみに制限”と銘打たれた文書を発見した。期待できそうだ。彼は文書の封を破るとぱらぱらとめくった。

かつて、銀行強盗よりはるか以前、彼はイケアで本棚を買ったことがあった。組み立て指示書を3回読んだのち、彼は未来の自分に立ち向かわせるべく、50かそこらの部品をあっさりと地下室に捨てた。彼の知る限り、それはまだそこにある。この文書は3倍長く、5倍混乱させてきた。Keterって一体なんだ? 彼は苛立ちを募らせながら、実験記録と補遺をめくった。一息ついてまた再開した。最終的に、彼は求めていたものを見つけた。

特別収容プロトコル: SCP-3108-1は標準人型収容ユニットに収容されます。SCP-3108-1は常時、点燈された10のSCP-3108-2実例によって囲われていなければなりません。 SCP-3108-2実例が除去ないし消火された際は常に、ただちにフェイルセーフプロトコル、イプシロン-48aが実施されねばなりません。

フェイルセーフだってよ、ハワードは思った。

彼は腕一杯に綴られていない紙を集め、丸めて即席の松明にした。部屋の反対側の隅では、かつてある種の実験機器を載せていた台が、くすぶりから陽気な炎上に発展しており、ますます厄介な刺激性の煙を発していた。彼は急いで松明に火をつけ、ちびっこ悪魔の個室へ駆けこんだ。

急ぐあまり、大腿骨を踏んだときに彼はほとんど転びかけた。彼は横滑りし、なんとかバランスを保った。倒れたろうそくの傍らには骨の山があった。多分、彼女はあれを倒すよう、誰かを説得したんだろう。それか、ついてないやつが台詞をとちったかだ。彼はろうそくを起こして火をつけた。

反応はすぐにあった。非人間的な金切り声が部屋に満ち、絶え間ない警報を完全にかき消した。彼は、彼女がこちらに向かって疾走してくるのを感じた。彼女が戸口に飛んできたとき、彼は輪の周りを這いまわって、1つを除いて点火していた。

彼女は眩しすぎてほとんど見ることができなかったが、それでも彼は赤いまなざしとかち合った。怒っていると思っていただろうか? 今やそれは焼けついて、地獄から来た双子の太陽が彼を芯まで燃やしていた。彼の頭は猥褻語と、肉と火と病と死で溢れた。赤い触手が彼女から裂けるように離れ、彼の視界を埋め尽くした。彼はうつぶせに倒れ、それが肩の上を飛び、死の光で彼を包み込むべく曲がるのを見た。最後のろうそくに消えかけの松明を突っ込み、彼は自分が死んだと思った。

まだ生きていると気付くまで、彼はしばらくそこに横たわっていた。ろうそくには火が点っていた。ちびっこ悪魔は再び輪の中央に浮かび、いつもの恐ろしい表情と憎悪の唸り声があった。彼女は彼にイメージを叩きつけた。名状しがたい生物に蹂躙される母親。腫瘍の塊であったが、苦痛にのたうちまわりながらも、どうにかしてまだ生きている父親。切り落とされた指大の蛆に身をよじる彼の骸。死。腐敗。絶望。

傷ついた動物のように弱弱しく泣きながら、彼は四つん這いで彼女から逃げ出した。一旦角を曲がって、彼女のこの世のものならぬ視線から逃れると心象は止まったが、彼の心はかぎづめのある手で絞られ、膿汁に浸けられたようだった。鼻血は川のように流れ、絞り出されるすすり泣きは激しく、痛々しかった。すすり泣きが止むと、彼は疲れ切って壁に寄り掛かった。とても長い時間に感じられる間、彼はそこに座っていた。

多分、彼は居眠りしたのだろう。もしかしたら、彼の精神がちょっと現実逃避させたのかもしれない。どちらにしろ、一発でビルでも壊せそうな銃で武装し、ヘルメットの黒いグラスの向こうに顔を隠した3人の警備員が突如、彼の上にそびえ立って小さな悲鳴を上げさせた。1人は部屋の中を見て、小さく頷いた。彼は少し離れ、ヘルメットのヘッドセットに向けて早口で話し始めた。

「何が起きた?」一番近い警備員が尋ねた。彼の武器はハワードに向けられていなかったが、姿勢はまだ戦闘状況にあるもののそれだった。ハワードは弱弱しく手を上げ、彼を長い間支えてくれる保証のない脚で立ちあがった。

「おれは……」彼は切り出し、そして少し咳をした。ヘルメットの下の表情は読み取れず、警備員は彼を見て立っていた。ハワードは深呼吸をして、再び喋り始めた。

「おれはろうそくに火をつけた。あの部屋に入ってレポートを見つけた。見せてやるよ」

彼らは彼が観察室へよろめき入り、デスクに近づくままにさせた。彼は支えのために寄り掛かった。文書を拾うと、それを警備員に向けて差し出した。警備員は一瞥すると、まもなくぴしゃりと言った。

「レポートを読んだな?」声は歪み、デジタル処理で増幅され、そして冷たかった。

「ああ」彼は振り返り、彼とちびっこ悪魔を隔てる壁を見つめた。ほとんど穴だらけで、そこから彼女を見ることができた。彼女は彼の目を見つめていて、最初の出会い以来初めて、彼女は微笑んでいた。無感覚になった唇で、彼は言った。「おれは理解しないといけなかった……」

そして、彼らが彼を撃ったのはその時だった。

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