変遷に至る変遷
SCP-2000-JPコンテスト運営委員(以下、委員)がテーマを「変遷」に決定するまで、2回に分け合計4、5時間程の議論がありました。その経緯を簡単にまとめて見ました。
「明るい」ワード
まず、委員達が意識調査アンケートを見ての一番の印象は、「希望」「光」「ハッピーエンド」「未来」「平和」などといった「明るい」ワードを期待する声が多いな、という点でした。「終わり・終焉」「完全」といった区切りのワードも踏まえ、委員はSCPであえて「ハッピーエンド」をテーマとすることについてまず議論を始めます。
その議論の中で出たのは「ハッピーエンド」のような直接明るいエンドを示すテーマではその裏を掻こうとしたりでむしろ一辺倒にならないか?また、「ハッピーエンド」を元に記事を作る事はできても、その記事を見て「ハッピーエンド」という構成自体がテーマの記事だ、と実感するのは難しいのではないか?という懸念でした。結局、「ハッピーエンド」や明るいワードそのものよりも、『これから』を示す、期待させるようなワード、に留めたい、という結論に至り、一旦明るいワードの直接採用は保留となりました。
ここで明るい未来、希望に票が集まった要因に着目すると、意識調査アンケートスレッドの書き込みにもあったように、「今までのホラー、暗いイメージの記事に留まらない記事が見たい」また「年号の変わり目、新しい時代に対する期待」という意識が垣間見えます。委員はこの「変わり目」に注目しました。
「転換」のワード
次に委員が議論したのは明るい未来にも通ずる「転換」に関するワードでした。意識調査にも「ターニングポイント」「パラダイムシフト」「変革」「革新」「進化」「前進」といった、明るい希望にある程度通じつつそれだけに留まらない、裏を搔いても逆の印象になりづらいワードが浮かび上がってきました。
それらを議論する中で「時代の転換」という点に議論の焦点が移ります。
「時代」のワード
時代、という点に着目して、明るいイメージの「未来」に限らずより創作ジャンル寄りの「近未来」「未来」もどうか?という提案も委員から出てきました。本家のSCP-2000コンテストのテーマが「SF」であったこともあり、敢えて創作ジャンルに近いテーマもありなのではないか、と。
意識調査内では「現代」「近未来」「未来」「時間」といった案もあり、また「近未来」「現代」に通じる「インターネット」「コンピュータ」「科学」といった科学・技術系のワードもありました。
ただし「SCP-2000-JPコンで近未来」という提案の根底にあった「2000という数字の近未来感」が世代によって共有できないのではないか、という懸念も出てきました。注釈しておくと、90年代前半ぐらいまでは2000年や21世紀といった言葉に「近未来」のイメージが強くあったのです。
斯くして変遷に至る
「明るい未来」「時代」「転換」……大枠のイメージは委員内でも共有出来てきましたが、ずばりというワードが中々出てきません。未来への繋がり、時代の切り替わりを如何に一言で表現するか、「時代の節目」「過去から未来へ」というように組み合わせたり、いっそ「ターニングポイント~過去から未来へ~」みたいなサブタイトル風もどうか、などなど、様々なアイディアが出ては委員全体の納得にまで至らず、ということが繰り返されました。
そんな時でした。不意に、ある委員から「変遷」というワードが出てきたのは。
変遷。それは必ずしもよい変化とは限らないものの、これまでの過去があり、今があり、これからの未来があることを言い表せる言葉でした。
『なるほど、それなら明るい未来・エンドと決まってはいないし、それでいて「これから」を期待させる事も出来る。転換期のイメージも表せられるし、時代の変化も十分に感じさせる』
ここまで大枠のイメージは固まっても具体的なワードでは喧々諤々意見の一致しなかった委員でしたが、検討するにつれ、やはりこのワードこそこれまで議論してきた各ワードを俯瞰出来るよい単語であり、そして記事からも直接そのテーマを感じさせらられるような作品も作られそうだ……という意見で一致を見ました。
さらに言えば、平成から令和へ、現代から未来へ……だけでなく、SCP-JPにとっての節目、振り返りもまた意味する言葉に出来たように思います。我々も大きな転換を幾度も続けてきたし、これからも続けていくであろう。そんな今、改めて「変遷」そのものをテーマに、過去を振り返り、今を見直し、未来を見つめようーーそんな意図が、委員の他にも伝わってくれたらと期待しつつ、変遷に至る変遷を閉じたいと思います。
願わくばたくさんの「変遷」を感じさせる記事がコンテストに投稿され、JPシリーズIIからJPシリーズIIIへの「変遷」の節目を飾るとびっきり記事が生み出されますように。