特別収容プロトコル: SCP-001-JPの収容プロトコルは未策定です。実態の把握と今後の対応策の決定はアルファ級優先度事項に指定されています。混乱を避けるため、これらの業務に携わる人員 (監督評議会、倫理委員会、各地域司令部評議会、解析部門及び監督評議会が必要と認めた一部の職員) のみがSCP-001-JPについての情報を知らされており、当報告書は各地域司令部において001スロットに登録されています。
説明: SCP-001-JPは、既知の未来予知及び高精度な将来予測手法の大多数が、2030年以降の未特定のある時点でのLK-クラス "捲られたヴェール" シナリオの発生を指し示す現象です。
以下のセクションには関連情報を時系列順に掲載します。情報は進展があり次第順次更新されます。
財団がSCP-001-JPを認知したのは2020/07/08、解析部門主導のプロジェクトである "BLACKDOGプログラム" — 複数の未来予知アノマリーの断片的な出力結果を統合して演算する高精度将来予測システムの運用中のことでした。この時プログラムが予測した2033年の正常性破綻について、解析部門のサイモン・ピエトリカウ管理官は直ちに監督評議会へ報告しました。
報告に続き、O5-1はRAISAに命じて、財団の収容下にあるアクセス可能な未来予知アノマリーについての記録を網羅的に収集させ、それを解析部門に転送させました。解析部門はそれらの記録を元にBLACKDOGプログラムの演算を複数回再試行し、その結果、発生する日時には数年のばらつきがあったものの、全ての出力において正常性破綻の発生が予測されました。これを受け、O5-1は監督評議会の特別会合を招集しました。
監督評議会会議 - 2020/07/09
«記録開始»
O5-1: さて、始めよう。急な招集で申し訳ないところだが、この課題が緊急のものであることには全員が同意してくれるはずだ。
O5-5: 2030年に起きる問題が緊急だと?
O5-8: ファイブ、監督者の仕事は先を見据えることだ。今日明日起きる問題はサイト管理官にでも任せておけばいい。
O5-1: 代弁ありがとう、エイト。だが—
O5-8: いや、明確にしておくが、私がO5以外のスタッフを下に見ているなどということは決して無いのだ。ただ、私が言いたかったのは、我々は現場のスタッフとは違う目線を持つべきだということで—
O5-11: もういい。それは兎も角、10年は短いぞ、ファイブ。
O5-5: ああ、もう納得したよ。すまなかったな、続けてくれ。
O5-1: 既に全員、解析部門のレポートには目を通しているとは思うが、BLACKDOGプログラムが2030年代の正常性破綻の発生を予測した。早急に確かめるべきことは、これが自然に起きるイベントなのか、何かしらの異常な改変の結果なのかということだ。
O5-2: 違う。BLACKDOGの誤作動では無いという裏付けを取ること。
O5-13: その通りですね。
口々にO5-2に同意する声。
O5-1: ん、ああ…… すまない、秘書が呼んでいる。少し外すぞ。
O5-1が音声通話を一時的にミュートにする。
O5-4: 主催者がいなくなるとはね。で、どう裏付けを取る? 別の未来予知装置を持っているGoIにでも問い合わせるかい?
O5-12: 相談するならば連合だな。もし我々と同じ結果を彼らが得たなら、108の代表を集めて大騒ぎだろうが。
O5-2: どうだか。アルフィーネ1人の仕事では?
O5-7: 兎も角、確かにGOCならこの手の問題は利害が一致しているはずだ。それに彼らには珪シリコーンのノルニルがある。
O5-10: ゴールドベイカーもな。
O5-4: では決まりかな。ワンが戻り次第、連絡員を呼び出して会合を用意させよう。
O5-1: ああ、その必要はなさそうだぞ。そして、ツーが正解だ。
O5-12: まさか。
O5-1: 監督評議会宛に、D.C. アルフィーネ様からお電話だ。
«記録終了»
O5-1は世界オカルト連合 (GOC) 代表者であるD.C. アルフィーネ事務次長と通話を行いました。その中で、アルフィーネ事務次長はGOC保有の特殊資産においてもSCP-001-JP現象が発生したことを明らかにしました。
SCPF-GOC 通話記録
«記録開始»
O5-1: 通話は評議会全員にも共有しますが、構いませんね?
アルフィーネ: 構いません。
O5-1: えー、では本題に。連合も2030年代の正常性破綻を予測したということで間違いありませんか?
アルフィーネ: はい、まさしく。財団もそうなのですね?
O5-1: ええ。我々のBLACKDOGプログラムについてのレポートをお送りしましょう。もちろん高度機密情報は抜いてありますが。
アルフィーネ: ありがとうございます。我々も裏付けが欲しかった所です。こちらの情報も可能な限り開示しますよ。
O5-1: それは有難い。
アルフィーネ: こちらでの発端は従者たちの "三女神" でした。珪のノルニルが2035年の全面的正常性破綻を予言したのが丁度23時間前のことです。我々は複数の連合加盟団体に連絡を取り、この結果の再現性を確認しました。
O5-1: 結果は?
アルフィーネ: アース神族教団のルーン占術師たちとICSUTの予言研究グループは、この予言と合致するか、少なくとも矛盾しない結果を報告しました。ノートルダム教理大学の学者たちによれば、『ノストラダムスの予言集』は2030年代の "大規模な社会の変革" に言及しているそうです。
O5-1: なるほど、やはり。
アルフィーネ: 理外研デーモニクスは彼らの保有するスパコンで悪魔召喚プログラムを実行しました。アスタロトの未来視は概ね予測を肯定したそうですが—
O5-1: 何か問題が?
アルフィーネ: 地獄の大公爵を相手にした召喚と祓魔の連続実行は、ほぼ間違いなく新八大路市の電力供給グラフに不自然なピークを残したでしょう。恐らく日本政府の注意を引くことになります — その件については謝罪を。
O5-1: そうお気になさらず。遅かれ早かれ、本件は主要な国家政府と共有することになるでしょうから。それで、ゴールドベイカー=ラインツは何と?
アルフィーネ: 実際のところ、ゴールドベイカー社の将来予測モデルは我々にも開示されていません。しかし、メッセージが届きました。抜粋します — 「将来における超高確率の "ブラックスワン" イベント発生が予測されたため、契約に従い月毎に一定額の補償を行います」 — ほぼ確実に本件を指しているものかと。
O5-1: こちらにも届いているか担当者に確認させます。対策のために資金も必要ですし、有難い話ではありますな。
アルフィーネ: 全くです。それで目下の問題は—
O5-1: これが自然なイベントなのか、何かしらの異常な改変の結果なのか。ヴェールの崩壊を我々のタイムラインの確定イベントとして固定するような超時間的な力が働いている可能性の有無を確かめなければならないでしょう。
アルフィーネ: ええ、これが何者かによって人為的に起こされた事象なのであれば、早急にその者を捕縛し尋問する必要があります。
O5-1: そして…… 最後にお聞きしておきたいのですが、これが自然な現象であるとしたら連合はどうするおつもりで?
アルフィーネ: 評議会で議決されるべき案件ですから、確実なことは何も。…… ですが、私個人の見解でよろしければ、第二任務にいずれ限界が来ることは予想していた、とだけ。
記録上の沈黙。
O5-1: ありがとうございます。参考にいたします。
«記録終了»
監督評議会は超時間的な異常の影響の有無を知るため、時間異常部門とのコンタクトを試み、RCT-Δtのエージェントが評議会の代表者O5-8とのビデオ通話に応じました。因果齟齬を避けるため、この人物のコードネームは明かされず、映像と音声は加工されていました。
通話記録
«記録開始»
エージェント: 単刀直入に言います。超時間的な工作活動の痕跡はありません。
O5-8: そうか。つまり、逆に言えば、ヴェール崩壊は決められたイベントではないということだな?
エージェント: もし「決められたものではない」という表現が「回避可能である」というニュアンスを含んでいるのであれば、それは誤りだと言わざるを得ません。資料を拝見しましたが、これに関しては既に重要な分岐点は過ぎ去っている可能性が高いかと思います — 誰かに決められてはいませんが、決まってしまってはいるということですね。
O5-8: 過ぎ去っているだと? 我々は何かしてしまったのか?
エージェント: それは分かりません。財団だけが選択権を与えられた者ではありませんので。それは傲慢というものでしょう。
O5-8: では、どこぞの要注意団体が?
エージェント: GoIでさえないかも知れません。今更特定できるとも思いませんし、特定したからといって状況は変わらないでしょう。
O5-8: なら、君たちが分岐の前に—
エージェント: 不可能です、サー。それは致命的な因果齟齬または時流破断を引き起こすリスクを含んでいます。
O5-8: ならば我々に出来ることは何がある? まさか、何もないのか?
エージェント: LK-クラスの到来を防ぐための行為、ということでしたら恐らく何もないように思います。
O5-8: 畜生。我々は一体何のために—
エージェント: ですが、一切の選択権がないとも言っていません。それは卑屈というものでしょう。例えば、イベントの発生を多少先延ばしにすることは可能かと。
O5-8: ほう。
エージェント: あるいは前倒しも。
O5-8: 我々が前倒しにしたがると思うか?
エージェント: いいえ。私が言いたいのは、未来は完全に確定してしまってはいないということです。良くも、そして悪くも。
O5-8: ふむ…… そうなると、重要なのは "いつ" だけではないな。うむ、事態を制御下に置く努力は続けなければならない。
エージェント: 正しく。未来は我らが築くもの — 我々の部門の標語です。
O5-8: 胸に刻んでおくとしよう。段々と見えてきた気がする。ありがとう、えー、その、エージェントくん。
エージェント: こちらこそ貢献できて幸いですよ、監督者殿。
«記録終了»
O5評議会は解析部門に命じて、ヴェール崩壊の主要な原因となり得るものの、異常存在には直接関係しない事象を推定させました。以下は提出された報告において特に重要視された項目の概要の抜粋です。
- 情報技術の発展: コンピュータ及びインターネットの更なる発展により現在以上に大量のデータがやり取りされるようになれば、財団の計算機資源はヴェール維持にとって必要な情報検閲に不十分となる。また、汎用人工知能の民間での開発が進行すれば、財団の運用するWebクローラーやAICに対する妨害がなされるようになり、検閲体制そのものが崩壊する可能性がある。財団の第一世代AICに匹敵する水準の人工知能プログラムの商業的量産は、財団の情報処理活動を著しく遅延させるのに十分であると考えられている。
- 神経科学の発展: 記憶処理薬の民間での再発見がなされれば、「意図的に記憶を消す」行為に対する警戒心が社会全体に生じ、財団の活動に長期的な影響を及ぼす。更に記憶処理薬の痕跡の検出が実用化された場合、現在財団が有する最も有力かつ安定的な記憶消去手段が事実上利用不可能になる。また、記憶補強薬の再発見は民間人のアノマリー遭遇率を飛躍的に上昇させる。現在の医薬業界において積極的な投資対象となっている認知症治療薬の探索は、記憶補強薬の再発見に繋がる重大なリスク要因だと見做されている。
- 発展途上国における超常コミュニティの発達: これまで大規模な超常コミュニティが見られなかった発展途上国において、著しい人口増加と経済的発展を背景に急速なコミュニティの発達が予想されている。そのような急速に発達したコミュニティは、その規模に対して安定性が低く、自律的なヴェールの維持が困難である可能性が高い。加えて、現状そうした地域には国家超常機関を有さない国が多い。財団及びGOCは15年ほど前から発展途上国における活動を強化する方針を打ち出しているものの、長期的にはリソースの不足が予想されている。
- 反正常性運動の活発化: 前述したようなヴェール崩壊の前兆事象の頻発は、「蛇の手」に代表される反正常性運動に対し、目標達成の実現可能性を示し、運動を活発化させると考えられている。SCP-001-JP自体もこの予測の例外ではない — 当該事象はそのような団体にも認知されている可能性が極めて高く、所謂「予言の自己成就」効果をもたらすことが予測される。
加えて、確率は高くないものの発生が正常性破綻に直結する事象として、第八次オカルト大戦の勃発が挙げられました。サイモン・ピエトリカウ管理官は固有兵器の専門家としての知見から、現代における大規模オカルト紛争は、非異常メディアによる国家間のプロパガンダ競争の加熱の結果、異常ミーム兵器の拡散に発展することで勃発するだろうとの予測を示しました。このような攻撃的意図から設計された情報アノマリーの拡散は、破壊的かつ広範な正常性撹乱作用を持つと考えられます。
以上の報告を元に、監督評議会は今後の財団の運営方針を決定するための会議を行いました。
監督評議会会議 - 2020/07/10
«記録開始»
O5-1: 件のヴェール崩壊の予言 — 暫定的に001ナンバーを振らせてもらったが — について、今こそ決断する時が来たように思う。
O5-6: はっきり言ったらどうだ?
O5-1: 我々は殆ど確実なこの崩壊を受け入れるべきか、それとも万に一つの可能性のために手を尽すべきか。今ここで決めてしまおう。
O5-8: 私は受け入れに一票を。我々も変わる時が来たように思う。
O5-11: 正気かエイト? もっと慎重になれ。私は手を尽すに一票だ。
O5-1: イレブン、個人攻撃じみた発言は感心しないぞ。それに2人とも、己の立場がはっきりしているのは結構だが、固執しすぎではないか? 話し合って合意点を探す努力くらいあってもいいじゃないか。
O5-5: 見たところ、決めかねているメンバーも多そうだ。これは財団の根幹に関わる重大な決定だろ、じっくり話し合ってみよう。
O5-6: そうだな。一度崩壊したヴェールが元に戻る道理はない、不可逆なイベントだ。引き返せない道を決めるのならば、ここは慎重に行こう。
O5-11: ああ、そうとも。我々の築いた正常性は実に脆く、失えば戻らない。出来る限り守り通さねばなるまい。
O5-12: ふむ、不可逆なイベント、まさにその通りだ。だが、だからこそじゃないか?
O5-11: 何が言いたい?
O5-12: ヴェール崩壊は人類史の必然的過程の1つではないかということだ。人類文明が十分に長く存在すれば、いつかは起きる。そして、今のようには戻らない。
O5-5: なるほど、歴史の終着点というわけか。
O5-13: 一理あるように思いますね。我々が掲げる人類種と合意正常性の保護、その2つは永遠には両立しません。
O5-12: そうだ、いずれ人類は我々の保護下から飛び立つ。それは止められんよ。
O5-11: 確かに、理解はできる。しかし — しかしだな……
O5-3: ええと、止める方法ならありますよ。ただし、凄まじい副作用も伴いますが—
O5-2: 永久の停滞。
O5-8: いつまでも雛鳥のまま巣に留まっていろとでも言うのか?
O5-7: 本気でそれを実行するのなら、はっきり言って、我々こそ人類の敵だな。
O5-3: いやあ、自分で言っておいて何ですが、やはり受け入れ難いアイデアですね。これは撤回しますよ。
記録上の沈黙。
O5-11: ワン、私の票は一旦取り下げてくれ。もう少し考えたくなった。
O5-1は頷く。
O5-6: 一度仕切り直そう。そもそもヴェールは何のためにあるのか、そこを再考してみないか?
O5-10: 昨日の会議の後、正常性を定めるあらゆる法的根拠について改めて調べ直してみた。現代正常性の根幹たる「ケルン合意」について言えば、その成立の主な目的は第七次オカルト大戦への反省からだ。
O5-3: アノマリーを利用した兵器は少ない資源で莫大な損害を与えることができますからね。国家に超常兵器開発をさせたくなかった、というわけでしょう。
O5-7: しかし冷戦下で大国は超常兵器をいくつも開発した。財団はそれを止められなかった。
O5-8: 言ってしまえばあの時点でヴェールなど形骸化していたのかもしれないな。
O5-11: しかし、それが無ければより酷いことになる可能性はあっただろう。少なくとも冷戦の間、アメリカもソビエトも奇跡術行使能力の再割り当てを試みることは無かった。
O5-8: ペンタグラムはミーム兵器を実用化していたし、P部局は超能力者を機械に繋いで兵器に改造していたが?
O5-11: それは確かにそうだが……
O5-5: 過去の話は一旦これくらいにしよう。重要なのは今ヴェールがなくなった場合にどうなるかだ。
O5-3: 核を持たない小国は確実に超常兵器に飛びつきますよ。あるいは国でさえないグループもそうでしょうね、テロ組織とか。
O5-7: ヴェール崩壊後、超常兵器開発競争を始めさせない必要があると?
O5-2: 合意正常性を諦めたとしても、人類種は依然保護対象。今日の情報化社会、インターネットにでもミーム兵器をばら撒かれたら本当に世界終焉シナリオに直結しかねない。
O5-13: 財団の存在も明るみになるのであれば、そういったものを管理する機関として寧ろ表立って行動できるようになります。実はそちらの方が効果的でさえあるかもしれません。
O5-12: 先ほどのミーム兵器拡散を例にすれば、財団の名を出して各国政府と連携した方が対抗ミーム接種もやりやすいだろう。
O5-11: 悔しいが、理にかなってはいる。
O5-4: それがヴェール無き後の財団の主要な役割になるだろうね。正常性の守護者から人類の守護者へ。
O5-5: その通りだ。ヴェールがなくなっても、怪物が人を喰ったり、ミーム災害で人類全員が狂ったり、現実構造や時間流が滅茶苦茶になるなんて事態を放置するわけにはいかない。
O5-7: ああ。現在の合意正常性は普遍的ではなくとも、人類が健全に生活するために必要な条件、いわば基本的正常性と呼べるものには守る価値があるはずだ。我々はその番人になれば良い。
O5-10: 全く同意見だ。
O5-1: では一旦纏めるぞ。止めようのない人類の発展に伴うものであることが確かならば、我々はヴェール崩壊を受け入れる。その後、財団はアノマリーの脅威から人類全体を保護するための組織として存続する。これに関しては合意で構わないか?
全員が同意を示す。
O5-1: ありがとう。さて、次は今から崩壊のタイムリミットまでにすべきことを検討しなければならない。
O5-2: 備えが必要。
O5-13: ヴェールの崩壊は変えられなくとも、どのように崩壊するかは変えられる。そうでしょう?
O5-10: ピエトリカウ管理官の言うような第八次オカルト大戦など以ての外だぞ。
O5-4: 大爆発や大怪獣に関連づけられるようなものも絶対に避けたいところだね。
O5-8: 先ほどの議題提起に合わせれば — 崩壊は受け入れる、だが、より良い崩壊のために手を尽す、と言ったところか。
O5-1: ああ。今こそ我々は、正常性の緩やかな終わり方について考えなければならない。まずは情報収集から始めよう。
«記録終了»
監督評議会は直属のエージェントら (通称雑用係ファクトタム) に命じ、財団の様々な分野の専門家からヴェール崩壊への備えに必要な知見を収集させました。以下にインタビュー記録の一部を抜粋します。
インタビュー記録
対象: プレースホルダー・マクドクトラート博士 空想科学部門 部門長
«記録開始»
マクドクトラート博士: 私に何かお手伝いできることが?
インタビュアー: ヴェール崩壊に先立ち、我々は超常科学の成果を徐々に大衆に公開できればと考えています。それで、各分野の専門家の方に声をかけて回っているところでして。
マクドクトラート博士: なるほど、ではオントキネキティクスは?
インタビュアー: サイト-120に人を送っています。
マクドクトラート博士: 良い選択ですね。ミーム学についてはどうでしょう?
インタビュアー: リリハンメル博士に。
マクドクトラート博士: まあ、それも予想通りです。それで私は何の担当を?
インタビュアー: あー…… その、空想科学です。
マクドクトラート博士: ふむ、財団の最先端のメタフィクション理論が簡単に一般科学と統合できるとは思いません。まずは簡単な観測的事実を紹介するところからでしょうね。次いで物語変動検知器の技術とピックマン理論を導入し、最終的にはスワンの物語サンドイッチモデルに至る学習ルートを考えてみます。
インタビュアー: 1つ心配なのはですね、先生、この理論は我々の実存それ自体を根本的に揺るがすものだということです。実際、一般民衆にとって受け入れ難い事実でしょう? この世界がフィクションであるだなんて—
マクドクトラート博士: (遮るように) "部分的に" フィクションです。そこは強調しておきますよ。SWN001実体群はあなたの今日の朝食のメニューも、昨日のシャワーの時使ったシャンプーのメーカーも決めてはいないでしょう。ですが、あなたは朝食を食べ、シャワーを浴びたはずです。
インタビュアー: まあ、そうですね。
マクドクトラート博士: それに、実存を揺るがすというのならオントキネキティクスも逆因果理論もそうです。もっと言えば、今では常識でさえある理論 — 地動説も進化論も経済学もかつてはそうでした。
インタビュアー: 否定はできません。
マクドクトラート博士: ガリレオは我らの星を宇宙の中心から弾き出し、ダーウィンは我らの種を生物の霊長から叩き落としました。マルクスは我々の作った社会さえ我々の手の内に無いことを見せつけました。その末席に財団の名だたる研究者たちの名前が加わったとて、構わないでしょう?
インタビュアー: リストの長さは3倍にほどになるかもしれませんがね。
マクドクトラート博士: (笑う) 違いありません。しかし、言われてみるとそれだけ大量のアップデートが突然に導入されるわけですから、混乱は巻き起こるでしょう。
インタビュアー: そのためにも、外に出す順番とペースには熟慮の必要があります。評議会は、そのための会議を立ち上げるつもりです。
マクドクトラート博士: その会議には是非私の席も用意していただければ。
«記録終了»
インタビュー記録
対象: カルヴィン・ボールド博士 解体部門 部門長
«記録開始»
重要度の低い会話を省略。
ボールド博士: 解体部門のトップとして言わせてもらいますと、財団が表舞台に顔を晒すのなら、その前に解体すべきアノマリーのリストは随分な長さになりますよ。
インタビュアー: それは例えば ……?
ボールド博士: 数ピクセルの顔写真を見ただけで地球の裏側からでも追ってくるモンスターと同じ惑星の上で安心して生きることはできません。基本的正常性とはそういうことでしょう。
インタビュアー: ああ、096ですか。
ボールド博士: そもそもアレの終了処分は随分前に決定されたと記憶していましたがね。
インタビュアー: ええ、まあ。そうですね。
ボールド博士: 当然096だけではありません。まずは有害かつ倫理的問題無しに破壊可能なアノマリーのリストアップから始めましょう。
インタビュアー: それらは全て解体対象と言うおつもりですか? 流石に評議会も承認するとは思いませんが。
ボールド博士: もちろん半永久的な収容手法が確立しているものは、将来の研究のために残しても構いません。ただ、001事象のための新たな業務に回すリソースは惜しいですからね。高コストなプロトコルを要求するものは解体することをお勧めします。
インタビュアー: コストの部分に関しては会計部門や財政秘術部門とも話し合いの機会を設けましょう。しかし、それだけの解体をあなたの部門で捌ききれますか? もちろん必要とあらば、評議会は予算や人員を増やすことを厭わないでしょうけれど、それで十分ですか?
ボールド博士: 実のところ、優秀なコンサルタントのおかげで解体手法のリストもそれなりの長さがあるのですよ。それにこんな事態です、GOCとの協力も柔軟にできますよね?
インタビュアー: まあ、こちらでも善処しますよ。少なくともGOCの方は喜んで手を貸してくれるように思います。
«記録終了»
インタビュー記録
対象: ポール・ラグー管理官 サイト-322施設責任者
«記録開始»
ラグー管理官: アノマリーとの共存という観点から言って、我々の統合プログラムは間違いなく良いモデルケースになりますよ。
インタビュアー: はい。評議会はその点に非常に関心を寄せています。
ラグー管理官: では、もう少し詳しく説明しましょう。簡単に言うと、統合プログラムは収容下のアノマリーに財団職員としての仕事を与え、有益に活用することです。社会的役割を与えることは、知的アノマリーを倫理的に取り扱うことにも繋がりますし、しばしばその異常性を活かしたユニークな仕事をこなしてくれる場合もあります。問題がゼロというわけじゃありませんが、今までの1年、財団にとって総合的には有益な事業であり続けています。
インタビュアー: それは素晴らしい。単刀直入に言いましょう、我々はまさにその倫理の問題に直面しています。
ラグー管理官: と言いますと?
インタビュアー: ヴェール崩壊後、我々は危険性の低いアノマリーの収容を行わない予定です。彼らは自由な経済活動を行うことができますが、後ろ盾がないと言うことでもあります。
ラグー管理官: ええ、まあ、簡単に民間企業に就職できるとは思えませんね。市民の一部は恐れるでしょうし、一部は奇異の目で見るでしょう。サーカス団の見せ物になることは、立派な自立とは言えませんね。
インタビュアー: その責任の一端は明らかに財団にあります。我々が彼らを一般社会から遠ざけていたのですからね。
ラグー管理官: では、それが倫理の問題ですか。財団は責任を取るべきだと。
インタビュアー: はい。我々は彼らに雇用を保障し、更に異常存在との共存のモデルを一般社会に見せようと思っています。
ラグー管理官: 統合プログラムはうってつけの事業ですね。
インタビュアー: ええ、我々はこの事業を可能な限り多くの財団サイトに広め、実践させることを計画しています。お手伝いしていただけますか?
ラグー管理官: もちろん、喜んでお手伝いいたしますよ!
ビデオ通話画面にSCP-5595が大きく映り込む。
SCP-5595: アア。私モ手伝ウゾ。マズハ全世界ノさいとデ「じぇふりー・くいんしー・はりそん3世講演会」ヲ開クベキダ。
インタビュアー: うわあ! それが噂の—
ラグー管理官: ええ。SCP-5595です。
SCP-5595: 統合ぷろぐらむ第1号ノ私ヲ記念シテ銅像モ立テルガイイ。私ノ名トくそっタレナ番号ハゔぇーる廃止ノ象徴トシテ永久ニ語リ継ガレルニ違イナイ。
インタビュアー: 一応機密の通信ということになっているのですがね。アノマリーに参加させるようなものではありませんよ。
ラグー管理官: あー、ええと、信頼できる職員1名の同席を許可されましたよね? 共同管理官のコイクス博士が別サイトに出張だったもので、私が指定した同席職員は彼だったのです。せっかくなら実例もお見せしたかったですし。
インタビュアー: なんと。
SCP-5595: 私ヲ単ナルあのまりーダト思ッテシマッタカナ? マア、ソノ驚キ顔ニ免ジテ許ソウデハナイカ。
«記録終了»
インタビュー記録
対象: フィリップ・バーホテン博士 ネクサス学研究部門
«記録開始»
バーホテン博士: それで、ヴェールの崩壊でしたか。
インタビュアー: はい、ネクサスやフリーポートは人類が異常と共存している地域です。崩壊後の人類文明の在り方について何かヒントが得られればと。
バーホテン博士: それについては、ネクサス学の知見は間違いなく役立つでしょうな。土地に紐づいた異常性に、ネクサスの住民たちは驚くほど順応しています。
インタビュアー: 期待できそうです。
バーホテン博士: ただ、各ネクサスについては担当サイトに連絡を取ることをお勧めしますよ。今の私の仕事はもっぱら現場から上がってくる資料を編纂することで、実際に足を運ぶことは稀ですので。
インタビュアー: 既に64と87とは連絡を取っています。しかし、今のところこの事象は機密扱いで、人員は多く使えません。特に参考になりそうな場所があれば、優先的に人を送れます。
バーホテン博士: スリーポートとボーリング、それにスロースピット、現時点でもある程度十分に見えますがね。付け加えるとすれば—
インタビュアー: すれば?
バーホテン博士: Nx-60 — アウターオーサカはヒントになるかもしれません。
インタビュアー: オーサカ…… あの大阪ですか? 日本の?
バーホテン博士: はい、数年前に発見されたCrossroadsクラスのネクサスで — このクラスは異なる平行現実との接点になっている地域に指定されます — そこの接続先宇宙の少なくとも1つがヴェール崩壊を経験していました。更に言うと、そのタイムラインが起源のようなのですがね。
インタビュアー: 起源と言いますと?
バーホテン博士: どうも人工的に創造されたポケット宇宙らしいのですよ。あれほど大規模なものを作れる技術があるとなると、あちらのテクノロジーは相当進んでいるようですな。
インタビュアー: ヴェール崩壊を経験したことで寧ろ発展を遂げた世界ということでしょうか。
バーホテン博士: 恐らくは。しかし私は多元宇宙の専門家というわけではありません。丁度87と連絡を取っているとのことですし、ここはやはり専門家を頼るべきでしょうな。
«記録終了»
インタビュー記録
対象: トリスタン・ベイリー博士 サイト-87 多元宇宙業務部門
«記録開始»
重要度の低い会話を省略。
ベイリー博士: では本題に入りましょう — TL-1998の話ですね。あれは確かに興味深いタイムラインです。1998年にヴェール崩壊を経験し、2030年代にはあの規模の人工宇宙を作り出していた。技術水準で言えば、我々の遥か先を行っています。
インタビュアー: 2030年代?
ベイリー博士: 失礼、時間同期していないことを言い忘れていました。ただ、我々と同じ2020年に揃えたとしても圧倒的に先行していたことは間違いありません。
インタビュアー: ここまで聞いた限りだと、参考にできる面はそれほど多くはないような—
ベイリー博士: 技術面は兎も角、法や社会についてはある程度参考になると思いますがね。とは言っても大阪の多元宇宙ハブにはいくつか問題がありまして…… 向こうを訪問するのはかなり困難なのです。我々が持っている情報は、ネクサス内で取得された新聞や電子デバイスや何やから日本の担当サイトが纏めてくれているんですよ。
インタビュアー: ふむ、そちらにも連絡を取ってみます。それと、他に参考になりそうな宇宙をご存知ありませんか?
ベイリー博士: 実は用意していました。とっておきのです。
ベイリー博士は資料を取り出して見せる。
インタビュアー: ありがとうございます。
ベイリー博士: これもまた非常に、非常に特殊なタイムラインです。我々はそこで起きたことを冗談めかして…… EK-クラスシナリオと呼んでいます。
インタビュアー: EK-クラス? "意識喪失" シナリオですか?
ベイリー博士: いえ、あくまで冗談でして。きちんと分類するとすればLK-クラスの亜種ということになるでしょうね。
インタビュアー: 勿体ぶらずにお願いしますよ。
ベイリー博士: EK-クラス — "みんな知ってる"Everyone Knows 虚構終結シナリオ。地球人口の大多数が自然な形で異常を認知することにより、既知の正常性破綻シナリオのうちで最も穏やかにヴェールが捲られます。
インタビュアー: はあ? ええと、あり得るのですか、そんなことが。
ベイリー博士: 完全に成し遂げるのはほぼ不可能でしょう。ですが、この奇妙な先人に学ぶ限りでは、最終的な決壊の前に少しでも異常認知人口を増やしておくことは混乱を避ける良い方法に思えますよ。
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インタビュー記録
対象: ジャスティン・エバーウッド博士 サイト-55 要注意団体スペシャリスト
エバーウッド博士: 一般社会がアノマリーと共存する社会を築くためには財団や連合の努力だけでは足りないと思います。例えば…… 仮に両者が同じ動物型アノマリーを収容しているとして、大衆の目から見て、財団とウィルソンズのどちらを応援すべきと感じるでしょうか?
インタビュアー: ええと、そうですね、ウィルソンズかと。
エバーウッド博士: もちろんこれからの10年ないしは20年で変わっていくでしょうが、はっきり言って、今の正常性維持機関は魔法界のビッグ・ブラザーですよ。良いイメージを持たれるはずがありません。評議会のアジェンダ達成のためには協力可能な要注意団体とは可能な限り連携していきたいところです。
インタビュアー: どのような団体と協力関係になれるでしょうか? 先に挙げたウィルソンズはもちろんですが、協力的な団体のリストのようなものがあればと。
エバーウッド博士: 台湾の木易蔵書閣やオーストラリアのAPDRAなど、案外財団と協定を結んでいるGoIは多いものですよ。最近では、対立または中立だった団体との関係改善も徐々に進んできていましてね — 例えば我々は最近、日本の遠野妖怪保護区との外交チャンネルを得ました。
インタビュアー: ほう。
エバーウッド博士: 営利目的のGoIも彼らの利益になる範疇なら協力関係になれるかもしれません。それに、企業と言えば、好感度の高い一般企業のいくつかが秘密裏に超常部門を維持しています。これも民衆のアノマリーに対する警戒心を解くのに有利に働くでしょう。
インタビュアー: 一般企業ですか? 詳しくありません。教えてもらえると助かります。
エバーウッド博士: 例えばそうですね…… コカコーラ社とペプシコ社がノウアスフィア上の味覚概念をめぐって繰り広げた競争をご存知ではありませんか?
インタビュアー: いや…… しかし、そんなものが世界中に流通しているというのですか?
エバーウッド博士: 製品は非異常です。財団は定期検査を行なってそれを保証していますし、各社にスパイを送ってもいます。
インタビュアーは手元の水のペットボトルに目を向ける。
エバーウッド博士: 確かにAquafinaはペプシコ社の製品ですが、無問題です。安心してお飲みください。それはともかく、そうした企業の何割かはGOC加盟組織であり、何割かはMC&Dの子会社です。財団もまた過去に数社を買収し、フロント企業として使っています。
インタビュアー: GOC加盟組織ですって?
エバーウッド博士: ええ、コカコーラ社もペプシコ社もそうです。他に有名な例と言えば…… あのディズニーは映画の特殊効果のためにGOCの奇跡術師を使い、その見返りとして彼らのメディア戦略に手を貸していました。
インタビュアー: あの、ええと、正直本当に驚いてます。
エバーウッド博士: ともかく、そういった企業の超常雇用枠を増大するように働きかけるだけでも、異常認知人口を増やすことができるでしょう。ヴェールの裏も一般社会と本質的には変わらないことを、つまり、経済活動と日常の営みがそこにあるという事実を知ってもらう必要があります。
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インタビュー記録
対象: ティルダ・ムース博士 サイト-19施設責任者
«記録開始»
ムース博士: なぜ私のところへ? 19は非常に大きな施設ですが、評議会のアジェンダに貢献するにはいささか古いやり方の場所ではないかと思いますよ。
インタビュアー: シグマ-3の指導者の1人として、お話をお伺いしたく。
ムース博士: なるほど、ではそれだけではないでしょう。元・蛇の手のメンバーとして、ではなくて?
インタビュアー: まあ…… それもありますが。
ムース博士: 正直で大変結構ですね。それで本題は?
インタビュアー: この事態において、蛇の手と協力関係になることはできないのかと思いまして、助言をいただきたく。
ムース博士: まず第一に、蛇の手は一枚岩の組織ではありません。財団のような指揮系統のしっかりした組織にいると想像しづらいかもしれませんが、あれは政治運動であり、自発的な結社です。
インタビュアー: つまり、組織内にも派閥があると?
ムース博士: 大きく外れてはいません。人命優先でシグマ-3の存在を容認するような穏健派もいますし、我々やGOCを徹底して攻撃するような過激派もいます。まあ、大抵の場合我々は "焚書者" ほど嫌われてはいませんが、それでもやはり軽蔑の対象です。
インタビュアー: では、少なくとも穏健派とは協力できるのではないですか? 彼らも混乱は望んでいないはずで、時間はかかってでも緩やかなヴェール崩壊を実現するという点では、我々と目的を同じくしています。
ムース博士: いえ、容認している、敵対はしていないというだけで、進んで力を貸してくれるというようなものでもありません。我々は信頼されていません、まずはそこからです。
インタビュアー: どうすれば良いのでしょう?
ムース博士: まずは図書館の信用を回復しては? これまで奪ってきた書物を全て返還し、捕縛中の関係者を解放し、シグマ-3を通じて謝罪のメッセージを送ってください。そして図書館の許しを得たなら、O5の代表者が直接行って手のメンバー達と話し合うのです。それでようやく信頼を得られるというものでしょう。
インタビュアー: 監督者を異常領域に送り込むですって?
ムース博士: 図書館は "安全" ですよ。だからこそ財団は手をこまねいてきたのでしょう? 味方になるのならこれほど心強いことはありません。
インタビュアー: 図書館が財団の味方になってくれるのですか?
ムース博士: いいえ、財団が図書館の味方になるのです。図書館はただそこにあるだけです。
インタビュアー: そういうものですか。
ムース博士: ええ。図書館の知的リソースは今後の財団運営にも大いに役立つでしょうし、早めに和解してしまうに越したことはありませんよ。
インタビュアー: その助言には貴女の個人的な想いも多分に含まれているように感じますが。
ムース博士: 否定はしません。ですが、その有用性に一切の誇張がないことは明確にしておきます。これは私個人にとっても、財団にとっても、世界全てにとっても、ハッピーエンドへの道なのだと信じているのです。
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他、23 件の記録が省略されています。
報告書の更新案が提出されました。
特別収容プロトコル: Radixクラス指定オブジェクトとして、SCP-001-JPは財団の統制体系に組み込まれています — SCP-001-JPは現在進行中の財団の活動方針の大転換の根拠です。これに伴う大規模な業務上の変化に適応するため、レベル3以上の全財団職員はこのファイルと関連資料の閲覧を義務付けられています。
SCP-001-JPに備え、財団は主要な指揮系統を2つの方針に基づくグループに分割しました。第1グループは、これまでの基本的な財団の業務 — 人類種と合意正常性の維持 — を継続し、最終的なSCP-001-JP事象発生を可能な限り遅らせます。その主目的は、第2グループの任務完遂のための時間稼ぎです。第2グループはポスト-ヴェール時代への備えとなるあらゆる活動を任務とします。この計画は、"プロジェクト・カーテンコール" と名付けられました。以下に例を示しますが、この限りではありません。
- 大衆への公開に際して懸念のあるアノマリーの解体または無力化。対象となるアノマリーには、主に高危険度であるか、収容手法に倫理的問題を抱えるものが含まれます。この目標の達成のため、解体部門の予算が増額され、GOCとの技術共有が奨励されます。
- 財団の業務における非倫理的制度・慣習の廃止。 Dクラス職員制度をはじめとする、倫理的に受け入れ難い制度・慣習は段階的に廃止されます。主に倫理委員会が主導しますが、計画の後期には財団外の信頼できる人物による第三者委員会を組織することが予定されています。
- 超常現象及び異常存在を組み込んだ法律体系の構築と整備。この業務は、財団法務部門とGOC加盟団体であるバヴァリア啓明結社が主導しています。また、官僚災害の完全な制御または無力化のための研究に対し、追加の資金が投入されました。ミーム的・奇跡術的ギアスに代表される深妙的強制力の導入は、超常兵器軍縮条約等の重大な案件に限って許容される方針です。
- 民間の異常認知人口の緩やかな増加の促進。 財団とGOCは民間からの雇用枠を増加させることで合意しました。加えて、超常部門を有する民間組織にも同様に雇用枠を増加させるよう働きかけます。財団は今後3年のうちに現在のレベル0職員に対しレベル1と同等のクリアランスを付与し、アノマリーについての基本的な知識を教育することを目標としました。異常と遭遇した民間人のEクラス職員雇用基準の緩和や、記憶処理の代替手段としての期限付き機密保持ギアスの導入も検討中です。
- 異常存在との共存社会における生活・文化・産業モデルの研究。フリーポート及びネクサス社会に関する研究予算が増額される他、多元宇宙業務部門がヴェール崩壊を経験した宇宙の探索と調査を担います。財団施設における知的アノマリーの雇用が奨励され、サイト-322/エリア-179主導の統合プログラムが段階的に全世界のサイトに導入される予定です。加えて、プロジェクト・リザレクションの資料の一部が機密解除されました。
- 超常科学の学術的成果の漸次的な公開と一般科学への統合。この目標の達成のため、財団・GOC主導で「公開統合委員会」が新規に組織されます。財団からは、倫理委員会メンバーと各分野の専門家がこの新組織に参加します。国家超常機関内の学術セクション、超常技術開発を行っている営利企業、ディア大学や魔術師学会をはじめとする民間の超常学術団体についても協力を打診中です。
これらの活動は各地域の文化的・社会的・政治的状況に合わせて行う必要があること、現地の超常コミュニティとの連携を要求することなどから、具体的な活動内容の決定権は各地域司令部に委ねられています。各地域司令部の代表者は定期会合にて監督評議会に活動の進捗を報告する義務を負います。日本地域司令部管轄下においては、特にサイト-81CHがプロジェクト・カーテンコールの主導施設として運用されています。
GOC決議601号及び監督指令LOTUS CASKETに基づき、ヴェール・ポリシーとマスカレード・プロトコルを定めた、現代の正常性維持の最も基本的な法的根拠である財団-GOC協定「1945年ケルン合意」が改定されました。また、対立または中立関係にある要注意団体との関係を可能な限り改善することが両組織間で合意されました。
説明: SCP-001-JPは、2030年以降の未特定のある時点 (現在の予測では2040年前後) で発生することがほぼ確実視されているLK-クラス "捲られたヴェール" シナリオです。
現在、SCP-001-JPそれ自体は脅威とは見做されていません。監督評議会は、SCP-001-JPが「正常性という概念の人類史における役割の完了」という必然的な事象であるという見解で合意し、レベル3以上の全職員に向けて公表しました。当報告書は、今後レベル2~0の職員に向けても順次機密解除される予定です。