プロジェクト・マングースの概要
序文:
SCP-6004の出現後、幾度も収容の試みが行われてきました。いわゆる「通常の収容手順」は通用しないと即座に判明し、その後すぐ、財団が所有する高レベルの機材も効果が無いことが分かりました。HECORはSCP-6004の表皮で跳ね返り、クラスΣ自動機関砲による攻撃はSCP-6004を通り抜けました。スクラントン現実錨を利用したデバイスも、どれも効果がありませんでした。KEY-Unitは大型侵略者に対して効果的とされていましたが、ひどい場合には完全に無視され、善戦したケースにおいてもSCP-6004を食い止めるまでにはいきませんでした。SCP-6004を収容・無力化できるかどうかは置いておいて、財団には新しい兵器が必要でした。
新兵器を手に入れるために、財団は世界オカルト連合とのコミュニケーションを図りました。異常性を持つ対象を殺害する能力に関して言えば、GOCは世界中の要注意団体から認知されています。その力の凄まじさは時に恐れられ、時に恨みを買うほどです。SCP-6004による明確な活動を受けて、GOCは既にSCP-6004の存在を認知しており、無力化へと動き始めていました。同盟に関してGOCは協力的であり、新兵器の開発はすぐに始まりました。開発は、米国コロラド州のサイト-19およびGOC改良型兵器研究施設にて進められることになりました。
この研究開発には、異常性・非異常性を問わず膨大な量の物品が使われました。SCP-6004が地球上での活動範囲を拡大していくにつれ、計画は急を要するようになりました。GOCと財団の所有するリソースに加え、マーシャル・カーター&ダーク株式会社、壊れた神の教会の財産も、兵器の建造に利用されました。この協力関係は、後に「プロジェクト・マングース」として知られるようになります。マングースは、奇跡論的エネルギー、████████、および反転吸引したヒュームエネルギーを用いて、破壊的な指向性爆発を与える荷エネルギー粒子砲です。
GOCが荷エネルギー粒子放出装置本体を担当し、ビームを増幅・制御するための砲塔と収斂装置を財団が作成するということで合意がなされました。壊れた神の協会から選出された専門家が、両陣営で建造のサポートを行いました。各サイトにて、インシデント 6004-Beijingで使用されたものを含む、小型の試作品が作成されました。
2020年11月23日の時点で、SCP-6004の活動範囲は地球全体に広がっていました。南北アメリカでは襲撃が毎日のように報告されるようになっていました。それでも、マングースは完成しました。試作型マングースのチャージ中に半径444m以内の全生命体が消滅した事例から、マングースはGOCの所有するリンカーン級人工衛星に搭載され、軌道上から照射されます。
膨大な量のエネルギーと、複雑な化学反応を利用するため、マングースの照射にはロックオンから444秒の時間が必要になります。以上のことから、SCP-6004に対してマングースを照射するための隙を生み出し、攻撃を実現することが財団の責務となりました。
地球規模のSCP-6004の活動について
インシデント 6004-Beijingの後、SCP-6004は海中に潜み、9日間姿を見せませんでした。地球全体でサンゴ礁の状態改善が見られ、また多数の船舶がハリケーンと豪雨で沈没しました。この時、残存していた国の政府は、地下シェルターへの避難を敢行していました。財団とGOCは協力して、異常物品を利用しながら食品・医薬品・電力を供給し、生存者の転居を執り行っていました。
この期間、SCP-6004は北極の氷の下にいるのが観測されました。氷塊が巨大化・安定化していく様子は肉眼でも分かり、結果的に氷が1948年以前の状態まで戻るのに2日もかかりませんでした。その後、SCP-6004は北極圏の少し南、北シベリア・カナダ・アラスカを回り、家畜や人間を飲み込んでいきました。第四紀大量絶滅で消えた植物や動物が蘇っている様子が、衛星画像から判明しました。上記の地域では著しい氷結作用が見られ、地上の町や地下の財団サイトが氷河に飲まれるほどでした。衛星兵器となったマングースによってSCP-6004をロックオンする試みが幾度も行われましたが、対象の機動力の高さから失敗してきました。
SCP-6004はターゲットを南北アメリカに変更し、広範囲で嵐と植物の生成を続けました。活動の多くは南米アマゾンの熱帯雨林で行われ、人口密度が高い場所で人間が消失したのち、絶滅済・絶滅危惧の動物が蘇る様子が確認されました。SCP-6004は南米・北米を一見ランダムに、しかし環境に悪影響を与えている施設や都市部を狙いながら、常に針路を変えながら移動し続けました。特筆すべき点として、SCP-6004がポトマック川を経由してワシントンを襲撃した米国最初の襲撃時、軍への雷撃を行う前に発声による威嚇を行っていたことが挙げられます。その後の攻撃は40分続き、街の大部分が飲み込まれました。米国大統領と職員は大統領危機管理センター1 に避難しようとしましたが、街全体を飲み込んだポトマック川の氾濫により、危機管理センターは水没しました。
SCP-6004は同様のやり方でアメリカ合衆国、メキシコ、カナダの大部分を襲撃していきました。襲撃を受けた街には、トロント、ロサンゼルス、メキシコシティ、ニューヨーク、オタワ、ラパスが含まれます。SCP-6004が生成した雨によって、広大なエリア2 が森林へ変化し、多数の人間や動物が飲み込まれ、その後吐き出されました。この際、米国電力網における障害と、それに伴う原子力発電所の連鎖的動作不良が発生しました。財団とGOCが協力し、各地の原子力発電所にてメルトダウンを防止しました。
財団所属の歴史学者と考古学者は、オーストラリアにおけるアボリジニの神話、特に「七色の大蛇」についての追加調査を行いました。数千年に渡り語り継がれてきた創世神話は、いずれもSCP-6004との遭遇、およびSCP-6004による人類への襲撃について記しているものだと推測されています。襲撃は地球環境が不安定になった際に行われてきました。SCP-6004を鎮静化する方法には、環境に悪影響を与える風習の撤廃・何らかの儀式・そして「守護霊」3 をSCP-6004と戦わせるなどの手段が取られました。万が一、プロジェクト・マングースが失敗した場合、SCP-6004が収容可能になるまでの間、財団は現在の文明社会の在り方を大きく変更し、SCP-6004の怒りを買わないようにせざるをえなくなります。また、財団の代理として、上記の守護霊4 を使ってSCP-6004を鎮めるという案も考えられています。
この時点で、SCP-6004の活動範囲は地球全体に及んでいると考えられていました。財団およびGOCの渉外担当は、世界中の政府に軍事的行動の制限と、都市圏外への民間人の移動を推奨しています。SCP-6004にまだ狙われていないエリアは優先的な移住先として設定されます。SCP-6004の注意を惹かないようにしつつ、人類の居住区を作るための努力が進められています。
プロジェクト・マングースの発動

GOC所有の改良型兵器研究施設の空撮写真。入口は駐車場の横にある。
マングースによる攻撃の機会が無いまま、SCP-6004は南北アメリカで49日間活動を続けました。その後、SCP-6004は財団やGOCの施設に興味を示すようになり、施設周囲をまわるようになりました。理由は分かりませんが、SCP-6004は施設に近寄ることはありませんでした。2020年12月24日に、SCP-6004は世界オカルト連合改良型兵器研究施設(AWF)を調査し始めました。プロジェクト・マングースが進められていた二つの場所のうち一つが、この研究施設です。
16時37分、SCP-6004は興奮した様子を見せながら、AWFを調べ始めました。衛星画像から、施設の入口が閉鎖され、複数の火器プラットフォーム5 が起動する様子が見られました。この時、O5評議会は多数決を行い、8対5でAWFごとSCP-6004をマングースで打ち抜くことが決定しました。
以下に示すのは、続く出来事の記録です。
映像記録
日付: 2020年12月24日
備考: 下記の出来事は、マングースが搭載されている衛星のカメラを含む、財団所有の人工衛星複数基から撮影されたものです。
[記録開始]
16:38: SCP-6004は興奮した様子で、GOC所有のAWF周囲を回っている。AWFは施設封鎖を発動しており、いくつもの火器プラットフォームがSCP-6004を狙っている。特に目立つのは試作型マングースで、既にチャージが完了しており、いつでも照射できる状態に見える。
16:38: 衛星に搭載された方のマングースが起動し、チャージを開始する。砲塔がAWFとSCP-6004に狙いを定めると同時に、制御用レールと収斂装置が動く。緑色光と叫び声が装置から放たれ始め、それに伴って搭載カメラに映像の乱れが発生し、幻影が映り込み始める。6 GOCが持つマングースへのアクセス権が停止される。
16:39: GOCはサイト-19への連絡を続けるが無視される。マングースへのアクセスが幾度も試みられるが、いずれもブロックされる。GOCとの協力関係を維持するため、渉外担当者が会談場所へ送られる。
16:39: SCP-6004はAWFに対して威嚇の声を上げながら施設を周回している。
16:40: SCP-6004の移動に伴い、AWFの外装の一部が山肌から剥がれ落ちる。剥がれ落ちた部分に搭載されていた火器が、他の火器プラットフォームに先立って発射を始める。砲撃はSCP-6004の尾に命中し大爆発を起こすが、SCP-6004に一切の損傷は無い。
16:40: SCP-6004はAWFへの威嚇をやめ、唸り声とともに体を縮めて攻撃態勢に入る。複数の火器プラットフォームがSCP-6004への砲撃を開始し、無数のシールド装置が起動する。すぐさま風が劇的に強くなり、嵐が生成される。
16:41: 衛星に搭載されている方のマングースがエネルギーパルスを放出しながら、臨界点に到達する。
16:41: SCP-6004がAWFへの攻撃を行い、施設が建てられている山の大部分を破壊する。AWFに設置されている方のマングースが、SCP-6004を追尾しつつ継続してビームを照射する。ビームが当たると同時に、SCP-6004の表皮に炎症が発生する。SCP-6004は怯み、ビームを回避し始める。SCP-6004は大声を上げながら試作型マングースを見つめる。
16:42: AWFに設置されている試作型マングースから、複数のエネルギーパルスが確認される。マングースから半径200m以内にある全ての植物が枯死する。施設を複数の落雷が襲うが、GOCのシールド生成装置によって反射される。SCP-6004は尾を使いながら、大量の岩や地面を試作型マングースへとぶつけようとするが、シールドによって防がれる。SCP-6004は回避運動を続ける。
16:43: 数秒の間、試作型マングースからSCP-6004への攻撃が続く。SCP-6004は唸り声を上げ、試作型マングースに対して口から七色のエネルギー波を放つ。マングースは攻撃を中断し、チャージ状態に戻る。SCP-6004は山の周囲を回り始め、試作型マングースへ攻撃を行う。膨大な量のエネルギーがマングースから放出されるが、シールド生成装置によって防がれる。
16:43: 衛星に搭載されている方のマングースの照射準備が完了する。
16:44: SCP-6004はAWFの破壊を続け、施設の上層部が突破される。GOC職員が銃火器でSCP-6004を攻撃しながら施設から脱出しようとしているのが映る。SCP-6004が唸り声を上げ、もう一度攻撃をしようと後方へ引き下がる。
16:44: 衛星に搭載されたマングースからビームが照射される。辺りには叫び声7 が響き渡る。この声は衛星およびAWFの付近44km以内のエリア全体で観測された。SCP-6004はAWF諸共ビームに包まれながら、叫び声の発生源がある方へ頭を向ける。ビームが命中すると同時に、AWFは壊滅する。負のヒュームフィールドと高エネルギー波の影響で、半径444km以内にいる全ての生命体が消失する。

マングース照射後6週間が経過した時点でのAWFの様子
16:47: O5評議会の命令で、マングースの照射が中断される。AWFとその周辺の山岳地帯は完全に破壊され、ビームの命中に伴う巨大なクレーターが生成されている。荒廃したエリアの中で、SCP-6004はクレーターの内部にいるのが見える。表皮の大部分に中程度の火傷がみられる。
16:47: SCP-6004は地面から起き上がって唸り声を上げる。SCP-6004が頭と尾を強く叩きつけると体中から雷が発生し、表皮に負った火傷が素早く治り始める。降水量と風速は増加し続ける。SCP-6004はとぐろを巻いて上を見上げる。雲が濃くなった影響で、視覚による観察は不可能になる。O5評議会からマングースを再照射するよう命令が下る。
16:47: マングースは二発目のビームをSCP-6004に向けて照射する。照射されたビームの影響で乱雲の大部分は消え去る。SCP-6004はビームに苦しむ様子を見せながらとぐろを巻き、上方へ飛び出す。
16:48: SCP-6004の頭部が、マングースの搭載されている人工衛星へ接近してくる。衛星の対物センサーがSCP-6004との衝突を検知し、ビームの照射が自動的に止まる。SCP-6004は砲台に咬みつき、マングースへ大ダメージを与える。その後SCP-6004は対流圏上部へ舞い降り、サイト-19へ素早く接近していく。
[記録終了]
プロジェクト・マングースの失敗後、サイト-19との交信の試みは全て失敗しました。その後の調査で、サイトの上部は壊滅的な損傷を受けていることが判明しました。損傷にはSCP-6004による破壊の兆候が見られました。上部6階層は極めて強固な植物に締め上げられ、崩落していました。施設上層部の大部分は失われ、プロジェクト・マングースの残留物はひどく破壊されていました。
複数のSafeおよびEuclidオブジェクトが収容を突破し、破壊されるか行方不明になりました。サイトの下層階は無事です。
襲撃後に行われた救助の試みでは、生存していた職員の██%を助け出すことに成功しました。以下の証言は、サイト所属の技術者である ██████・ワグナー技師から得られたものです。
俺は、ユークリッドクラスの収容エリアで、移動用トロッコが壊れたんで修理していた。照明が全部赤くなって警報が鳴り始めたんで、すぐさまトロッコの下から転がり出て、シェルターに向かった。誰だってそうするだろうさ。収容違反が発生したんだと思った。そしたら、何かがぶつかる音が聞こえて、爆発が始まった。地震みたいだった。ありとあらゆる物が揺れまくっていて、上層階が崩壊する音まで聞こえてきた。俺は支柱が折れないか気になってて、足元を見てなくて転んで、瓦礫に押し潰された。酷い状況だったよ、俺がシェルターに入る前にシャッターが閉じちまったんだ。
そのあと俺は作業場に駆け込んだ。作業場にはLSA攻撃用装甲車両が、ブレーキ修理のために停めてあったからな。俺は車両に乗り込んで耳を抑えながら、回線が生きている間監視カメラの映像を見てた。世界の終わりを見ている気分だったさ。あのヘビは東棟をぶっ潰して、人工衛星か何かを管理棟にぶつけやがった。銃やらミサイルやらは全部起動してヤツに打ち込まれていた。焼け石に水だったがな。映像でヤツが大声をあげるのを見た。声は聞こえたよ。23、4階下の作業場にいてもな。鼓膜は両方破れた。そしたらヤツは例の虹色の電撃を撃ち始めて、監視カメラの映像は途切れた。屋根は崩落していた。俺のところに水が入ってきて、溺れ死ぬかと思ったよ。水が下層階に流れ落ちていってどうにか助かったがな。そして、シェルターの中にいた奴らの叫び声が聞こえた。何かがシェルターに入ってきたんだろうな、それが何かは知りたくないが。
そのあともう一度揺れて、ヤツはどこかへ行った。すぐに機動部隊がやってきて、俺たち生存者を救助して、オブジェクトを収容室に戻し始めた。Dクラスのやつも救助活動を大分手伝ってくれたらしいな。あのヘビ野郎がサイトの地下まで掘り進めて来なくて良かったよ。
救助と瓦礫撤去の試みののち、目撃者による証言から、SCP-6004がサイト-19へ行った攻撃が判明しました。北京やAWFで見られたエネルギー波を使ってサイトの大部分を攻撃し、マングースが搭載された衛星を管理棟へ投げつけ、東棟を押し潰したのち、主要部への体当たりを行ったものと考えられています。これは、回収された自動防衛システム8 の対SCP-6004防衛時のログから確認されました。
補遺 6004-5:
あなたが現在読んでいるのは、プロジェクト・マングースの概要と、地球規模でのSCP-6004の活動範囲の拡大についてです。その後の出来事については、こちらを参照して下さい。