定刻です。早速"宇宙"についての講義を始めます。
宇宙といえば地球の外側の広い空間のことを思い浮かべるでしょう。ですがこの講義では宇宙を「独自の物理法則と特性を備えた単一の独立した現実の領域」として定義します。「世界」とも言い換えられるでしょう。まずそんな宇宙の種類を紹介します。
最初はまず私たちの"宇宙"です。実際は三次元的に広がる空間ですが、今回は次元を繰り下げてこのように一枚の紙として表現します。
次に"小型宇宙"です。スリーポートランドやユーテックなどのみなさんが行ったことがあるような空間がこれにあたります。小型宇宙はこの紙の上のビー玉です。そう、小型宇宙は私達の宇宙から見て四次元的な空間に存在している小さい宇宙なのです。こうやって転がるように位置が変化し続けるものや、宇宙に固定されて動かないものもあります。
そして今回の講義で最も重要なのがこの"多元宇宙"です。多元宇宙はビー玉の上のもう一枚の紙です。多元宇宙はポピュラーな言い方で「異世界」と呼ばれるものです。他の多元宇宙から見れば私達の宇宙も多元宇宙であると言えるでしょう。しかし多元宇宙の多くは私達の宇宙と違い現実性を欠いた状態で存在することが知られており、その全数を明確に把握することはできていません。
多元宇宙間を移動するのは極めて困難ですが、ある方法を用いれば「不可能ではない」と考えられています。それは連鎖的に繋がる小型宇宙を一本の"道"として利用することです。これがビー玉の上に紙が乗っている理由です。実際に初めて行われたのが1927年のランダル博士による実地踏査です。残念ながら彼は帰還せず、次に続く遠征隊達の試みも成功しませんでした。それは先程も述べたように多元宇宙は現実性を欠き、本当に危険だからです。
最後に"+124.5°宇宙"について。"犀賀派"が財団よりも多元宇宙についてより多くを知っているのは確かであり、ここでは倣ってそのように呼称します。犀賀派が角度を世界の命名に用いているのは、この分度器を用いて実際に紙と紙の重なる角度を測ることができるように、宇宙は一定の法則性を持って存在しているからだと考えられています。もし私たちの宇宙が文書通り+37.2°宇宙と定義され、他の角度で表される宇宙の存在を念頭において考えるのであれば、+124.5°宇宙との間に873個もの多元宇宙があると推測されます。
1個の多元宇宙を移動することもできていないのに、そんなに多くの多元宇宙を移動することが私達にはすぐにはできないだろう、といった言葉が皆様の顔に表れると予想していましたが、予想で終わって助かりました。そうですね、私達は私達に残された少ない時間で124.5°宇宙に何としてでも行かなければなりません。私達の宇宙を救うために、私達の愛す人達がいるこの宇宙を救うために。それが多くの犠牲が出る死出の旅路であったとしても。