梅下にて / 匂いて待てり / とふみ送り / 白下は暮れて / 紅下も暮れり
意味文: 「咲いた梅の下で待っています」と手紙を送ったが、片方は白梅の下で、もう片方は紅梅の下で相手を待ち続け、終ぞ邂逅叶うこと能わず。
梅は紅白桃とありますが、いずれも同じ頃に咲きます。その指定がないために、共に待ち続けてなお逢瀬が叶わなかった……と言った情景を読んだ設定です。
富貴草 / 竹敷屋根の / 土壁の / 袂に首は / ぽとりと一つ
意味文: 富貴草(牡丹)が花を一つ落とすように、竹敷屋根の古屋の土壁の袂に赤く一つの命が落ちる。
牡丹の花は丸ごと一塊で落ちるため、介錯の首内によく似ている。地に広がる血飛沫は、まるで地に咲く花のように例えられることがままあります。昔は竹を用いた屋根の小屋は多かったので、今回舞台にしたこの家かどうかはわかりません。
秋七つ / 青に黄色に / 粧えど / 萎み燻みて / 人も移ろい
意味文: 秋に青や黄色に美しく咲く花々を、綺麗と持て囃し秋の七草と呼ぶけれど、萎れてしまえばすぐに関心を失って、人の心はうつろってしまう。それはまるで流行りに流される人のようで、美しさのみに生き急ぐ人間のようだ。
秋に咲いて、秋に萎む、短命な花は人の盛者必衰のようです。美しいものばかりにしか目がいかない人々や、すぐに移ろう人の心は、まるでこれらの花のようではないでしょうか。
霜崩し / 積もる緋茶梅 / はらひらり / 想い馳せつつ / 春は刻々
意味文: 霜の立った地面に、一枚一枚花弁を散らせる茶梅(山茶花)を見て、徐々に近づく春を待ち焦がれる。
春の暖かさをこがれる平和な句です。山茶花は花びらを一枚一枚落とします。まるでそれが、春に向かって時を刻むような感じに見えた、という設定です。
これら短歌は、貴婦人のいう悲愛や死に様を見てきたという台詞につながります。
春夏秋冬、長い間物事を見てきた中の何気ない一コマを読んだ歌としての描写でした。
四季巡り / あらたまれども / 変わりなく / この花咲くや / 枯れゆく己
主人公が受け取った短冊に書かれたこの短歌、意味書下しをするとすれば、
意味文: 四季が巡り、物事は全て最初から改めて始まり、毎年のように花々は美しく咲き乱れる。それなのに私は日に日に衰え、枯れていくのを止められない。
という、己の衰弱と花の活力を対比した句です。正体は「この花咲くや」この句が全てです。