

過去
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医務室のドアが勢いよく開かれ、アーロンの警護隊が通路に駆け込んだ。その後ろからは監督者が、フロアで明かりの点いた唯一の部屋へと一目散に走っていった。彼の護衛たちがドアの両側に並び、彼は中へと駆け込み、1歩踏み込んでようやく呼吸をした。
2人の人間が室内に立ち、1人が延命装置に繋がったままベッドに横たわっていた。『黒歌鳥』と『グリーン』がベッドの横に立ち、そのベッドに横たわるのはソフィア…『ナザレ人』だった。彼女を見るや否や、アーロンはベッドへと転げるように走った。その震える手を彼女の額に当てた。彼女の呼吸は、浅かった。
「何があった?」
彼は震える声で聞いた。
「彼女に何があったんだ?」
『黒歌鳥』の表情は悲しみに満ちていたが、『グリーン』はやや迷惑そうだった。
「何が起こったかなんてわかっているはずよ、アーロン、」
彼女は言った。
「彼女は『絹の釘』に穿たれていたのよ。呪われているのよ。これが呪われた人間に起こることなのよ。」
アーロンは首を振った。彼には、『グリーン』の言葉の真意がわかっていた。しかしここまで早く訪れるとは思わなかった。2人で初めて過ごした夜を思い返した──彼女の持つ、力のことを語った夜を。時の中を踊る力、と彼女は形容した。彼はその時笑った。そしてある日彼女はいなくなり、戻ってきた時にはその手首には黒い鉄の釘が穿たれ、串刺しにされていた。それ以降、彼は笑わなかった。
釘は、しかし。フェリックスはそれを何であるのかを知っていた。何か古く、危険なものだと。以降、彼は警告した──彼女の血に起こりうる出来事のことを。泉は彼女を病から守ることはできるかもしれないが、それでも──
呪いだと?
その時、彼は言った。
バカな、ありえない。呪いは自然のものではない。これはただの癒えない傷だ。
しかし彼女は生きてきた。業務を続け、やがてその功績は開花したが、たびたび起こる衰弱と苦痛の発作に何日、時には何週間も苦しめられていた。前回起こったものは3ヶ月も続いた。フェリックスは『黒歌鳥』の薦めた治療法で彼女を支え続けたが、彼女の状態が悪化していることは明らかだった。
「防げると言ったじゃないか、」
アーロンは『黒歌鳥』に刺々しい声で言い放った。
「お前がその魔法でこれを阻止できると言ったんじゃあないか。」
『黒歌鳥』は手を前に向けた。
「私はそのように確約はしていない。私は避けられないことを先送りならできるが、結局はこれは避けられない結末だよ、ミスター・シーガル。彼女がここまで長引いただけでも幸運なのだ。あの釘は、磔を生還した者のためにはできていないのだよ。」
アーロンはソフィアに目を戻した。顔に熱が集まるのを感じた。腹の奥で鋭くひび割れたものがわだかまるのを感じた。ソフィアの肌は黒ずみ始め、まずは腕から、じわじわと胸に向かっていた。黒く灰色に腐りつつある、まるで凍傷のように。染み出ないように包帯を巻いてはいるが、すでに包帯すらからもにじみ出ていた。
「あとどれくらいだ。」
彼は聞いた。
『黒歌鳥』は息をついた。
「数日、かも。数時間と言った方がいいかもしれない。」
アーロンは応じなかった。部屋は固く静まり返り、機械のビープ音、呼吸器の喘鳴、そして壁掛け時計の時を刻む音だけが鳴っていた。
「私の不注意だった、」
『黒歌鳥』は呟いた。
「私が君に、以前話をしたことであれば、これを防げたかもしれないと告げなかったなら。」
アーロンは硬直した。
「私たちがここにいるのは、そのためじゃない。」
『黒歌鳥』は肩を竦めた。
「そうかもね。しかし契約ははっきりとしている。死神の手を先延ばしにする。これは──」
彼は弱々しく衰えたソフィアを示した。
「──死そのものだ。こういうものなのだよ。」
「選択の猶予はないわよ、」
『グリーン』は苛立たしげに足を鳴らしていた。
「彼女が逝ったら、そこでお終いよ。もう取り戻す術はないの。」
また熱を感じた。刹那、彼らが自分をここに誘導するために彼女の病状を悪化させたのではないかと考えた──選択を迫るために。契約の話をした時に満場一致だった──特に、もっとも得るものが大きいのだから。『グリーン』、『記録管理人』、そして『小物』が。しかしソフィアは拒み続けた、ゆえにこそアーロンも。永遠に生きることは我々の目的ではない、その時彼は言った。財団によって正しきを為すことが目的なのだから。
限りがなければより簡単に正しきを為せるものよ、グリーンはそう応じた。
アーロンは深く呼吸し、また1つ吸った。背筋を正し、タイを整えた。目を閉じ、集中した。集中した。
「死神よ、」
彼は丁寧なラテン語で紡いだ。
「化身を現せ。顕現せよ。」
室内が冷気に満ち、固まった。音はしばし失せ、やがて沈黙が残った。部屋の隅に黒い影が立っていた。その向こうには無しかない、恐怖の亡霊が。アーロンは『黒歌鳥』が震え、『グリーン』がソフィアの死の床の手すりにしがみつくのが見えた。
「アーロン・シーガル。」
それは音にならないような声で囁いた。
「驚きを隠せないことを言っておこう。だが男の信念とはそう安く捨てられるものだな。」
影は空虚な視線を床に向けた。
「惨い選択が待っているようだが?」
「契約書を出せ、」
彼は言った。その声は空虚だった。
空気が流れ、カタカタと嘲笑が伴った。亡霊はその襤褸のようなローブから長く、黒い羽根ペンを出した。空中には赤く輝く線がちらつき、燃えて煙を噴いてはチリチリと鳴った。その下にはJAMES AARON SIEGEL, O5-1と文字が記されていた。アーロンは手を伸ばして影からペンを取ると、その鋭い先を手のひらに突き刺した。そして、手首を躍らせるままにその線の上に自身の名を刻んだ。インクは燃えて、室内の唯一の明かりとして留まったのち、消えた。
「もう1つだ。」
声はソフィアを指し示して言った。暗がりに佇む荒涼とした白い顔が笑った。
「13の名を。」
元からあったように、線は再び現れて、その下にはJESU SOPHIA LIGHT, O5-2と名が刻まれていた。アーロンは筆を下げ、ソフィアの胸の上にペン先を当てた──腐敗がまだ辛うじて届かない場所だった。血が飛び散り、彼女の手にペンを握らせると、空中に彼女の手に記させた。インクは暗闇の上で踊り、やがて同じく消えた。
そしてついに、名とサインを連ねた長いリストが完成した。

また風が吹いた──アーロンは、それを嘲笑と捉えた──そして、明かりが元に戻った。部屋の隅に佇んでいた人影は消え、羽根ペンもまた消失した。ペン先が裂いた手のひらを見下ろすと、そこには何もなかった。『黒歌鳥』と『グリーン』は2人して信じられないような顔で彼を見つめ、そして全員で、床の中で咳き込むソフィアを見下ろした。彼女は両手を顔に運び、目をこすり、光に対して瞬きをした。彼女は一度『グリーン』と『黒歌鳥』を見て、そしてアーロンを見た。彼の姿をみとめると、その表情は沈んだ。
「嗚呼、アーロン。」
彼女は囁いた。その声は掠れていた。
「なんて事を。」
現在
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カルヴィンは溺れていた。水面も海底もない海に漂い、ただ彼を包む果てしない穴の暗い灰色だけが見えた。肺を、胸を、目を水が満たした。とにかく呼吸のために喉を掴んで必死の吸気を試みた。静かに悲鳴をあげると、水が体を満たした。
ハッと息をして、倒れていた台に掴んで体を起こした。状況の確認に顔を手で拭った──水が、頭上のパイプから垂れていたのだ。数回深呼吸して、心臓を落ち着かせた。もう数回息をして、辺りを見回した。
彼は床から数フィートの高さのパッドの敷かれた台に横たわっていた。部屋は小さく、ドアが1つ壁についていて、頭上には傾いた通気口があった。流れ込む空気は冷たく、体が反射的に震え上がった。少し自分を確かめると、武器がないことに気づいたが、他の物品は台の横に据えられた小さなテーブルに丁寧に並んでいた。立ち上がり、それらを拾い上げた。
ふと気づくと、ほかに部屋にある唯一のものは、ドアの横のスピーカーに接続された小さなスクリーンだった。近寄り、確かめるために身をかがめた。画面は暗く、ゆっくりと回転する灰色の円に矢印──財団の紋章だ──そして中央で佇む赤い光を映していた。近寄ると、赤い光が点滅した。スピーカーから声がした──子供の声だが、イントネーションはおかしかった。抑揚は奇妙で、あたかも子供ならばこう聞こえるだろうというものを再現しているようだ。
『おはよう。』
声は不気味なほど機械的だった。
『ずいぶんと長いこと眠っていたね。』
カルヴィンは咳き込んだ。
「ここはどこだ?何だこれは?」
『ここは僕の住まう場所。』
声は答えた。
『僕のともだちが、君をここに連れてきたんだ。君のおともだちもね。』
「俺の──」
カルヴィンの言葉は胸元で詰まった。爆発が起きて、墜落する飛行機のことを思い出した。
「あいつらは?あいつらに何をした?」
『いるよ。君たち全員ここにいる。僕は君のおともだちを殺さなかった。』
すると、低い音が房内の壁を反響した。
『君とちがって。君は僕のともだちを殺した。』
カルヴィンは画面から一歩離れた。
「何者だ、お前は?」
スピーカーから聞こえる声は急に変わり、音楽を流し始めた──コマーシャルジングルのような、ポップ・ミュージックの歪めたマッシュアップのようだった。ジングルの終わりに声が聞こえた…自分の声だ。数ヶ月前、彼とアンソニーの交わした会話の一節。『会計士』の居場所を突き止める時のものだった。
『最後の3人を炙り出すのは難しいな、』
自身の声は言った。
『「創設者」、「ナザレ人」はサイト-01で固まっていることだろう。だが3番目の監督者「少年ザ・キッド」については…この手記を書いたやつもほとんどわからなかったみたいだな。」
「『少年』。あんたが3番目の監督者ということか?」
カルヴィンは聞いた。
アイコンはさっきよりも早く回転をし始めた。
『君が何をしたいのかは知っている。』
声は言った。
『僕を殺しにきたんでしょう。君は僕の父さんと母さんも殺したいんだ。そんなことは許せない。グリーンのおばさんは、君のように人を殺すような人は悪者だって言っていた。』
スピーカーはミュートに切り替わり、回転するアイコンの映像は消えた。隣のドアから、カチンとロックが解除される音がした。カルヴィンはしばらくそれを見つめ、ゆっくりとドアを開けて踏み出した。
長く、暗い、壁に連なる白熱電球に薄く照らされた工業的な通路に出た。自分に近い方の突き当たりで、鉄のゲートの向こうに明かりとスイッチのパネルが張り付いているのが見えた。反対の突き当たりには曲がり角と明かりが見えたので、そちらに歩みを進めた。地下深くから、何か巨大なものが歌うように唸っているのが聞こえた。
通路のスピーカーからまた声がした。
『僕はずっと君のことを見てきたよ、カルヴィン。君が生まれた場所を知っている。君がどこで育ったかを知っている。君の父さんと母さんを知っている。おともだちのことも、全部。君が人生で何回呼吸をしてきたかも知っている。何回まばたきをしてきたかも知っている。』
カルヴィンは通路を曲がり、声は彼を追った。
『僕がうまれる前、別のO5-3がいた。彼の名前はアンダーソン、彼は存在しえない機械を作った。考える機械。愛する機械。でも彼の最大の創造は、未来を視る機械だった──父さんが望ましい選択を、必要に応じて見つけられる機械。でもアンダーソンはそんなことに興味がなくて、ただ考える機械のことだけに尽くしたかった。だから彼は評議会を抜けた。そして彼の機械は朽ちるに任せられた。』
声は続けた。
『グリーンのおばさんは、父さんに提案した。おばさんは、会計士のおじさんと黒歌鳥のおじさんが未来の大まかな形を見られるのに、なぜそんな機械で未来を視ることにこだわるのかを聞いた。財団にとってより有用となりうるのは、未来を視る機械じゃなく、全てを視る機械だったんだ。アンダーソンの手記やエンジニアたちから知りうるものすべてを使って、その機械をそうできるように改造をした。』
カルヴィンは通路を出ると、全面に長いパイプが果てしなく続く高く細いチャンバーへと出た。チャンバーの向こうにエレベーターが見えた。前に進むと、頭上の照明が1つずつ点灯した。照らされるにつれ、謎の緑色の液体に満たされた大量の円柱状のタンクが壁を覆っていることに気づいた。中にはいくつか形が見えた──大小様々の人型の物体、苦悶の形相で固まったもの、頭蓋に伸びたワイヤーでただ垂れ下がるもの。タンクを目で追っていくと、それが見えない天井まで何百、あるいは何千と並んでいることに気づいた。
『でもそんな膨大な処理は、機械に対してあまりに大きな負荷がかかるとわかった。知覚が感覚をノイズで満たす──機械に処理させるには、まっさらな思考が必要だった。あまり雑念をもたない何か。完全で純粋な何か。だから母さんと父さんは僕を目覚めさせた。僕には雑念がなかった。僕は土星よりきたりし神へのイケニエとして死にゆく運命だったけど、2人は助けてくれたんだ。僕の脊髄を切って、〈全てを視る目〉を通す新たな視界を与えてくれた。新たな命をふきこんでくれた。それからずっと、僕は視てきたんだ。』
カルヴィンが部屋を歩いて行き、エレベーターに乗り込むと、それは勝手に下降を始めた。金属的なエレベーターの音楽が頭上で流れ始めた。
『君のことは全部知っているよ、カルヴィン。君があの女性を轢き殺したことで軍に解雇されたから、インサージェンシーに接触されたことを知っている。あの夜、君が酔っ払っていたことも知っているんだよ。僕はその瞬間を見たんだからね、カルヴィン。今すぐ君に見せてあげることもできるよ、見たいならね。』
「なぜこんな話をする?」
カルヴィンは言った。首の後ろに細い汗の筋が走るのを感じた。
声は嘲笑した。
『だって君がこれを正義の名のもとに行われる任務だと信じきっていると僕にはわかるんだよ。世界から悪を排除するために。ヴィンセント・アリアンスも同じだったよ。でも彼も君もみんな瑕疵だらけだ。君は清くない。君は正義じゃない。君の声は世界の命運を決めるものじゃない。』
「確かに俺は若い頃に過ちを犯してきた。」
カルヴィンは言った。
「贖い続ける過ちを。皆犯してきた。だが、私利私欲のために宇宙の在り方を侵すなんてことは──」
『君は恥さらしな元財団職員の行った研究に基づいた思想の戦争を繰り広げている。疑わしい結果や如何わしい情報源から採取した支離滅裂な現実錨のデータに基づいてね。君は何度も何度も見当違いだと、君の道は理屈じゃなく憎悪と無知に敷かれただけだと指摘されてきた。それにも関わらず、君は進み続ける事を決めた。もう愚直の域を超えたんだよ、カルヴィン・ルシエン。君にはもう道徳的立場なんてない。君は危険だ。』
エレベーターは止まり、巨大なシャフトにわたるプラットホームに出た。頭上へは天井が見えないほどにずっと伸びていた。近くの壁にDEEPWELL-1と白文字で書かれ、コンクリートの壁いっぱいにチューブ、照明、ホース、スイッチが並び、それらは明滅し、蛇のように壁を伝ってプラットホームの中央のつるりとした円柱型の機械へとつながっていた。その横にはモニターがあり、今までのようにあのロゴと赤い瞳が映されていた。しかしカルヴィンがそれを見た時、見つめられている感覚に気づいた。その向こうにナニカがいる。
『僕が君を連れてきたのはね、カルヴィン。君の旅がもう終わるべきだからだよ。僕は完璧な理論、完璧な意識、完璧な理解の恩寵を受けている。〈全てを視る目〉は君の意思を鑑定し、君を不十分だと断定した。これと君の罪に基づき下される判決は、死刑だ。』
頭上から何かが唸る音が聞こえ、別のプラットホームが自分の高さまで降りてきた。そこにはオリヴィアとアダムがいて、どちらも金属の拘束具で縛られているもののそれ以外の傷はなく、もがいていた。カルヴィンは一歩前に出ようとして、武器の音を聞いて止まった。振り返ると、空港にいたあの4人の襲撃者らがいて、もっとも小柄な女がライフルの銃口をカルヴィンに向けていた。
『オリヴィア・トレス。アダム・イヴァノフ。』
声は言った。
『君たちの財団に対する不当な敵意に基づく行動の数々や、多くの無辜なる人々の殺害に基づき、君たちにも死を言い渡す。』
カルヴィンは2人を見て、ライフルを構える女を見て、部屋の中央の円柱を見た。追い詰められた。
『イラントゥ、』
声は言い放った。
『処刑しろ。』
4人で最も体の大きい者がカルヴィンに向かって駆けて来た。その眼はしっかりとカルヴィンを捉えていた。カルヴィンは1歩下がり、さらにもう1歩下がると、奇妙なものに気がついた。イラントゥとカルヴィンの間に、白く輝く糸が垂れ下がっていた。眉間を寄せると、イラントゥも同様に止まってそれを凝視した。糸は揺らめき、もぞもぞと動くと、もう1本空中に現れた。そこから糸巻きと、棒状のハンドルが現れた。そして手と、ついに顔が現れた。
「必要になると思ってね、」
アリソンは彼にウィンクしながら告げた。
「ご武運を。」
カルヴィンはハンドルを掴み、前に掲げた。イラントゥもそれに掴みかかろうと踏み出したが、先にカルヴィンが棒を引いて空中へと糸を投げた。それに何かがかかると同時に、強く引いた。
何かが壊れる音がした。音はシャフト中に、まるで粘ついて濡れたものが裂けるように反響した。猛烈な熱気が空間を満たした。糸の刺さった先の空中に長い空隙が開き、そこから同じくらいに猛烈に冷たいものが現れた。氷と雪が吹き出し、イラントゥはそこから急ぎ引き下がった。女が銃を発砲したが、それを外した。次の弾は、グロテスクな白い手に止められた。
その手は空隙から伸びると、弾丸を掴んだ。それは手のひらに弾を受けてしばらく静止すると、激しく痙攣するように震えて弾をかき消した。手は空隙を掴み、もう1本がさらに伸びて同じくした。そしてもう1本。さらに十何本も。その空隙から現れたのは恐ろしく──辛うじて人型と呼べる代物であり、無数の腕と無数の足と無数の手を備えていた。その胸部は沈み骨が浮き出し、首と背には黒く邪悪な刺青が刻まれていた。首のあるべき場所には、動くごとに点滅する燃え盛る紋様に飾られた広く平らな円盤があり、実体が動くたびに不自然に疼き、痙攣した。空隙から体を出すそれを眺めている時、カルヴィンは太鼓のような音を聞いた──そしてそれが怪物の脈打つ心臓の音だと気づいた。低く歌う声が怪物から放たれた。それが4人の財団の者の存在に気づくと、その鼓動はさらに大きくなった。
「やばいわね、」
背の高い方の女が言った。
空隙の怪物は浮きながら進んだ。その6本の足は体の下に隠れ、手首に繋がった鎖は体が痙攣し振り回されるごとにジャラジャラと鳴った。小柄な女は再度ライフルを撃ったが、弾は怪物の目の前で虹色にきらめく破片となって散った。イラントゥは長い鋸を腰から引き抜き、怪物の手のひらの1つに振りつけた。鋸による傷がドロリとした灰色の液を流すと、鼓動はさらに激しくなった。別の手が振られてイラントゥの顎を捉えると、彼は錐揉みしながら吹き飛ばされた。
残り3人は、怪物の指先から放たれる炎や雷を避けながらそれに一斉に射撃を始めた。カルヴィンは支柱の背後で身を低くしてアダムとオリヴィアの縛られた場所へと走った。ポケットからナイフを取り出して彼らを縛るものを破壊し解き放った。2人は床に落ちると、揃ってカルヴィンに飛びつき両腕で抱きしめた。
「ああもう、」
オリヴィアは言った。
「死んじゃったと思ったじゃない!」
「そっちか?俺はそっちが死んだとばかり。」
カルヴィンは2人を抱き返しながら答えた。
「飛行機が──撃ち落とされたのを見たんだぞ。どうやって逃げたんだ?」
「銃声が聞こえた時にあんたを追いかけるために脱出したんだ、」
アダムは言った。
「近くにいるんだと思ったから、でもそこであいつらが来て、為すすべもなくさ…。」
激しい閃光が近くで奔り、4人の襲撃者のうちの1人が炭となったまましばらく残ってそのまま塵と崩れた。部屋がハム音を鳴らし、足元の液体のプールからガラスのタンクが現れて開き、そこから先ほどの者と同一の人間が現れた。雷がイラントゥに向けて部屋を渡り、彼の胸を貫くとそのまま炎に包んだ。また別のタンクが足元から伸びてイラントゥが這い出し、両方のタンクがまた液体へと戻っていった。
「さて、急ぎ策を考えないと、」
オリヴィアは部屋を見回しつつ言った。
「あれって何?」
「わからん、」
カルヴィンは彼女の目を追いながら答えた。
「さっきの女の子、アリソンという別世界の子が連れてきたんだ。」
怪物の手の1つが一瞬伸びたところで、足元がまるでモラセスの海のように揺らいで波打った。それがプールの中へ崩れる前に3人は早く下がり、するとまた雷が空間を貫いていった。突然部屋全体がけたたましく警報音を鳴らし、壁の穴から銃を装備したドローンが大量に出てきて怪物に狙いを定めた。怪物はそれらを疾風ではたき落とし、もっとも小柄な女を掴み上げると首の円盤に翳した。紋様が眩く輝くと、女は体を焼き焦がされながら絶叫した。それが手を離すと彼女は力無く落下し、そしてまた別のタンクがプールから上がった。
「見て、」
アダムは4人を指して言った。
「あいつら、あの怪物を部屋の中央から離そうとしてる。きっと重要なものがあるんだ。」
「近づこう、」
カルヴィンは言ったが、振り向くとドローンが接近し射撃した。肩を高熱の金属が掠めるのを感じ、2人の縛られていた土台の陰に隠れた。
「誰か案は?」
アダムは肩を竦めたが、オリヴィアは鞄の中を勢いよく漁っていた。すると絵筆と粘度のある青いペンキを取り出し、その蓋をひねって開けた。
「なんというか、結構汚い感じになるのはわかってると思うけれど、」
彼女は筆をペンキに漬けた。
「時間がないからね。」
彼女が筆を鮮やかに振り、空中になにかを描き出した。その青く輝く筋は6つの重なる円の炎を描き、もう1発書き込むと宙に踊ってドローンへと流れていった。道筋にあったドローンは爆発の閃光とともに発火して粉々になり、爆発に近かったドローンも無力化して墜落した。今度は小柄な方の男がこちらに銃を向け、更なる銃声が空間に響くと、オリヴィアは筆をそちらに向けた。輝くシアン色の大きな盾が彼女の前に形成し、3人はその陰に固まりながら中央の円柱状の物体へと、弾丸飛び交う空間を走っていった。鼓動がまた高鳴り、先程の男の腕と胴が飛んでいって反対の壁に衝突した。
オリヴィアは銃を取り出すとカルヴィンに渡し、カルヴィンは円柱を背にもっとも近い人型のものに撃ち続けた。アダムは円柱のあちこちを触り、何かの感触を捉えるとそこからパネルを引き出した。多肢の怪物の目の前に開いた空隙から炎が一閃すると作業を止めて円柱の背後に隠れてやり過ごした。カルヴィンがイラントゥの頭蓋を撃ち抜くと、また新たなタンクが下から伸びて、またイラントゥがプラットホームに現れた。
「あいつらもなんとかしないとな、」
カルヴィンは言いつつ、足元のタンクを指差した。
「策はあるか?」
オリヴィアはまた鞄の中を引っ掻き回し、ミニガンによって吹き飛ばされた灰色の肉塊が飛んできた時だけ手を止めた。少しすると彼女は新たなペンキの缶と、円盤状の白い紙を取り出した。彼女は紙を床に置くと、そこに黒い線を描き始めた。
「こいつが何をするかはちょっと自信が無いけれど、」
彼女の声は今まで以上に慎重だった。
「でも、きっと何もしないよりはマシよ。」
眼を見張るような線と形の絵図を描きあげると、オリヴィアはその紙を端で掴み上げた。そして立ち上がり、流れるように踏み出すとそれをフリズビーのように放り投げた。それは空間をフワリと飛んでいき、ちょうどタンクの沈む水面に落ちた。
「掴まって!」
オリヴィアの叫びを前半部分まで聞いたところで、突如として空間内の空気が一点に吸われ始めた。耳を劈くような唸りから急激に無音となったとき、床に必死にしがみつくカルヴィンが見たのは、円盤の紙のある位置に現れた、黒く平らな円とその中で煌めく星々だった。足元の水、頭上のドローン、そして4人の襲撃者中1人が吸い込まれていった。
巨大な多肢の怪物は円盤に向かい始め、吸引による消音の中でもその激しく響く心臓の鼓動がカルヴィンにも聞こえた。その全ての手が円盤の前に翳され、それを掴むと何百もの非実体的な腕が伸びて光った。そして全ての腕が揃って狂乱するように震えて踊った。非実体の腕が実体の腕と重なると空間の暗闇を切り裂くような白い閃光が放たれた。怪物は穴に向けて浮遊し、その6本の足で下のプールをしっかりと踏みしめると、穴の縁を掴んで強引に閉じた。
怪物はしばらく穴のあった場所で静止した。あたかもその下のタンクの存在に今更気づいたかのように。それは屈み込むとタンクの1つを空中に持ち上げた──そして次々と。やがて全ての腕がその装置全体を激しく引き千切り始め、ワイヤーや金属やホースが空中に放り投げられ、破壊された装置の残骸に血の雨が降り注いだ。
残る3人の実体たちは撤退し始めたが、怪物はすぐさま彼らに迫った。その手のひらをまっすぐ翳すと幅広く回転させ、同時に3人の足元が滑らかになり彼らはみなプラットホームに転げた。怪物が次に手のひらを上に向けると3人は宙に浮き、動けないままに叫び、喚いた。怪物がその手を握ると、残る3人は次々と拳大の肉の球と変わり、また手が戻るとそれらは赤い風船のように房の床に飛び散った。
しばらくそれは静かに佇んだ。そして、その手のうちの2本を前に翳して痙攣するとそれは横に勢いよくスライドして消えた。空間は静まり返った。
そのあとに長く、低い唸りが、まるで苦悶と怒りで絶叫するようにこだました。音は壁から、床から、果ての見えない暗い天井から発せられ、同じくフェードアウトした。
『もういい、もういいったら、もうたくさん。』
声がシャフトを反響した。
『もううんざりだ。魔法はおしまい。怪物もおしまい。全部もううんざりだ。』
カルヴィンは何かが巻き上がる音を聞いた。肩越しに見ると、ちょうど銃身が壁から伸びて自分たちに向いているのが見えた。すぐさま銃を抜いて発砲したが、先に壁の銃身の先端が硝煙を1つ噴いた。オリヴィアに目をやるまでの時間はあった──彼女の目には皺が寄り、混乱しているようだった。振り返る時間もなく、またひと息つく暇もなく、弾丸は彼女の後頭部から眉間へと抜けていった。彼女の表情は柔らぎ、何か言いたそうな顔だけして、そのまま倒れた。
カルヴィンは叫んだ。パネルの前で凍りついた表情で固まるアダムに振り返り、彼の鞄を掴んだ。華美な装飾のされた銀筒を取り出すと、そこから信じざる者の槍を引き抜いた。それを両手で掴むと、パネルにねじ込み、獣のような絶叫とともに装置の向こう側まで貫いた。また別の銃身が壁から伸び、カルヴィンはすぐにそれを撃ち落としたが、また別の弾丸が無力化されるより先に空間を切り裂いた。アダムは悲鳴をあげて背中を押さえ、同じく床に投げ出された。
カルヴィンは槍の下を掴み、周囲の警報がけたたましく鳴り喚き、赤いライトが激しく点滅する中でそれを全身で引き上げた。何か水の流れるような音がした時、カルヴィンの手足に力がこもり大きく盛り上がった。そしてまた1度強く引くと、槍が持ち上がって円柱の鋼鉄の覆いが上がった。両手を使い、さらに槍を引き上げると、鞘は完全に外れて床に転げ落ちた。
そこにあったのは、小さな電子パネルと点滅するライトに覆われたガラスのタンクだった。ガラスの向こうには液体があり、その奥で小さく、醜悪なものが見えた。それは赤ん坊──人間の、赤ん坊だったが、ひどく変形した姿でモゾモゾと蠢いていた。眼窩には眼球の代わりに白い膿が溜まり、口と耳は縫い合わされ、額には赤い点を中心にした円と3本の矢印の魔方陣が刻まれていた。体にはそれを囲う装置と繋がったワイヤーやホースが繋がり、金属の覆いが外れるとともにスピーカーから強烈な金切り声が響いた。悍ましく。動物的な声が。
カルヴィンは再度槍を持ち上げるとそれをガラスに叩きつけた。2度。3度。そして4度目に叩きつけた時にガラスは割れて砕け、黄色く粘性を伴った液体が床に流れ落ちた。残されたのは、その命を繋ぐ装置のワイヤーで垂れ下がる『少年』の悍ましい本体のみだった。カルヴィンはガラスを素手で引き剥がし、2人の間には何も残らなかった。
『アハ、』
スピーカーから聞こえる声が変わった。
『アハ。ハ。ハハハ。ハハハハハ。ハ。ハ。』
最早怒りで何もみえないカルヴィンは、その隙間に手をねじ込み、ブヨブヨに蠢く赤子を握り込んだ。腕が千切れそうなほどに、頭蓋から眼球が飛び出そうなほどに手に力を込めた。どこまでも握りしめ、とうとう指の隙間からは肉と血が溢れ、壊されるものを壊し尽くした。やがて空間をこだます笑い声が消え、あとに残るのが流れる水の音と、アダムの喘鳴だけになるまで握りしめた。
監督者の残骸をそれ自身の内臓の海の形成されたタンクの中に落とすと、カルヴィンは後ろによろめいた。アダムの方に振り向くと、彼は床の上に転げ、背中をきつく押さえていた。
「カルヴィン、足が、」
彼は食いしばった歯の隙間から言った。
「足を感じない。足の感覚がないんだ。クソ、クソ。感じないよぉ。」
アダムは同じく床に、うつ伏せで倒れたオリヴィアを見た。
「オリヴィア…嫌だ、嫌だ、嫌だよ、ダメだよオリヴィア、カルヴィン、どうしよう──」
カルヴィンは屈んで槍を筒に戻し、ベルトに括り付けた。次にアダムを持ち上げると、アダムは起こされると共に激痛で悲鳴をあげた。同じくオリヴィアを持ち上げ、2人を背中に抱えて、よろめきつつ、力を振りしぼってエレベーターへ乗り込んだ。その中に入り込んだ時に流水音のもとに気づいた──頭上のシャフトから、崩壊しつつある設備に水が流れ落ちていたのだ。ときおり更に滝がまた別の穴から次々と現れた。やがてエレベーターが離れていくと、壁は崩壊し、水がプラットホーム上で水位を上げていった。
警報が引き続き鳴り響く中、カルヴィンは自身を引きずるように、2人を伴ったまま、エマージェンシーライト以外は真っ暗闇の施設内を進んでいった。暗闇の中でよろめきつつ、その目をドアや通路にしっかりとむけたまま、考えうる出口を探っていった。自分の周りでサイトが崩壊していくのが聞こえた。事あるごとに振り返ると、施設の翼そのものがあのシャフトに飲まれて消えていった。
最後の通路の一番奥まで来ると、出口が見えた。力を振り絞って扉を押し開き、ついに陽の差す下へと脱出した。アダムとオリヴィアを下ろし、最後の力で背後のドアを閉じた。3人は貯水池のそばの丘に転がっていた。背後からは、穴へと降り注ぐ水の音が絶え間なく鳴り響いていた。
カルヴィンは振り返ってアダムを見た。少年の顔は白くなりつつあり、唇は紫色だった。血が腰の辺りから溢れ続け、もはや叫び声すら上げていなかった。彼の瞳が光を失い、皮膚が引きつっていくのがわかった。アダムはカルヴィンを見上げていたが、カルヴィンは果たして彼の目がまだ見えているのかも分からなかった。少年に這い寄り、その顔を掴んだ。アダムの息は浅かった。
「おい、ダメだアダム、待ってくれ、しっかりしろ、」
カルヴィンは顔に熱い涙がこぼれるのを感じた。
「お前まで。お前までは。」
電話を、トランスポンダーを求めて持ち物を探った。その時、胸に入った重量に気づいた。手を伸ばして引き出すと、それは太陽の光を反射して煌めく、青い液体を封じた瓶だった。それを翳すと、心臓の拍が早まった。アダムを見下ろすと、彼も同じく瓶を凝視していた。アダムの目はカルヴィンに向き直った。
「やだ、」
少年は囁いた。その声は血に溺れつつあった。
「いやだ。」
カルヴィンは首を振った。
「すまない。すまない。お前まで失うのだけは。」
瓶からコルクを抜き、アダムの喉へと傾けた。中身が空になると、少年の顔を背後に傾け、強引に飲み込ませた。その効果は一瞬だった──青白かった顔に色が戻り、濁った瞳は澄み渡った。彼は血を吐き出したが、すぐに呼吸は平常に戻った。足が動き、アダムは必死に背中を探り、そこから弾丸を引き抜いた。地面に転がったまま喘鳴し、瞳を空へと向けた。
「どうして、」
間を置いて、彼は呟いた。
「カルヴィン、どうして。どうして?」
カルヴィンはゆっくりと立ち上がった。ポケットに手を伸ばし、まだ手記があることを確かめた。オリヴィアの鞄の中身を調べる時に、既に命のないその瞳を避けつつ、トランスポンダーを取り出した。そのボタンを押すと、アダムの横に置いた。
「もう直ぐ終わる。」
カルヴィンは注意深く言葉を選んだがそれでもその声は不安に満ちていた。
「もう終わらせる時だ。」
アダムはカルヴィンのいた場所に手を伸ばし、彼のズボンの端を掴んだ。カルヴィンが見下ろすと、アダムは泣いていた。
「待ってよカルヴィン、お願い、やめてくれ。」
彼は静かに言った。その声はひどく掠れていた。
「行かないでよ、お願いだ。置いていかないで。行かないでくれ。お願い、頼むよ、ねえ2人で逃げようよ。もう2人で逃げて、二度とこんなこと考えずにいようよ。お願い、ねえ、行かないで。カルヴィンお願いだよ、行かないで。」
カルヴィンは足にしがみつくアダムを離した。
「ここにいろ、アダム。ここで待っていろ。インサージェンシーがお前を迎えに来る。お前までこれ以上危険に晒せない。待っていてくれ。必ず戻ってくるから。」
アダムは目を拭おうとしたが、体は弱り切っていた。
「やめてよカルヴィン。まだあるんだよ。行かないで、お願い。好きなんだカルヴィン。大好きなんだ。お願いだから置いていかないで。行かないで。またひとりぼっちなんて嫌だよ。」
カルヴィンは背を向けた。すでに硬直しつつあるオリヴィアを抱え上げ、肩に彼女の鞄をかかえた。最後に一度だけアダムを見遣ると、彼はやはり地面に倒れたまま懇願を続けていた。カルヴィンは目を閉じて、息を吸うと、そのまま歩き出した。
— - —
カルヴィン、お願いだよ、置いていかないで。置いていかないで。お願い。
— - —
現在
— - —
アーロンは窓辺に立って、せわしなく足を鳴らしながら山々を眺めていた。外は雨が降り、不定期に遠くで稲妻が走って空を照らすと彼の姿が窓に映った。背後のモニターには崩れた貯水池で財団の回収チームが群がるライブ映像が映り、静かなトーンが鳴ると、彼はモニターに振り返った。
「ああ、」
彼は静かに応じた。
「どうした?」
「サイトは完全に崩壊しました、ミスター・シーガル、」
AIが柔和な女性の声で答えた。
「O5-3の死体が発見されました。監督者は殺害されました。」
アーロンはすぐには返答しなかった。
「君に他に頼んでいたことはどうだ、ヘレン?」
彼は尋ねた。
「何を見つけた?」
「SCP-5935、神無き槍の収容房が、未明の時期に不明のユーザーにより開封されていました。ユーザーの性質やイベントの記録を削除する能力から、当該ユーザーはO5-2であると思われます。」
アーロンは足を鳴らすのをやめた。
「ソフィアが?どうして今までそれを逃していた?」
「当該ユーザーは、貴方様と同じ管理権限を所有しています、サー、」
声は回答した。
「これは貴方様の要望に基づいて実施されました。」
彼は首筋が引きつるのを感じた。
「…監督者が最後に目撃されたのは?」
声はしばらく沈黙した。
「O5-2が最後に目撃されたのは『楽園』に進入する時です、サー。」
アーロンは椅子の背もたれからコートを掴むと、颯爽と階段へと向かった。
「ヘレン、飛行機を準備してくれ。帰るぞ。」