「貴方、飛び降りは初めて?」
ふいに背後から女の人に話しかけられた。
「まぁ初めてよね」
誰だ一体。無視して前へと足を進める。
「ああ、私はあなたの自殺、転落死を止める気なんてないわよ」
じゃあ何のためにここにいるのか。いや、そんなことはもうどうでもいい。
「ねぇ知ってる?飛び降りてフワッと体が解放される感じ。とても気持ちいいのよ」
へりに立つ。あと一歩踏み出せば終わりだ。
「どう?何からも解放されてみたくない?」
そうだ。俺は解放されるためにここに来たのだ。バカみたいなこの世から。
「私が手伝ってあげる」
背後に立たれた。最後に看取る人がいてもいいか。
「じゃあ、またね。いってらっしゃい」
背中を押されて、体を前に傾けた。
この浮遊感。
体一つで宙にいる感覚。
確かに少し昂揚する。
地面が近づく。走馬灯はみえなかった。
何も見えない。でも意識はある。
そうかここが死後の世界か。
でもどうして落ち続けているんだ?
何も見えない。
何の感触もない。
ただ落ちて落ちて落ちている感覚だけがある。
落ちるのにも慣れてきた。
そうなってくると心地よさも覚えてきた。
ここには嫌な奴も自分を縛る社会もない。
何も考えなくていい。
下がまぶしい。ここは地獄ではなかったのか?
地獄じゃない、海だ!海から飛び出した!
これは空に飛びあがっているの?
いや落ちている。空に落ちている!
空高くまで来た。
上を見上げると地球がある。
不思議な感覚だ。