作成日(SCP-FR): 2015/10/13
作成日(SCP-INT): 2017/09/30
原著:Spe Arcael
英訳:Reyas
和訳:SOYSOY_Kusagawa
査読協力:
原語記事: SCP-192-FR
英訳記事: SCP-192-FR
翻訳ありがとうございます。
いくつか改訳の提案があります。オブジェクトタイトルにかかわる内容があるので、編集する前にコメントでお尋ねしておきます。
瑣末なものから記事の根幹に関わるだろうものまで、順に列挙していきます。
現状の日本語記事はINTの英訳からの重訳のようですんで、以下の訳案はフランス語原文準拠で、必要な箇所はINTの英訳も参照しています。
(…)全ての現地住民は避難しました。
(…)tous les habitants ont été évacués.
訳案:全ての現地住民は退去済みです。
このSCPの性質を見る限り、何らかの危害から住民を避難させる必要があったというより、収容上財団が退去させた、ということだと思います。後者の方がこのSCPの性質を反映した訳ではないでしょうか。
市街地へアクセスしようとする住民は、その地域外の最寄りの警察署へ護送され、「産業スパイ」として告発されます。
Tout civil tentant d'accéder au village devra être escorté au poste de police le plus proche hors de la zone avec pour motif "espionnage industriel".
訳案:当該の村へアクセスしようとする民間人は、「産業スパイ」として封じ込め区域外の最寄りの警察署へと護送されます。
やってくるのは元住民だけではないだろうので、civil は「民間人」でよいと思います。また、「告発」というのは、原文を見る限り少し強すぎる表現かもしれません。ようは非財団職員を追い出す口実というだけだろうので。
SCP-192-FRは(…)ドアで、平均直径20cmの円柱形に近い形状の構造物に囲まれています。
SCP-192-FR est une (…)porte (…)et entourée d'une structure violette vaguement cylindrique d'un diamètre moyen de vingt centimètres (20 cm).
訳案:SCP-192-FRは(…)ドアで、ドアの外周は平均直径20cmの円柱形に近い形状の紫色の構造物に囲まれています。
「紫の」が訳し抜けています(これは英訳も同様です)。
オブジェクトSCP-192-FRに指定されているのはドアの扉(淡い赤色)だけであり、ここでの「構造物」はドアを囲む枠部分(紫)を指すと思われます。現状の訳文では、ドアとは別に周囲になにか円柱のようなものが立っているように読めてしまうかと思います。ひとまず「ドアの外周は」と足してみましたが、あまり冴えた訳ではありません。何かアイデアを足していただけると助かります。
このアイテムは大きな改造を受けた壁に埋め込まれており、元の色から濃い紫色、緑色、赤色の色調へ変化し、反対側の面からはいくつかの大釘が飛び出ています。
L'objet est incrusté dans un mur et celui-ci a fortement été modifié en prenant des teintes mauves, vertes et rouges sombres avec plusieurs pics dépassant de la surface plane.
訳案:オブジェクトがはめ込まれる壁は、色合いが薄紫や緑、くすんだ赤となっており、平面上には複数の突起が突き出しているというように、大いに変容させられます。
- 読む限り、色調が変わっている対象はオブジェクトの扉(赤)や前述の枠(紫)ではなく、それらのはめ込まれている壁のようです。元は工場の壁ですから無機質だったろうところが色鮮やかになるということでしょう。
- ほかの箇所でl’objet をオブジェクトと訳されているので、ここも同じでよいと思います。
- 「la surface plane」は英訳にある「反対側の面」というより、そのまま「(オブジェクトの付いている壁の)平面」としたほうが意味が通ります。
- 辞書を見る限り、Mauve は「薄紫 violette pâle」のようです。また、調べた限りでは、picを「大釘」とする用法が見つかりませんでした。ひとまず「突起」としています。
- 本文中で後述されているように、このドアは問いかけに正答されると勝手に移動するという性質があるようなので、移った先の壁もこうなる、という意味合いが出せていれば幸いです。
このオブジェクトは、未知の手段によってしばしば少量の霧を放出し、(…)
L'objet émet fréquemment une légère brume au sol par un moyen inconnu.
訳案:このオブジェクトはしばしば、接地面へ未知の手段によって少量の霧を放出します。
「接地面へ au sol」が訳し抜けています(英訳と同様)。
同じく、
ドアを開けたり、破損させようとする試みは全て、腐敗した人間の腕が霧と共に出現し、その人間を引っ張ろうとするという結果に終わりました。
Toute tentative d'ouvrir la porte ou de l'endommager a provoqué l'apparition de bras en décomposition entraînant les humains, en contact avec la brume, à travers le sol.
訳案:ドアを開けたり、破損させようとする試みは全て、腐敗した腕が地面から霧をまとって出現し、人間を引きずり込もうとするという結果に終わりました。
「地面から à travers le sol」の訳し抜けです。
また、この文は霧と腕が同時に出現するというより、例の霧をまとった( en contact avec la brume)腕が出てくるというニュアンスだと思います。
(描写されている事態はほぼ変わりませんが)
この声は、被験者のみが理解することができる、被験者に関するある1つの質問をするようです。
Celle-ci pose une question au sujet, que lui seul est sensé comprendre. ※原文ママ
訳案:この声は被験者に関する1つの質問をしますが、この質問は被験者だけが理解できるようです。
「ようです」で推測されているのは「オブジェクトが質問をすること」ではなくて、「その質問の意味は被験者だけにしかわからないらしい」ということがより明確になるかなと思います。
オブジェクトまたは別の実体が、この声を発しているのかどうかは不明です。
Il est inconnu si c'est l'objet qui produit ce son ou si c'est une entité.
訳案:この声を発しているのがオブジェクトなのか、あるいは別の実体であるのかは不明です。
反応のうちの67%では、質問が被験者を妨害し、質問に答えられなくなります。
Dans soixante-sept pour cents (67 %) des cas, la question perturbera le sujet sans que celui-ci puisse répondre à la question.
訳案:67%の事例では、被験者は質問に動揺し、回答できません。
この辺は好みです。
反応のうちの28%では、被験者がその質問を理解できなくなります。
原文:Dans vingt-huit pour cents (28 %) des cas, le sujet avouera n'avoir pas compris le sens de la question.
英訳:In twenty-eight percent (28%) of cases, the subject will confess they do not understand the question.
改訳案A:28%の事例では、被験者はその質問の意味を理解できなかったと述べます。
改訳案B:28%の事例では、被験者はその質問が理解できないと述べることになります。
時制が原文と変わってしまってるかと思います。現行訳では「被験者は同じ質問が今後理解できなくなる」かのように読めてしまうかもです。
(…)「ここを通りたいのであれば、きみの質問に答えてくれ」と書かれた物質が、隣の壁に釘で固定されていました。
(…)celui-ci avait un papier cloué au mur comprenant les mots : "Répondez à votre question pour passer".
訳案:「ここを通りたければ、おまえの問いに答えよ」と書かれた紙が、壁に釘で固定されていました。
「物質」ではなくて「紙」か「メモ」です。
オブジェクトタイトルにもかかわる「きみの質問」という表現について、少し疑いがあります。
現代フランス語の二人称には、親密な相手に使うtu(≒きみ)と、丁寧あるいは慇懃な呼びかけのvous(≒あなた) があります。ここで使われているのは後者ですから、少なくとも「きみの」という親しげな呼びかけとは異なる何かを、原著者は意図したのではないでしょうか。
Vous を使った依頼文は色々な仕方で訳すことができて、丁寧に「あなたの(…)してください」とも、「〜しろ」「〜せよ」「〜して」とも、あるいは対話相手とこれ以上親密になりたくないという意思があるとき「おまえの(…)しろ」ともなりえます。
どういった表現がこのSCPに最適かは断言できませんが、翻訳の参考になれば幸いです。
被験者が質問に正しく答えた場合、ドアが開き、[編集済]。
Lorsqu'un sujet répond correctement à la question qui lui était posée, les portes s'ouvrent et [DONNÉES SUPPRIMÉES].
改訳案:被験者が質問に正しく答えた場合、ドアが開き、[編集済]します。
[編集済]を含む文章は、現在形を使って「こうしたらこうなる」という法則のようにオブジェクトの性質を記述している箇所です。したがって、[編集済]された内容も元は現在形の文章だったろうと推測できます。ですから、[編集済]の後に「します」を補ったほうが日本語の報告書として自然になるかと思います。
この、[編集済]された内容をなるべく明確にしておくことはオブジェクトのオチを日本語に訳すために必要です(後述)。
その後オブジェクトは(…)それを収容するのに十分な表面積を備えた壁に、再設置されます。
原文:Ensuite l'objet(…) puis se relocalise sur un mur qui a une taille supérieure à celle de l'objet.
英訳:The object will (…)relocate onto a wall with enough surface area to host it.
英語逐語訳:オブジェクトは(…)寄生するのに十分な表面積を備えた壁に再設置されます。
改訳案:その後オブジェクトは(…)十分な表面積を備えた別の壁へと再設置されます。
要は「正答されるとオブジェクトは自ずと崩れ、(おそらく同じ廃工場の)別の壁に再出現する。このとき、移る(英訳での「寄生する host」)先の壁はオブジェクトより大きい(そうでないとオブジェクトがはみだすから)」ということでしょう。
SCPの報告書で「収容」というと財団が行うことのように読めるので、この表現は削るか、英訳の対応箇所に合わせて「寄生する」にするとよいと思います。
以上、最終段落より前の部分の改訳案です。
最終段落の改訳案です。
今日、1名の被験者(D-3130)がオブジェクトによる質問に正しく回答し、ドアが開き、[編集済]。
À ce jour, seul un sujet (D-3130) a réussi à répondre à la question qui lui a été posée par l'objet. Cela a eu pour conséquence l'ouverture de la porte [DONNÉES SUPPRIMÉES].
改訳案:今日まで、オブジェクトによる質問に正しく回答できたのは被験者1名のみ(D-3130)です。このとき、ドアが開き、[編集済]しました。
時間の表現が重要です。À ce jour(英訳:as of today ) は「今日」ではなく「今日まで, 現在まで, 目下, 今のところ」です。続く文章は、このDクラスによる正答の後に何が起きたか、過去の出来事を記述しています。したがって、[編集済]の後に「しました」を補ってよいでしょう。
ドアの先の空間に警備員が侵入したため、これらも即座に[編集済]。これらのいくつかの断片は時折霧の中に現れ、見かけ上はまだ生存しているように見えました。
Tous les gardes ayant pénétré dans cette dimension ont immédiatement été [DONNÉES SUPPRIMÉES]. Certains de ces morceaux réapparaissent quelques fois dans la brume de l'objet et semblent encore vivants.
改訳案:ドアの先の空間に進入した警備員は、全員が即座に[編集済]されました。これらの破片のいくつかは時折、オブジェクトの出す霧の中に再出現し、見かけ上はまだ生存しているようです。
警備員は複数人です。「全員」が訳抜けです。
この[編集済]された箇所は完了時制の受動態動詞(〜された)の一部であることを訳出してください:おそらく、警備員たちの身に取り返しのつかない何かが起きたのだとわかります。このとき生じた「生きた破片」は(続く文は現在時制で書かれていますから)、今なお出現し、生き続けています。
個人的に「断片」と書くと切断片のような印象を受けるのですが、木の扉や掴みかかってくる腕のせいで人体に起きそうなことは何だろうと思い、「破片」としています。
「侵入」には、他者の領域へ不正に入るといったコノテーションがありますが、ここでは一応「正答」して入っているのだし、また財団側からすれば正当な調査の一環として記述しているだろうので、「進入」としています。
[編集済]████警備員の頭部は、心理学者による深刻な自殺傾向を持つとの診断と、倫理委員会の審議により、要求に応じて破壊されました。
[DONNÉES SUPPRIMÉES] la tête du garde ████ a été détruite à sa demande après concertation du Comité d’Éthique et approbation du psychologue qui lui a diagnostiqué une tendance suicidaire aggravée.
改訳案:[編集済]、████警備員の頭部は、深刻な自殺傾向を有していると診断した心理学者による承認と倫理委員会の審議を経て、当該警備員の要求通り破壊されました。
「承認」が訳抜けです。そして、日本語だと[編集済]と警備員実名の黒塗りが連続してしまって読みづらいのと、それぞれ別の要素が消されているのだと明確にするために、間に読点を入れるよう提案します。
英訳では明示されていないようですが、原文ではこの「破壊」は心理学者や倫理委員会「により」要求されたのではなくて、かつて████警備員だったものが懇願したものです。
ところで、ここで[編集済]とされた箇所はもともと何が書かれていたのでしょう。標準的な文法から考えれば、そこにはおそらく、時や場所、様子を示す副詞のようなものがあったはずです。
推測ですが、ここには「破壊」が「正答」の後どのくらい経ってから実行されたのかを示す、時の表現があったのではないでしょうか。最終段落では「今日まで」「まだ」「時折」そして「承認と審議を経て(その後に)」といった、正確な時期をぼやかしながらも時間経過を示す表現が多く使われています。これらの表現の陰で過ぎた時間は、この警備員が首だけで生かされ、自死を願いながら過ごした時間でもあります。その期間を[編集済]であいまいにすることで、読み手にぞっとしない想像をさせる、そういう意図がこの[編集済]にあったのではないでしょうか。
余計なことをいうと、他の「破片」たちが破片のまま今も生存しているとすれば、この警備員が破壊された後に終了できた保証はどこにもありません。さらには「正答」すればこのようなことが起きるとわかっていながら、財団が実験を停止したという記述もないのです。
SCP-192-FRは短いながらも、アノマリーの理不尽な性質と財団のある種の異常さを書き出している、味のある記事だと思います。
うおお…すみません、ご指摘が投稿されているのに気づいていませんでした…。申し訳ないです。
ご指摘に関しては、ご提示いただいた改訳案を反映す形で対応致しました。ありがとうございます。
ひとまず「ドアの外周は」と足してみましたが、あまり冴えた訳ではありません。何かアイデアを足していただけると助かります。
とりあえず「外枠」としました。
メタタイトル
この点に関しては改訳案を思いつき次対応させていただきます。
ありがとうございます。そのほか文意に影響しない限りで少し編集を加えました。
原語記事 SCP-192-FR への上のリンクが切れているようなので再掲します。
原語記事 SCP-192-FR への上のリンクが切れているようなので再掲します。
ご指摘ありがとうございます。修正いたしました。