原文:こちら
作者様:MaliceAforethought
Rokurokubi様に査読していただきました。誠にありがとうございました。
翻訳お疲れさまです。
改めて読んで、いくつか翻訳に関する意見があります。
pathosの注釈:
採用していただいてありがたいのですが、「不純液体パトス」そのものの説明であると誤解される可能性に気づいたので、下記のように書き直してみました。
訳注: パトス(pathos)とは、人・状況・映画などが持つ、同情や悲しみを感じさせる性質を意味する。「哀愁」、「悲哀」などとも訳される。
ヒトの立ち入りは許可されていません。
No sapient entities are permitted access.
「知的実体の立ち入りは許可されていません。」
少なくともヒトは違うと思います。sapient entitiesという言い回しを使っているSCPは他にもあって、知的実体・知性的な存在・知性体などと訳されていました。多分SCP側を指す場合が多いと思うんですが、このSCPの場合ヒトに限らず近づくなという収容プロトコルになっています。これは現実再構築の発端として液体を飲んだのがティモシーなのか犬なのか不明であるからか、もしくは人間が飲んで犬などのペットに影響が及ぶのならその逆もありえるためだと思います。
後に、ティモシーの父親は当局が捜査できる前に遺体を回収しようとして溺死し、
Timothy's father later drowned while attempting to recover the body before the authorities could investigate,
「ティモシーの父親はその後、警察が捜査する前に死体を回収しようとして溺死し、」が良いと思います。
当局(authorities): authority / authorize / authorの意味と使い方 | ネイティブと英語について話したことによるとauthoritiesはFBIやCIAなども該当する言葉ですが、こういう死体について捜査するのは一般的に警察だと思うので、警察で問題ないと思います。私の主観的な話ですが日本語の「当局」はニュースでよく海外の何かについて○○当局って言ったり、かなり汎用的な言葉という感じがするので、警察の方が直感的だと思います。
捜査できる(could investigate): 下記のページを見ると、この場合推量が適切だと思います。
It could be sunny tomorrow. (明日は晴れるかもしれない)のように、警察に調べられるかもしれんから隠しとこ…と思ってそうしたのだと思います。
【保存版】可能性・推量を表す助動詞
英語の15個の助動詞が今すぐ分かる一覧と使い方
《完全版》助動詞「could」の意味と使い方 | 英語部
遺体(body): 辞書によるとこう書かれていました。
死んだ人のからだ。なきがら。遺骸。 「 -を葬る」 〔「死体」に比べて人格性をこめていう〕
なので財団的には逆に「死体」の方が適切だと思います。
後に(later): 文章のテンポが良くなるかと思って位置を変えてみました。
輪縄をもろくなっていた支柱に固定していたため、母親の死後まもなく家屋が崩壊し、ティモシーの兄と3匹のペットが死亡しました。
due to the fixture of the noose to a weakened support beam, their family home collapsed moments after her death, killing Timothy's elder brother and three further family pets.
「脆くなった部材へのロープの固定が原因で、」が良いと思います。
輪縄(noose): 輪縄で画像検索してみると正にその通りで、nooseで画像検索しても完全にその意味なのですが、私が初見時読めなかった事を踏まえると単に「縄」か「ロープ」とした方が良いかもしれません。文脈上そういう形態になっていることは明確ですし。
過去の事例として、イギリスの高級ブランドがファッションショーで輪縄のついた服を披露して問題になったらしく、日本語の記事と英語の記事があります。
日本語版は別に翻訳記事では無く、同じ題材を別の人が書いたものなのですが、英語版はタイトルで「Noose」と使われる一方で、日本語版ではどこにも輪縄とは書かれていません。単語の知名度の差を感じます。
バーバリーの服に「首吊り縄が自殺を連想させる」 モデルが問題提起し、同社が謝罪 | ハフポスト
Burberry 'Deeply Sorry' For Sending Model Wearing Noose Down Runway | HuffPost
もろくなっていた(weakened): 「脆く」をサイト内検索すると漢字表記のほうが多数派でした(全体数自体が数十件ですが。)
支柱(support beam):
支柱だと垂直方向に支えている感じの言葉のような気がして画像検索してみるとつっかえ棒ばかり出てきて、家の構造に関係して使われているケースが全然なかったので更に調べました。
beamを英英辞典で調べると"a long heavy piece of wood or metal used in building houses, bridges etc"とありました。
アルクでsupport beamの訳を見ると「支持梁(支持ばり)」と出てきましたが意味が分かりませんでした。
梁の意味はWikipediaによると「建物の水平短径方向に架けられ、床や屋根などの荷重を柱に伝える材のこと」とありました。
Beam – Definition and Typesというページを見るととりあえずbeam=梁で、水平方向に架かっている木材(金属ではないと考えたほうが無難)というのは分かりました。
じゃあsupport beamとは?という話になるのですが、日本語で"支持梁"と検索しても専門的な難しい話ばかり出るので、supportはbeamの文意を明確にするために添えられている単語なのかもしれない(あるいはメインではないbeam?)、と思いました。
画像検索すると屋根に隣接してるやつ、隣接してないやつ(ロープが通せる)、柱と梁の間に斜めに取り付けられてるやつ(これもロープが通せる)といろいろあったので、念の為作者にPMで質問を投げました。返信待ちです。
ただ、結論としては「柱」は垂直方向に建物の重さを支える物で、「梁」は水平方向に床や屋根の重さを支える物です。
ですが、梁と表現するのは分かりにくいので出来れば避けたいです。
梁(はり)の意味 - goo国語辞書や部材を勉強しよう!|一般社団法人 佐賀県木材協会では水平材と解説されていました。水平材もピンとこないので、思いきって「部材」とするのが良いかもしれません。これは意味として柱も梁も含みます。
固定していた(fixture): 元が名詞なので、それっぽくしました。
ティモシーは生前新聞配達員として働いており、父親と兄は家族経営の精肉店で働いていました。精肉店は近くに大型スーパーマーケットが開店したことにより苦境に陥っていました。
Timothy had previously been employed as a paper delivery boy, and his father and brother worked at a family-owned butcher's shop, which was failing due to the opening of a large supermarket in the vicinity.
「ティモシーは生前、新聞配達員として雇われており、父親と兄は家族経営の精肉店で働いていましたが、付近に大型スーパーマーケットが開店したことにより経営が悪化していました。」
生前新聞配達員: 漢字がいっぱいくっついているのでここは読点があったほうが読みやすいと思います。
働いており(employed): 原文通りに訳したほうが良いかなと思いました。まだ13歳の子供なので、まさに雇ってもらってる感があるというか。
スーパーマーケット云々: 区切らずに原文通りに繋げていいと思います。
近くに(vicinity)と苦境(failing): 報告書っぽい分析的な表現に近づける事を意図しました。failingには倒産するというニュアンスもあるようですが、最後の「家族全員が退職」という一文からその域には達していないと思います。
母親はアマチュア小説家であり、近頃初めての出版オファーを受けたばかりでしたが、全ての原稿は住居の崩落とその後の火事により失われました。
His mother was an amateur novelist; although she had recently received her first successful offer of publication, all manuscripts were lost in the building collapse and ensuing fire.
「母親はアマチュア小説家であり、近頃初めて出版のオファーが成立しましたが、住居の崩壊とそれに続く火災で全ての原稿が失われました。」
語順を変えて原稿の件を後ろに持っていったほうがインパクトが強くなるかなと思いました。
received her first successful offer: successfulをオファーの成立と解釈していいんじゃないかと思ったんですが、ここに関して自信は無いです。オファーを受けるだけよりめでたい出来事になると思うので変えてみました。
火事(fire): なんとなく火事<火災な感じがして、家の財産すべてが損害を受けたので火災の方が良いと思います。
ばかりでしたが: 主観的な表現を徹底的に除外してもまだひどい、という効果を出したいので変更しました。
崩落(collapse): 日本語で崩落というとトンネルや橋が崩れ落ちる印象がやや強く、単語が前述のものと同じなので統一したほうが良いと思います。
この時、2,200,000ユーロ以上の宝くじの当選券のみが失われませんでした。
The only item not destroyed during the event was a winning lottery ticket, worth over £2,200,000.
「この事象の間に焼失しなかった唯一の物品は宝くじの当選券で、2,200,000ポンド以上の価値がありました。」
単語が読者の目に入ってくる順番を考慮して、宝くじのことが後ろに行くように語順を変えてみました。
destroyedは火災にも繋がりのある言葉のようでしたので、the eventが火災を指しているとして焼失にしてみました。
2,200,000ユーロ(£2,200,000): 欧州連合のユーロは€で、英ポンドは£です。ドル以外日本人には馴染みがないかもしれないので、文末(句点の直前)に以下の訳注があるといいかもしれません。ただ、記事の文章が短すぎるので開いた瞬間に目についてネタバレになるかもしれないですね。訳注しか無いのでfootnoteblockを消してしまえば良いかもしれません。
訳注: 翻訳時、220万ポンド(GBP)は日本円(JPY)で約3億700万円。
overなので2,200,000ポンド超という表現も出来ますが、これだけ大きい数だったら変わらないだろうということで問題はなく、以上の方が自然なのでこのままにしておきたいと思いました。
ご対応いただきありがとうございます。
オファーが成立の表現に関して、著者のMaliceAforethought氏に質問してたんですがお返事が来まして、オファーを受けたと訳すLa Bandera Blancaさんの解釈で問題ありませんでした。すみません。
後に、ティモシーの父親はその後、
以前の記述が残っていました。
私のコメントに由来するものなのでどちらも私の方で修正しました。
母親はアマチュア小説家であり、近頃初めて出版のオファーが成立しましたが、住居の崩壊とそれに続く火災で全ての原稿が失われました。
母親はアマチュア小説家で、最近初めて出版のオファーを受けましたが、住居の崩壊とそれに続く火災で全ての原稿が失われました。
ひとまずこうしました。
「受けましたが」に変えると意外と印象が変わって、
後の文が結構長く続くので「あり」を消したのと、近頃を最近にした方がすっと読める気がして、報告書的にどうなのか?と悩んだんですが、元から厳密な言葉ではないのでこだわりすぎても逆に違和感が出るのかなと思い、最近にしました。読んで逆に違和感があるようでしたら戻してください。
もう一つ、footnoteblockを消せば脚注が出ないように出来るとコメントしたんですが、普通に出てたので何か勘違いしていたみたいです。申し訳ないです。
調べたらsize 0%で包むという方法があったのでそちらで対応しました。
追記: マウスオーバーした文字まで見えなくなってしまったので戻しました…
再追記: 下記の構文で実現できました!
http://shitake-crude-production.wikidot.com/footnote-explain/offset/1/footnotenone_limit/1
著者に送った質問の内容:
・beamの解釈に関する質問については、細かく指定しない言葉で対応したことを報告
・オファーの部分について以下の3択でsuccessfulのニュアンスを確認
1. She received an offer. (Translation ignoring existence of "successful")
2. She received an offer of good treatment.
3. She accepted the offer (And the publication is decided, and she is preparing).
MaliceAforethought氏からの返信:
Hello! First of all, thank you for getting in touch — it means a lot to see that people like my writing enough to translate it!
Regarding word choice:
- By "support beam", I had meant a horizontal beam, like in the first two pictures you sent me. It's not very important to the story though, so your solution (the 'generic word that includes both pillars and beams') sounds like an excellent translation :)
- The sentence "she had recently received her first successful offer of publication" is actually not very good, and poorly-worded on my part. I had intended to say that this was the first time her submissions had been given an offer of publication — 1. is probably closest to what I had in mind, and the word "successful" isn't really correct in the context. I'll have to re-write that bit at some point!
Sorry for the confusion, and I hope this helps!
再々追記: これも私の方で編集させてもらったのですが、
原文を見直した所、ティモシーと一緒に死んでいた犬が行方不明になったタイミングについて
「Both dogs had gone missing in the months prior, 」
と書かれていました。in the monthsは主に数ヶ月と訳されるみたいです。
ティモシーの虐待も犬の行方不明がきっかけか!と今更気づいたのでよく見直した所、
ペットの2匹の犬と共に井戸で溺死しました。2匹とも一か月前に行方不明になっており、
この「犬と共に井戸で溺死しました」という表現が犬とティモシーがまとめて死んだような印象を与えるように感じましたので、「数ヶ月」にするついでに表現を変えてみました。
2匹の飼い犬と共に井戸の中で溺死していました。犬は2匹とも数ヶ月前から行方不明になっており、
・「ペットの犬」を「飼い犬」にして収まりが良くなるようにしました。
・「溺死していました」に変えると、あくまで発見時の状況という印象になると思います。
→この変更はあまり良くなかったかもしれません。検討します。
・直前の文はティモシーについての話なので、はっきり区切るために「犬は」と主語を足しました。