宙へと墜ちて
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「貴方、飛び降りは初めて?」

ふいに背後から女の人に話しかけられた。

「まぁ初めてよね」

誰だ一体。無視して前へと足を進める。

「ああ、私はあなたの自殺、転落死を止める気なんてないわよ」

じゃあ何のためにここにいるのか。いや、そんなことはもうどうでもいい。

「ねぇ知ってる?飛び降りてフワッと体が解放される感じ。とても気持ちいいのよ」

へりに立つ。あと一歩踏み出せば終わりだ。

「どう?何からも解放されてみたくない?」

そうだ。俺は解放されるためにここに来たのだ。バカみたいなこの世から。

「私が手伝ってあげる」

背後に立たれた。最後に看取る人がいてもいいか。

「じゃあ、またね。いってらっしゃい」

背中を押されて、体を前に傾けた。




旅の始まり

宙に身を投げ出す。旅が始まる。








































この浮遊感。

体一つで宙にいる感覚。

確かに少し昂揚する。






























地面が近づく。走馬灯はみえなかった。

地面

短い旅の終わり。さようなら。









暗闇

えっ?




























何も見えない。でも意識はある。

そうかここが死後の世界か。



でもどうして落ち続けているんだ?




























何も見えない。

何の感触もない。

ただ落ちて落ちて落ちている感覚だけがある。










落ちるのにも慣れてきた。

そうなってくると心地よさも覚えてきた。




ここには嫌な奴も自分を縛る社会もない。

何も考えなくていい。














光

明るい!

下がまぶしい。ここは地獄ではなかったのか?























空に落ちる

上が海で下が空




地獄じゃない、海だ!海から飛び出した!




これは空に飛びあがっているの?




いや落ちている。空に落ちている!




























空高くまで来た。

上を見上げると地球がある。

不思議な感覚だ。

































見上げた地球

本当に地球って青いんだな



















地球がほこりのように小さくなっている。

あんなに私を苦しめていたものがこんなにちっぽけだったとは。





























宇宙

まだ堕ちる










落ちる先には星団が見える。

彼方には彗星も。

そういえば子供のころは宇宙飛行士になりたいとか言っていたっけ。





























コスモを感じる

堕ちていく






























どこまで落ちていくのだろう。

地球へはいつか戻れるのだろうか。



























でも今はこのままでいい。

このまま墜ちて落ちて堕ち続けよう。
























それでいつか、地球に帰ったら。

あの女の子にお礼を言おう。

星々の土産話を、聞かせてあげよう。


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