最終部署オリエンテーション:最終試験
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あなたは両開きのドアを通り、集められた他の新人が散らばっている講堂に控えめに入室した。

それが幻覚剤入りであることも、よくある部署の慣例だということも百も承知であったため、レースで飾り付けされたブラウニーが乗ったトレーが並んでいるのを横目に通り過ぎ、ため息とともに着席した。
あなたはこのときの為に訓練をした。来る夜も来る夜も不眠に苛まれながら、財団が提示するものが何であれそれを学んだ。

携帯に表示されている時刻は会議の予定時刻を二分過ぎている。発表者が少し遅れているらしい。この部門はいつも漠然としたイメージで、何を期待しているのかよくわからない。程なくしてライトが作動し、女性が映っている映像が遠い壁に映し出された。

TFDオリエンテーション_第██版.mp4
MPEG-4 movie -
タグ: オンライン限定

作成 - 16 May 2022 09:21
修正 - 16 May 2022 09:22


[ログ開始]

やあやあやあ!ようこそオリエンテーションへ~~!遅れてしまってごめん。君たちも知っていると思うけどもうめっちゃ、それはもうめっちゃ忙しくって!

君たちが質問したいのは山々でしょう。でも、いつからここにいるかは関係なく、これから言うことはとても重要なことよ。

その録画に映る女性は些か見覚えがあった。おそらく前にも見たことがあるのだろうか?これほど場違いな人物を忘れることなど信じがたい。(彼女は赤いドレスに身を包み、合い財布をつけ、そして深い赤のネイルが施された手には電子タバコが握られていた。)

はじめに言いたいのは…今朝みんながここまで来るのは長い道のりだったのは知ってる。国を越えた先とか、もしくは海の反対側からとか。言っておくと、私たちはあなたたちの来訪にとても感謝しているわ。心配しないで。みんな明日には帰れるから。でもそれまでの間は最低限あなたたちがリフレッシュできるようにするわ。

実際のところあなたはそれほど遠いところから来たわけではなかった。でも少なくとも彼らが、どれだけ家から離れた場所にいるのかということを認めているのはいいことだ。しかしこの文脈での「リフレッシュ」にはあまりいい予感がしない。

次に、ブラウニーを焼いたの!そしてそう、それには薬物が入ってる。もしそれを食べてしまっているなら…ええと、財団のオリエンテーションで、そうならないように学ぶべきだったのか、もうこの声も聞こえないくらい楽しんでいるのか、どちらかでしょう。

まぁそれは別に問題じゃなくて、もしここで働きたいのなら起きてなさい。

今夜寮にそれらを持っていって、出勤前に食べなさい。そして私に感謝しなさい。飛んで喜びなさい。

きっと彼女が飛び出てきて、「逮捕だ~!」と言うだろうと思った。しかし何故か、公然として薬物を使用するのは身近なことに感じられた。以前ここに来たことがあるのだろうか?あなたは深呼吸をしてあたりを見回した。他の参加者は――またもやどこか見覚えのある――ヘッドセットで遊んだり、後の為にブラウニーを貯め込んだりしていた。その中で目に留まったのは、とても黒い衣服に身を包んだ誰かであった。

誰かがあなたを見ている。

そういえば、私の名前はクラウディア・ポマレよ。そしてただ言いたいのはあなたたちに会えて本当によかったということ!私はこの部署の管理者。つまるところあなたたちの上司よ。

あなたは目が合ってしまったその誰かから目を逸らした。クラウディア・ポマレ。あなたは彼女のことを、少なくとも彼女について何かを知っていると確信した。彼女は、今あなたに飲ませようとしている薬を開発することを目的に数十年前この部署を立ち上げた。しかしそれなら彼女は80歳である事になる。とても30歳には見えない。

そしてこの映像はそれほど古いものではない。画質は良いし、彼女が持っている電子タバコは最近のであるからだ。

この最終部署のための強制セミナーは、ここで働いている間毎日その薬を服用し、それを確認する為にある。そのおかげで、私たちは財団の軍隊や研究部門、エネルギー消費分析部門と同じように機能することができるの。

今、もしそれが嫌だと思ったなら、いつでも帰って良いわよ。財団があなたのほかの使い道を見つけるでしょうから。でもあなた方は、財団の命令での性能向上剤の使用許可を既に契約済みですよ。どうせ問題なんて無―

そのデジャヴの感覚はあなたを圧倒し、警鐘を鳴らした。心臓が高鳴った。全てにおいて見覚えがあり、しかし何も理解できない。席から立ち上がり、すぐに出て行こうとした。しかしその映像内のポマレ管理者があなたを引きとめた。

あら、そこにいたのね。エージェント<56回目の初日?>。あなたはもう既に外へ出て行く機会があった。今回はあなたのための機会じゃない。行くと言うなら行きなさい。でもあなたは試験に合格するまで抜け出すことはできないわ。次のサイクルではこれの前に私に話しかけて。その回数は多すぎる。私たちはあなたに何かさせるかもしれない。

あなたは彼女を数秒間見続けた。56の初日?どういう意味だ?

あなたは座りなおそうとした。だが…彼女はあなたを追放した。 彼女が講義を続ける中、ぎこちなく部屋から退出する。他の新人の間を通り過ぎ、入り口の二重扉を通り過ぎ、道に沿って並べられたブラウニーを通り過ぎ、そして自分の寮へ帰るための道を歩き始めた。ラッキーなことに、あなたは昨日荷解きをしなかった。ここにいるのも精々二泊三日だと思っていたからだ。

このサイトの施設は新人育成用に特化しているが、それほど多くの人をこのサイトで見たことが無い。いたとしてもメインサイトからの指令を受ける職員だけだ。もちろん管理官のリモート講義を除いてだが。

ラッキーなことに、寮はそれほど遠くない。あなたは歩く足を速めた。背後に気配は無い。鍵のかかった扉を開けるまでは大丈夫だろう。

パスポートはどこだっただろうかと荷物を漁る。このサイトを出てどこかへ行こうと考えた。しかしその思考はドアのノックによって中断された。

なんにせよ、一体全体どうして私たちは未だ薬に冒されていない肺を捨てさせようと思ったんでしょう?「神経質」と言う言葉では説明がつかない。そうでしょう?

あれを飲むとどうなるかって?簡単に言えばヒッピーみたいになるわ。しかし、多幸感や超感覚――特に"無限を見通す"感覚――、そして全身のエネルギーの高揚感が得られる。しかし大半は、仕事をするのに正常な脳の状態になるの。「無限を手懐ける」仕事よ。

ドアを開けようとした直後、何者かがそのドアを向こう側から蹴り開けた。扉の角が額に当たり、ノックアウトされる。

衝撃で倒れこみながらでは見ることができなかった。その人物が奇妙なガスマスクをつけているのを。手にグロック式自動拳銃を持っていたのを。そして何より、あなたと瓜二つであったことを。

地面に叩き付けられ、立ち直した時に見えた物は、彼らの踵と銃のマズルフラッシュだけだった。

それは植物由来の成分で作られてる。安全だよ。君のとっても小さな頭で心配するには及ばないよ。一口に"キャンディ"と言っても、ペロペロキャンディーやリキッド状のキャンディー、ブラウニー(!)、綿菓子など、色々な種類があるでしょう?

あなたの前にある小さなガスマスクが見える?私たちはそれを綿菓子と呼んでるの。つけたら口の中の水分全部とられちゃうからね。まぁ正確には"神経残留型呼吸用マスク"って言うんだけど。あのポンプで肺いっぱいにガスを満たせるのは想像できるでしょ?即効性であり効果的であり強力でもある。恐怖や闘争の本能をなくしてくれる一品よ。これがあればいざというとき、奈落に後ずさりしようが神々に謁見しようが何も感じないくらい最高のコンディションになれるわ。

自分自身の死体の前に立ちながら、あなたはガスマスクの中で深呼吸して心を落ち着かせた。同様に外から銃声が聞こえ、あなたは腕時計に目を見やった。そしてちょうど今あのオリエンテーションが終わったことに気がついた。それが意味するのはもうすぐあの新人研修員たちももう一人の自分殺しを始めるということだ。

今回は59回目の目覚めだ。初めてキャンディを舐め、そして初めて人を殺めた。今まで死者が出たことはなかったから、自分は幸運だと思っていた。少なくとも今までは。今回のこれがカウントされるなら。

私たちの<順序崩し>にとっては特に重要だけど、君たちのような白衣に身を包んだものたちにとっても雨の日のために必要なの。いま、君に接……ああ、私も加わるけど……君に接種するのは何が起こるのか知るためだけど、君が興奮状態でどんな働きをするか確かめるためでもある。最初の接種は危機的状況下でそれにどう反応するか、また実際に対処できるかどうか見るためのものなの。

だから、とりあえずやっちゃいましょ!はじめに、それを頭に装着して、安定したらカートリッジを入れてキツくねじこんで、そしたら…さあ出来上がり!みんないい?

あなたはガスマスクの栓を回し、神経ガスを肺に吸入し、すぐに咳き込む。

…あ~、まって。うん。肺も鍛えなくちゃだった。みんなが咳き込む間ですっかり忘れてたよ。とにかく、君たちの最初の試練は明日まで生き延びることね。君たちが移動中に<冬眠明け初日型>アノマリーを仕込んでおいたから。キャンディーが助けになってくれるとは思うけど、ほとんど自分でやらなきゃいけないからね。

神経ガスが効いてくると、あなたの指が空間にらせん状の残像を描いた。小川の流れのようで、大理石のような質感のようでもある。

しかし日の出を見るまで森の外へ出ることはできないとわかっていた。

銃声の合唱が聞こえてくる。ソファーをドアの反対側に動かすと、神経ガスはあなたの顔に日が照っているような間隔にさせた。咳の合間に鼻がくすぐったかった。

あなたは今最高に気分が良かった。でもこれは機能的な気分向上だ。平衡感覚も思考もいつもどおりで、少し世界が鮮やかに見えるが、それは心配には及ばない。むしろ、キャンディがオンの時のほうがオフの時より自分を制御することができた。

それにもかかわらず、あなたは自分がしてしまったことに気をとられ、背後に隠れていた人物が出てきていたことに気がつかなかった。その人物のマスクは肺に綿を送り続けていたが、それをものともせず、その人物の呼吸は安定し、低く、そして何より、静かだった。

ああ…えーっと…もしあなたが以前ここに来たことがあるのなら、あなたはもうここに来る必要はありません。でももし望むならそのミーティングを何度繰り返しても大丈夫だよ。キャンディはカフェテリアか自販機で購入できるから、あなたが望む時にいつでも使ってね。

忍び寄る音は聞こえない。銃身が頭蓋骨の後ろまで上がってくるのを見ることも、その人物の指が銃に巻きついていくのを見ることもない。

しかし、自分自身の血まみれの死体を見下ろしながら、あなたはこのループの外にいる何者かの気配を感じ取った。

銃を硬く握り締め、自分自身に会うために振り返った。

もし死んでも気にしないで。次の機会があるわ。あ、もしその時間軸で自分の分身を見かけたら、殺される前に殺しなさい。でもミーティングが終わった後ね。どちらかが"必然的に死ぬ"運命にあるけど、確率は実際60-40くらいよ。

うーん…別の何かねぇ…

銃声がもう一つ、その合唱に加わった。

…おっとしまった、それはそれとして、楽しまなくちゃ!

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