1. ご都合主義と思われる部分が多すぎる
全体を読み通して思っていたことではあるのですが、(作中における)この報告書を作成・編纂していると思われる遠野博士の日誌がなぜ報告書に挟み込まれているのかが説明されていないのがとても気になりました。読み進めていけば説明があるのだろうか?と思ったのですが見当たらず、「ああ、遠野博士のキャラ付けをするためだけに挟み込まれたんだな」というメタ的な意図が見えてしまい興が冷めてしまったように思います。同じ3000-JPコンエントリー記事を例に出すのは少々恐縮ではありますが、SCP-3000-JP - 常世の国における中村氏の手記は序盤に同じ現場に居合わせた職員から書き残すように指示されたという説明が前提にあり、そういった違和感を感じさせることなく読むことが出来ています。この記事にもそういったやむを得ない理由があれば違和感なく読めるのかな、と思いました。
同様のご都合主義的部分は他にもあり、例えば「インタビュー記録3000-JP-23 - 2024/11/08」における以下の記述
古手研究員: あーあー、OK。音声通信の感度は良好。私は古手研究員だ。現在、財団のサイトに向けて音声通信を行っている。多分、このシステムなら自動筆記があるから、この音声は自動で文字起こしされているはずだ。
とりあえず、現状を簡単に説明しよう。今、こちらには6名のエージェントと1名の日本生類創研のメンバーがいる。例の強襲作戦が成功し、2名の犠牲を出しながらもSCP-3000-JPを開発した第二次認識生物部のメンバーを1人生け捕りにすることができた。しかし、逃走した他のメンバーは不明な手段による逃走を行い、現在拘束している人物もサイトへの移送中に逃走する怖れがあると判断した。そこで、ここでインタビューを行い、それをサイトまで飛ばし、自動筆記してもらうというやり方にしている。
さて、それじゃあお前に全部話してもらおうか。あの装置はなんだ?そしてその使い道はなんだ?
などでも、「それなりに即時性や緊急性を必要とするであろうシーンで、しかも敵対するGoIに対してこんなにつらつらと状況説明するかな?」という印象が非常に強く、正直そのせいでここの内容は2、3度読み直さないと展開が頭に入ってこないくらいには厳しかったです。それくらい、この記事にはご都合主義優先と思われる書き方が多く含まれてる印象を強く受けました。作品テーマや夏に対するノスタルジックさを売りにした表現はとても好きなのですが、そういう部分でそれを感じさせるにはノイズになってるように思います。
2. 無駄に影響規模が大きすぎる
この記事における一番の見せ場であろう情景表現…「青い空」「ヒマワリ畑」「麦わら帽子」「白いワンピース姿の少女」という要素と、それがApollyon相当になるほどの世界的に広まり、果てには現実改変を引き起こしてまでその情景が発生してしまう、という組み合わせがかなりミスマッチであると思いました。これが日本全域程度の影響範囲であるならばまだ納得できたかもしれません。なぜなら、少なくとも私の認識ではそれらの「夏色」的表現はあくまで日本人が抱くノスタルジー、郷愁の要素であると考えられるからであり、各国の各人で国籍・文化・人種・生活環境・幼少期の置かれていた状況などが「世界」基準だと振れ幅があまりにも大きすぎるために、郷愁を感じる表現や情景はそれとは全く違う可能性も全然ありえるからです。
なので、この記事における世界レベルの「夏化イベント」の発生で抱かせたいであろう感情がそういった「全員が同じ情景で同じ郷愁を感じるはずがないんじゃ?」というツッコミでかすれてしまうのはとても惜しいと思いました。
3. キャラクターの魅力を引き出せていない
遠野博士にしろ、SCP-3000-JP-3にしろ、「なぜそんなふうに考えて行動してるんだ?」というのがあまり頭に入ってこないような印象を受けました。SCP-3000-JP-3が「人々の共通した"夏の思い出"に生まれた認識の少女」であるがゆえに、なぜ遠野博士のみにそこまで思い入れている(世界の命運を揺れ動かすだけの理由のある人物になっている)のかがわかりませんし、遠野博士も遠野博士で、「なぜSCP-3000-JP-3にそこまで思い入れているのか、他の影響者と何が差があるのか」がわからず、強引なボーイ・ミーツ・ガールに陥っているような気がします。テーマがテーマなので、それぞれのキャラクターが引き立つ表現や台詞回しがあって欲しいのですが、全般としてキャラクターが説明口調っぽいのもとても惜しく思います。
そして何より、そのような影響を受けている職員が報告書の編纂者となっており、あまつさえ機密公文書の体裁をとる報告書で個人的な日誌が挟み込まれている形になっているにも関わらず、財団が何もしていないというのもどうなのかなぁという感じです。やはり全体的に説明不足でご都合主義な感じがするのは前述した通りですね。
4. 「日本生類創研」という存在が邪魔をしている
おそらく日本生類創研を出すことも念頭に置いて執筆されたのだろうと思いますが、それがかえって記事の良さを殺してしまっているような気がします。このテーマであればそもそもGoIをねじ込むこと自体が冗長的になりかねず、それそのものがノイズになっているように思いました。
例えば、SCP-3000-JPがある特定の地域(今回であればヴェールの外側のGoIとは無関係な施設などでしょうか)で起きる異常空間や現象であり、一般人にひっそりと知られていたのを財団が把握し、実験を重ねるうちにSCP-3000-JP-3が夏化イベントを発生させるようになった……という展開であればかなりグッとくることもあったかもしれませんが、日本生類創研が出ることで「ああ、またニッソか、そっかぁ」と、オブジェクトそのものの魅力がGoIによってかき消されてしまうことになっているんじゃないでしょうか。
この記事の場合、オブジェクトが「どこから、なぜ発生したかはわからないが、何をしたいのか、どうしてほしいのかはわかる」くらいの温度感のほうがずっと合っていると感じます。