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Quinine’s bitter, sugar’s sweet! そんな音楽が鳴り響いた。これが、彼女が早朝でもてきぱきとしていられる唯一の方法である。

ケイト・マックティリス地域指導官はデスクの上で指を叩き、彼女のラップトップのスピーカーは雑音だらけの低音質の音楽を再生する。彼女は再びラジオのボタンを押した。

"駐屯地2072、今朝のチェックインが遅れています。応答願います。"

彼女の耳には静電気の音とアコースティックギターしか入っていない。"ジェフ、冗談は止めてちょうだい、6:21よ、あなたチェックインに30分近くも遅れてるじゃない。"マックティリス指導官はため息をついて音楽を止め、ブルペンの彼女のオフィスへと出かけると、そこでは3人の疲れたエージェントが北フロリダ全域全ての通信社を監視していた。"いいかしら、みんな、マイカノピーへと向かうわよ。ジェフの無線通信が無いわ。"彼らは仕事ができて安心したようだ。ソロウスキーはコーヒーの残りを啜ると、ウィンドブレーカーをそっと着た。"到着して、アイツが寝込んでいるようなら、オレがアイツを撃ってもいいか?"と、彼は尋ねた。

"まあ認めるわ。わたしが運転する。ホートン、アトランタにセーフ級の収容違反の危険性があると報告してちょうだい。ペレス、あなたの電話からデータベースに接続して、SCP-2072について最新の知らせがあったら教えて。"

彼らは441、早朝の草原の中で車を飛ばした。太陽は濃霧を散らすほど十分高くは昇っておらず、見慣れた地平線はいつも以上にミステリアスで、いったいどれ程このエージェントだらけの車はこんな移動をしてきただろうか、と考えさせられた。

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彼らのクラウン・ビックのドアは、森に大きな音を響かせて閉まった。SCP-2072でもあるこのペット霊園はマリオン郡道そばの樹木の中、深くに押し込まれており、長らくホコリまみれの小道だった。地方機動部隊352-ラメド - "スタンプ・ノッカーズ"、彼らの仲間 - を構成するとんでもなく暇な4人の護衛は、とりあえず駐屯地へと続く道をゆっくりと進んでいった。ホートンとペレスは銃を抜き、大げさに構え、隣のマックティリスとソロウスキーは臨時に収容道具が詰まったブリーフケースを運んでいる。ケイトの目は墓から墓へ向けた。霧が濃くなくとも、この場所は不安になる。

ジェフ・ピンクが1日12時間駐在する仮設事務所の窓の1つに近づくと、取り付けられているセキュリティカメラが粉々に銃撃されているのを目にした。ケイトはソロウスキーの小さなつぶやきを耳にした。"クソ。クソ。クソ。"彼女は2本の指を扉へと振ると、(指紋が付かないように)ワイシャツの袖を巻きつけ、ノブを回した。

映画で誰かが頭を撃たれようものなら、その者達はこんな完全に小さな穴を空けて倒れこむ。キリストのような、もっと言えば、個人が前頭葉につけた聖痕のようなと、ケイトは考えた。おそらく、彼女はロザリオを握っていたから、ちょうど思い浮かべたのだろう。現実では、そんな小さな穴はないからかもしれない。フィールドエージェント・ジェフ・ピンクの頭部は引き裂かれていた。脳みそと血潮が地面を濡らし、彼の後ろの壁には内臓が飛び散って、口は何かを叫ぶかのように開いたままだった。ケイト・マックティリスは口の中によく知った苦しみを感じ、胃をひっくり返した。彼女がこれを何度見ようとも、それが変わることはない。"クソ。クソ。クソ。"

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まず、ケイトはアトランタへと無線連絡したが、その声は彼女が思っていた以上に震えていた。今回は彼女が部隊を引き継いでから初めての死者なのだ。"SCP-2072、地域352にて、セーフ級収容の襲撃を受けました。収容は再確立しましたが、情報が漏洩しました、2072-指定の個人の保護を焦点に、モンテネグロ近辺へ部隊の緊急派遣をします。"次は予備隊としてジャクソンビルへ連絡をした。"352-ザイン、手の空いているエージェントを全員マイカノピーへ送りなさい、2072で違反が発生して、エージェント1名が殺害されたわ。"

まだ辺りには何も居ない。ここにたどり着いた者は欲した物を手にし、まっすぐ失意へと落とされた。全てのモンテネグロの首相を予測する23の墓を覆っている防水布はまだあったが、財団標準の圧縮材ではなく素人の結び目が施されている事は襲撃の意図を明らかにした。ソロウスキーは素早く理解した。"一部のモンテネグロ人が、ふざけた事に因果律をまさにめちゃくちゃにするつもりだ。"

問題は、いつかだ。その答えは、人手不足で休みのない352-ラメドのエージェントが完全に準備が整う前に返ってきた。マックティリスはお腹の中に別のランチを感じたが、これは神経過敏による物ではない。肺の全ての空気が漏れて、大量の物がその出口へと放り投げられようとしている感覚だ。彼女の耳が弾ける。オリエンテーションで彼女はこの感覚について説明を受けた事がある。周りの空間自体が折り重なっている感覚。それか昔の上司が言っていたような感覚だろうか、"お前をマワす為にアインシュタインとローゼンが協力したようなもんだ、ケイト。お前の1日の楽しみがより少なくなる感覚だ。"

今日、楽しい事なんて何もなかった。

4人の人間はバランスを崩し、突然の目眩に倒れた。空気は鞭を打つような音を鳴らし、その音は周りの森から鳴り響いていた。墓の1つの地下が、漏斗で落とされた土のように、崩れ始めた。完全な長方形の穴が地面にでき、光がそこから溢れ出た。全員の耳の圧力が消え、彼らは再び立ち上がれるようになった。ケイトはその穴へと近づいた。彼女はイメージを通じてそれを見た、軽い木と奇妙な角度で傾いた大きな机だ。1人の人物が立っており、彼の心臓が掴まれると、彼女の視界は遮られた。そのイメージの中で、彼は後方へと倒れ、まっすぐ穴へと通って行った。4人の北フロリダのエージェントはスーツを着込んだモンテネグロ議会の議員の死体を見つめ、悲しそうに葉の中へと座り込んだ。

"一体全体何事だ。"彼女は墓を通じて部屋の中の叫び声を耳にした。銃声が鳴ると、更に叫び声が上がった。ケイトは部下に振り返り、2本の指を穴の方へと振りかざした。彼らは中へと飛び込んだ。

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