SCP-4767-1: Well, I mean, it was pointed out a century ago that humans were under-represented among the sapiences with higher learning and I definitely agree that there's a bootstrapping problem, I mean, you can't just expect a sapience-class to develop it out of nowhere, so…
Sandoval: I'm sorry, are you saying I'm here because of affirmative action?
変更前の訳文は、SCP-4767-1が「肝心なのは自助努力 bootstrapping であるから努力するべき」と語っているように読めるものでした。ただしそうすると、どうして積極的格差是正措置という「努力以前の問題がある」という考えに基づく制度を採用しているのかがいまいち釈然としません。
英語圏(とくに合衆国)で「ブーツストラップ bootstrap」には2つの真反対な意味合いがあります。
ひとつは「自分の靴紐を引っ張って自分を持ち上げる pull oneself up by one's bootstraps」という言い回しに由来し、「おそろしく努力を要する仕事」、努力でそれは不可能、ばかげている、といった意味で使われてきました。
ところが、この同じ言い回しがしだいに「物事を始めるには途方もない努力が必要」「はじめの努力が大事」というような、自助努力を賛美する意味で用いられるようになっていきます。変更前の訳文はこちらの用例を重視されたんだと思います。(参照 wikipedia wikiの参照元)。さらにその後、現代ではこうした自力救済的な倫理に反発する形で、ブーツストラップという表現が「物事を始められる、スタートラインに立てるかどうかは努力ではどうにもならない」という文脈でも使われるようになります。つまり一周して原義に戻った形です。
これらを踏まえると、上記のシーンはこういう流れでしょう。
SCP-4767-1は「ブーツストラップの問題だ there's a bootstrapping problem」と言った後、それだけだと自分が一体どちらの意味で話したのか、聞き手にははっきりしないことに気づく。そこで「つまり私が言いたいのは、I mean」と前置きした上で、「you can't just expect a sapience-class to develop it out of nowhere」と自分の立場を補足しているんです。
(この I mean が変更前の訳文では消えていたので、SCP-4767-1が断固とした自助努力サイコー派に見えてしまっていました)
(また you can't just expect…は「君は…思ってはいけないよ」といった禁止というより「…とは思わないよね?」と同意を求める表現かと思います。justにあたる言葉だけを足し、この禁止は既訳を尊重して残しました)
SCP-4767の見解はいったいどちらなのか、正直なところ私は変更前の訳文とは反対の方だと思っています(その方が、どのみち入学させた後も学生はローンで苦しむことになるというオチがよりヒドくなるかと…現実ですが)
いちおう訳文はどちらとも読めるようにしています。機会があれば原訳者さんの解釈も読めると嬉しいです。