掛け算の順番は絶対不可侵の聖域で、アレルギーは母親の愛情で治り、世界は公平で、北斗七星の星は七つ。幼い自分が育ったのはそういう世界だった。
開幕の画像からここらへん、語り手の通った道が分かりやすく表現されていてすらっと入れました。
この大学で舞台の上のような挙動をするのは何となく憚られた。
この表現が好きですね、「なんとなく」という言葉は使いどころが難しいものですが、ここでは使い方がとてもうまいと思います。
暫定民間人
後輩のルビ、「大学の」か「財団の」かでかなり意味が違ってきますが、僕は勝手に大学と解釈して勝手にニコニコしました。
北斗七星の星が七つになっている。
どうして自分はそれにこんなに動揺したのだろう、とすら思う。
開幕の画像や比喩をモチーフで流さず中盤でしっかりと使うのは流石の手腕と思いました。
"私"はそうは思わなかった。
ヒュー！！！ってなりました。ここまでの地の文見ても所々誤魔化せてないのが滲んでてからこれなのいいですね。
三人称小説みたいにして他人事のように思考を続けて自分ごと全てを欺き続けるのも、心底御免だと思った。
この手法本当に好きです。
「二十一世紀にもなって死の舞踏かよ」
ここまででもキャラの魅力を良く引き出していましたが、この台詞は特に好きです。
「僕のあだ名、亦好さんから聞いてませんか？」
「聞いてますよ、”片道切符”でしょ。そんなに高らかに名乗ろうとしないでください」
高らかに名乗ろうとするのも名乗りキャンセルするのも好きです。
ペンライトに偽装された簡易記憶処理器
そういえば光系の記憶処理器って割と珍しいですね。読み終えてから気がつきました。武器にするのもそういうことするんだ……って思えました、面白かったです。
何も見えていないだろうにどこかに歩き出そうとしている真北さんを呼び止めた。
この人迷子だなぁ……。
大丈夫、出来るさ、秩序を守るためだもの。そう白滝は考える。必要であるならば、自分は何だって偽れる。白滝は心の底からその嘘を信じることが出来る。
そしてその上で、その先を探して迷い続ける事だって出来るわけだ。ちらりとそんな事を思った。
ここできっちり話が締まりますね……上の文だけで終わらないのがいいと思います。
全体的に
語り手の一人称表現のやり方が好きで、非常に楽しく読めました。欲を言えば白滝さんでもう一作読みたいです。
