クレジット
タイトル: 平面性愛(英: flatphilia)とは、天井・壁・床などを対象とした性愛・性的嗜好のこと。(Wikipediaより引用)
著者: Matcha tiramisu & sakapon
作成年: 2023
「さぁ、入るんだ」
そんな声と共に、私の部屋の入り口が開かれた。
研究員2名、それに連れられ男が1人。
彼らが“実験”と表すコレも、もう何回目か数えていない。どちらにせよ、私の目的はいつもと同じ。
私の誘いに堕ちなかった男はいない。
研究員に促され入室する彼。鼻息は荒立ち、興奮状態で私を見つめる。
「あら、早速かしら? ……いいわ。さぁ、いらっしゃい……」
いつもと同じように彼を誘惑する。
彼は私を視界に入れつつも……どこか別のところを向いている。
「大丈夫、ほら、私に全部ゆだねて……?」
衣装ドレスを脱ぎ捨て、腕をはだけさせながら彼に言い寄る。計算され、洗練された動き。
これも全て、男どもを堕とすために編み出した物だ。
……様子がおかしい。
彼は、私を見ていない。
いや、私の……私の背面を見ている。
彼は、興奮しながらも……いやに落ち着いた声で……
「ごめん、君からは魅力を感じないんだ。」
最初から彼の瞳には、私ユカという一人の女ではなく、床わたしそのものが写っていた。
男は一糸纏わぬ私を冷たくあしらうと、その下の『床』に優しく触れて、ほほ笑んだ。
「あぁ……なんて美しいチェッカーボード・チェック……太陽も僕たちの出会いを祝福しているよ……あぁ……綺麗だ……この艶やかな肌触り……あぁ、床……君の冷たさで僕を包み込んでくれ……あぁ、床……床……」
なまめかしく腰をくねらせる私を他所に、彼は自分だけの恋愛に入り浸っている。
もう私には、彼と、彼の愛する床のじゃれつきを見守ることしか出来なかった。
しばらくした時、ある違和感に気づいた。彼と床の間に"それ"は横たわっている。
私をまったく相手にしなかった彼は、"それ"とは楽しそうに乱れている。
「床……!! あぁ、床!床!床ぁ!」
間違いない、"それ"もまた『私ユカ』だ。
「あぁ、床!……床!床!!床!!…………床……」
私の持つ豊満なモノとは違い、彼女の持つソレは、紛うことなき平面まな板だった。
もう一人の"私"が、まぐわいをぼんやりと眺める私に気づいた。
髪型も、雰囲気も、ドレスのスタイルも、なにもかも正反対なもう一人の"私"は……
私を見て、ニヤリとほくそ笑んで
……ハッとして、私は強く目をこすった。
そこには、……確かに、ただの床と戯れる男しか、いなかった。
脳裏に焼き付く、やけにリアルな幻に、へなへなと座り込む。
冷たい床の感触が、直に素足へ伝わった。