平面性愛(英: flatphilia)とは、天井・壁・床などを対象とした性愛・性的嗜好のこと。(Wikipediaより引用)
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「さぁ、入るんだ」

そんな声と共に、私の部屋の入り口が開かれた。

研究員2名、それに連れられ男が1人。
彼らが“実験”と表すコレも、もう何回目か数えていない。どちらにせよ、私の目的はいつもと同じ。


  私の誘いに堕ちなかった男はいない。

研究員に促され入室する彼。鼻息は荒立ち、興奮状態で私を見つめる。

「あら、早速かしら? ……いいわ。さぁ、いらっしゃい……」

いつもと同じように彼を誘惑する。
彼は私を視界に入れつつも……どこか別のところを向いている。

「大丈夫、ほら、私に全部ゆだねて……?」

衣装ドレスを脱ぎ捨て、腕をはだけさせながら彼に言い寄る。計算され、洗練された動き。

これも全て、男どもを堕とすために編み出した物だ。




……様子がおかしい。

彼は、私を見ていない。

いや、私の……私の背面を見ている。




彼は、興奮しながらも……いやに落ち着いた声で……


「ごめん、からは魅力を感じないんだ。」

最初から彼の瞳には、ユカという一人の女ではなく、わたしそのものが写っていた。

男は一糸纏わぬ私を冷たくあしらうと、その下の『床』に優しく触れて、ほほ笑んだ。


「あぁ……なんて美しいチェッカーボード・チェック……太陽も僕たちの出会いを祝福しているよ……あぁ……綺麗だ……この艶やかな肌触り……あぁ、床……君の冷たさで僕を包み込んでくれ……あぁ、床……床……」


なまめかしく腰をくねらせる私を他所に、彼は自分だけの恋愛に入り浸っている。

もう私には、彼と、彼の愛する床のじゃれつきを見守ることしか出来なかった。






しばらくした時、ある違和感に気づいた。彼と床の間に"それ"は横たわっている。

私をまったく相手にしなかった彼は、"それ"とは楽しそうに乱れている。


「床……!! あぁ、床!床!床ぁ!」

間違いない、"それ"もまた『ユカ』だ。


「あぁ、床!……床!床!!床!!…………床……」




私の持つ豊満なモノとは違い、彼女の持つソレは、紛うことなき平面まな板だった。






もう一人の"私"が、まぐわいをぼんやりと眺める私に気づいた。

髪型も、雰囲気も、ドレスのスタイルも、なにもかも正反対なもう一人の"私"は……

私を見て、ニヤリとほくそ笑んで      







……ハッとして、私は強く目をこすった。


そこには、……確かに、ただの床と戯れる男しか、いなかった。

脳裏に焼き付く、やけにリアルな幻に、へなへなと座り込む。

冷たい床の感触が、直に素足へ伝わった。


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