クレジット
タイトル: The Man with Oscilloscope Eyes
著者: ©︎DrClef
翻訳: Popepape
原記事: [https://scp-wiki.wikidot.com/first-interlude]
参照リビジョン: 13
作成年: 2009
煙を上げた黒いクラウンビクトリアが道端に横たわり、その車輪はゆっくりと空回りしていて、巨大な木の幹がフロントガラスを貫いていた。木はウィンドウを突き破って運転席を貫通し、ハンドルは台から外れてヘッドレストを突き破り後部座席に落ちていた。どう見ても生還不可能な事故だ。
トランスミッション・ハンプのてっぺんに座って煙草を吸っている、灰色のダスターコートを着た若い男を除いては。漏れ出したガソリンの匂いが空気中に充満していることからして、そんなことをするのは明らかに危険だ。
彼の夢想は、カーブを曲がってやって来るヘッドライトのハロゲンバルブの輝きによって妨げられた。まだ火のついている煙草の吸い殻を助手席の方へ投げ捨てて、彼はぐちゃぐちゃの車の残骸から飛び降りた。土手をよじ登って道路の真ん中に足を踏み入れた彼は、くたくたになったヤンキースの野球帽を頭の上で振る。車の残骸の横にはミツビシが停車し、彼が運転席の方まで歩いて行くと、肥満の禿げた男が眉間に皺を寄せて怒りを孕んだ眼で彼を見上げた。
「遅いぞ、」若い男はそう言いながら彼にミッキーマウスの腕時計で現在時刻を見せた。「20分前にはここに来ると言っていたじゃないか。」
「奴を引っ張って来られると言っていたはずだ。何があった?」
「私が思うに、何か少女でもあったんだろう。」若い男は答えた。
「なんだってそう思った?」
「いやあ、わからないね。もしかしたら、私が君から電気をいじくりまわせると聞いてた少女が、私の車のトランスミッションシステムに起きた不可解な故障と関わってるとか?君はたしか、彼女はコンピュータにしか影響を及ぼせないと言ってたと思うんだが。」
「黙れ。お前は最高の働きを期待されている。俺の上司が大枚を叩いたんだぞ。今のところのお前は、クソみたいな働きしかしていないが。車に乗れ。」
若い男は何も言わずに助手席側に歩いて行き、灰色のダスターコートを後部座席に放り込んでから車に乗り込んだ。「少女たち、」彼は呟いた。「いつだって少女たちだ。覚えておくといい、七層構造を成す怪物と幼稚園児のどちらかと闘うことになったら、怪物の方を選ぶことだな。その方が長生きできる。」彼の背後ではついにガソリンに火がつきはじめ、大破したクラウンヴィクトリアの内側を青や黄色の炎が舐めるように這っていた。「新しい車と、サポートチームが6人必要になる。」男は言った。「それから……」
「もうお前に価値はない。」若い男は、こめかみにあてられた冷たい金属を感じた。彼はバックミラーをちらりと見た。ワルサーPPK。9x17ミリ。シルバーフィニッシュ仕様。アイボリーグリップ。粋な銃だ、ちょっとした値段だっただろう。「試用は終わりだ。我々はいつものやり方に戻るし、お前は地獄行きだ。」
「私が君だったら、そんなことはしないね。」若い男は言った。彼の声は低く、平坦で、わざとらしいまでに涼しく、まるで藪の中の蛇のよう。「銃だけでなんて。杭と、あとは聖水なんかをお勧めするよ。」
太った男は笑った。「黙れよ、くそったれの嘘つき野郎が。」
「黙るのは君だ。君は私を殺せやしないさ。私のために大量の金を使っていることだし、君の上司は資源の浪費を好まないだろう?」
「俺の上司たちはお前のことなど知らん。これは単独任務だからな。俺の関与は完璧に否定できる。契約をした瞬間から、お前はもはや死んでたんだよ。それとも、GOCを追い出された負け犬なんかを財団が気にかけると本気で思っていたのか?」クラウンヴィクトリアのガソリンタンクはようやく発火して、火の玉が夜空に燃え上がった。燃えるような緋色の光の中、太った男の相貌は無情に、残酷に……悪魔的にさえ見えた。
若い男はにやついた。口を広く開けてたくさんの不揃いな白い歯を剥き出しにした、不愉快な笑い方。「支援はなし。リソースの提供もなし。代わりの車もないと来た。なるほど、納得だな。」男は頭を後ろにそらせてため息を吐き、車の天井を見つめた。「やらかしたな。私は鈍っちまったらしい。ただ、ひとつだけ忘れてなかったことが……」
銃声、そして立て続けにバタバタと動きがあってから、小型のミツビシは獲物に飛びかかる猫のように前に向けて急発進した。小さな車は道路脇から外れ、土手の端から岩だらけの谷を転がり落ちて、丘に流れる小川の底に衝突して倒れ込んだ。再び二発の銃声の後、静寂。
助手席の窓から這い出てきた若い男が、耳の銃創を手当てしながら顔をしかめている。額の切り傷から血が流れ出しては顔を伝っていて、息を切らした彼が体を仰向けにすると左の足首が変にねじれていた。肋骨は折れている。確実に折れている。
銀めっきのワルサーを小川に投げ込みながら、彼は星でいっぱいの夜空を見上げてにやりと笑った。「私が言おうとしていたのはな……私なら、道端で殺しをするときはきちんと車を停車してからやるんだよ。」彼は呟いた。
彼はコートのポケットに手を突っ込んで煙草を探そうとしたが、そこにはなく、自分のコートが車の後部座席に置いたままだと思い出した。なにができるかと彼は考えた。状況を考えるに、気絶することが最善策のように思えた。
だから、彼はそうした。